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特産品 その2-2

 公爵邸に出向いた私はさっさと馬車を回収してお暇するつもりだったのだが、ちょっとしたトラブルに見舞われていた。


「アダム様! 何時になったら私とお茶をして頂けるのですか!?」


 コーウェル公の愛娘、メリーベル嬢に熱心に迫られていた。

 以前に助けた事から好感を持って接して貰えているのは非常に嬉しいのだが、今日のメリーベル嬢の笑顔の裏にはなぜか般若…いや阿修羅の姿が感じられた。


「あぁ、うん…申し訳ない。 まだしばらくは村の面倒を見なければなりません。それに助けを求める人も多くて中々時間が取れないのです」


「はぁ……分かって居ります。アダム様はお忙しい身の上…私のような小娘に係わっている時間も惜しいという事ですね…よよよ…」


 マズい。

 ウソ泣きとは分かっているが重要なコネクションの娘の機嫌を損ねたら………コーウェル公自身に大きな借りがあるから大した事にはならないと思うが面倒事の種にはなりえるな。

 仕方ない、ここは折れてメリーベル嬢に付き合うとするか…。


「分かりましたから……そうですね、今から30分ぐらいならお付き合いしましょう」


「本当ですか!? 今すぐ支度させますね♪」


 お淑やかに、しかし足は普段よりも速足で遠くなっていく彼女を見ながら1度くらいは接待と思って受けようと思った。

 向こうの世界では特に女性とデートした経験も無いし…といってもメリーベル嬢はまだ中学生か高校生になるかという年齢だったはず。

 母親譲りの赤い髪と将来を期待させるプロポーションから美少女という名に相応しい風体…いくら好意を持っていても手を出せば事案になるのは目に見えている。

 何よりも、出会って間もない男女がどんな話をすれば良いのか…という未知の問題が私の前に立ちはだかっていた。


「…向こうでも1回ぐらいデートの経験しておくべきだったなぁ…」


 つぶやきは誰にも聞かれることなく、薔薇園のさざめきにかき消されていった。




 杞憂だった。

 いきなり「好みの女性のタイプは!?」と会話の右ストレートを食らったときはお茶を噴き出しそうだったが、空かさずメイドからお咎めを受けてからは普通?の会話となった。


「では、アダム様の故郷では魔法が使えないのですね……不便ではありませんか?」


「不便と感じたことはありませんね、代わりに科学という考え方…いえ、力が代わりに発達しています」


「カガク…」


「例えば…この紅茶を淹れるためのお湯を沸かすときはどうしますか?」


「ええと、ポットを温める…?」


「はい、では具体的にはどう温めますか?」


「貴族であれば大抵はコンロを所持していますのでキッチンで。庶民なら竃とかでしょうか…」


「ではそのコンロの動力源には何が使われていますか?」


「魔力結晶です」


「そこが主に違います。簡単に言えば私の故郷では燃える水というのがありまして、それを使っています」


「まぁ! 水が燃えるのですか?」


「水ではないのですが、私もあまり詳しくは話せないので実物をお見せしましょう」


 ここでメリーベル嬢に化学式や物質の三態について詳しく解説は難しいだろう。

 私も学校の授業でやっただけだし教えるほどの知識は無いしな…。

 アイテムボックスからとある1品を取り出す。


「これは私の故郷では非常に普及している着火装置です。火が出るので取扱には注意してくださいね」


「小さい…そして綺麗……赤い透明な器の中になにか入っていますね…?」


「それが燃える水です。そしてここを押しながら擦ると…」


 スー…シュボッ…と火が出てメリーベル嬢の目にゆらゆらと炎が揺らめく。

 驚きから手を当てているが大きく空いた口が丸見えだ。

 100円ライター1つでも場所によっては値千金、ましてや異世界となればアーティファクトかオーパーツのような存在だろう。


「まぁ…! 火が付きましたわ!」


「これはあくまで一例です。他にも魔力を使わずに部屋を明るくしたり、遠くの人と気軽に話せたりしますね」


「カガクというのは凄いのですね…」


「私からすれば魔力という力1つでここまで応用できるエネルギーのほうが――」


 応接室の扉がコンコンコンとノックと共に開き、執事さんが顔を出した。


「ご歓談中のところ失礼致します。 お嬢様、間もなく稽古のお時間でございます」


「今はアダム様とのお話が優先、稽古はお休みで!」


 一度は漫画やドラマで見たことの有る遊びのためにお稽古を休むという駄々っ子シーン。


「お嬢様…もちろんダメ、でございます」


「ぶーぶー」


「メリーベル嬢、私のために稽古を休むなど以ての外です。もしこれがコーウェル公の耳に入れば私もここに出入りすることが出来なくなるかもしれませんね」


「もうアダム様まで…分かってます。ちょっとした茶目っ気です」


「ははは、いい頃合いですので私もこの辺で失礼しますね」


「アダム様…また、いつかと言わずに明日でも明後日でも構いません。いつでも私は待っております」


「ええ、村のほうが一段落付いたら必ず伺いますよ」


「確かにお約束しました! しましたからねー!」


 言質を取ったとばかりに上機嫌に部屋から退室していった。


「アダム様、お嬢様のお相手をしてくださり誠にありがとうございます」


「約束でしたから」


「旦那様に変わってお礼申し上げます……先日の追加の馬車は裏庭にご用意が出来ております。お好きなようにお持ちください」


「ありがとう。頂いていきます」


 お嬢様の話し相手というちょっとしたサブイベントを挟んで時間を食ってしまった。

 馬車を受け取ってアダム村へ向かおう。


 しかし、未だにアダム村って言い方が馴染まないなぁ…私だけだろうか。

体調が6割…いや5割くらいに戻りました。

だりー仕事やすみてー風邪ひきてーと言いながらなったらなったで健康の有難みを知る。


やっぱ健康が一番ですよね

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