とある行商人の記録:後編
ではエビン氏の手記の分析を進めていこう。
オースの街を出発後は面白い展開も無いので核心たる村直前まで飛ばそうか。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
村に着くまでの3日…特筆すべき事は無い。
本当に何も無いのだ!
後から読んで困るのは自分だから最低限は残そう。
・モンスターに襲われなかった
後の俺は何を書いてるんだと思うだろう。
しかし事実、襲われる前に全てが解決していたのだ。
初日のヘヴィーオークしかり、2日目のマッドスネーク、キラービー…どれもパーティでも手を焼くことがあるツワモノ揃い。
それらをソロまたはペアで倒してしまうことから戦闘力はこれでもう語る事がないくらい高いのが分かったからいいだろう。
・ミスリルは上級者の証
高級な装備は当然高く、その代表格がミスリルを使用した装備だ。
軽量で硬く、魔法の触媒としても優秀な性能を持つミスリルは剣、槍に限らず魔法士用の杖に矢…魔法効果を持たせるならとりあえずミスリルというぐらいに汎用性がある。
※ここにはミスリルに関しての説明があるが、本筋に絡まないので除外※
護衛2名は結果から言えばミスリル以上の装備を持っていた。
それは特筆すべき事ではないのか?との突っ込みも予想できる。
だが根掘り葉掘り聞いて、踏まなくても良い虎の尾を踏むのは愚か者のすることだ。
特に冒険者や戦士など戦いを生業にする者にとって武器は相棒であり命綱、切り札となる。
不用意に情報を漏らすことは自分だけでなく周りにも悪影響を与えかねない…だから『凄い装備を持っている』で終える。
・貴重な所持品
装備と同様に使っている物も指標になる。
魔法の収納袋、魔石ランタン、食材の新鮮さにまだどこでも見た事のない天幕、後で聞いたがテントと言うらしい。
それ寝袋…特に後に出した2つは恐ろしく軽量化している上に暖かさが素晴らしかった…是非とも買い取って販売したいと思うほどに。
明日は昼前には村に到着…そろそろ見張りの交代時間になるのでこの辺で今日の分は終わりとする。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
ここで注目すべきはミスリル以上の装備とテント、寝袋だ。
後の調査で判明したがゴート、キルト両名の装備はオリハルコン製の武具らしい…『らしい』というのは文献を洗ったがそれ以上の情報は残されていなかった。
上位に名を連ねるとはいえ数多くいる信徒の1人…装備まで詳しく記録を残す人はいなかったらしい。
悲しい事だがそれをここで愚痴ってもしょうがないので次へ移ろう。
今でこそ冒険者用品専門店『アダマス』にて売られているテントと寝袋だが、その店の前身が出来る前から既に現人神に近い者ほどその恩恵を受けた居た事は想像に難くない。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
朝というには遅く、昼というにはまだ早い時間帯に村の入り口が見えて来た。
丸太を組んだだけの門には大きく『■■■■へようこそ』と書かれている。
最近、仕事上の付き合いで■■■■という名の冒険者と知り合ったが、単なる偶然だろうか?
※原文が黒く塗りつぶされている為、詳細は不明。
それよりも到着したことで仕事の半分は終わっているがこれは勅命依頼だ…商品を持ち帰るまでが仕事、気を引き締めねば。
「無事に村まで着きました。これで一先ず私達の仕事は終了です。」
「ええ、非常に…今までに経験した事が無いぐらい安全な道程でした。貴兄らに感謝を」
「私たちは与えられた仕事をこなしたまでです。その感謝は我が主に捧げてくだされば幸いです」
「そうですか、では貴兄らとその主に改めて感謝を」
ゴート氏は満足そうに頷いて村へ向かって歩いて行き、キルト氏もそれに続き、軽く会釈をして小走りで付いて行った。
いつの間にやらグレイ氏ももう安全だと判断したのか消え、代わりに迎えと思われる中年の男性が入り口の門に立っていた。
さぁ、ここからが商談の本当の仕事だ。
※ここからは暫く当時の村長との会話の要約が続くので割愛※
「これからも良き付き合いをよろしくお願いします」
「こちらこそ、良き付き合いを。次回は買取も予定に入れますので事前に売るものや欲しい物のリストをオースまで届けて頂ければ次の便に入れる事も可能でしょう」
「それはありがたい。早速合議を開いて決めましょう、と言いたい所ですが…」
「?」
「まずは今後の付き合いを祝して宴会ですな!数日でも慣れない旅路でお疲れでしょう。こんな村ですので大したおもてなしは出来ませんが今晩はゆっくり旅の疲れを癒してください」
護衛の2人には驚かされたが村自体は平々凡々…辺境の割には住んでいる人も多く、多種多様な…亜人種も多く居る事は珍しいがそれほどでの事ではない。
村長の誘いを断る訳では無いが、都市から離れれば物流は滞り、生活するだけで精一杯の村も少なくない。
暮らしに苦労している気配は無いが過度な期待は禁物…精々地酒か新鮮な獣肉に野菜などあれば上等と言えるだろう。
「…な、何ですかこれは!?」
「歓迎の料理の数々とお酒ですね」
「あ、いえ、そうではなく…!」
並んでいる豪華な食事の数々、ステーキやサラダに果物…これは分かる。
透明な瓶に入った液体は恐らく酒だろうか、どれも見た事のない銘柄だが村の特産品だろうか?
いや、何よりもこんな山に囲まれた山間の村でなぜ海魚の料理があるのだ!!?
魔法の収納袋でも完全に劣化は防げない…少なくともこの村では一番近い港町から早馬を出しても平地で2週間は要する。
時間が半分で住む山間ルートでも7日程度も常温で保存すればどうなるかは自明の理だ。
それに山間ルートは行程が短い分危険度も高く、負担も大きい。
何か特殊な運搬方法か、はたまた山を抜けて海に抜けるような隠しルートでもあるのか?
知りたい!これは莫大な富を生む金の卵だ!!
「こんな村…! いえ、失礼しました…。このように海から離れた山中でどうして海の魚が手に入るのですか!?」
「ははは、興奮するのも分かります。私も昔は冒険者でしたからね…海からこの山までの特殊な輸送路があるのでは無いか、山を抜ける隠し道でもあるのではないか、そんな所をお考えでは?」
「お見通しですか…」
「冒険者のみならず商人にしろ貴族にしろ物流は速度が要求されるのは誰しも知っている話です。ですが…」
俺はゴクリと唾を飲み、ですが…の後に続く言葉を待つ。
素直に教えてもらえるとは思わないが手がかりになるような部分があれば…!
「えーと、期待されている所申し訳ないのですがこれらはほぼ村の主が用意した物です。もちろんこの村の産物もありますが『最大限もてなすように』と言付かってますので保管していたものを出したまでです」
「村長さんも秘密は分からないと…それと、おかしなことを仰いますね。この村の主は村長さん貴方では?」
「私は村を治めているだけの役人に過ぎません…っと話し込み過ぎては折角の料理が冷めてしまいます」
「そうですね、見た事のないお酒もあるようなので堪能させてもらいます」
「「「「乾杯」」」」
なんだか有耶無耶にされてしまったがこれから村に来る機会はまだまだあるのだ。
いずれ秘密を暴き、行商団でのし上がる為に活用してやるのだ!
「うまっ!」
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
また引用が長くなってしまったがこの内容から当時の村民も恩寵を受けていた事が読み取れる。
今でこそ時間凍結の魔法袋も出回っているが当時はまだ収納のみの袋が主流であり、時間遅延は超高級品として扱われていた。
つまり、現人神は何十年…いや、何百年先の技術を既に持っていてそれを周りに教授するだけの余裕もあった…と。
今でも謎が多い人物だが神を名乗るだけあって当時では異常という言葉では表せない程の力…財力にしろ魔法の力にしろ、純粋な戦闘力に関しても有していたのが推測できる。
この後もエビン氏による時代を進み過ぎた発見が続くがそろそろページも差し迫って来たので革新の部分に移ろう。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
村の朝一番に行われる礼拝…教会に有った像。
それだけでなく各家庭にも置かれた、この村の主とされる人物を模した像。
村の名前に革新的な技術の話。
ここまでお膳立てされれば誰でも気づくだろう。
ある冒険者がこの村の主であるという事に―――だが、固有名詞や革新に迫る事は記載出来ない。
取引も終わり、見送られながら村を去り、オースがもう目前という所まで来た時に…
「エビンさん、ここまでで私共の護衛も終わりとなりますが…1つだけ『お願い』があります」
「村の皆さんにも良くして頂きましたし、何でも言ってください」
「あまり私共の主について嗅ぎまわらない方が身のため…と忠告致します」
首元に感じるヒヤリとした感触と同時に感じるゴート氏からの…チビるほどの威圧感。
道中の丁寧な紳士の印象は消え、目の前にいるのは腹を空かせた猛獣にさえ錯覚させるほどの…殺気だ。
首に当てられた爪はキルト氏のようだ…ゴート氏の後ろにいたのにいつの間にか私の背後に回っている。
それに巧妙に姿を隠しているが荷車の周り、そこかしこに獣の香り…狼が潜んでいる。
「貴方が良き隣人である間は我らも良き隣人であるでしょう」
商売柄危ない目には幾度も逢ってきたがこれほどの窮地は無い!
これから先もきっと無いと断言出来る!
何より恐ろしいのは俺以外の御者や従者が全く気付いていないという事だ。
馬鹿でも分かる、これ以上あの人について探るのは止めろという警告に他ならない。
「そ、そうですね。常に良き隣人でありたいと…思っています」
「…それならばこれからも良いお付き合いをお願いします」
がっしりと握手をすると同時に鷲掴みにされていた心臓が開放されたような気分だ、体中汗まみれで膝の震えも酷い。
後から気づいたがゴート氏が殺気を解いたと同時にキルト氏も狼たちも消えていたらしい。
「それとこの事は主の判断ではなく、従者の独断ですので誤解の無きように…それだけ主を大切に思っているとお考え下さい」
「…あの御方の邪魔をしない限りは手を出さない。助けになるのであれば…守る」
道中ではほとんど口を開かなかったキルト氏も語るほど…何とか尾を踏む前に踏みとどまれた…と思っていいのか?
ともかくこの件に関して俺は村で知ったこと…特にあの人に関することを胸の内に秘め、墓場まで持っていくだろう。
何しろ胸から出したらそこか既に墓場だからな。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
と、特定の人物の名前は伏せられているがこれだけ条件が揃っていればそれが誰であるかは書かなくても明確であろう。
だがこれは分析なので暈かす訳にもいかない…冒頭から名を挙げている現人神アダムがこの場に、この村に降臨していた間接的な物証でもある。
エネキア王国の上級貴族、オースの冒険者ギルド、そしてこのアダム村が初期段階の活動拠点になっていたことが判明した。
どこから現れたのか…はたまた本当に神か、又は悪魔か。
大陸は大きい、私のまだ見ぬ歴史が秘められていると思うと心が躍る。
アダムの最初の活動記録からの期間はおおよそ200年以上…活動は世界中に広がっている。
これは第二次報告とする。
※次回は南部の活動記録をまとめる為に、これを提出後1か月ほど現地取材で留守にします。
添削よろしく




