試作馬車の完成
仕事を終えた私はそのまま管理者の間経由でアダム村へと向かった。
理由は新しく増えた奴隷を保護してもらうのが1つ目、2つ目が試作馬車の完成の為だ。
村に転移した時は驚きの余りか、2人――猫型亜人のレミエ・リーと狼型亜人のフォー・ジルヴァーーは目を見開き呆然としているようだった。
あまり転移も見せびらかすものではないが目隠しして連れてきて下手に疑問を持たれても困る。
説明とかここでの暮らしについてはメイド3人娘に任せるとしよう。
「では後のことは頼む。食料や金銭に限らず必要になった物はあるか?」
「では恐れながら…複数ございます。まず1点目ですがグレイ、ハクの糧食が底をつきかけております。自分たちで狩った獲物をこちらで捌いて肉をあげる事も多々ありますがあのアダム様が用意してくださった糧食を非常に好んで食べている様子がありますので補充をお願い致します。2点目にキルト様より矢の補充、3点目にゴート様より武器、防具の手入れ用の備品。4点目にミルレート様が仕事の指示を求めておられます。5点目に…」
補足しておくと、グレイとハクというのは私が以前助けたフォレストウルフというモンスターの親子だ。
相手が人種や亜人でなくても信仰を貰うのに問題が無かったので村に住まわせている。
なかなか利口で村の警護として活躍している様子で良かった。
キルトとゴートも助けた元奴隷の亜人達だ。
それとミルレートも同じタイミングで助けた耳長種…それはいいとして仕事与えるの忘れてた…。
「あー…分かった。夜にまた来るから纏めておいてくれるか?」
「畏まりました」
「うむ、では頼む」
3人のリーダー格のアインは体格は小柄ながらしっかりとメイドの役割は果たし、なおかつ言うべきを言ってくれる。
後でコーウェル公に賛辞を言って昇給とかお願い出来ないかな。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
「ははははは!!コイツはご機嫌じゃぁ!逃げろ逃げろぉ!」
村の周りに整えられた農道…もとい試験用コースを1台の馬車が疾走する。
整えられたと言っても若干の勾配を設け、荒れたままの部分も残し、一部は石畳を簡易的に再現している。
そこを馬2頭による全力疾走の暴走特急が走る。
「ビッ、ビルド殿! もう少し速度を…押さえて!!」
「モンスターから逃げる際に速度を抑えていられるかぁ!!」
「アッハッハッハ!これだけの速度でも…詠唱する余裕たぁ驚きだねぇ!!」
完成した試作馬車の車輪には一番入手が簡単なグレイラットの皮を履かせてある。
試験中は先ほど話にもでたグレイとハクが後ろから追うなど入念に状況を再現しているようだ。
後方に乗った…それなりの年齢の女性が初級魔法を道に沿って設置された標的に当てている。
命中率は6~7割といったところか、御者として髭面の筋肉質な体躯の男が馬を操り、その横で中年男性が短弓で的を射ている。
試作結果は上々だが、あまり頑張らせすぎると馬の方が先にダメになりそうだが大丈夫だろうか…。
「ハァハァ…幾度か、馬車の護衛で…走りながらモンスターを、蹴散らしたこともありますが……この馬車であれば弓にしろ、魔法にしろ…相応の戦果が期待できますね…ハァ…」
「アタシも随分鈍ったのを差し引いてもあの揺れの少なさならそれなりの腕を持ってれば問題無いだろうね!ゲイツ…あんたもう少し日常で体を動かしな、息も絶え絶えじゃないか!」
「ハァ…無茶を…いうなよ。近頃の村長は…肉体より、頭のが多いんだよ…」
「全力疾走は初めてだったが強度に問題は無し。車輪に履かせた皮のクッション性はそれなり…まぁ、及第点じゃな」
「ご苦労様、見させてもらいましたが非常に良い出来具合ですね」
「「「ありがとうございます」」」
試乗していた試験担当は村長のゲイツさんとオーバさん、それに制作担当のビルドだ。
元冒険者という事もあり試験には格好の人材だ。
とはいえ現役を退いてそれなりに時が経っているのに二人合わせた的当ては7割と上場と言えるだろう。
少なくとも馬車に乗った経験がある人はすべて太鼓判を押してくれた。
試験用コースはある程度の条件は満たしているとはいえ完全ではない。
特に石畳に関してはごく一部に設けただけでタイヤ替わりに履かせた皮のクッション性、滑り止めはまだまだ未検証に近い。
これはこれで街で乗る時が楽しみだ。
「とりあえず革新的な出来というのは確認できた。後は…どう市場に流すかだな」
大まかな手段としては2つ考えてある。
とりあえずいつものコーウェル公ルートと、赤い狐の行商団に仲介を依頼するパターンだ。
今回は村の特許技術として売り出すこともあるし何より赤い狐の方には『冒険者アダム』の姿しか見せていない。
冒険者がいきなり革新的な技術を売り込んで探られるよりは…とのことでいつものルートに決定です。
行商団はもうちょっと別の場所で役立って貰いましょうか。
だが、まだ問題点が残っている。
ミスリルだ。
試作馬車に使われている板バネにはおおよそ2割程度ミスリルが練りこまれている、と製作者ビルドの言だ。
この世界ではそれなりに希少な鉱物の代表格で主に武器、防具の魔法付与が主流とのこと。
日用品やこういった設備関係にミスリルが使われるのは余程の財力の持ち主か酔狂人のどちらかだけだ。
ミスリルが取れる鉱山がある街は取れる限り恒久的な発展が見込めるらしくこちら側のゴールドラッシュのようなものかな。
更に希少さに拍車を掛けるようにオースの近辺にミスリルの鉱山は無い。
しばらくの間は少数生産で誤魔化すことは可能だが将来的に村の産業の1つにするのであれば恒久的な入手先が必要だ。
「あの旨い菓子を出してくれる貴族にミスリルを探してもらえば解決するんじゃないのか?」
ブツブツとあーでもないこーでもないと道を模索する私にハチが「何を悩んでいるのだ」と言わんばかりの指摘。
村に来てから説明や意見交換等々で放っておいたが存在をアピールするようにストレートを投げてきた。
確かに私としたことが自力だけでなんとかしようと考えすぎてた。
先ほどからあれもこれもとコーウェル公に頼みすぎている感もあるが、世の中ギブアンドテイク…スタートラインこそチートだが、使える手はどんどん使っていこう。
そういえば季節はそろそろ空気も冷え秋口を感じさせる頃だが冬の準備はどうだろう、何を揃えればいいかは村長に聞くとして…あれ、そういえば前にメモ貰っててたような気が…。
アイテムボックスを取得した日付毎にソートすると、1枚のメモを見付けた。
どれどれ?
アダムの家の面々より
1、武器や装備の充実
2、ミルレートへの仕事
村からより
3、他の町、村との交易が出来ないか
4、村の防衛力の強化
5、食糧事情の改善
6、冬対策
たはー…日頃の予定表を付けている訳ではないが完全に失念していた。
サラリーマン時代なら失注にクレームに信用低下で大目玉だったな…管理者の間に予定表でも置こう。
村からの要望は本格的な冬が来れば難しい物が多い。
特に交易に関しては特産品がまだまだ少ないし、売れるほど作物が余っているわけではないので翌年以降に持ち越しだな。
試作馬車の売り込みの時にでもコーウェル公に相談しようか。
食糧事情…取り急ぎは信仰を支払って買うという手段もあるけど板バネ以外に村人の大勢がこなせるような仕事を見繕うのも必要かなぁ…
先ほど自分だけでやりすぎないと考えていたのにもうため息が漏れ出てしまう。
そりゃ、信仰ポイントを使って世界のバランスを壊さないように地味に発展させていくなんて誰に相談すればいいのやら…
生存報告の代わりに…。
スパイダーマン終わらないのにアサクリの新作とかぬぁぁぁん




