【幕間】ゴブリン絶対殺すウーマン・前編
「では、いつもの手順で行きます」
「うん」
「はーい」
ゴブリンの巣となった洞窟を目の前にし、軽い口調で話している3人がいた。
それぞれ身に着けた装備はお揃いなのか3人1組というパーティを容易に想像させた。
だが、同じ装備でも隠せない個人の特徴は見受けられた。
それぞれ背が高い、中間、低い。
発育も大きい、それなり……最後は言葉にはしないでおこう。
何よりも髪が特徴的だ。
燃えるような赤い髪を後ろで束ねた少女が杖を構え、言葉を紡ぐ。
「炎よ、炎よ、私のお願いを聞いて………」
手に持った1メートル弱の杖の先についた真っ赤な宝珠が徐々に光を強めていく。
目を閉じ、言葉を紡ぐたびに光量が増し、いつしか光は揺らめく炎へと姿を変えた。
「……………よし!いっけぇぇぇぇ!!」
一際大きな声を上げると揺らめく炎が蛇のように動き出し、洞窟の入り口に入っていく。
光が差し込まない洞窟の内部が赤から橙と色を変え、うねる炎によって煌々と照らされ、やがて見えなくなった。
5秒…10秒…まるで爆弾の爆発が今か今かと待つような心臓に悪い時間が過ぎていく。
やがて洞窟内からボンという爆発音が聞こえ、少々の煙が出てきた。
「よっし、次はフルーだよ!」
「分かっています。 水よ…我が想いに応えよ…」
先ほどの燃えるような髪とは全く正反対と言える透き通った青…短めに整えられた髪はまさしく水を思い起こさせる。
彼女の杖の青い宝珠が光ったと思ったら洞窟の入り口付近に変化が現れた。
湿り気を帯びた地面ではあったが、雨上がりという程では無い…なのにじわじわと水が染み出してくる。
水はどんどんと沸き出し、洞窟の入り口を中心に直径10メートル高さ1メートルほどの扇のように広がった。
「私はこのまま檻の維持を行います。イロエは仕上げを、レッタは打ち漏らしが無いか…確認を…」
青髪の少女――フルーの眉間に皺が寄っている。
檻とはこの水を差すのだろう、維持となれば中々の精神力が必要とされるはず。
やがて洞窟から緑の小さな体躯をした人らしきものが出てきた…言わずもがなゴブリンだ。
元々不衛生な環境での生活の為、体が薄汚れているのはあたりまえだがそれ以上に黒く染まっていた。
1人…いや1匹出てくると次から次へ我先にと洞窟から出てきて面白いように水の中に入っていく。
住処に火を放たれパニック状態のところに意味不明な水…混乱に拍車を掛けるがただの水溜まりであれば浮き上がることも泳いで出る事も可能であろう。
だが魔法の水溜まり…水牢であれば、脱出手段を持たない矮小な存在に未来は無い。
現に混乱の極みにあるゴブリン達の中でも空気を求め泳いで出ようとするが…いくら泳ごうと、もがこうと、外には出られない。
浮力があっても上には進まず、端を目指して泳いでもその場でくるくる回るだけ。
「んっ…ぐっ…ふ、ふふふふふ♪ もがき苦しむゴブリンを…見るのは愉悦…っ、ですけれどもこれ以上増えたら…イロエ!!」
「はいは~い!やっちゃうぞ~!」
まばゆい金色の髪の娘――イロエがその場でくるくると、ダンスのように回りながら自分の想像を具現化させる。
「びりびり~びりびり~……ばーん!!」
黄色の宝珠を向けると眩い雷光が水牢を包み込む。
水牢がピカピカと光り、ゴブリン達が痙攣しているが余りにも光が強すぎて直視するのは容易な事ではない。
やがて水牢が解除されると周りにはブスブスと焼け焦げたゴブリンが散乱し、どの個体もピクリとも動かない。
フルーは念のために動かないゴブリンの心臓に短剣を突き刺す。
レッタは燃やし、イロエは杖に電撃を纏わせて頭に直接電撃を行っていた。
これが彼女らの初手必殺の連携だ。
彼女らの為に補足しておくと今回の依頼者から行方不明者、要救助者が居ない事を確認してからの殲滅であることを記載する。
「全部止めは刺したわね?」
「大丈夫」
「おっけー、みんな頭の中までビリビリさせたよ~」
「よろしい、では中に入るわよ。」
「炎よ、灯れ」
「ぴかー!」
レッタの杖の宝珠に火が灯り簡易的な松明になり、同じくイロエの宝珠も輝きを放つ。
光源を持ち、すぐ攻撃に転じれるレッタが先頭、フルーが中間、後衛がイロエという並びになって洞窟を進む。
「洞窟の大きさに反して出てきたゴブリンの数が少なめでした…火で炙り出せなかった奴が隠れている可能性もあります。指輪の加護があるとはいえ、それに頼りきりではアダム様に申し訳が立ちません。…イロエ、あれを」
「うん、いつものビリビリするねー」
「やー」と少々気の抜けた掛け声をあげると3人の体が青白く光を放ち、小さくパリパリという音が聞こえる。
彼女らが編み出した攻撃と防御を兼ね備えた魔法だ。
今は光るだけだがどんな効果を持っているかはいずれ出るだろう。
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洞窟を探索すること小一時間、いくら備えがあると言っても背後から、物陰から襲われる事を気にしていると存外疲労は溜まる。
見通しの良い広めの空間に付くと少しだけ安堵の息を漏らす。
壁に煤が付いていることから初手に放った炎はこの部屋まで来たのだろう。
「……ここなら奇襲の心配もなさそうだし、一息入れましょうか」
「さんせー」
「ずーっとビリビリやってたからつかれたぁ~」
魔法による光を消してランタン1つを囲み、お茶と干した果物で休憩をとる。
2か所ある通路には柵を立て、簡単に入れないようにしたので戦闘態勢を整えるだけの時間稼ぎには十分だろう。
「あ゛-…蜜柑あまーい…」
「えー?蜜柑より柿の方が甘いよー」
「あんたら…ここはまだ巣の中よ?もう少し声を控えなさい」
2人も分かっているからか反論はしないが口がアヒルのようにぶぅ、と尖っている。
本来ならまだ敵がいるかもしれない場所で休むのは無謀だ。
しかし、無理して探索し窮地に陥るのはもっと短慮だ。
「休憩は…あと20分。今日中に奥まで確認できなきゃここで外で野宿だからね」
「うへぇ…」
「やだー」
「帰ってベッドで寝たいなら大人しく精神を休ませなさい」
「「はーい」」
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「…これはちょっと予想外」
先ほどの密閉された洞窟とは違い、出口になっていた。
語弊があるので訂正しよう、崖の中腹になっており、そこから細い道は続いていた。
彼女たちが母屋だと思って攻撃していたものは離れでしかなかったのだ。
「チッ…天然の洞窟とはいえ面倒な…!」
「どうする?今回の依頼は討伐だから達成はしているけど…このまま進めば確実に夜通しだよ」
「夜通しはやりたくは無いのー」
「かと言ってギルドに報告している間に私達のような被害者が生まれたら取り返しが付かないし、何よりゴブリン達に警戒されると次に攻めるときに厄介になるわね…」
彼女たち本来の戦闘力というものは全くない。
力となっているのはとアダムから賜った装備の数々だ。
ゴブリン相手ぐらいであれば1人でも10や20と言わず100体単位で倒せるだろう。
だが現実は100体のゴブリンが正面切って襲ってくることなどありはしない。
知能が低いとはいえ、狡猾な個体もいる可能性は捨てない。
ゆえに彼女たちは自分たちに出来る事、出来ない事を冷静に判断し、驕ることが無いように努めている。
全ては自分たちを助けてくれたあの御方に少しでも恩返しをする為、あとほんの少し…いや結構なゴブリンへの恨み。
「フルーちゃん…どうする?」
「少し考えさせて…」
「リーダーにお任せするよ」
3人の中では差異はあれど一番頭が働くのがフルーだ。
自分たちの力量、装備、食料…これからは未知の領域に行くべきかどうかの材料を集める。
装備はこれ以上ない程であるが、それを扱う彼女らは村のの小娘と何ら変わらない。
故に無茶をすれば良い結果には繋がらないのは明白だ。
次に、ゴブリンを殺すだけならあぶり出し、水牢、雷撃のコンボで何とでもなるがもう1つの巣の情報が無いので下手をすれば助けを待っている人を殺す"かもしれない"。
彼女たちは冒険者を生業にするようになったが根本の目的はアダムの信者を増やすことにある。
可能性の話とはいえ信者候補を殺すのは彼女たち…いや、フルーの目的と言っても過言ではないだろう。
レッタとイロエはアダムに助けられた恩義があるとはいえ、そこまで狂信的ではない。
しかし、それを無下にするほど恩知らずでもない。
それ故にフルーに付いて回って冒険者稼業を続けているのだ。
村で質素に暮らすよりも余程いい暮らしも出来るしいいよねー、とイロエが付け加えるのがいつものやりとりだ。
「あまりアダム様のお力に縋りすぎるのも良くは無いけど、下手に意地を張りすぎて助けられる者を助けられないのは本末転倒ね…仕方ないけど2人共、付き合ってね」
「ま、そーだよな」
「仕方ないの」
さすが幼馴染というべき2人はフルーの考えを把握済みだった。
フルーであればある程度のマイナス要素を考慮しても助けに行かないという選択肢は無いのだ。
下手の考え休むに似たり、という訳ではないが気心知れた間柄は思考力を超えるといういい例であろう。
「…何かあっさり納得されると釈然としないけど…まぁいいわ」
「善は急げってね。早く帰る為にもさっさと済ませましょ」
「そうそう。さっさと帰って美味しい料理たべるの!」
「そうね、行きましょう!」
本当は後編もできているけど終わり方が気に食わないから前編にして投げっぱなしジャーマン




