【幕間】リリアナの家にて
アダム様が消えてしまってから30分後ぐらいにお母さんが目を覚ました。
「アナ…いる?」
ベッドの脇で二人が目覚めるのをずっと待ってたんだ。
「いるよ」
「お母さんね、不思議と苦しく無いの…もうダメかと思うからよく聞いてね…」
目覚めの会話で遺言とか聞きたくない!
「違うのお母さん!私の話を聞いて!今苦しくないでしょ?手を見て!赤いブツブツも消えたでしょ!?」
私が珍しく語気を荒げ、まくしたてるのに少々驚きながらもろくに膨らんでいない毛布から腕を出して見る。
「あら…発疹が…消えて…」
「お母さんだけじゃない、リールも助かって今は静かに寝てるよ?」
「あらあら…神様が助けてくれたのかもしれないわねぇ…」
お母さんも自分の体調とリールの様子から峠を越えたことを察したのか大きく息を吐きながら目を閉じる。
水差しで少し水を飲ませ、毛布を掛けなおす。
「今はゆっくり寝て休んで…。朝になったらゆっくり話そ?」
「そうね…おやすみなさい…」
やはり体力は戻っていないのかすぐに「すー…すー…」という寝息が聞こえてくる。
「…かもしれないじゃないよ、本当に助けてくれたんだよ…」
その呟きは誰の耳にも入らない。
――――――――――――――――
村の朝は早い。
朝日が顔を出す前、雄鶏が鳴き声を上げる前に起き、身支度を整え家から出る。
燃料事情の乏しい村では明るい時間が非常に重要だ。
いつもなら早々に着替えたら家族の食事や水くみを行うのだが今日は違った。
足早に教会へ行き、祭壇の前に跪き、手を合わせ形だけでも祈りを捧げる。
「アダム様、家族を助けていただきありがとうございます。これからも家族を見守り下さい…」
数分は祈りを捧げただろうか、正式な作法は分からない。
昔、お父さんが言うには「正式な作法や礼儀よりもやろうという姿勢や気持ちが大切」らしい。
よしっ!少なくとも気持ちは込めた!
お母さんとリールの為に栄養のあるご飯作らなきゃ!
畑に残ってる大根と…オートミールがまだ残ってたかなぁ…。
ヤギの乳は…まだ貰えないだろうから我慢しなきゃ。
献立を考えながら家へ急ぐ。
――――――――――――――
畑から大根を収穫し、食べられる野草を少し摘む。
オートミールに入れれば少しは栄養が取れるだろう。
ようやく顔を出しかけた太陽を見ながら家に入るとお母さんが起きていベッドから上半身を起こしていた。
「アナ…昨夜のは夢じゃなかったのね…」
大根やら野草が床に落ちる。
「そう…だよ…ちゃんと助かった…んだよっ!」
お母さんの声を聴いたら自分の中の何かが壊れた。
「ごめんね、大変な時に一人っきりで…がんばったね、ありがとうね。」
私は思いっきり泣いた。お母さんの腰に抱き着きながら。
もう思い返すのも恥ずかしくなるくらいに。
お母さんは腰に抱き着いた私を泣きやむまでずっと優しく撫でてくれていた。
泣いて、泣いてスッキリしたらリールが起きてこちらを見ていた。
「なんで姉ちゃん泣いてるの?」って…後でちょっと泣かすことが私の中で決定した。
「とりあえずご飯作るから食べて、2人には元気になってもらわなきゃ!」
私は10日後、どうなるか分からない。
アダム様が神様…かどうか分からないけど実は悪魔で魂を取られるかもしれない。
2人にはきちんと話しておこう。
――――――――――――――――
やはり胃が受け付けないのか、用意した半分も食べては貰えなかった。
残った分は晩に回そう。
私は完食ですよ?健康ですから。
「まず2人とも、これを飲んで」
アダム様からもらったポーションのうちの1本…の更に2人分に分けた更に半分。
朝晩に2回に分け、2人で1本の計算だ。
それをさらに飲みやすいように白湯で薄めた気の使いようを褒めて欲しい。
「これは…薬湯?」
「そんな感じ、健康に良いって薬草を煎じてみたんだ」
ごめんなさい、嘘を付きました。
でもポーションとかアダム様の事を今言っても信じて貰えないだろうし、まだ完全に回復しないうちに負担を掛けてもまずい。
「良い香り…胸がすっとするよう…」
「僕もこれ好き!」
概ね好評のようで良かった。
「2人はまだ休んでてね、私は畑に行ってくるから」
「ごめんなさいね、アナにばかり負担を掛けて…」
「病人は食べて、寝て、さっさと治す!」
「ふふふ、そうね」
「寝るー!」
笑える余裕があるなら大丈夫だ。
「いってきまーす!」
真相はとりあえず秘めておいて――未来の私よ、あと9日経つ前に頑張って説明するのだ。
読んでいただいてありがとうございます。
ブックマークや評価を頂ければやる気に直結します。
よろしくお願いいたします。