再会
ま、ぶっちゃけた話…ゴキブリの討伐話なんて聞きたい?
生理的に受け付けない所もあるし、私も話したい訳じゃないから割愛しようね、うん。
下水のローチ討伐後、シャワーを浴び、酒場に向かう道中にて。
「…こっちのゴキ……いや、ローチってデカいのな」
「知らないで受けたんスか!?」
「私の故郷だとこのくらいの大きさなんだ。大きくても手の平くらいだったかな、だから何とでもなると思ってな…」
「そんなもんなんスか、羨ましい故郷っすね~…って次からはちゃんと相談の上でお願いするっス!!」
「了解致しましたよ、マルダ先輩」
報告する為にギルドを訪れ、扉を開けると衝突事故が発生した。
向こうも同じタイミングで開けようとしたのだろう、行き場を失った力が私の胸に衝突した。
「おっと…大丈夫かな?」
意図せず抱き留めてしまったのが女性と分かり、なるべく紳士モードで対応する。
「…失礼しました」
「いや、こちらこそすまない。扉を開くタイミングが合わずにお嬢さんを抱きしめる形になってしまった。申し訳ない」
「いえいえ…お気になさらず」
フードやら佇まいから見るに冒険者ではあるが高ランクでは無さそう。
特に何事も無く会釈だけで去っていく、もの静かな娘だったが少しだけ何か引っ掛かるものがあった。
「あれ…さっきの娘あまり顔が見えなかったけど、どこかで見たような…」
「アダム様も隅に置けないっスねぇ、街に戻ってきた瞬間に女の子を手篭めにするなんて…」
「人聞きの悪い事を言わない。事故だよ事故」
受付で討伐完了の手続きをしてもらう。
ドサッとカウンターに乗せたローチおよそ200匹の触覚が入った袋はどことなくヌメっとしている気がする。
200匹と言ったが途中から無心で作業していたのでもっとあるかもしれない。
「た…大量ですね。確認しますので少々お待ちください…」
「よろしく」
仕事とはいえ下水に住むモンスターの部位を受け取らなければならない受付嬢に同情しながらテーブルに着く。
結果を待つ間はティータイム兼情報収集の時間だ。
だが、穏やかになると思われた時間は早々に破壊された。
「アダム様!!」
あれ、顔は見えないけどさっきぶつかった娘…だよな?
なぜテーブル前で膝をつく…あの姿勢なんて言うんだろ?まんまひざまずく?
何よりも…周りの目が超やばい。
「ちょっ、何やってるの…? 膝何かつかなくていいから、とりあえず落ち着いて。そして椅子に座って?」
「いいえ!恐れ多くも御方の前で許可なく頭を上げるなど、ましてや同席などもっての外です!」
「分かったから! とりあえず奥で話そう」
もうすでに目立ってしまっているので無意味に近いが、女の子に地べたに座らせているというのは見栄えが最高に悪い。
「またアダムさんかよ」
「マルダちゃんもいるのに羨ましい…」
「アタイじゃ不満だっての!?」
「い、いや…そんな事は…!うわなにするやめr」
後ろで私が原因とも言える争いが聞こえてくるがここは聞こえない対応が懸命。
少しでも傷を浅くすべく最適解を模索する。
マルダには報酬の受け取りよろしく、と任せて奥の応接室を事後承諾で借りた。
良くも悪くも特色になればこーゆー融通が効くのは助かる。
「一応確認の為に自己紹介よろしく」
「…はい、ご尊顔を拝し誠に恐悦で――」
「そーゆー硬っ苦しいのはいいから。あまり堅苦しいと私もやりにくいしね」
「はい、それではお言葉に甘えて…ええと、私を覚えてらっしゃいますか…?」
自己紹介に質問で返すのもどうかと思うがここは面接会場でも無ければビジネスの場でも無いのでスルー。
見覚えは、と問われフードを脱いだ彼女の顔をまじまじと見つめる。
年の頃は15ぐらいか、髪は肩までで整えられたショートで艶のある青色が眩しい。
身長が低めな天然の綾波○イ…と言える眼鏡が似合う美少女、こんな娘なら印象に残っている筈だが…
「覚えて…いらっしゃいませんか…」
ビジネスマンとして、何より男として女の子に悲しげな顔をさせるのは忍びない。
「少し待ってくれ。初めてではないという感覚はあるんだが如何せん出てこないんだ…。何より君のような可愛らしい娘であれば必ず印象に残っていると思うんだがな」
「っ!! か、可愛い…ですか///」
その言葉に嘘はない。
学校に数人…いやこの容姿なら48人いるグループに入れる可能性だって…
おっと心の話が逸れてしまったな。
「…すまない。ヒントをくれないか?」
分からないなら聞く。
無駄に頑張って思い出そうとしても喉元まで…でなければ無駄に等しい。
あとは再度忘れないようにメモを欠かさずにな!
「そうですね……ゴブリンの巣、と言えば如何でしょうか?」
頭に電球が光るような…それは技か。
こう額にキュピピピーンって例だけ出しても仕方がない。
「え、あ! あの時マルダと一緒に助けた娘か!?」
「ああ、思い出していただけて光栄です」
あの救済はいろいろと思い出に刻まれている。
初めて俺TUEEEEEEEEした件だし、モンスターという存在を理解できた件でもある。
一度思い出せれば芋づる式に記憶が引き出されてくる。
そうだそうだ。
確かマルダの他にこの娘ともう2人いたはずだ。
「洞窟では……思い出させてしまえば申し訳ないがあんな状態だったからな。見間違えるのも無理はないか」
まごうことなき自己弁護、もとい言い訳。
すっぴんと化粧…ゴホンゴホン…これは言及しないでおこう。
「あの時は本当に、本当にありがとうございました。アダム様のお陰で病む事なく冒険者として活動しております」
「そうか、冒険者になったのか…」
ちょっと意外であった。
トラウマになる…いやならざるを得ないような惨状で心が壊れかけていたのは事実。
チートに近い手段とは思うが私の手が届く範囲ならと思って回復させた数少ない例だ。
「はい、アダム様から賜った装備を使わせていただいて…おかげで村で暮らしていた頃よりは刺激の多い日々ですがそれなりに楽しくやらせてもらっています」
「それは何よりだ。他の2人もかな?」
「はい、一緒にパーティを組んでます。今日は巣を潰して来た帰りで………あっ!」
「?」
くれてやった装備は下級の物であるがこの世界的には中の上程度だったのは後に知ったことだ。
村に戻るまでの間に合わせだったし、売って金にしても良かったのだが3人でパーティとは…自分で決めたのなら口は挟むまい。
だが急に言い淀んだのは何だろうか?
「あの…すみません…。アダム様の御前だというのに身を清める事も忘れてお呼び止めしてしまい……」
「…冒険者というのは不規則かつ不安定な生活というのは把握している。私も同じ冒険者だしな」
「ご配慮感謝致します…。それとアダム様は冒険者だった…のですか?見た所は緑ランクのようですが…?」
「世の中を歩くにはそれなりの肩書が必要でな…その辺は察してくれると助かるな」
実際にはもう緑ではなく特色だが、色が決まらねば相応の印も届かないとかで未だに緑のピアスをしたままだ。
この場であれこれ訂正しなくともいずれ周りから耳に入るだろう。
で、それはそれとして…
「こちらからも疑問があるのだが良いか?」
「なんなりと」
「私の記憶では君たちの前で素顔を出した事は無いはず、それとアダムという名前だけであればそれこそ他にもいると思う。何をもって私が君たちを救った『アダム』だと判断した?」
答えによっては私が見落とししている欠点が分かるかもしれない。
今後の活動の支障を来す恐れもある…これは有益な情報に―――
「簡単です」
「ほう?」
「多少兜で声が籠っていても、分かり易い声…それに私がアダム様を他の有象無象と見間違えるなど絶対に、絶対にありえません♪」
ヒエッ…
おまっとさんです(定例)
取り敢えず生存報告投稿です。
2018/1/20
誤記修正




