特産品 その1
先日、アダム村でのご意見伺いを行った結果の1つに私の考えていた内容と近いものがあった。
それはずばり交易…物々交換でも良いんだが、とにかくこの村は大陸北部の田舎である程度発展したオースの街からさらに北にある辺境も辺境の土地だ。
つまり、近くにある街で一番近いのがオースだが今のところアダム村に特産品も旨味も無いため、定期便という物すらない。
村長や村のそれなりに戦えるメンバーが1週から2週掛けて村では手に入らない物資を入手しているらしい。
だが、光明が無い訳ではない。
アダム村の特産品を作ればいいのだ。
どこぞの農業系アイドルユニットのように地域の特産品を使った町おこし…とまではいけないだろうが、他の街、村に無い強みがあれば否が応でも需要は生まれる。
その為にはまず馬車を1台入手しない事には始まらない。
培った人間関係とツテはこういう時に使うのだ。
以前にコーウェル公の執事さんより受け取った通信魔法道具を起動させる。
ジジッと少しノイズが入ったと思ったらマイク代わりの宝珠から向こうの声が聞こえてくる。
『はい、こちらコーウェル公爵家執事でございます』
「どうも執事さん、アダムです」
『これはアダム様ご機嫌麗しゅう…本日はどのようなご用件でしょうか』
「馬車を1台売って欲しいのです。豪華なものでなく、ごく一般市民が使うレベルの物を」
『畏まりました。どちらへ運べばよろしいでしょう』
「そちらの裏庭に置いてくれれば後で取りに行きます。代金もその時に」
『承りました。1時間ほどでご用意致します』
私の目論見はこうだ。
以前、オースの街で冒険者ギルドの支部長――ギモンさんと馬車に乗った時の乗り心地の悪さだ。
まだサスペンションというものが開発されていないこの世ではあのガタツキが当たり前なのだろうが、改善しない事と話は別だ。
幸いアダム村にはビルドという鍛冶に秀でた者もいるし、材料に困ることも無い。
何よりもまずはやってみることが大事だ。
トライアンドエラーに勝る進捗方法は無し。
予定通りちょっと早かったが公爵家に出向くと裏庭に1台のそれなりに年季の入った馬車が用意されていた。
支部長と乗った時の豪勢さは無く飾りも最低限の仕上げのみだ。
実験に用いるには可もなく不可もなくといったところだろう。
「うん、これなら最悪使い物にならなくても問題ない程度のレベルだな」
「お気に召されたようで何よりでございます」
「代金はいかほど?」
「お気持ちだけで結構でございます」
…これまた難題だ。
コーウェル公には結構な恩を売っているつもりだがこれは一応商談だ。
安すぎれば恩を笠に着る形になり、高すぎればさらなる恩を上乗せすることになる。
「公爵にはお金よりも得難い物のほうが喜ばれると思うのからこちらと交換でどうだろうか?」
一国の公爵ともなれば資産は莫大な物だ。
それはこの邸宅の大きさ、手入れが行き届いた薔薇園、室内の調度品からも財産の規模が伺える。
だから金持ちにはした金を送ってもあまり意味は無い。
それ故に私が提示したのは低レベルの魔法効果が付いたアクセサリーだ。
これなら奥さんや娘に渡ったとしても変ではないし、売ったとしてもそれなりの価値がある。
「拝見致します。 ……素早さが向上するピアスとお見受けしました。 価値としてはこれ1つでこの度用意した馬車5台でもお釣りが来ると思われますが…?」
「…それでは後日取りに来ますのであと2、3台用意してください」
「畏まりました」
やはり軽い効果であっても魔法効果の付いた装備の値段はどこか異常なレベルだ。
信頼できる関係でもない限りは気軽に下賜するのも控えたほうが良いかもしれないな。
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アダム村にある唯一の鍛冶屋、名前はまだ無い。
中からはカァーンカァーンとリズミカルな金属音が響いているという事は中では絶賛作業中だろう。
「ビルドーいるかー?」
それほど広くも無い鍛冶小屋だからドアを開ければ居るか居ないかぐらいはすぐに分かる。
声を掛けるのはあくまで礼儀の一環だ。
返答が無いという事は鍛冶の音に阻まれて聞こえないと判断し、ドアを開けるとモワッと物凄い熱気が飛び出してくる。
耐性のお陰で実際に熱さを感じるわけではないが真っ赤に燃えた炉の傍で汗だくで鉄を叩くビルドの姿を見ると嫌でも汗が滲んでくる気がする。
一心不乱に真っ赤になった棒を叩き、平たく伸ばしてまた炉に突っ込み赤熱化させ、叩く。
延々と同じ作業を繰り返すと徐々に只の棒が板、そして板から薄いひし形になり剣の姿が見え始める。
かなり根気と体力が必要な事は目に見える。
30分か、1時間だろうか目途がついたのかビルドが大きく息を吐き、出来上がった剣の中途品を壁に立てかけると長時間酷使した体に伸びを与えている。
「ん゛…ん゛あ゛ぁぁぁぁぁぁ~」
「鍛冶仕事は順調なようだな」
「ん? アダム様じゃねぇか。いつからそこに!?」
「今手掛けていた剣を叩いて伸ばしている辺りからかな」
「あちゃー…それじゃ結構な間待っていたって事じゃねぇか…声を掛けてくれりゃいいのに」
「職人の仕事に水を差すようなつもりは無い…と、ちょっとだけ時間はあるか?」
「仕事のキリはいいとこだから構わんぞ」
ならば馬車改造の話を進めるとしよう。
アイテムボックスにしまった馬車を取り出す。
何もない空間から馬車が現れる姿は正にどこからかワープをしてきたようなSF感を感じる…ここはファンタジーだろ!というのは無粋だろう。
「馬車か?」
「馬車だ。 この馬車を見てどう思う?」
「外装、内装は一般レベル、車輪も樫じゃ無しにこれといった魔法効果もあるようには見えん…ごく普通の馬車だな」
「確かにこれはごく普通の馬車だ」
「ワシにこれをどうしろと言うのだ?」
「これを改造して乗り心地を良くしたい。そしてこれをこの村の産業に出来ないかと思ってな」
「乗り心地か…何かしら案があるんじゃろ?」
「もちろんある、イメージだけ伝えるからそれを実用段階まで練り上げて欲しい」
私は木の枝で地面に簡単な絵を書いていく。
イメージしたものは"板ばね"だ。
本当は車やバイクのサスペンションのようなものを考えていたが構造を良く知らないし、それを言葉だけで再現しろというのは余りに無茶ぶりが過ぎる。
板ばねなら柔軟性のある金属の板を張り合わせて成形すれば…とそれも簡単な事では無いが鍛冶に精通した土精種なら可能では?と思ったのだ。
「硬い金属でなく柔軟性のある金属か……柔らかすぎると変形して戻らんし硬すぎると無意味になる…主となる材質を変えて配合率で……」
職人モードに入ったのか自分の経験と頭の中にある材料のデータを掛け合わせてサンプルを構想しているのか、口からはあれこれとアイデアが漏れ出している。
一口に金属と言っても鉄、アルミニウムと言っても配合率が違うものがそれぞれ数種ある。
何処にどの材料を使うかで性能は大きく変わってくるのでここは職人の腕の見せ所だろう。
悪く言えば出来る人に丸投げだがここは適材適所という言葉で自己を擁護しておく。
「出来そうか?」
「…うむ…うむ…実験にちょいと時間がかかりそうじゃが…まぁ、やってみるわい!」
「これが上手く軌道にのれば前に出した以外の素材もプレゼントしよう」
「何!? ミスリル以上の素材もあるのか!!!?」
「そこは結果次第だ」
「ぬぅおぉぉぉぉぉぉ! 俄然やる気が出たぞ! 楽しみに待っておれよ!!」
ビルドは鼻息を荒くして鍛冶小屋に飛び込むと炉に火を入れ始めたのか、煙突から出ていた細い煙はもうもうと太く変わっていった。
やる気を出すための餌が思った以上に効果を発揮したがあまり熱中しすぎて倒れられても困るしメイド3人にちょくちょく様子見を頼んでおかなきゃな。
ちなみに市場ではミスリル以上の素材に出会った事は無い。
ダマスカス、オリハルコン、アダマンタイト、ヒヒイロカネ…とまるで普通のゲームのようにファンタジーな金属が多種揃っている。
ミスリルですら高級な部類であればそれより上は伝説とか遺物とか…何にせよ市場破壊かバランスブレイカーになりかねないから渡すにしても少量に止めておこう…。
余談だが、私が信仰を集める為に渡している神像がヒヒイロカネで出来ていることを知る者は"今のところ"誰もいない。
もっと出したいキャラはいるのに生産系が出張ってしまう…!
あ、評価やブックマークありがとうございます。
新規の方もどんどん評価してくれるとやるきがモリモリします。
2018/4/25
指摘された誤字を治しました。




