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私刑

若干のグロっぽい表現、リンチ的な描写がありますので該当箇所は空間を多めに開けておきます。

 あの最悪に、胸糞が悪くなるコレクションルームを後にし、ハチと今回の主役がいるであろう地下室へ足を進める。

 ハチが確保した奴の名前はまだ聞いていないが十中八九、奴が今回の対象者だ。

 これだけの館、護衛に騎士を付かせるだけの遊び場にしている事から王侯貴族という線も当たりに近いだろう。

 遊び場だからこそ生活の痕跡も無い訳だ。

 従者や家政婦等もおらず、奴隷を捕まえて生かしておくだけの設備だけ。

 本人も自分の趣味が公けに出来ないと分かっているからこそこんな場所を作った…解ってやっているからなお悪い。


「……奴をどうにかしたいと思う気持ちはあるが"私"の立場は管理者だ。殺人鬼じゃない…」


 多少ではあるが、歩くことで自分の中にあった怒りを少しだけ沈静化させ冷静な頭を取り戻す。

 昔、何かで読んだが「人の怒りの持続は6秒しか持たない」らしい。

 先ほどのような「殺す」という気持ちは落ち着きつつあるがまだ内心の「許せない」という気持ちは沸々と沸いてくる。


「ふぅー………本当に権力者だった場合、ここで殺すより公けの場に引きずり出して…裁判なりにできれば奴隷の扱いに対する布石にもなるかな?何にしろコーウェル公に丸投げ案件だな」


 殺すだけならいつでも出来る。

 どうせ悪人として殺すなら私に都合の良いように、世直しの礎に出来るように死んでもらおう。

 …自分の中とはいえ殺す事が当たり前になりつつあるのはちょっと考え物だ。

 現代日本だって重大な犯罪を犯しても死刑になる例は稀だ。

 そういう意味ではこっちの世界はまだまだ発展途上、山賊、強盗といった集団が多く存在して日常的に殺害や略奪を行っている。

 死が身近にある環境だからこそ私もそれに馴染みつつあるのかなぁ…。









― ― ― ― ― ― ― ― ― 

ここから…注意喚起(読まなくても次話に影響ないと思われます)



















 ハチによって破壊された隠し扉を抜け、階段を下りた先にあったのは……狂気の部屋と呼ぶべきだろう。

 天蓋付きのベッドが中心に置かれそれを囲むのは数々の拷問器具。

 詳しくない私でも知っているアイアンメイデン、三角の木馬から分かり易い手術道具のような刃物類。

 あまりの趣味の逸脱っぷりに兜の下は唖然、呆れ、怒り…各種が入り乱れた表情をしていただろう。

 

 部屋の一番奥に磔にされているのは上半身は人種、下半身が蛇の女性だ。

 ラミアとかナーガというファンタジー的な名前は知っているがこっちでも同じなのだろうか。

 ハチが治療したのか磔にされている割には元気に見えるし何より五体満足であることに安心を覚えた。


 そして…左手を上に掲げ、手のひらを杭で固定された状態で壁に括り付けられている中年が件の人物だろう。

 右腕は無く、でっぷりと膨れた腹は青あざで変色し顔面もぱんぱんに腫れ上がっていて元の顔を知ることは出来ない。

 殺さない程度に痛めつけていいとは言ったもののこれは私刑だ。

 本当に死なない一線だけ守っている状態…ちょっとだけ罪悪感を感じる。


「おう、主よ」


 どうだ?我の仕事ぶりは!と言わんばかりのどや顔。

 念話では珍しく怒っていたようだし…仕事は果たしているから誉めるべきか…。


「あー…うん、よく…やったな?」


「ふふん!我にかかればこんなもの朝飯前よ!」


 事実この地下室の発見と対象人物の確保しているし一応は褒めておこう。

 これで拗ねられも後が面倒だ。


「ぬ…あ…ぁ…たふけへぇ……」


 聞こえる呻き声は壁に張り付けの男…見るからに重症…いや瀕死だ。

 私がそうさせたのだから当たり前だが、彼にはもう少し自らの過ちを悔いる時間を与えよう。

 あえて無視してもう1人を助けねば。


「あ…あぁぁ!あぁぁぁ!!」


「怖がらなくてもいい、君を助けに来た」


「あぁぁぁぁ!いやぁぁぁ!!痛くしないで!殺さないでぇぇぇ!!」


 …とは言っても十中八九あの貼り付けの男に余程酷い目に合わされた上に謎の侵入者ハチが現れ、男をボロ雑巾にした上での全身鎧の侵入者2だ。

 怖がるなと言っても無理がある。

 私なら無理だ、泣いて漏らす自信がある。


「彼女の境遇を思えば仕方ない…少しの間眠ってくれ」


 今日は同じ展開が多い気がするが気のせいだろう。

 何より暴れられたり抵抗されたりすると余計に痛い思いをする可能性もあるし麻酔代わりでもある。

 彼女の意識が途切れた事を確認すると両手に刺さった杭を引っこ抜く。

 抜いて気づいたが5寸釘なんて生易しいレベルだ…これは四角錐の楔だ。

 杭を抜くと手のひらから向こうの景色が覗けるぐらいの大穴が空いている。

 エゲツないというかよくここまで残酷になれるものだと怒りを通り越して興味すら湧いてくる。

 2本目の杭を抜くと彼女を支えるものが無くなり、私にもたれ掛かるように体重が掛かってくる。

 普段であれば亜人、見た目はモンスターに近いとは言え、上半身裸体の女性に体を預けられたらドキッとしたり赤面したりもするだろう。

 しかし、今はこの内面からでる怒りの方が勝っている。

 まずは彼に自分の行いの報いを与えるのが先だろう。

 彼女をベッドに横たわらせ、アイテムボックスからポーションを取り出し、ハチへ渡す。


「ハチ、彼女の手にこれを。それと傷が治ったらシロの所へ運んでくれ」


「……主はどうするのだ?」


「おr…ごほん、私も頭に来ている所がある。ちょっとだけお話してから向かうよ」


「我が言えた義理でもないが、ほどほどにするのが良いぞ」


「あぁ…分かっている」




 ハチがすーすーと穏やかな寝息をたてるラミアをズルズルと引きずりながら退室し、扉が閉じられる。

 ここにいるのは哀れな罪人と内心に怒りの火をを灯した断罪者だけだ。








― ― ― ― ― ― ― ― ― 







「ふぁへ…はふへ……」


「顔もボコボコにされてまともに喋ることもできないか」


 会話すら出来なければ問い詰める事も出来ない…とりあえず傷を治して会話するべきだろう。

 甚だ遺憾ではあるが…特級ポーションを取り出し、奴にぶっ掛ける。

 青あざ、返り血に加えて虹色マーブルなポーションが掛かった色合いはぐちゃぐちゃに混ぜ合わせた絵の具の様だ。


「あ…あぁぁ…痛みが、引いて…!?」


 念のために確認ぐらいはしておこう。



 名前:イルネスト・ド・ヘンリー

 種族:人種

 性別:男

 年齢:47

 状態:健康



 やはり当たりだった。

 状態も健康になったし欠損した右腕もいつの間にか治っていた。

 本人は不思議そうに、だが歓喜に打ち震えるように手を握りしめ感触を確かめている。


「おぉ!其方誉めて遣わすぞ!体の傷が癒えるだけでなく失った腕まで戻るとは!」


 一度は小さくなり掛けた火に男の言葉が燃料となり、再燃し始める。

 この男はまだ自分の状況を把握していない。

 自分を襲ったのは誰だったか、その襲った相手を誰が止めたのか。


「ん?何をしておるか、さっさとこの杭を―――」


 …言って分からない奴には体で分からせるしかない。

 苛立ち紛れに壁に杭で穿たれた左の掌と腕を切り離してあげた。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 実際に切られた奴の痛みは相当なものだろう。

 私だって味わったことは無いが、それこそのた打ち回るような痛みのはずだ。

 しかし、今の私にとっては「五月蠅い」以外の感想が出てこなかった。


「…」


 無言で中級ポーションをぶっ掛ける。

 特級とは違い、部位欠損は治らないが傷口は塞がり痛みを和らげてくれるだろう。


「はぁ、はぁ…私の、私の…手がぁ…! 貴様ァ!私に向かってこんな事をしてただで済むと思うなよ!!」


「一度しか言わないのでよく聞け。次に許可なく口を開いたらせっかく治った右腕とお別れだ」


「どこの冒険者か知らぬがその傲慢な―――」


 はい、言って分からない馬鹿は痛い目を見ないと立場も学習できないようです。

 約束通りお別れしてもらいましょうか。

 サッと抜き放った刀は脇の下から入ると抵抗感を感じる間もなく上に抜ける。

 切られた事に気づくのは数秒後…。


「え…あ…ひっ…ひあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 手首から先を失った左手で徐々にズレてゆく右腕を押さえるがむしろ離れる速度を速めるだけだった。

 やがて完全に腕が離れると血の噴水が始まった。

 失血死させる訳にもいかないのでまたポーションをぶっ掛けるが…これ非効率だな。


「これで貴方には拒否権、黙秘権など無く、私の意向でいつでもどうにでもできるという事がわかりましたか?」


 中級ポーションでは失った血液は戻らない。

 若干青い顔をしつつ、コクコクと頷いてくれた。



 さぁ、本番はここからだ。

おまっとさんです。

どーも主人公が義憤というより傲慢なサイコパスになりつつあるような…

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