付き添い another
俺は前衛的かつ先進的な傭兵団…になる予定の”サーカス”って野盗の集まりだ。
いや、だったが正しいな。
元々大手を振って稼げる稼業でもねぇし人様の物を盗んだり、殺したりして生きて来た奴らの集まりだ。
いずれ殺される側に回るってことも理解できている。
だからあれやこれやと自分たちの力を蓄えていたのさ。
「頭ぁ!頭ぁ!!」
「…うるせぇな、聞こえてるよ…で? 冒険者か? 国か?」
外の叫び声と飼いならしたモンスター共の唸り声から予想は付いている。
問題なのは"誰が"だ。
最初に前衛的かつ先進的なって言ったのはウチの独自性によるからだ。
ウチの人数は6人、野党としては小規模…だが頭数は30以上にもなる。
他の頭数は全て使役したモンスターだ。
恐らくだが…モンスターを配下にするってーのは国家ですら成し得ていない事だろう。
大枚叩いた甲斐があるってもんだ!
ま、その秘密に気付いた輩がいるってことだろうな。
「ぼっ、冒険者、恐らく人種で色は緑!人数は2人!」
「あぁ? 緑如きなら報告は後でいいからさっさとバラせよ」
「それが…無茶苦茶なんですよ!」
「はぁ?」
冒険者で言えば緑なんてのは所詮ベテラン止まり。
そもそも荒事を稼業にしてはいるが人種ってのは脆い生き物だ。
素の膂力は亜人に及ばず、魔法に関しては耳長に負け、耐久や特殊性で言えば土精にも小人にも…。
よく言えば万能、悪く言えば器用貧乏…それが群れてやっとモンスターと対等になれる程度だ。
ま、その脆弱な中にも抜きんでたいわゆる天才ってのが偶に出るがな。
「っても緑なんだろ?」
「ウチらみたく大きな白い狼を使ってるんですよ!それに従者っぽいガキ無茶苦茶強いし、もうゴブリンからオークもトロル全部やられました!」
「はぁ!?」
喧噪の具合から全滅より衝撃だったのが、使役しているのが他にもいた?
何よりも大きな白い狼?
俺ほどじゃないにしろ部下だってモンスターにはそれなりに詳しいはず。
そんな奴が"名前も知らない大きな白い狼"?
気になる、いや欲しい!
「…雑魚をぶつけてもしょうがねぇ、商品にしようと思ってたオークの上位を出せ。あとはガルムもだ」
「い、良いんですかい?」
「ここで全滅して牢屋にぶち込まれて処刑待ちか…逃げてもう一度やり直すか。どっちがいい? 死にてーなら止めはしないけどな」
「お、お供しやす!」
元々ゴブリンやオークなんざ鳴子か壁代わりにしか思っちゃいねーが、それでも戦力としては頭数に入る程度はある。
緑なら悪くても時間稼ぎ…良けりゃケガ程度だがそれが秒殺かぁ…。
「緑のフリした赤とか特色じゃねーだろうなぁ? まぁ、赤ぐれーならガルムでお釣りが来ると思うけどな」
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
お母さん、僕は夢を見ていたのかもしれない。
トロルをボールのように蹴って追い回す白い大きな狼、オークをお手玉にするガキんちょ。
その後ろで佇む銀髪の冒険者っぽい男。
事前に聞いていなければ俺も囲って殺されてたかもしれない。
そしてあのガキもモンスターの可能性がある。
むしろそうでなきゃあり得ない!
「おいおいおいおいおい! 人の庭で随分デケぇ真似してくれてんじゃないの?」
舐められたらそこで負けか、圧倒的劣勢になる。
この稼業は1にも2にも威圧有るべしだ。
「やっと頭が出て来たか」
「グルルルゥ…」
「ヒッ!!!?」
やっべ、こいつらマジやべぇ!!
視線を移されただけでちょっと漏れた…!
「はいはい、2人とも久しぶりだからって余り圧を掛けないように」
発言からしてこいつが狼とガキの主だな。
ガキと白狼からはチビるほど圧というか心臓を鷲掴みにされるような感じがあるのにその2匹を従えているであろう銀髪の優男からは何も感じない…?
何にせよ、可能なら交渉を…無理でもガルムが来るまでの時間稼ぎぐらいは…!
「お、おう! あんちゃんよぉ…繰り返すが勝手に人の庭に入って兵隊までぼろぼろにしてくれちゃってよぉ…。覚悟できてんだろうな?」
「おかしいですね?私は冒険者としてモンスターを排除したに過ぎませんが…それが兵隊? まるで貴方達が使役しているかのような言い回しですね」
既にある程度は調べがついている様な口ぶりだ。
「…そうだよ、ウチの兵隊を良くも壊してくれたなぁ! あんな雑魚でも金が掛かってんだぞ」
多少秘密が漏れてもコイツさえ消せれば問題無い!
うまくすればあの白い狼も手に入る可能性だってゼロじゃない。
「だが…俺様はイラついてはいるが気分は良い。その白い狼をこっちによこせば今回のお痛は見逃してやってもいいぞ?」
「ほう?」
よし!会話に乗って来た!
「その大きさ、毛並みに纏っている威圧感…そして感じる強さはどれも一級品だ!」
「だってさ、シロ。褒めて貰えて良かったね」
「ぐるぅ……」
喜んでいるのか演技なのか分らんが今すぐ殺される気配は無い。
今のうちに―――
「VAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
勝った!
ガルムの檻が開いて開放された時の雄たけび!
すぐにでも主である俺の元に来るだろう、ここからが本番だ!
「何の雄たけびだ?」
「ガルムだろう」
「ならいいか」
え、何でガルムってバレてるの?
とりあえずそれは保留としてもその落ち着きようは何だ!?
「え、お前らガルムだぞ? 人種なんざ10人いても餌にしかならない凶悪なモンスターだぞ!?」
「ギルドに知られれば討伐隊が組まれるそうだな」
「なら逃げろよ!慌てふためけよ!?」
もうすぐ死ぬと分かってもその態度…余程肝が据わっているか途轍もないバカか。
そうこうしている数秒の間にドスドスと重みのある足跡が聞こえてくる。
「はぁ…どうでもいいや。お前らみんな餌になってくれよ…やれ!ガルム!!」
これで数秒後には奴らは肉塊になり、ガルムの糞になる運命だ。
っと追加の命令で白い狼だけは殺させないようにしないと…
「……あれ?」
待てど暮らせどガルムが来ない。
振り返ると遥か後方で足を止めていたガルム、丁寧に犬のようにお座りまでしている。
「何やってんだぁ!さっさとこいつらを噛み殺せぇ!」
変わらず動かない。
首輪の効力は消えていないはず…なのになぜ?
「あのワンちゃんは決してこちらへ来ませんよ」
「てめぇが何かしたのか!?」
「いえ、特に何も。強いて言えば野生の本能でしょうかね」
「はぁ?」
「――ゥオオオオォォォォォォォン!!!!」
ガルムの濁った声ではない澄んだ白狼の雄たけびだ。
耳をつんざくような音量でありながら決して不快に感じない。
なのにどうして体が震えるのだろう。
どうして地面に膝を…。
「ほら、貴方も分かっているじゃないですか」
この優男は何を言っているんだ?
「絶対に叶わない相手を前にするとね、理性より本能が先に立つんですよ。だから貴方はもう戦えない」
ガルムはお座りどころか耳を垂れさせ体を伏せ、無抵抗のポーズを取っている。
冒険者の間に名を轟かせる魔狼ですら戦う前に延命を請うような姿勢を示すとなれば、ただちょっと荒事に慣れた程度の人種など何ができるものか。
そして本能の前には取って付けたような強制力など無意味でしかない…と。
「ははは…き、喜劇じゃないか。大枚叩いてこれだけ準備して…」
殺される覚悟はとうの昔に済ませてある。
国に捕まることだって予想はしていたし対策もいくつか考えてはいた。
だが、こんなあっさりと「おい、今日の目玉焼きに殻が入っているぞ」位の違和感でその日が訪れるなんて予想出来るものか。
部下もさっきの雄たけびで失神か戦意喪失している。
「お…大人しく捕まるから、命ぐらいは保証して…欲しい」
「交渉出来る立場にあるとでも?」
それもそうだ。
動けず捕まるのを待つだけの俺らとほぼ無傷の相手方、交渉材料は1つしかない。
「ネタは…ある。あんたもモンスターを使役しているなら、コレに興味…あるだろ?」
在庫として管理していた制約の首輪を見せると目つきが少しではあるが変わった。
「……いいでしょう。話を伺いましょうか」
釣れた。
とりあえず第一関門は突破だ…あとはどれだけ温情を引き出せるか。
処刑だけ回避できればとりあえずどうにでも出来る。
最悪の場合、この首輪を嵌めてやれば…!
「ハチ、シロ。人は縛って檻へ閉じ込めなさい。モンスターは…」
優男が私を見つめる。
怖さも優しさも冷たさも…感情が見えない。
「あの首輪の解除方法は?」
「い、いきなり核心っつーか肝かよ………ねぇよ。一度付けたら死ぬまで外れねぇし、無理に外せば呪いと毒でオダブツ。解呪如きで何とかなる代物だと思う名よ?耐解呪用の術式まで混ぜ込んであるある特注品だ」
「…なんと惨い」
「はん、人を襲うモンスターを無害化してんだ。惨いというよりは素晴らしいと言って欲しいね!」
モンスターなんて種族を限らず襲い、食らい、勝手に増える害獣、いや災害と言っても良い。
この成果が求められたのが国であれば俺だって一代限りの貴族位だってありえたはずだ。
「……とりあえず詳しい話を聞く間に襲われても面倒です。種族ごとに檻に閉じ込めておきなさい」
「了解したぞ」
「ウォォン」
「では貴方のテントにでも行きましょうか。あ、当然ですが逃げようとしないでくださいね…私はとても加減が苦手でして、足とか折る程度で済めばいいんですが最悪無くすこともあると思うので…」
「……逃げねぇよ」
あんな化け物みたいなガキとガルムですら服従するほどの白狼…見た所首輪は見えなかった。
という事は力でねじ伏せている…?
それこそあり得ない。
どれだけ化け物時見てようとも種族毎に限界はある。
これは俺の目算ではあるが種族の枠を超えた英雄とされる特色クラスでもガルム相手にソロ出来るかどうか…だと見ている。
有象無象100人の討伐隊=特色1人というのも聞いたことがあるしな。
この優男もその域に近いか、将来的には良い所まで行く器だろう。
そう思い、密かに首輪をポーチに戻す俺だった。
もっと素敵な言い回しが出来るようになりたい




