自立への第一歩?
初めてレビューを頂きました。
この場を借りてお礼申し上げます。
私の目の前にあるのは金の山。
映画で良く有るカジノで大勝したようなチップの山が全て金貨になっている感じだ。
応接室の4人掛けテーブルに山盛りの金…心なしかテーブルも重量に負けて曲がっているようにさえ見えてくる。
「…ちょっと確認させてください」
真向かいに座り、半分くらいしか顔が見えないコーウェルさんが「どうぞ」と頷いてくれたのを確認し問いかけた。
「この金貨の山は?」
「代金です」
「え?」
「例の馬車の件です」
「…マジか」
予想外だった。
素人目でも明らかに分かる異常に高額な金銭。
日本でこれだけの金を円に変えたら何百万…いや何千万?
待てよ?金ってグラムで何千円だったような気がするが…下手すれば億…いや、日本円で考えても仕方がない。
とりあえず暗算は頭の隅っこへ放り投げる。
「ええと…あの馬車1台でこれですか?」
「おっと、私としたことが気持ちが逸りすぎてしまいましたな。失敬」
そうだよな。
いくら技術革新をぶっ込んだとは言え、銀貨100枚程度の馬車が金貨の山に化けるなんて…
「まずあの馬車の代金が金貨500枚、販売権利の独占契約の手付金として2000枚、技術の取得料として1000枚、アダム様の個人的な取り分として300枚、続いて…」
いやいやいやいや…マジに馬車1台とその権利が大金に化けた上にどう聞いても個人契約の域を超え始めている。
私は良くも悪くも普通のサラリーマンだった…扱った額は大口の顧客でも精々100万とか200万にいかないレベルだ。
会社レベルですらそのぐらいなのにこのやり取りはドラマの中でしか見た事のない世界だ。
「コッ、コーウェルさん!ちょっと待ってください!」
「っと、何でしょうか?」
「私はあの馬車を…」
「…馬車を?」
考えろ私!この取引は何の為だ!考えろ!考えろ!!
思考に集中しようとしたら突如、世界から色が消えて灰色に変わってしまった。
こんなところで戦闘用のスキルが役立つとは思わなかったが嬉しい誤算だ。
この状態ならば1秒が十数倍に引き伸ばされる(経験則)はずだ!
今のうちにこの取引を個人ではなく別の方向…もっと大勢の人…具体的には助けた人とかこれから助ける人の為になるような…まず最優先はアダム村の面々だ。
感覚が引き伸ばされてるとはいえ1秒が大まかに10秒だとしても沈黙に耐えうるのは精々が5~6秒…体感にして1分といった所か…という事を考えている間に既に何秒経った!?
私の脳細胞よ、今こそフル活動の時だ!!
「…? アダム様、いかがしました?」
「済まない。言葉をまとめるのに少々頭を悩ませてしまってな。それで馬車の支払いの件だが…」
「はい、何でしょう」
「今回の件、支払いは不要だ」
「ええ、この度の件は当家としても非常に重要視しており……はい?」
「馬車の、支払いは、不要です」
「こ、この額ではご不満でしたか!?申し訳ありません!すぐに見直しをして…!」
いかん、きっぱりと一句一句喋ったせいで拒否と取られてしまったか。
もっと笑顔でビジネストークを、と思っているが自分が下手に出るのが常だったので未だにこの立ち位置は苦手だな。
「コーウェルさん、ちょっと落ち着いてください。私は金額に不満があるとか取引を辞めると言っている訳では無いのです。誤解を招くような言い方で申し訳ありません」
「はっ…いえ頭を上げてください。私も久々の大口の話に少々舞い上がっていたようで…お恥ずかしい」
「これから支払い不要の理由を説明しますので少し聞いてください」
私はあくまで『金貨』による支払いは不要だ、という事を説明した。
代わりに要求したものは何れもアダム村より要求のあった話だ。
まずは交易路の確保、村から一番近いオースの街ですら徒歩でモンスターのうろつく森の中を数日通らなければたどり着けない…つまり街道が無いということ。
だが、街道を整備するとなれば国家事業に等しい。
いくら目の前に金貨の山があろうと仮に100人の人工に工事の道具、資材、護衛などの費用を考え見れば露と消えるだろう。
現代日本ですら高速道路を1メートル作るのに約400万を費やすそうだ。
だからまずは商隊を組織して護衛を雇い、アダム村までの交易ルートを作ること…これが1つ目だ。
もし護衛に費用を掛けたくないとなれば元傭兵のゴートやキルト、元盗賊のギル・レドに元宮廷魔法士エミエなど戦える人はそれなりにいるし多少の経費節約にはなるだろう。
その他の課題は商隊が出来ればある程度解決するであろう村への食料や冬対策だ。
厚手の衣類に保存の効く食料、燃料etc…それらを運搬してもらえたら改造した馬車、もしくは板バネそのものを出荷する。
今はチート由来の製造しか出来ないが、村でもモンスターの素材は入手出来るし、余裕があれば野菜や畜産など外貨を獲得できる手段はそれなりにある。
そしてこのチート製造も行く行くはこちらの物だけで何とかしたいとは思っているし。
まぁ、そんな感じの事をコーウェルさんに話したら「うむ…うむ…」と意味深に納得してくれた。
「オースの北部にあるという村…そこに今回の馬車の秘密があると言う訳ですね。なるほど…それならば商隊にはミスリル鉱石も含めた方が良いでしょうな。一番効率が良いのは完成品と材料+制作費を交換し、ついでに村と交易を行う…と。先程のアダム様の話から察するに技術はまだ伝えられるほど完璧な状態でない…だから技術を交渉材料にはまだ出来ない。現状では商隊を組織する当家の負担が大きい、だから今回の支払いはその補填と手間賃を差し引く意味も有ったと…納得致しました」
「そ…そういうことです」
やべー、常日頃から政敵との腹の探り合いをしているだけあって頭の回転が早いこと。
思考加速までして考えたことがものの数分で把握されてしまっては頭の出来が違うと見せつけられているようで少々世知辛いものがあるが…それは些細な問題だな!
「それと急ぎで申し訳ないのですが本格的な冬が来る前に一度だけで良いので商隊を組織できませんか?」
「そうなると…ふむ、結構な強行スケジュールになりますが…何とか致しましょう!」
「ありがとうございます」
「有能なコマを揃えている行商団に心当たりもありますので1か月…いや、3週間以内に出発させましょう。何せ資金はアダム様持ちのようなものですからな!それにアダム様の息が掛かった村であればまだいろいろな秘密もあるでしょうし…将来的には当家の利益になることは間違いないでしょう」
流石の慧眼である。
下手な商人よりも先見の明があるし、腹芸も得意で何よりも私の意図を汲んでくれる所が大きい。
この縁はこれからも大切にしていきたいものだ。
レビューの効果って凄い…小躍りを通り越して思考停止しましたよ…
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