人の頂点 その1
それは暴風。
近寄ろうものなら即座に飲み込まれ肉片になるであろう絶対的な暴力の壁。
暴風の中心には2人の男。
1人は太陽の光を眩しく反射する金の雄姿を持ち、もう1人は太陽に下にあって月を思わせる静かな銀の佇まい。
相反する2人が巻き起こす荒々しくも美しい暴力の領域に誰もが息を呑み、憂いの吐息を吐く。
「俺…生きてて良かった…」
「俺もだ…」
「私は剣の技術なんて分からないのに、涙が出てくるわ…」
「キレイ…」
「フォーウ!兄貴すげぇや!」
「腕すら見えない…!」
振り回されるのは木刀、されど木刀。
当たりどころ…ではない、暴風を作り出しているうちの一撃でも貰ったら骨が折れるのは確実で場合によっては肉が抉れる。
手を伸ばせば触れる距離にあって2人は互いに相手の体を狙って木刀を振るい、避け、反撃し、返され…を延々と続けている。
それこそ演舞のように。
目の前で繰り広げられるのは人の限界を超えた死合…いや、当人らにはただの試合だが、凡人には果てなき頂…それこそ冒険者だけならずに騎士、魔法士、探求者、ならず者…戦いを生業にする者らの全ての頂点と言っても過言では無い。
「ハハハハハハハハハ!! 良いよ!良いよ君! 思った以上だよ! 楽しいねぇ!?」
「……(何でこんな事になったんだっけなぁ)」
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
「僕と、ヤらないか?」
「ゲホッゲホッ!」
ちょっとお茶が気管に入ってむせてしまった。
えぇ…いきなり何言ってるのこの人?
そっち系の趣味なの?
「正気ですか、カインド殿!?」
おっ、支部長も疑問を抱いているご様子。
いいぞ!もっと言ってくれ。
「僕は至って正気で、本気ですよ」
「…であれば猶更許可など出したくはないのですが…」
「別に僕は許可されなくても良いけどね。ここじゃなく別の場所でヤればいいだけだからさ」
え、支部長負け気味?
特色とやらの影響力は支部長を越えるの?
まぁ、管理職は替えが効くが専門職はそうもいかないのはどこの世界も同じか。
世界で数人しかいない技能であれば何としても逃がさないように…というのはちょっと考えれば分かることだ。
だがしかし、いくらギルド支部長からの許可があっても流石に男とは…それに私はノーマルだ!
初めては女性が良いと声高に言いたい!!
2回目ならいいという訳でも無いからね。
それはギルドからの強制力のある依頼であったとしても男相手だなんて断固拒否したい。
「外で勝手に始められても周りの迷惑になります。それであればまだ目の届く位置でやって貰えた方が幾分かマシでしょう…ただし条件をつけさせて頂きますがよろしいか?」
「内容によるけどね。まぁ、言ってみなよ」
え゛、目の届く位置でとか支部長さん観戦希望?
奥さんいるのにそっちのケもあるの??
「1つ、もちろん真剣は禁止。2つ、ギルド裏の修練場のみを範囲とする。3つ、開始と終了は私の合図とする。4つ…」
「まだあるのかい?」
「一撃でもどちらかに当たったら終了…でどうですかな?」
「僕だって殺し合いをしたいわけじゃないけど一撃なら僕の気分次第で遊べるか…まぁ、それでいいよ」
真剣、修練場、一撃当たったら終わり…殺し合い。
何か私凄い勘違いしていないでしょうか?
……うっわ、理解したら凄い恥ずかしくなってきた!
嗚呼、穴があったら入りたい…。
「アダムさんもそれでよろしいかな?」
「えっ、あっ…えぇと、期日は?」
「僕は今すぐでも構わないよ。むしろ今すぐにでもヤりたいくらいだね」
「はぁ……何事にも準備というものがあります。明日の午後であれば修練場も空きますから…」
「決まりだね。それじゃあ楽しみにしているよ…アダム君♪」
恥ずかしさと唐突に決まった模擬試合(だと思う)でポカーンとしている私に爽やかな微笑みを投げつつ、カインドが退室する。
残された私と支部長は偶然にもため息がハモるという偶然を作り出してしまった。
「いやはや…御しきれず申し訳ないですな」
「ははは…中々癖の強い人でしたね」
「そうなんですよ。特色の方々は能力はピカイチなんですが如何せん道徳という言葉を置き忘れている節が…っといけない。この発言は内密にお願いします」
「分かっています。私もその被害者になったところですしね…」
そして翌日の正午に修練場へ向かうとそこは既に活気と熱気の坩堝。
大勢の観客がずらっと並び、酒や串焼きのようなものから…バーガーもどきを食いながら今か今かと熱気を高めていた。
外野では既にどちらが勝つかの賭けが行われているようだった。
おかしいなぁ…こーゆー衆人環視のような状態にならないよう立ち回っていたと思うんだが…空回りだったかな。
マルダファンクラブの他のメンツもいるし赤ランクっぽい人もちらほら。
お前ら模擬試合みる暇あるなら依頼こなしに行ってくれよ…割とマジで。
「いやーアダム様大人気っすね!」
「お前はいつもと変わらない感じでほっとするよ…」
「アタシは今回もアダム様に全賭けっスよ!」
「…倍率は?」
「現役の特色クラス…それも剣の達人対話題の緑ランク…下馬評は酷いもんですね。世間の目はそんなもんだと思いますけど」
「大穴か。当然だろうな」
「大穴どころか深淵っすね。150倍は流石に笑ったっス」
これは酷い。
一時期流行った『絶対勝てない馬』と同じ倍率くらいかな。
それでも私に賭ける人も多少は居なければ賭けは成立しない…恐らくマルダと支部長さんに大穴狙いの数人だろうか。
つまり現状の緑ランクと特色ではそれほどの力量差があるという世間の認識が分かる。
「負ける気はさほど無いが、頂点を知るにはいい機会だ。ポジティブに行こう!」
「頑張ってください!応援してるッス!」
「待ってたよ、アダムくぅ~ん♪」
「ご丁寧にギャラリーまで用意して…本当に模擬試合の為に私を呼び出したんですか?」
「…あぁ、周りの有象無象は勝手に集まって騒いでいるだけだよ。それと本当は模擬じゃなく本気でやりあいたいんだけどね」
どこかふざけている様な、真剣さを感じないというか…。
加えて先日感じた獰猛な笑みが脳裏から離れない。
「ま、それも後のごちそうを頂くための前菜と考えれば悪くもないよね?」
「真意が分かりませんので同意はしかねます」
私達に木刀が手渡され、支部長が場を仕切る。
ルールは昨日の話と変わらず開始と終了は支部長の判断か、一撃貰ったら負け。
後は「お前ら賭け事は程々にしておけよ!」と全体に聞かせたうえで「俺も一口」と胴元に掛け合っている。
「ねぇ、早くしてよー」
カインドはちょっとイラついているのか、足をトントンを踏み支部長を急かす。
感じる印象は子供と大差ない。
私は身体能力はこれ以上ない程高く、技能を持ち合わせていても経験という意味ではカインドに到底及ばないのは明白。
ゆえに最初から木刀に手を置き、いつでも抜ける態勢は崩さない。
歴戦のザン〇エフ使いでも初心者のリュ〇で負けるような…可能性だって充分あり得る。
賭けはどうでもいいし、負けるのも問題には成り得ない。
何も得られずに敗北するのが最も無駄だ。
「では双方構えて!」
「……」
「ふふっ…ふふふふふ…」
どれだけ待ち遠しかったのか笑いをこらえるのに必死らしい。
ただ、構えの合図なのにカインドは構えていない。
「…カインド殿、構えですよ?」
「だってどちらか一撃で終わっちゃうんだからさ、先手は譲るよ」
舐めているというよりは強者の余裕と取るべきだろう。
かといって初手でこちらが相手を沈めてはそれこそ悪目立ちするのは明白だ。
どうしようかな…。
「…ですか。では―――――始め!!!」
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立会当初は軽く踏み込んだ一撃を難なく躱したカインド、続く二の手、三の手も余裕で躱す。
それも当然というか私もワザと手を抜いて打ち込んでいた。
もちろん気づいたカインドが、
「本気でやらないと…後悔するよ? 特に…君にくっついているあの娘とかに不幸な事が起こるかも…ね?」
と挑発を掛けて来た。
その後悔は何を意味するかは分からないが自分に被害が来るだけなら何とでもなるし出来るとも思う。
しかし、それが周りに被害を及ぼすものであれば黙っている訳にもいかない。
そして私――いや俺自身も慕って付いて来てくれている可愛い後輩のような存在を害すると言われて黙っていられるほどヘタレでも無ければ穏健派でもない。
だがやりすぎは良くない…怒りを抑えつつもあくまで冷静に…。
ホリッドを倒した時程度の本気具合…おおよそ2、30%くらい?
疑問系なのは以前よりは加減は覚えたが、まだ体感として10%、20%、100%ぐらいでしか扱えないからだ。
長距離マラソン、50メートル走と100メートル走のようなイメージだろうか。
私の力加減の話は置いといて…こっちはやりすぎないように加減しているのが相手にはかなりご不快らしい。
加減するのも案外辛いんだぞ?
お望み通りもう少しだけ加減を緩めてやろうじゃないか…!!
次話アップするとアクセスが1000くらい出るようになりました。
ありがたいことです。
今年中にあと2話行きたいです(予定




