砂糖談義
「粗茶ですが、どうぞ」
「どうも、頂きます」
ギモンさんの奥さんが入れてくれたお茶は非常に香ばしく、ほうじ茶のようで飲みやすかった。
贈り物はではないけどお茶菓子として羊羹を出させてもらった。
みんなで食べるなら問題無いでしょう?
もう1つ裏技があるけどそれはまた後程に…。
「それでアダム様が私に相談とは…どのようなご用件でしょうか…」
キルスティンさんがめっちゃ身構えているのでとりあえず空気を和ませねばなるまい。
肩ひじ張って緊張しては出るはずの言葉すら詰まってしまう。
「まぁまぁ…このお茶に合うと思われるお菓子を出しましたのでよかったらどうぞ」
「いっただっきまーす!」
「…頂きます」
あれ、マルダさん何今日の主役のキルスティンさんより先に手を付けてるの…
後でちょっとお仕置きします。
「!! あまぁぁぁぁい!」
「む、これは!……確かに甘いがそれだけではない、滑らかな舌触りも素晴らしい…何よりお菓子を食べた後にお茶を飲むことによって少々強すぎると思われた甘味が程よく中和され、最後には口内に仄かな甘みの余韻を残してくれている…」
「口に合ったようで良かったです。私の故郷でよくお茶と一緒に出されるお菓子です」
「これほどの甘味がよく出されるとは…アダム様の故郷は余程、蜜の生産が盛んなのでしょうな」
「そういえば…先ほどマルダに市場でいろいろな甘味を紹介されましたが、蜂蜜を使ったものが主ですが砂糖はあまり使われていないのですか?」
「砂糖…ですか…少量は生産はされていますが、南部のごく限られた地域のみでしか育たない作物という事と王侯貴族や大商人がほぼ独占しているので市場には…」
ふむふむ、という事は自然の甘味である果実や蜂蜜が主になるのも仕方がないし砂糖をふんだんに使った羊羹は言わば甘味のチートになるだろうか。
これも商売の種にはなるだろうが砂糖本体よりも代替物を考えるまでは不用意に出さないようにしようっと。
「ちょっと砂糖の話で主題から外れてしまいましたが、今日訪ねたのはですね…」
私はゴム板を取り出し、テーブルの上に置く。
キルスティンさんの反応は赤い狐行商団の2人と同じようなものだったので割愛させて頂こう。
違ったのはその後の言動だった。
「質感は滑りにくく、柔らかく、弾力に富む…まったく同じというわけではありませんが素材にいくつか心当たりはあります」
いよっ、さすが元ベテラン冒険者!色男!
「入手難度的に簡単なのはグレイラットというネズミ系のモンスターの皮でしょうか。他には滑りにくさに特化するならスパイクボール、一番適していると思うのは……難度は非常に高いですがオークの変異種のギガファットでしょうか」
グレイラットにスパイクアーマー、ギガファットと…メモメモ。
材料は全てアイテムボックス内にあるけども将来的には自分たちで確保できなければ意味がないのでそれぞれのモンスターの特徴も聞いておこう。公式ヘルプにはシステム的な情報は乗っているがモンスターの攻略情報などは乗ってない。
一般的には攻略本wikiを見るのが世の常だからなぁ…。
「グレイラットは経験の浅い冒険者でも相当にヘマをしない限り問題の無い相手です。オース付近にはあまりいませんが南に行くほど出現数も増えます。気を付けるべきは爪と歯でしょうか、毒は持っていませんがなんせネズミなので雑菌による炎症の例が報告されています。」
…なんというかあれだな。
いるよね、得意分野とか好きなことになると饒舌になって早口になる人…。
補足しておくと悪いと言ってる訳ではないからね。
「スパイクボールもそれほど難度は高くありませんが、それほどまとまった群れになっていませんので数の確保は難しいかと…。しかし名前にもなっている通り、コイツの皮は小さな突起を備えており滑り止めとしては一級品かと…最後ですが…」
キルスティンさんが言い淀むという事は条件は適しているけれどもお勧めはしないという事かな。
「最初に難度が高いとお話ししましたが、冒険者でいうところの最低でも緑と赤の複数パーティ、可能なら特色クラスも派遣すべき相手です。そもそも変異種なので出現数も数えるほどしかありません…一番最近で出たのは十数年前でしょうか、発見こそ早かったので被害は奇跡的に少なかったのですがそれでも初動対応にあたったベテラン冒険者が7名ほど死亡、それ以上の数がその時のケガが元で引退しています」
「それほどの相手ですか」
「少々規格外のアダム様には実感が薄いかもしれませんが……特性が物理的な攻撃のほぼ無効化というのは非常に厄介ものを持っている事と巨躯による単純な破壊力は侮れません…死亡者、引退者がほぼ近接での足止めに関わった者達です」
へぇ~…北〇の拳のハート様ってことで把握しておけば良いかな。
あまり冒険者として名を上げすぎて目立つのも避けたいしコイツの材料はしばらく保留ってことにしましょう。
「良くわかりました、現実的なグレイラットをとりあえず目標にします」
「それがよろしいかと、オース近郊にはあまり出現報告は無いので別支部への委託という手もあります。依頼料の他に別途手数料が発生しますが…」
「今は情報が手に入っただけで充分としておきます。それとお礼代わりにこちらを…」
山吹色の菓子…では無いがある意味、金銭よりも喜ばれるかもしれない。
さっきは不用意に~とは言ったがお金にするわけで無し、情報料としてのお礼だ。
アイテムボックスから信仰ポイントを支払い、上白糖を一袋取り出してテキトーな袋に詰めかえてテーブルにトンと置く。
「こちらは…?」
「情報料です。お納めください。」
怪訝な顔をして袋を開けると中身を見たキルスティンさんはパァっと顔を綻ばせた。
砂糖は市場にほぼ出回らないという事だし、お菓子なりお茶なり使い道は沢山…何なら売っても良いかもな。
情報料とは言っても贈り物を売るのはちょっと賛否ありそう。
「こんな白い上等な塩をこんなにも…」
「え?」
私の聞き間違いでなければ塩と言ったように聞こえた。
塩、しお、ソルト…どう聞いても砂糖には聞こえない。
「ちょっと失礼」
料理において砂糖と塩を間違えるというのはお約束とも言える。
漫画なんかでは砂糖の代わりに塩を使ったホットケーキや逆に焼き魚に砂糖を振って台無しなど…といっても最近では小豆に塩を効かせて甘みを引き立てる手法も目立って来ている…という情報は蛇足なので除外して。
まぁ、私が砂糖と塩を間違えて渡した可能性は捨てきれない。
なので袋を開いて一つまみほど手に取り、舐めてみる。
…うん、甘い。
「…間違いなく砂糖ですね。」
「ハッハッハッハッご冗談を、砂糖と言えば黒か茶色でしょう。こんな雪のような白い砂糖がある訳……」
「そ~っすよ。冗談にしたってもう少し子供くらいは騙せるレベルじゃないと―――モガッ
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけマルダの発言にイラッとしたので少しだけ本気を出す。
世界がスローモーションになり色が消える。
腕を伸ばす、砂糖を摘む、マルダの口に突っ込む――この動作を瞬きほどの間に行う。
こんなことで本気を出すことになるとは思わなかったが改めて自分の能力の高さを思い知った。
ちなみに現役緑ランクと元ベテラン冒険者は反応出来なかったらしく無反応だった。
「―――!? 甘っ!」
「――え?」
「甘いでしょう。間違いなく砂糖です」
キルスティンさんががまさか…と呟きながら、ぺろっと舐めて目を見開く。
「なっ…これは!」
「アタシも~……やっぱ甘い!」
「ただ甘さが強いだけではない、雑味が無くスッキリとして後味も爽やかだ…これならば色々な料理に応用できる可能性が…」
いかん、ゴムの話をしに来たのにいつの間にか砂糖談義に移行しつつある。
当初の目的は大体果たせたし…まぁー…いっか。
そう思いながらお茶を啜る。
名古屋は美味しいものいっぱいでした。
きしめん、台湾ラーメン、味噌関係…出張先では足が無いのでスーパーの弁当ですがね…




