処罰
拷もn…尋問の結果、驚くべき事情と惨状が明らかとなった。
まずはイルネスト・ド・ヘンリーという人物について少し説明することにしようか。
立場はエネキア王国の伯爵であり、財力や私設の騎士団など貴族としての力は王国で5本の指に入るほどだと言う。
特に南にある大きな穀倉地帯を管理していることもあって国の胃袋を支える重要な柱を担っている。
貴族としての立場に加えて教会にも多大な寄進をしていて発言力は相当な物らしい。
そして…奴隷制度廃止に酷く消極的、むしろ奴隷商や他の貴族など発言力を持つ者を束ね反抗しているらしい。
この館はいくつもある別荘…遊び場の中の1つで、王国内と自分の領地にと複数持っているらしい。
これは後にコーウェル公に確認を取ったので間違いないだろう。
ここからが話の核心だ。
そのイルネスト伯爵が『何』をしていたかだ。
・奴隷を買い付ける。
・隔離された別荘がある。
・拷問器具が置かれた部屋がある。
・最悪に趣味の悪いコレクションルームがある。
これだけの証拠があれば何をやっているか分かるとは思うが確認は重要だ。
拷問、凌辱…殺害に死体遺棄…いや、死者の冒涜か。
動機は「自分で買った奴隷をどうしようと自由ではないか!」という身勝手極まりない…がこれは私の認識とこっちの世界の常識との差異でもある。
こればかりは変えていく…変えて行けると信じたい所だ。
ここで新たな発見、いや事実の確認ができた。
回復魔法…こちらで言うところの『癒しの奇跡』というものだ。
俗にいう教会の関係者のみが使えるという癒しの奇跡は他の魔法や技能とはまったく違い、教会のお偉方が秘術で伝える形態を取っているらしい。
なぜここでこの回復の話をしたかというと、イルネスト伯爵は教会への多大な寄進からこの癒しの奇跡を金で会得し、遊びに使っていたという訳だ。
傷つける、癒す、傷つける、癒す、以下ループ。
奇しくも私の尋問方法と同じ事になっていた…まさに自業自得だ。
飽きたら…殺しても気に入った者は剥製にしてあの部屋に…。
「コーウェル公に話すためにざっとまとめてみたが読んでいるだけで気分が悪くなる…」
椅子に体重を掛け、天を仰ぐと営業をしていた頃を思い出す。
私はまだイルネスト伯爵の一室を勝手に借りてこれをまとめている最中だ。
あんな奴でも情報を引き出すために一晩中悲鳴と付き合っていればどうしても精神的な疲労は拭い切れない。
今はあの拷問部屋に鎖で繋いで放置している。
ポーションを使っているので傷は無いが人生で感じうる苦痛を前借したような夜だったから流石に大人しくしている。
館を警護していた騎士達は眠ったまま元の詰め所に押し込んでハチに監視させている。
塔から助け出した奴隷はシロが面倒を見ているがこちらも念話が来ないところを見ると何も問題は無さそうだ。
「まずはコーウェル公を連れてきて、現状を見てもらう。全てはそれからだ!」
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
「はぁ!?」
「はぁ……」
「―――」(絶句)
「…なんという事か…」
コーウェル公、七変化を見た。
朝早くから衝撃の事実の連発で本当に申し訳ない…あとで胃薬でも差し入れてあげよう。
「アダム様…なんという事を…」
「この外道を潰したことが何か問題でも?」
「いいえ、私個人としては政敵が減るわけですし問題はありません。問題なのはイルネスト伯の領地です。」
「済まないがもう少しかみ砕いて話してくれると助かります」
「…分かりました」
前述したが、イルネスト伯爵の領地は国有数の穀倉地帯であり国の胃袋支える存在である。
今のところは起こりえていないが戦争になれば兵站は非常に重要だ。
そうでなくとも飢饉などが起これば国としては援助なり、国庫放出などしなければならない。
一言で言えば『金を生む土地』という訳だ。
私としてはコーウェル公が接収するとか国が召し上げるとかすればいいんじゃね?と思ったがそう簡単でもないみたい。
力のない貴族であればそれぞれの派閥に分けるとか隣の領地に管理を委任するとか比較的簡単。
しかし、今回は国の5本指に入るほどの大貴族。
既に管理体制が出来ており、領主になるだけで金が転がり込んでくる。
流石にここまで言われたら私にもぼんやりと分かってきた。
「仮にコーウェルさんが接収しても他の貴族から不平が出る…ということですか?」
「ええ、貴族というのは成した功績と持っている力…兵力や財力で格が決まります。アダム様の事は表に出せないので…周りからすればいきなり私が何もしてないのに美味しい領地を奪い取った…と見られかねません。もちろんやるならば根回し等はしますが事情に聡い者は私とアダム様の関係に気づく可能性もあるでしょう」
「では国に一端借り受けして貰い、配分するのは?」
「……悪くない案ではあります。この現状を国に報告すればほぼ間違いなく爵位はく奪、悪くても僻地へ更迭などでしょう。だがこちらにも問題はあります。」
「私が伯爵をボコボコにした件?」
「それは…まぁ不審者や暴漢扱いで何とでもなりますが…。誰がこの悪事を暴いて国に信用させるかということです」
「あー…」
「それに捕まったとなれば聴取もされるでしょう。そこは全身鎧の断罪者が有名になるだけだと思いますが」
国相手に見知らぬ投げ文をして信用してもらえるわけも無し……あ!!
何だ、思いつけば簡単な方法があるじゃないか♪
「…アダム様、ちょっと下品な顔付きをしていますが何か良い案でも?」
「うん、ちょっとコーウェルさんにもお手伝いをお願いしますね」
「はぁ…?」
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数日後の早朝、鶏の鳴き声もまだ聞こえず、太陽が山から顔を出す前だが空は白み始めている。
まだ気温は低く朝靄が消えずに街は白く閉ざされている。
北部の最大都市とはいえ街中に人の姿は無く、夜勤明けの騎士が欠伸をしながら静かな朝を噛み締めている。
「ふあぁ…ねむ…」
「交代まであと1時間かそこらか…」
「…何も無いのに突っ立ってるだけってのはいつまでたっても慣れないよなぁ」
「もう少しで交代だからちょっと黙ってろ…」
だらけている訳ではないがどうしても明け方の勤務終わり間際というのは気が抜けがちになる。
城の前にいきなり敵が攻めてくる訳ではないが下手に気が抜けている所を同僚や国民に見られるのは非常に不味い。
「あー…ダメだ。眠気がやばいからちょっと広場の噴水まで行って顔洗ってくる…」
「…あんまり他の人に見られないようにさっさと帰って来いよ」
鎧をカチャカチャとならし、手をふりふりして去っていく同僚を見ながらため息を一つ。
自分も顔を洗ってシャキッとしたい所だが門を守る2名が居なくなるのはさすがにダメだ。
戻ってきたら俺も顔を――と思っていたら先ほど歩いて行った同僚がこちらに駆け足で戻ってくるのが見えた。
…何かあったと直感で感じてしまった。
「ハァハァ…!」
「何があった!」
「ふ、噴水!裸の男!磔!」
「はぁ?」
「いいからお前も来い!」
「誰もいなくなるのはダメだろ…先に交代要員を呼びに行くぞ。少し早いが準備はしているだろう」
噴水の中には猿ぐつわを噛まされ、×型に張り付けられた中年の男が1人、全裸ではあるが首から下げられた看板でギリギリ股間は隠れている。
新手の変質者にしては手が込みすぎている。
朝方のまだまだ肌寒い時間帯に裸で噴水を浴びるなど風邪を引かせてくださいという行為だ。
長い時間浴びていたのか唇は紫色に変色し、ガタガタと体を震わせている。
だが問題はそこではない。
首から掛けられた看板に書かれている文章だ。
「何…?」
『私はイルネスト・ド・ヘンリー伯爵である。
趣味は奴隷を痛めつけ、拷問に掛ける事だ。
特に癒して傷付けて癒して傷付けてを繰り返して相手の尊厳をボロボロにするのが最高に大好きだ!
ここに貼っているのは私のコレクションの一部だ、最凶に最高だろう?
もし死んじゃったら剥製にして飾ってあげるんだ。
別荘にコレクションルームがあるからみんなも見に来てよ!』
確かにイルネスト伯に見えるが…この重厚な十字架は1人2人では到底持てる重さではない。
本当に伯爵なら応援に加えて騎士長もお呼びしなければならない。
「とりあえず俺は応援を呼んでくるからお前はここで見張りを、なるべく住民を寄せ付けないようにしてくれ」
「お、おう…」
おそらく今日はこのまま夜勤明けで休むことは出来なくなるだろう。
そんな憂鬱な気分を抱えながら早朝の街を騎士が駆け戻る。
3日後、王国から正式にイルネスト伯から爵位がはく奪された。
罪状は奴隷管理法への違反だが、元伯爵本人から話された実情があまりにも常軌を逸したものであったため、異例のスピード判決となった。
放置されていた場所が王国の中心部に近い場所という事もあり救出の際に多くの国民の目に触れた為、毅然とした判断を取らなければ王国の威信にも関わるという判断もあった。
本人は爵位はく奪の上、投獄…死ぬまで獄中での一生が決まった。
領地は一時的に王国の預かりとなり、イルネスト元伯爵が所有していた別荘は国の管理下に置かれ立ち入りが禁止じられ、民の間では『狂気の館』と噂されていた。
しかし数週間後には全ての別荘が忽然と焦土となり全ての証拠が闇に消えたことから伯爵の失脚と合わせて『呪われた伯爵と正義の死者』としてホラーな劇になり、長く王国に残っていくのだった。
余談だが、主人公として伯爵に殺された死者が復讐を果たす別バージョンが人気を博している。
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『ユーガッメール』
件名:ありがとう
内容:-
依頼者:不明
1、2回で終わらせる伯爵の話が思ったより伸びてしまった…。
まあ、楽しかったからよし




