お料理教室
「何だこれ!うめぇ!よく分かんねぇけどうめぇ!」
「姉さん…幾らお客さんの前だからってそんな大げさな……ん!?うまい!!」
はい、予定通りのリアクションを頂けてほっと胸を撫でおろしました。
この反応を見る限り「代金をレシピで」というのも中々に通用しそうだ。
挟み肉――ハンバーガーもどきにちょっとしたアレンジ、と言っても私にとっては普通のハンバーガーに近づけた物を作って提供したのだ。
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(例の3分ほにゃららをテーマソング的な)
アダムさんの簡単お料理教室始まるよー!
はい、初回はオースの名物挟み肉を美味しくアレンジしていこうと思います。
用意する物はこちら!
挟み肉 1ヶ
レタス 適量
トマト 適量
玉ねぎ 適量
チーズ 適量
塩 適量
胡椒 適量
以上となっています。
材料がほぼ適量なあたりが素人感満載ですね。
またどれもオースの市場で手に入りますので再現も容易です。←ここ重要
まずはレタスは水で洗った後に1枚を手で千切り、挟み肉のバンズからちょっとはみ出るぐらいに揃えます。
チーズもレタスと同じくらいの大きさで薄く切り揃えて置きます。
ではトマトソースを作りましょう。
トマト1ヶを湯剥きして細かく刻み、鍋に入れて煮込みます。
焦げ付かないように水分を飛ばしていき、塩と胡椒で味を調えたら完成です。
もっと完成度を高めるのであれば裏漉しなどでもっと滑らかに仕上げる他、オリーブオイルなどを加えても良いでしょうね。
はい、どんどん行きますよー!
次は玉ねぎを細かく刻みまして炒めます。
もうお察しが付くと思いますがこのまま飴色になるまで根気よく炒めます。
おろし金で擦って置けば時短になるのでお勧めします。
水分が飛び、半ペースト状になったら塩、胡椒で味を調えてオニオンソースもどきの完成~。
ここまで出来たら後は組み立てるだけですね。
メトヴェーチさんにはオニオンソースもどきを効かせて肉を倍増させたダブル〇ックのようなボリューム感をアップさせた物を。
エビンさんには逆にレタスとチーズを挟んで、トマトソースで栄養バランスと食感を重視した物を…もちろんチーズは出す直前に炙って蕩けさせるのを忘れずに。
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はい、ここまでがアダムさんの料理教室でした。
あくまで私のような素人が作ったプロトタイプ…本当に売り出すなら料理人に監修を依頼した方が良いとは思うがこの人らなら言わなくても察している筈だ。
「…緑ランクだから腕っぷしもそれなり、飯の腕も良いし何より見目も悪くない…ウチに雇われる気は無いか、アタシのお墨付きで推薦するぜ?」
「マジですか…姉さん、そこまで気に入りましたか」
新しい後ろ盾が出来るのは嬉しいことだが護衛という事は街から街への移動中に限らず拘束時間が増えるだろう。
今以上に救済に使える時間が少なくなるのはデメリットの方が大きいか…。
「非常に嬉しいお誘いではありますが冒険者稼業も意図があってやっている事ですので…」
「あー!ちくしょう、振られちまったかぁ…」
頭を振り大仰なアクションで悔しがる様子を見せられてはちょっと悪い気もするが…。
日本ではヘッドハンティングを受けるなんて極々一部の、それこそ億単位の収入があるような人に限った話だと思う。
世界が違うが打診された事自体は自分が認められた気がして嬉しかった。
そこは偽らざる事実だ。
「本当に惜しいなぁ…あんた程の男なら絶対にコンの奴にもギャフンと言わせてやれたのに…」
「コン?」
「気にしないで下さいな、姉さんのライバルみたいなものです。ウチの別の商団を仕切ってるんですが何かと姉さんと張り合うことが多くて…」
メトヴェーチさんの部下であるエビンさんは上司同士の争いにも巻き込まれることが多いのだろう。
どこか遠い目をして語る姿は接待前の同僚を思い出させる。
確実に言えるのは世の中楽しい仕事ばかりではないということだ。
「しかし分かんねぇな…これだけの旨さならその辺の料理屋でもかなりの額を積むはず。そこまでして素材の情報が欲しいのか?」
「欲しいですね。もう包み隠さずに言えばそれほどお金には困っていませんので」
「はっはっは!商人相手に金には困ってないと来たか!」
「料理店に伝手も何もない冒険者がレシピを持ち込んだって買い叩かれて終わりでしょう。それなら価値を知っている人に高く買い取って貰った方がお得かと」
「違いない!だがこのレシピは金を生む鶏になる。本当にあんな素材の情報と交換でいいのか?」
念を押して確認してくるあたり、価値の相違があるのだろう。
商人としてのコンプライアンスかプライドか、不当な取引に対する警戒感か…思ったよりも公平性を重視しているようだ。
「構いませんよ。金は困っていませんが私にとっては探している素材の情報の方が余程、お金よりも価値のあるものに繋がります」
「……分かった。契約書に記載しよう」
契約書にはしっかりと挟み肉アレンジレシピの権利を赤い狐行商団の財産とする旨と私が欲する情報の調査、報告が記されていた。
ただ口頭で話していたのとは違い、調査期間は無期限かつ調査対象は何度でも変更可能…とあった。
これは…つまりレシピ1つで大陸を渡り歩く情報収集の手段を手に入れた事になる。
「……これは、いいのですか?」
「"無期限かつ変更可能"かい?それこそ対価に見合う内容に変えたまでさ。」
一呼吸置いてメトヴェーチさんが続けてくる。
「考えてもみなよ、レシピは定着すれば一定の割合でずっとウチに利益をもたらしてくれる。それこそ5年いや…10年、下手すりゃもっと長くね。そこから出る利益を考えたら1人の調査料なんざはした金だね」
「姉さんぶっちゃけ過ぎですって…」
「良いんだよ。アタシはこの包み隠さないスタイルでやってきたんだからな」
最初はただの大雑把な人かと思ったが商人で腹芸が出来ない、やらないで今の地位にまで着いたのならそれは彼女の人徳の為せる技だろう。
それならば信用出来る。
「…分かりました。それならば契約しましょう。」
私は契約書にサインをする。
ほら…2人共怪訝な顔で見てる。
それはもちろん、日本語で書いたから…これも近い内に何とかしないと格好がつかない。
「じゃ、報告はギルドの方に定期的に届けさせるとして…支払いは後日ウチの料理人に教えるってことでどうだい?」
「構いません。」
ガッシリと握手をすると返ってくる力強い手応えに取引の成功を確信した。
「これからもご贔屓に、アダムさん!」
「ええ、これからもよろしくお願いします」
契約成立の裏側でエビンさんが「大手柄!大口顧客!ボーナス!!」と密かに、多少大きな声でガッツポーズしているのも追記しておこう。
おまたせしております(定型文




