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来客 その1

 暗い…。

 何故私はこんな夜目も効かないような暗闇の中にいるのだろう。

 どうにも前後の記憶もはっきりしない。

 それにただの暗闇という訳でもないらしい…まるで体が宙に浮いたように上下左右の間隔が曖昧で足にも手にも、体のどこにも何も当たらない。

 ここまで来るともう目を開いているのか閉じているのかさえ分からない。


「………け…て……」


 何か聞こえたような?

 目は開いている…はずだが何も見えず、手足を動かしても何も触れない所に何か聞こえた気がする。

 そこに微かに聞こえるように呟きのような声が聞こえれば嫌でも敏感に反応してしまう。


「――――」


 「誰かいるのか」と声を出した――つもりだったが喉を震わせる感覚もない…どうやら声も出ていないと思われる。

 もう現状では出来ることもないので微かに聞こえた声に集中すべく、全神経を耳に集める。


「…た………け…て…」


 元々のボリュームが小さいという事も有るが嫌に反響するというか、音が吸い込まれるというように減衰する気がして非常に聞き取りづらいが…幾度も聞いている内に何となく理解できた。

 助けて、だ。

 何から?

 誰を?

 疑問は尽きないが答える事も出来ず、やれることも無いので声に耳を傾け続けた。





 何分聞いていただろう。

 5分?10分?もっと?

 自分が寝ているのか起きているのかさえ曖昧な状態では酷く時間の進みが遅く感じられる。

 最初はか細い1人だけだったが、今は―――

 

「助けて」「助けて」「助けて」「助けて」「助けて」「助けて」「助けて」「助けて」「助けて」「助けて」「助けて」「助けて」「助けて」「助けて」「助けて」「助けて」「助けて」「助けて」…


 もうホラー映画のように自分の上下左右、遠方から耳元で囁くように、怒鳴るように、懇願するように老若男女の声が耳に届く。

 ここでようやく自分の役割を思い出した。

 私は、あの世界で管理という名の人助けをしていた。

 しかし、助けを求める依頼は常に確認しているがそれほど多い物ではない…ではこの多数の声は何だ?

 私が感じるストレス?

 今のところ自分ではそれほど重荷に思っているという事は無い。

 ならばこれはまだ見ぬ人々からの助けを求める声とでもいうのか?

 などと考えていると唐突に変化が訪れた。

 腕を、足を、髪を引っ張られた。

 掴まれている箇所からして1人、2人ではない。

 足首、二の腕、太もも…ありとあらゆる所を背中側から捕まれ引っ張られている…!?


「――――」


 やめろ!離して!と口にしても相変わらず声は出ず、暗闇の中を更に昏い底へと引きずり込まれていく。

 管理者として無双していた時の力も、魔法も無い。

 サポートしてくれていたハチにシロ、マルダ…ここには誰もいない。

 私の心に淡い恐怖が生まれた。

 抵抗できずに死刑を受ける死刑囚の気持ちが今なら分かるかもしれない。

 これからどうなる?

 地獄にでも送られるのか?

 死刑囚であれば理由も待っている未来も明確であろう。

 だが、何もかもが一切不明。


「――――!」


 誰か私…俺を助けて――――――…















 瞼越しに光を感じる。

 目を開けると知らない天井…ではない。

 ログハウス状の丸太を繋げた天井は見慣れた管理者の間に用意した住居だ。

 さっきまでのは夢だったのかと手を見るが掴まれた痕は見えない。

 そしてなぜか右頬が痛い…ついでにベッドから落ちている?


「起きたか?」


 ハチの声にこれほど安心感を覚える日が来るとは思わなかった。

 恐らくは唯の夢とほっと一息付くが疑問に思う事はいくつかある。


「…おはよう。いろいろと確認したいんだが?」


「何よりも飯だ! 飯! 飯! 飯!!」


 とりあえず体に頬の痛み以外に異常は無さそうだし、飢えた獣に食われる前に対処しましょう。

 シロも腹を空かせて臥せっており、私の顔を見るや否や涎と尻尾ブンブンとお座りと、と非常にせわしない様相だった。

 耐性解除して寝たところまでは何となく記憶にあるがこの様子だと2~3日ではなく、もう少し長く寝ていたようだな…。





「腹いっぱいか?」


「うむうむ、満足だー」


『美味しかったぁ…幸せぇ』


 2人(2匹?)とも腹をポッコリさせて青空の下に四肢を投げ出している。

 私もそうしたい所は山々だがその前に…。


「じゃ、話を戻させてもらう。まず1つ目、頬が痛いんだが何かしたか?」


 こちらの世界で最高峰の肉体に技能、魔法…それこそ管理者という権限をもってしかるべき神のような能力を得ている。

 当然、病気ではないだろう。

 この痛みが外的要因で与えられたものであるならば――引いては私を殺せる者がいるという証明に他ならない。

 原因は徹底的に追及して不測の事態に―――


「あー…すまない。主の頬を殴ったのは我だ…」


 …冷静に考えてみればこの管理者の間には私とハチとシロの3人しかいないし、外からの侵入は今のところ不可能。

 であれば自ずと犯人も分かるか。


「では被告人の弁明を聞こうか」


「ヒコクニン? よく分らぬが弁明はしよう…」




 要点を整理すると簡単な話だった。

 私があれこれと奔走した後にいつもの休養に入った。

 ここまではいつもの通りだが、普段なら2~3日程度で目が覚めるが今回はなんと5日と想定より長かったらしい。

 想定していたよりも長い眠りにハチとシロの食料も底をつき、空腹に喘いでいたそうだ。

 腹が減ったイライラに私が寝床でうんうんと悪夢に唸っているもんだからついカッとなって…という話。

 これでもハチは最高ランクの召喚獣に位置するUR『黙示録の赤き竜』、私の防御力を貫通してダメージを与えられる訳だ。

 ベッドから落ちていたのも殴られた衝撃らしい。


「で…苛立っていたとはいえ主に手を上げたのだ。どんな罰を受けるのだ…?」


 竜、今は人形態だがなぜか子犬のように垂れた耳が見えるようなしおらしさ。

 まぁ、主従を重んじる意味で『ハチ』の名を付けた訳で、それを当人も分かっているからの問いだろう。

 ここは主人としても落ち度があったわけだし寛大に。


「そうだなぁ…今日の3時のオヤツ抜きで」


「!!!?」


 あんまりだぁぁぁぁ!と蒼穹に絶叫が轟いた。

 なお、あまりにも悲壮だったのでオヤツ半分で妥協してあげた。














― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 




「何かオースに来るのも久々な気がするなぁ」


 そう呟いてしまうぐらいには久々な気がする。

 王都――コーウェルさんの所とアダム村…未だに呼び慣れないな、その間を飛び回っていた為か休養を含め1か月くらいか?


「実際久々っスよ? アダム様へのご指名依頼が数件溜まる程度には」


 いつものことであるがマルダが控えていた。

 オースの街に入ってまだ数分程度なのにどこから現れたのやら。

 それにしても…


「指名…私を?」


「はい。緑ランクは数いれど噂が噂を呼び、尾ひれ腹ひれが付いていつの間にやら巷では『銀髪のアダム』と通り名が付いてます」


 銀髪って見たまんまじゃねーか!

 もう少しこう特徴とかさ、技とか偉業を………って目立たないように隠して活動していたからしゃーないか。


「参考までにどんな噂が流れてるの…?」


「そーっすねぇ…突如現れた期待の新星、今最も特色に近い男、銀髪の超絶イケメン、お姉さまになってほしい冒険者ナンバー1、抱かれたい冒険者ナンバー2、剣圧で建屋を吹き飛ばした男…マルダファンクラブ名誉会長///…ってとこっスか」


 はいそこ、自分のファンクラブってとこでで顔を赤らめないで…。


大まかな流れ出来ましたので遅筆ながら勧めていきます。

気長にお付き合いくださいませ

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