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人の頂点 その2

side:K



 凄い凄い凄い凄い!

 僕は今までにないくらい楽しさを感じている!

 所詮は緑ランク、噂も誇張されたものだろうからそこまでは期待していなかった。

 しかし、予想外れも大外れ…いい方向に飛びぬけて大外れだ!

 最初こそ違和感を覚えて挑発してみたらこれも大当たり。

 戦いに手ごたえを感じるなんていつ以来ぶりだろうか…ああ、願わくばこの楽しい時間が終わりませんように。




「いいよ!アダム君!とっても良い!」


「無駄口を叩いていると避け損ないますよ?」


「残念だけどまだこのレベルじゃ当たってあげられないなぁ」


 正直なところ結構際どいのが多くなってきた。

 そもそもこんなゼロ距離とも言えるクロスレンジで相手に一切触れさせない芸当は相当な達人でなければ不可能。

 言わずもがな僕の力量はかなりの域にある。

 だがそんな僕でも際どいのが多くなってきたという事はアダム君の技量も迫るものがある。


「君も悪い人だねぇ。これだけの技量があるのに緑ランクだなんてヘマでもやらかしたのかい?」


「個人的な事情ですので秘密です」


「ちえっ」


 軽口を叩きながらもアダム君の木刀は喉を狙って突いてくる。

 半歩下がり体を捻って避け――突いた木刀を止めて横薙ぎに?

 首を曲げて体を折り何とか一撃を避けるが髪の毛を掠らせてしまった。

 そして体勢を崩したところに打ち下ろし―――いいね、容赦無い所は高評価!だが見えている!

 向こうも温まって来たようだし、お遊びはここまでかな。


 カァーーンと修練場に乾いた音が鳴り渡った。

 2人が打ち合い――僕は防戦、それも回避専門だったけど初めて木刀で防いだ。

 外野がざわついているね。




「これだけやって初めて触れた…」

「何百回打ち込んだんだよ」

「それもだけど、どれだけ回避できてんだ!?」

「特色は化け物だ」

「俺…赤ランクの自信無くした…」




 あの中の何人が気付けるかな?

 僕が避けずに受けた事の重大さをね…。

 受けた木刀を弾き、向かい合うとちょっと…ちょっとだけ興奮が抑えきれない。


「つまみ食いのつもりがこれじゃぁ―――スイッチ入っちゃうじゃないか」


 自分でも口角が上がりニヤついているのが分かる。

 悪い癖だと思うけど体に染みついた物は簡単に治すことは出来ない。

 それこそ自分で治そうとしない限りは。


「さっきまでの準備運動とは違うからね。できれば15…いや10回は耐えてほしいな」


「いいからさっさと来てください。大先輩とはいえ仲間に手を出すと公言されれば私だって穏やかではいられません」


 いいね!いいね!

 怒気と殺気がビリビリ肌に突き刺さる感じ!

 こうだよ!

 戦いというのはこういう、やるかやられるか…だから面白い!


「じゃあ―――いくよ?」


 実力は充分に分かったけど一応こっちは経験も格も上だから相手に構えるだけの猶予位は与えなきゃね。

 構えたね?

 よし…焦るなよ僕。

 少しずつ、少しずつギアを上げて楽しまなきゃ…極上のディナーが勿体ないだろう?

 今までは前菜に過ぎない。

 メインディッシュまでたどり着けたらどれだけ楽しいだろう。

 焦るなと自分に言い聞かせたのにまた熱を上げそうになっちゃうよ…冷静に冷静に。

 アダム君が受けやすいように壊れないように…それでいて僕が楽しめるように…

 木刀を正面に構えて、真正面から行くアピールで…


「…ふっ!!」


「っ!」


 ガチィとおよそ木刀らしくない音とギシィと軋む音が続く。

 …へぇ、負け惜しみじゃないけどこの正面からの打ち込みだけでも受けられるのはかなり久しぶりだ。

 本気の度合いを1つ上げようか。


「シッ!」


「!!」


 競り合いを外して相手の左に回り込む。

 見た所アダム君の利き手は右…左に対応するのは苦手なはずだ。

 おっと…これも防ぐ…やるねぇ…!

 なら足元はどうかな?

 真っ当な剣を学んでいるほど剣で打ち合う事を重視される傾向がある。

 僕は我流…あえて名を付けるならカインド流剣術、自分の才能と腕と実戦経験で練り上げた物だ。

 特に技とか技術と呼べるものは無く、全て体に染みついたものだから教えるのはほぼ不可能だけどね。

 それ以前に弟子とか邪魔だし、捨て駒には出来るかもしれないけど。

 っと足も防がれるか…いいねぇ、いいねぇ!



「へぇ…嬉しい誤算だよアダム君。手を抜いているとはいえ此処まで防ぐなんてそこらの赤ランクですら出来ない芸当だよ?」


「お褒め頂きどうも…で? これで終わりですか?」


「個人的にはアダム君の本気が見たい……なッ!!」


 不意打ちに近い、それなりに本気の打ち込みだ。

 速度も先ほどまでの比ではない。

 だが、アダム君ならきっとこれも受けてくれるだろう。

 再びの衝突、今度は接触の衝撃までもが周囲に広がる。

 砂埃が舞い上がり、アダム君の足元が少しだけ陥没する。


「やっぱり…これも耐えたね」


「…」


 無言…か。

 僕はもうちょっと本気が見たいのに……そうだ♪


「アダム君、1つ勝負しないか?」


「…お断りします」


「じゃあ仕方ないね。勝手に宣言しよう。僕が勝ったらあの娘を貰うけどいいよね?」


「…私を挑発する事が目的なら無駄―――」


「本気だよ? 特色と言えば個人戦力としては世界最強と言っても過言じゃない。だから相応の権力だってあるからある程度の無茶は出来るのさ。例えば…」


 鍔迫り合いの最中、2人だけにしか聞こえない秘密の会話。


「君に無実の罪を着せて冒険者資格のはく奪、奴隷となっていた彼女の保護…とかね?」


「……ギリッ…」


「何をさせよっかな~? 本当に奴隷にしても良いし腕試しにボコボコにするのもいいよね。もし死んじゃっても何とでも揉み消せると思うしね」


 守るものがある人ほど付け込む隙は多いよね。

 だから僕にとって仲間っていうのは使い捨ての駒と同義なんだ。

 おっとっとっと?

 効果てきめ~ん、力も圧も比じゃないくらい増して来たよ!

 嬉しいなぁ!楽しいなぁ!

 もう我慢するの止めた!

 アダム君の攻勢も素晴らしい!こんな達人、いや僕と同じであれば同類…人の道を外れた化け物だ。

 それがまだ世に隠れていたなんて偶にはギルドの報告書にも目を通してみるものだ。


「あははははは!そうだよ!もっともっと楽しませてよ!!」









 いったいどのくらい打ち合っていただろう。

 10分?1時間?もしかしたらそれ以上かもしれない。

 木刀は度重なる激突で今にも折れそうなほどやせ細り、観客は息を吸うタイミングにすら困っているような有様だ。

 それほど2人の打ち合いが凄まじく息を飲むほどだったとも言える。

 見た目も対照的だが打ち合いの結果も対照的な物となっていた。


「ははは…本当に凄いね、アダム君。僕もまだまだ本気じゃないとはいえ…息一つ乱さないなんて…ね。はぁ…」


「息はともかく、心は非常に乱れていますよ。お陰様でね」


 構えて重心を落とすアダムに対しだらんと体の力を抜き、息を整えるカインド。

 限界に近い木刀は恐らく次の一撃で役割を終えるだろう…つまり次こそが決着の時。

 唾を飲む音すら聞こえそうな静寂の後にアダムが動いた。

 地面を陥没させるほどに踏み込み、明らかにこの模擬戦の中で最大級に力を込めた一撃を放とうとカインドに向けて加速する。

 嬉々として嗤い、受けて立つカインドを認識出来た者は居ただろうか。

 交差する2人、響いた打撃音は1つ…結果は…。


「…あーあ、やっぱり木刀じゃここらが限界だよねぇ」


 木刀が柄を含め3割ほどを残して消失している。

 対するアダムの木刀も同じような様相…数秒遅れてカラン、コロンと木刀だった木片が空から地に落ちる。


「武器がこんなんじゃ悔しいけど、今回は引き分けに―――ー」


 振り向きざまにやれやれ…といった感じで口を開くカインドがその先の言葉を発することは無なく、衝撃音が一つだけ。

 その衝撃に観客も驚きの余り固まっている。

 ただ、代わりに響き渡る一声だけがあった。



「……………………あ…そ、それまで!!」









― ― ― ― ― ― ― ―







side:A


 ふざけやがって。

 それが俺の頭の中…いや、腹が煮えくり返っていると言うなら腹の中だろう。

 さっきまではイラッとはしたがその程度だ。

 だが、特色の地位まで利用して彼女を――マルダを奪う?

 別に彼氏彼女の関係でも主従でもない(彼女はどう思っているか不明だが)。

 一番近いとすれば上司と部下…くらいか。

 それを奪うと言ったか?

 いいだろう、もう目立つとかこの先に問題になるとか細かい事は考えない。

 奴――カインドと名乗った剣聖サマは俺に喧嘩を売った、それも部下を権力を使って奪うと。

 世界で個人戦力として最大だとか知ったことか、どんな奴でもそんな道理が許されるか!


「…あーあ、やっぱり木刀じゃここらが限界だよねぇ」


 そんな奴でもやはり剣聖を名乗るだけあって剣の扱いに関しては相手に一日の長がある。

 いくら体に技量があってもそれを生かす経験、知識が浅薄では相手に合わせるだけで手一杯。

 剣でカインドに一矢報いるには?

 ちょっと待てよ? この勝負の勝敗条件は?

 …木刀が折れたのなら?


「武器がこんなんじゃ悔しいけど引き分けに―――ー」


 そうだ、この勝負は相手に―――。



 振り向きざまに右足を踏み込み、カインドに向かってロケットの如き疾走。

 刹那と呼ぶべきほんの一瞬に憎き相手が眼前に迫る。

 カインドも驚いたのだろう振り向きざまに私の顔…いや、拳が迫っているのだ。

 才能故に自分の未来を理解したはずだ。

 大ぶりな右拳が目を見開いたカインドの頬に触れ、捻じ込み、踏み込み、腕を振り切る。

 流石に殺す事にだけはブレーキを掛けたがので丁度『寸勁』のような…違うか、触れてから腕力のみで『押した』だけか。

 それでも端からすれば瞬きの間にアダムが消え、カインドの傍に現れ、今度はカインドが消えた、と。

 風車のように回転し、数秒と置かずに修練場の石壁に激突、崩れた瓦礫から足だけが見えている。

 ピクピクと痙攣してそそり立つ足を見て少し溜飲が下がった。

 誰もかれもがぽかーんとしている中、審判役の支部長だけは他の皆よりも少しだけ反応が早かった。


「……………………あ…そ、それまで!!」


 怒りに任せたとはいえ私は特色に勝利してしまった。

 ふう、と息を吐き、もう引き返せないなぁ…と覚悟を決める。

 ここにセーブ&ロードは無いのだからと…1人青空を仰ぐ。








「やったぁぁぁぁ! また大勝っスよー!!」


 私の感傷と覚悟を返してもらっていいかな?


やはり100話の壁は遠い…ですが今のところ止める気はないので来年もお付き合いいただければ幸いです。

明日から年明けまで予定ビッチリですので次話は1/7頃を予定と致します。

皆さま良いお年を。


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