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行商団


 市場から離れ、通りを幾つか隔てた先に有る木造建築。

 建物自体は周囲を見ると同じ建物が並んでおり団地か集合住宅のような印象を受けた。

 その中の1軒には戸口に対して大き目の看板が掲げられており"赤い狐行商団 オース支部"の文字が見て取れた。


「ようこそ、我らが城へ! 建売なのがちょーっとカッコ悪いが勘弁してくれ」


「それでも支部を置けるのは力を持っている証拠ですから」


「そう言って貰えると有難い。まぁ遠慮なく入ってくれ」


 扉を開けた先はさながら図書館のような理科準備室のような雰囲気と言って理解してもらえるだろうか。

 品物の保護の為か陽の光はほとんど入らず、微かに入った光に埃が舞っているのが見える。

 所せましと並べられた棚には乱雑ではあるが種類毎に分けられた多種多様な物が置かれている。

 一部には何やら目玉の瓶詰め、干からびた腕のような何か…少し不気味に思えてきた。


「すまんね。殆ど倉庫のような扱いなんだ。できれば触れずに…客間は2階にあるから付いてきてくれ」


 木箱、棚を縫うように階段に向かい、2階に上がると今度は机に来客用のテーブルと茶器用の棚に書棚と随分簡素な佇まいだ。


「…お客さんかい?」


「おう、姉さん。新しい顧客になりそうな冒険者様だ」


 亜人…それも熊型系だろうか、年の頃は掴みとれないが何となく30代かもう少し上の空気を纏った豪快な女上司に思えた。

 椅子から立ち上がると…やはり驚かされる。

 人種を軽く上回る身長、力強さを感じさせる体躯に…セクハラと思われるかもしれないが豊満な女性を思わせるフォルムと良く手入れされた艶やかな毛並み。

 ボリュームが違う分、上半身がシャツ1枚というのは犯罪的な威力だ。


「この支部をまとめているメトヴェーチ・ターギだ。以後お見知りおきを」


「これはどうも、アダムといいます。緑ランクではありますが中身はまだ駆け出しの冒険者ですのでお手柔らかにお願いします」


「はっはっは! 謙遜すんなよ、名前はエビンから聞いていたが…身に着けた物と仕草を見ればある程度の人柄は分かる。こんな成りでも1つの支部と何人もの部下を抱えてるからな」


 大柄な体躯に似合わず丁寧な所作と人の見る目…上に立つだけの事はあるようだ。

 熊=大雑把みたいなイメージを勝手に抱いていたがあながち外れても居ないように感じる。


「顔合わせも終わったことだし、お茶を出しましょうかね。姉さんも混ざりますかい?」


「そうだね…書類仕事にも飽きて一息入れたかった所だしご相伴に預かろうかね」


 ははは、身内には気さくに接するところを見せるのは信用させる手の内か、それとも素か…悪い気はしないけどね。






 用意されたのはこの近辺、村長さんやコーウェル公の所でも飲んだことのない紫色のお茶…と思われるものだった。

 

「紫色のお茶とは…初めてです。頂きます」


 初手で相手を毒殺する商人は居ないだろうし、私に毒が効くはずもないのでそのまま口に含む。

 口内に広がる匂いは……ラベンダーだ。

 ポプリやお香からトイレの芳香剤まで幅広く使われる非常にポピュラーなハーブ。

 ラベンダーのアイスクリームは食べたことはあるがお茶は初めてだが…悪くない。


「どうだい?最近ウチで卸し始めた小紫花茶だ。今後の参考に忌憚の無い意見を聞きたいね」


「……私は悪くないとは思いますが中々、好みが分かれそうな味…としておきます」


「はっはっは!やっぱり微妙か!」


 若干、顔に出ていただろうか?

 不味くはないと思っていたけどベテランの商人であれば僅かな顔色の変化でも読み取られてしまうかな。


「やっぱり姉さんの推しは一般受けは難しそうですね…別の路線を探しますか?」


「そうだねぇ…何とかお茶には出来たが手間を掛けても売れなきゃ丸々赤字だしねぇ…っと身内の話は後だ。」


「うっす。アダムさんを連れてきたのは何でも欲しい情報があるとか…こっちも商売なんで貰うものは当然頂くが今回は初回だしサービスするぜ?」


「お手柔らかにお願いします」





 私は村や目的に関することは隠しながらゴムに似た素材を探していることを2人に伝えた。

 付け加えて代替物でも構わないから手に入りやすい物であれば尚良い。


「柔らかいような硬いような、不思議な感触だねぇ……ちょっと癖になりそう」


「製法も出処も不明となると遺跡の遺物…とかですかね…」


「そこまで大層な物じゃないですよ。似通った感触や質感の物で良いんです。例えばモンスターの素材とか植物の表皮とか…」


「用途が詳しく分かれば代替案も出せるとは思うけど、秘密なんだろ?」


「ええ、申し訳ないですが大勢の飯の種になるかもしれませんので…」


「そりゃそうだ。誰だって食い扶持は奪われたくないもんな。それに国法に触れないのなら良いさ。ってことでアタシらに仕事を依頼するってことで良いのか?」


「お願いします」


「そうと決まれば…エビン用意しな」


 ヘイ!と三下のように了解の意を示したエビンさんは書面とペンを用意した。

 議事録か契約書のようなものを作るのだろう。

 紙ではなく羊皮紙っぽい、動物の皮みたいだ。


「では詳細を詰めようか。この場合は調査期間が主になるだろうね。当然長く掛かればその分だけ費用は増える…これは良いね?」


 了解、と頷く。

 これは当たり前の話だな、探偵を雇うにしろレンタカーを借りるにしろ長ければそれだけ費用は増す訳だし。


「と言っても初めてのお客さんだからちょっとサービスと、長く掛かり過ぎて払えないってのも困るからある程度の基準は設けないといけないね。1週間で銀貨20枚でどうだい?」


 銀貨20枚、ざっと換算すれば2万円…結果が出れば御の字だがこの場合は"調査"だから結果が出なくても費用は掛かる訳だよなぁ…。

 向こうの言葉からサービスをしてくれているっぽいが、少しだけ当たってみようか。


「質問させてください。調査で結果が伴わない時…つまり私が要望する物が見つからない場合も掛かる金額は同じですか?」


「そうだねぇ…見つからない場合はウチらがタダ働きって事になるが…それはちょっと困る。希望する物が見つからない場合は最初に提示した金額の半分では?」


 ニッとメトヴェーチさんが笑ったように思えた。

 恐らくだが、彼女らの行商団が依頼を完遂出来ない場合は金以上に信頼を損ねることになる。

 普通の客であれば1度失敗した商人に依頼することは稀だろう。

 銀貨20枚、されど20枚…貴族や豪商、高ランクの冒険者など懐に余裕が有る者は世界の中では少数だ。

 そして金を持っている者にはある程度決まった商社が付いている。

 一口でも小口でも中小企業はどんな手段でも無理難題でも熟さなければ次が無いのは社会が出来ている以上必然なのかなぁ…。


「金額はその条件で構いませんが……別の物での支払いは可能ですか?」


「ん?装備とか素材とか同価値であればある程度は受け付けているよ」


「そうですか、例えば…さっきのお茶の原料になっている花を使った嗜好品の話とか、オース名物の挟み肉の新しいレシピとかに価値はありませんか?」


「……面白そうな話だね。詳しく聞こうか?」


 先ほどのニッと笑った顔はどこへ行ったのやら目の前の熊は口角を吊り上げ、艷やかな前髪に隠れていた目がギラッと光り、獲物を前に舌なめずりする猛獣の顔つきになっていた。

おまたせしております。

次回は異世界に行ったらやってみたいことランキング3位!

「何だこれは!美味い!!」的なことを書きたい…。


※ランキングは常に変動するので気にしないでください。

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