【幕間】初めての仕事を終えて
管理者の間に私が現れる。
目を開けるとそこには広がる青空(2度目)。
ほんの数十分?1時間?程度だが疲労感というか気苦労というのだろうか。
「あー…本気でロールプレイするのって疲れるもんだなぁ。」
話してみると『人』と会話することと何ら遜色なく感じた。
それに村八分のような人間の黒い部分…少しプレイしただけで何となく分かってしまう。
人間でも差別が起きる、ともすれば多数の種族が存在する世界ではなおさら顕著だろう。
おそらく奴隷や拷問、権力者による横暴など数多くの問題が山積しているはずだ。
それに、インストールのお陰か演じる事自体は苦ではなかったが、まるで自分が全知全能の神様みたいで正直気持ちが悪い。
常に尊大なキャラをイメージしていないとどこかでボロを出しそうだ。
神様キャラを止めて、もっと素の自分に管理者キャラではダメだろうか。
「うんうん、いろいろ思うことはあるだろうがとりあえずは初仕事お疲れ様。」
考え事をしていたのが顔に出ていただろうか…もしかして自分で思っていないだけで顔に出やすい体質?
「あ、はい、お疲れ様でした…あの…「ストーップ!」
発言が遮られる。
「まずはログアウト、それから少し話をしようか。」
「…分かりました。」
玉座に座り、メニューを開きログアウトを選択。
眠くなるような感覚を覚え目を閉じる。
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ピピッと耳元で電子音がなり、目を開けると『エッグ』の中だった。
『エッグ』を開き、外へ出る。
「今度こそお疲れ様だね。」
「正直、本当に疲れました…」
思ったよりも体が重く感じる。
学生の頃はPCの前に一晩中座りっぱなしでも問題なかったはずだ。
流石に10代と20代では疲れ具合が違うということか。
「それもそのはずだ、時計を見てごらん君が来社したのが18時ちょっと手前、いろいろと説明してログインしたのが18時半…では今の時間は?」
腕時計を確認―――23時を過ぎている!?
「体感としては…長く見ても1時間から2時間ないぐらいだと思ってました…。」
体感では2時間とみても実際は5時間弱。この差は大きすぎる。
「実際に向こうに居たは2時間無いぐらいだよ、向こうとこちらの行き来に多少の準備時間が必要なのさ。データの転送時間とでも思ってよ。」
回線なのか、人間のデータ量なのか…あれだけの自由度と複雑さを持った世界なのだからと素直に納得出来る。
「ログアウトの時に眠気を感じなかった?」
「そうですね、眠気を感じて目を閉じて…気づいたら『エッグ』でした。」
「データ転送は当事者に負担が掛かるからね、軽い麻酔みたいなものをかけてるのさ。予想より負荷が強いのか、それが体に表れてるのかもねぇ。」
つまり通常の勤務の前後に移動時間みたいなものが付くという事だろう。
「今日はこれくらいで、また明日来てよ。」
「すみません、こんな時間までお付き合いさせてしまって…」
「大丈夫だよ、ボクの本業はむしろこれからさ。」
まもなく日付が変わるというのにこれから?
…これはブラックの香りがする。
「おほん、今ブラック企業じゃない?とか思ったでしょ?」
やば、また顔に出ていたかな。
「安心してくれていいよ、ちゃんとウチに就職すれば残業代は出すし有給もある。忙しいのは出荷前とか追い込みの時期だけだよ♪」
「はぁ、分かりました…あぁ!1点だけいいですか?」
「1点と言わず2点でも3点でも良いよ?」
「…1点だけで、今日助けた案件なんですが成り行きで10日後ってしましたけど、現実時間でも10日ですか?」
そうだね、と短く返す。
「仮に、私が就職しなかった場合…この約束はどうなるんでしょうか。」
「ん~ボクが代わりに履行するか、誰かにお願いするだろうね。」
ほっ…と一息、さすがにAIだから無視しても良い…なんて言われた日には今日でおさらばしていただろう。
「あの世界はね、ボクの…そうだな、『子供』と言っても良いね。子供との約束を無下にするような大人にはなってないつもりだよ。」
ま、こっちの子供にかまけたせいか子供どころか彼女すらいないけどねーはははーと軽口を繋げる。
「とりあえず一安心しました…ではまた明日の18時頃にお伺いします。」
「は~い、お疲れちゃ~ん」
ヒラヒラと手を振る社長に会釈しながら会社を出る。
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会話が消えたオフィスに着信の音が響く。
「…もしもし、私です。はい、えぇそうです。何とか納期までに管理者の目途は付けました。今日が初めてでしたが中々使えそうでした。」
子供のような半分ふざけた様な口調は消え、ビジネスマン然とした口調だ。
「大丈夫です。気になってはいるようですが核心にたどり着くのはまだ…はい、はい…」
黒幕のような会話はもう少し続きいてゆく。
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