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人の欲

今回もグロと思わせる表現があるのでご注意下さい。

 館の最上階というには語弊があるが、隠し階段の先にあった塔の先端には鍵の付いた扉と格子によって塞がれた部屋が1つだけ。

 中に生命反応は2つ。

 幸いなことにここには障壁的な物は無かったのでとりあえず『非接触』で顔だけいれてのぞき込む。

 中にいたのはどう見ても奴隷…それも碌な扱いを受けていないのが良くわかる外観の――が2名…1名はぐったり倒れ、もう1名は隅っこで小さく丸まっている。

 目的の人物は居ないようだがとりあえず保護せねばなるまい。

 魔法を解除し、物理で開く。

 マスターキーが無くとも取っ手を握り、「ふん!」と力を籠め引っ張ると…はい、取っ手と一緒に鍵の部分が壊れて千切れました。

「お邪魔します。鍵を失くしてしまってね…乱暴な入り方で申し訳ない」


「キャァッ!?」


「…怖がらせて済まない、君たちに危害を加えるつもりは無いので安心して欲しい」


 鍵が掛かっている牢のような部屋に無理やり押し入るとはどう考えても紳士の所業ではないな…反省。

 口ではそう言っても隅にいる娘はガタガタ震えるだけで話も出来ない状態だ。

 とりあえず見た目だけで酷い状態だと分かる意識の無い彼女を治療せねば…。

 倒れている彼女の横に座り、容体を確かめる。

 

 名前:レミエ・リー

 種族:猫型亜人

 性別:女

 年齢:17

 状態:気絶、裂傷多数、火傷、秘部裂傷、裂肛、梅毒Ⅱetc…


 …詳しく見て分かる本当の酷さ…言葉が出ない。

 どんな扱いを受けているか、どんな事をされたかが一目で分かってしまう。

 性奴隷なんて言葉では生易しい。

 これは『玩具』だ。

 この世界…国々ではまだ奴隷は合法で売買の対象になっている。

 エネキア王国に関してはコーウェル公の働きにより改革が始まっているがやはり安価な労働力、犯罪者の処理…そしてこのように趣味で非道な扱いをする者が多く中々発展はしていない。

 少なくとも私の中では今回の対象者は可能な限り殺す事が決まった。


「まずは解病っと…そして上級ポーションかな」


 手がぽわっと光ると彼女の体から細かい光が立ち上る。

 まるで彼女を犯していた病魔が体から抜け、昇天するように薄暗い部屋にきらきらとした光が生まれては消えていった。

 次に上級の回復ポーションを体に満遍なく掛けてやる。

 体が微かに発光したかとおもうとケガが消え……たかどうかは体毛で分からんが剥げていた部分の毛も戻り、毛艶も良くなったし呼吸も落ち着いているので大丈夫だろう。


「彼女の治療は終わった。そっちの君はケガなどしていないか?」


「わっ…私はまだ呼ばれた事が無いので何も…無いです」


 よく見るとこの子も恐らく犬型の亜人だ。

 それにもっと幼い…もうちょっと助けが遅ければこの子も酷い事になっていただろう。


「…ここから出たいか?」


「え?」


「この牢…そして将来訪れるであろう悲惨な未来から助かりたいか?」


「た…助けて、くれるんですか…?」


「君が――君たちが助かりたい、生きたいと望むのなら」


 我ながら卑怯な質問をしているものだと思ってしまう。

 こうやって恩に着せながら信仰を集めなければならないとは…強制してないだけ幾分マシかもしれないが良心は痛む。


「助かりたい…!自由になりたいです!」


「分かった、この館の主の件が片付き次第助けよう。だからもう少しだけここで待っていてくれ」


「は、はい」


 他に生体反応が無いところを見ると当たりはハチのほうかな?

 かといってこのまま放置するのも……そうだ。


『シロ、周りの様子はどうだ?』


『ご主人か。今のところ敷地を出たもの無し、起きてきた騎士も無し…実に暇だ』


『それは結構なことだ。2名ほど保護するから守ってやってくれ』


『分かった。どこに行けばいい?』


『…今降りる』


「すまないが怖い思いをさせてしまうと思う…眠ってくれ」


「え? あっ…ねむ…く……zzz…」


 2人に睡眠をかけ眠ってもらう。

 石壁に刀を走らせ即席の開放型ドアを作る。

 大きな空気の流れが出来たこととそれなりの高所という事もあり部屋の中は風切り音で満たされる。

 眠っている2人を脇に抱え、おそらく30、40メートル?はある塔から飛び降りる。

 私だけならこの高さからでも着地は容易だろうが、抱えた2人は無事では済まないだろう。

 だから『エアクッション』を使って緩衝材を作ってみる。

 私の動体視力で測るに着地のおよそ3メートル付近で私の足が透明な空気を踏んだ。

 ぼふんという羽毛布団に飛び込んだかのような音と足からは風船を踏んだような感触が伝わってくる。

 空気の断層を作り攻撃を緩和する『エアクッション』は中々に応用が利くようだ。

 

『ご主人みっけ!』


 敷地の外からシロがこちら目がけて走ってくる。


「この2人を頼む。私は中に戻って続きだ」


『はーい、いってらっしゃい』




『おや、この子…クンクン…間違いない、銀狼族だ。珍しいね』







― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 






「伸縮自在……ベルト? なんだっけ、まぁいいやキーック!」


 鍵がかかっただけの扉など謎ですらない!

 この肉体だけで解決できるのだからな!


「……あん?何だ貴様は…ガキが立ち入って良い場所では無いぞ」


「はーっはっはっは!お前の悪行もそこま……むっ……」


 血…濃厚な血の匂いに満ちている。

 どこもかしこも血の匂いだが匂いの出所は…あのラミアだな、周りに広がる血の海は明らかに1匹が流していい量ではない。

 我を睨みつけている男も血塗れだが明らかに返り血だ。


「おい!ヘスト!侵入者を何とかしろ!聞こえんのか!」


 ヘストというのはさっき逃げた男であろう。

 だがそんなことはどうでもいい…我は今、初めて怒りに震えている。

 我は竜だ。

 召喚獣であり、契約した主以外は正直どうでも良いとすら思っている。

 あ、お菓子とか旨い物をくれる奴は大事だぞ?

 …話がずれたが召喚主が人種だろうと亜人種だろうと魔族だろうとそこに貴賤は無い。

 そして世の中の善悪も我には関係が無い。

 

 だが、そんな我にも当然矜持とか信念…に近いものはある。

 それを侵す輩は……


『主よ』


『…どうした?』


『目的の奴を見付けた。正直言って嫌いな、凄く嫌いなタイプだ…我慢が効きそうにない』


『こっちも言い逃れできない証拠を見つけた所だ。本当に"俺"も頭に来ているよ……だから殺すな。殺さない程度に痛めつけるのは構わん』


『それで十分だ。こんな事をした報いを思知らせてやる!!』


 主から許可もでた。

 顔がニヤ付くほど頭にきているから力を抑えきれそうにない…狙うなら末端からにしよう。


「…たす…け…て…もう…ころ……してぇ……」


「お前は初めてにしては随分楽しめたぞ。…ヘスト!どこに行った!?さっさと来んかぁ!!」


 本気で跳躍した我は疾風だ。

 人種に変体し、膂力に制限を掛けているがそれはあくまで自らに課した枷。

 こんな時まで自分を縛る必要はない。

 後ろから地面が砕けた音が聞こえる。


「もう貴様は喋るな」


 一度、逆鱗に触れた――と思えば奴の言動すべてが癪に障る。

 入り口から速攻し部屋の奥にいたあの肉だるまの右腕を全力で殴る。

 ゴオッと風が吹いた。

 磔にされた彼女は…今は見ることは出来ないだろうが風は感じただろう。

 あまりの速度に感覚が追い付かない肉だるまが違和感に気づくのもすぐだろう。


「ん…え…あ…あ!!私の腕が!!腕がぁぁぁぁぁぁ!!」


 右腕は壁のシミとなり、男の右手が有ったところからは今でも右腕があるかのようにピュッピューと血が出ている。

 

 「腕1本で喚くな。」

 

 簡単には殺さない。

 むしろ、死ぬことは許さない。

 次はどこを潰そうか…指か?足か?耳か?

 主が来るまでの間、貴様が我の玩具だ。

 

 

 末端であろうとも竜に纏わる一族を弄ぶ奴は絶対に許さない。












― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 









 ハチに任せていた1階はまだ未探索だったので改めて探索を掛けてみるとこれまた新たな発見があった。

 一番奥の部屋に階段、そしてエントランスホールの壁が隠し通路になっているようだ。

 そういえば…と思いハチが玄関をぶっ飛ばした時に刺さったドアを引き抜いてみると、確かに奥に続く廊下が見えた。


「またどこかにあるスイッチを探すのも面倒だし今回は力業で…」


 少し助走を付け、穴めがけてタックルするとレンガの壁がまるで障子を破るかのように抜けられた。

 3匹の子豚も真っ青だな。

 非接触をかければ問題ないじゃないという突っ込みは無しでお願いします。


「隠し通路の先は一際豪勢だけど悪趣味な扉…だけどなんだろうな、酷く陰鬱な空気を感じる…」


 ファンタジー世界に来ているせいか、はたまたこの体のせいで第6感に目覚めたのか背筋に怖気が走る様な気さえした。

 気持ちを落ち着け、扉を押すと思いのほか軽く開いてくれた。

 中に照明は無く、私が明けた隙間からではよく見えないが…マップ上では結構な広さがある。


「『フローティングライト』」


 浮遊する光、名前の通りに自分の頭上に光源を作ってあたりを照らす魔法だ。

 効果が微妙な割に中級に属する為、ハズレ魔法の扱いをされているらしい。


「……まじかよ…!」


 松明とは違い、揺れずに明確に――それこそ蛍光灯のようにはっきりと周りを照らしてくれたからこそこの光景に驚愕した。

 同時に義憤、激昂、激怒…怒りを表す言葉は幾度もあれどもこの"俺"の怒りを正しく表現してくれる言葉を知らない。


 目の前に広がるのは…恐らくコレクション。

 人種よりも亜人種が良く目立つ。

 犬型、猫型、熊型、翼人型…剥製のように扱われ壁に飾られ、シャンデリアにされ…新しいのか大きな瓶に入れられて溶液に浮いているのもある。

 どれも言葉が通じる種族ばかりだ。


「…糞が…!」


 見れば見るほど気分が悪くなる。

 どの遺体も五体満足のものが無い。

 壁に掛けられた犬型は下半身が無く、この悪趣味な部屋に置かれたテーブルを支えているのは4種族の足――細かくは種別出来ないがどれも猫型のような特徴が見られる。

 五体が揃っているかと思えば獅子の顔、熊と思われる体に不釣り合いな猫型の足、毛深く太い腕が付いたキメラのような姿。

 瓶に入れられた物は…体の一部であったり、痛めつけられ、息絶えた直後だろう…直視するのが憚られる。

 おおよそどれも人、亜人としての尊厳を可能な限り壊されたような姿だ。


「…やっと分かった…今回の依頼主はお前たちなんだな…」


 さっき助けた奴隷が依頼主だったら最初から分かっていただろう。

 こんな風に無残に殺され、遺体さえ弄ばれ…この恨みが"俺"を呼んだのだろう。

 しかもこれだけ恨んでも公平な裁きを求めるとは……恨み切れない心優しい人もいたのだろう


『主よ』


『…どうした?』


『目的の奴を見付けた。正直言って嫌いなタイプだ…我慢が効きそうにない』


『こっちも言い逃れできない証拠を見つけた所だ。本当に"俺"も頭に来ているよ……だから殺すな。殺さない程度に痛めつけるのは構わん』


『それで十分だ。こんな事をした報いを思知らせてやる!!』


 ハチがターゲットを見付けたらしい。

 腸が煮えくり返るように熱い。

 これだけ本気で頭に来たのは初めてかもしれない。


「貴方達の遺体は必ず開放します。もう少しだけ待っていてください」


 地下に向かう私の顔はきっとひどく歪んでいるのだろう。

 

 こんなにも「殺してしまいたい」という気持ちを抑えているのだから。


次ぐらいで今回のお仕事は終了予定。

勧善懲悪は書いてて楽しいでござる

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