来客 その2
「アダム様はご自分の顔、分かるっスよね?」
「聞き様によってはすごい失礼な質問だが…そりゃあ分かるよ」
「それじゃーですね、想像してください。何でもいいので女物の服を着た自分を…髪も長くて身長も高めなのですらっとした服が良いでしょうねぇ、黒地系であればキレイな銀髪が映えるでしょうし敢えての白地というのも…予想を外してワイルドに…あぁ!そんなに大胆に脚を、脚を!!」
何やらマルダはトリップ気味にうふふと笑っているが…想像するまでも無い。
現にこの姿で女性用装備をして公爵家に赴いた実績も有るし、中性的であるというのは否定しない。
「しかし男だと公言して歩いているのにこれか。他人の趣味に口出しするわけじゃないが女性のように見られるのはあまりなぁ…」
「おほん…男性嫌いだけど気になるあの人は正真正銘の男の子…ならば理想だけでもってやつっスかね~」
「宝塚みたいなもんかな…」
性的嗜好とアイドルの追っかけを同じにしたら怒られる…かな?
だととしても私は普通に女性が好きだしなぁ…
でも男性俳優とか歌手が嫌いなわけじゃないからね。
「何すか?タカラヅカ…って?」
「簡単に言うとだな…」
冒険者ギルドへ向かいながらかいつまんで説明する。
私もそれほど詳しくないからテレビで見知った程度の知識…演劇を見せる舞台であること、出演者は全て女性で男役と女役に分かれていること、養成学校があり非常に長く厳格な歴史があることなんかを話した。
「…アダム様、その話…他の人にしたことあります?」
「無いと思うが、何故だ?」
「それ、流行ります」
「……本当に?」
「断言できます。さっきの同性好きの話もですけど王族とか貴族なんかを含めた高位の人ほど公の場で『一般的』ではない嗜好を出せません。これは大丈夫ですよね?」
「うむ」
もっともな意見だな。
仮に一国の王が男色家であれば世継ぎの問題が一番に上がるだろう。
それを逆手に取って取り入るという手も無いわけではないが…弱点ともなる部分をさらけ出す奴は少ない。
「そーゆー高貴な方々はお忍びで劇場に通ったり、公演の労いという形で夜会に呼んだり…と周囲の目が少ない場所で発散するんですよ」
「詳しいな」
冒険者一辺倒だと思ったが存外にマルダはニッチな部分に詳しいようだ。
「ヘヘヘ…アタシもとある劇場に通ってちょーっとだけ入れ込んでたので。その時に仮面を付けたいかにも~な人を結構見かけるんですよ。あ、有名な劇団のオース公演があったんですけどその時は国王がいましたね」
「え? 仮面付けてたんだろ?」
「あんなん建前っスよ。地味な服を選んだんでしょうけど腕輪やら指輪やら…なにより当人の席の周りがスカスカで護衛も多数となればバレバレっすね」
『私は今は一個人としてここにいます。国王ではありません。』というスタンスが重要なのだろう。
どこぞの議員も神社に参拝するのに個人であることを宣言しなきゃいけないとか、社会で生きる上で必要な建前か…。
分かっているつもりだが一般ピーポーな身分では国を背負う者の気持ちや責任感は想像出来ない部分も多い。
「その流行るという意見は頭に入れておこう。実際に女性主体の興行を起こすにしても今の私には何もかもが足りないからな」
「そーっすねぇ…貴族とか商会にツテでもあれば早いんスけどね~」
…あります。
公爵家にツテはあるが既に王国内の事、アダム村の事をいろいろとぶん投げてしまっている。
「コーウェルさんに頼んでおけば何とかなるでしょ」と安易に頼むにはいささかお願いした内容が多すぎる。
商会というか行商団もあるけど商人が劇場を――って出来るのかな?
ま、これも折を見て相談だな。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
ギルドのドアを潜ると少し埃っぽさを感じる。
窓から差し込む光にドアを開けた風圧で舞った埃がキラキラと光っている。
掃除はされているようだが普段から野山を、路地裏を駆け回る冒険者達が出入りしているからキリがないのだろう。
こちらへの転移以前の一人暮らし部屋は掃除も禄にしなかったからこれよりも汚…私の話は置いておこうか。
時間的には日も高く10時頃と思われるがロビーに冒険者らしい姿は無く、受付嬢だけが何やら書類とにらめっこしていた。
「あら、アダムさんいらっしゃ~い」
「…どうも」
確か…エイミーさんだったかな。
何回か討伐したモンスターの素材を買い取ってもらったはずだ。
入り口正面の総合受付に肘を付いて気だるそうに手を振っている。
軽く会釈で返すが受付嬢としてその態度は如何なものか…私はこの冒険者ギルドに属してはいるがあくまでも立場は外注とか供給者的な位置だと思っている。
公的機関というほど厳密では無いが仮にも組織…だがこれは目くじらを立てるほどではないだろう。
それよりも…
「アダム様ー指名依頼貰ってきたっすよー!」
これだよこれ、人の噂というのは案外侮れない。
誹謗中傷しか聞かなければ悪人にされ、良い噂しか聞かなければ評価は苛烈になっていく。
はてさて、私の評価に対する依頼はどんなものやら。
「…で、これが私への指名依頼だと…?」
「そうっスね」
「隣町への護衛はまだ良いとしても…だ」
テーブルに並べられた依頼を一瞥しながらコーヒーを口に運ぶ。
ずずっと口に含むとやや強めな苦みとほのかな酸味が口内と思考をスッキリさせてくれる。
コーヒーを豆から挽いているような専門店に行ったことは無いがそれでも美味いと感じる煎れ方だ。
「犬の散歩、草むしり、買い物の随伴、剣の稽古……依頼に貴賤無しというのは分かっているし報酬さえあればある程度何でもやる、と理解していても…納得はし難いな」
「これはアレっすね。依頼にかこつけてアダム様と何かしらの縁を…ってやつっスね。間違いないっス!」
「ほう? どうしてそう思うか教えてくれ」
「んーとですねぇ、まず1つ目が依頼の難易度っすね。どれも白か青ランクでこなせるものです。護衛だけはちょっと高めですが目的地から見るに青ランクでも人数によっては過剰って感じる所っスね」
それなりに長い冒険者の経験からくる推測は面白い。
私のようなチーター素人にはよい教材になり得る。
「あとは依頼主ですかね。ノール・ロンド商会、ハーマン司祭にオリンデル準男爵…どれも地位は低めですが自分たちで解決できる力は持ってる方々ですからね」
「ふーん……で、この依頼って断っても問題ないのか?」
「どうでしょうか、アタシも指名は貰ったこと無いので…」
「「うーん…」」
いくら冒険者が何でも屋とはいえ選り好みする権利はあるだろう。
先約が有ったり報酬が気に入らない、納期に間に合わない等々は営業でもよくある話。
「指名依頼は断っても構いませんよ」
2人でうんうんと唸っていると第三者が口を出してきた。
テーブル席に座ったのは冒険者ギルドオース支部支部長…長いのでギルマスのキルスティンさんだった。
エイミーさん、ギルマスにもコーヒーを、とお願いすると「へいへーい」と奥へ消えていった。
「どうですかな冒険者生活は」
「楽しいですね。毎日が新しい発見と経験の連続でとてもやりがいがあります」
「それはよろしいことです。話を戻しますが、指名依頼といっても強制力はほぼありません。以前も説明したと思いますが強制力が発生するのはギルドからの特別依頼だけです。これは断ると何かしらの罰則が発生し、最悪の場合は冒険者資格の取り消し例も…っと、少々脱線してしまいましたね。指名依頼はあくまで依頼主があの人にお願いしたいという希望を書いているに過ぎません。最もその指名を受ける事が後々の大きな依頼に繋がる事も多く――ああ、コーヒーありがとう、ええと、他の冒険者にとって指名依頼は大きなチャンスとなります」
そうだよな。
指名依頼は随意契約に等しい。
それでなくとも引き合いが来るというのは個人で仕事をしている冒険者にとって安定を得る数少ない機会だろう。
私のように世情や常識を学ぶ身で冒険者をやってる側からすればそうでも無いが…。
「先ほどマルダが言っていた話が恐らく正解でしょう」
「依頼を餌に縁故…という話ですか?」
「ええ、緑ランクとの縁…というには少々餌が弱いと思いますが、話題のアダムさんを引き入れたとなれば自分の株も上げられると踏んでいるのでしょうね」
「アタシみたいなへーぼんには縁遠い世界っスね」
「おや、支部最速で緑ランクまで駆け上がった貴女が平凡とは」
「止めてくださいよぉ…アタシの実力というよりはアダム様から貰った装備のお陰なんスから」
「そう言えば彼女らもランク自体は平凡ですが物凄い戦果を挙げていましたね…これは一考せねば…」
ふと思い出したようにキルスティンさんが考え込む。
何よりも依頼を拒否してもペナルティが無いというのは良い事だ。
営業時代は受注拒否は次に繋がらないから何でも受けろ!と教えられたが無理な受注で社内に負担をかけ、下手をして信用を失うよりはやらない方が良い場合も多々ある。
「とりあえず緊急性も無さそうな依頼ですので申し訳ないですが辞退させて頂きます」
「会話内容から予想はしていましたが…どちらにも都合ありきでの事。向こうも恨みはしますまい」
「という訳でマルダ君。緊急性の高そうな依頼を見繕ってくれたまえ」
「了解っス!」
常識を学ぶ身と言ったが、適材適所という言葉もある。
言葉は読めても常識という下地が薄い私が選ぶよりはマルダに任せた方が何かと程度が良い。
さて今日はどんな冒険になるかな?
読んでいただいてありがとうございます。
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