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人の皮を被った獣 その2

 今回の依頼主だったフォレストウルフのアルビノ種――グレイに導かれるまま樹海の中を進むこと20分、私達は周りが見渡せるようなちょっとした崖の上にたどり着いた。


「目的地はここか?」


『"ここから見える"と言っている』


 今回通訳として召喚したフェンリルは図体が大きく、白銀皇狼という名に相応しい輝きを放つ白銀の毛並みが樹海では何とも目立つので後方に下がってもらった。

 身を潜めつつ崖から下を見ると…樹海の中に小さくではあるがポッカリと穴が空き、そこに――居た。


「話通り、人種が2人に亜人が1人…身なりからすると冒険者らしいな…」


「見た感じではあの狼の子供の姿は見えんな?」


「そうだな…隠しているのか…もしくはもう…」


 クゥゥゥゥン…とグレイの悲しげな鼻声が耳に届く。

 先程までの気勢は失われているのを見ると通訳せずとも言わんとすることは掴める。

 恐らく間に合わなかったのでは無いだろうか…

 


 ギャァン!!



 鳴き声が森に木霊した。

 グレイの垂れていた耳がピンと立ち、静止する間もなく崖を下っていった。


「あっ、おい! チッ…!」


 聞こえた鳴き声…いや悲鳴は多分グレイの子供のものだろう。

 フェンリル――面倒だからハチ同様にシロでいいかな、シロも後ろから『子供の声だった』と補足してくれる。


「なら…助けない訳にはいかないな!」


 グレイの後を追い崖を下る。

 垂直近いが足がかりとなるものはそこかしこに見える。

 グレイもぴょんぴょんと岩の出っ張りや途中に生えた樹木を使って降りている。

 元よりこんな天然アスレチック環境の弱肉強食の世界で生きているモンスターだ、この程度の事は日常茶飯事なのだろう。

 事も無さげに着地すると上からみた空白のポイントに向けて走り出している。

 私も着地すると目の前に2つの落下物が落ちてきた。


「この程度の段差など飛び降りれば良いものを…」


『だな』


 そうでしたね、律儀に倣う必要はありませんでしたね。

 細かい事にツッコミを入れてる場合じゃない、急がなきゃ。







「む?最後の1頭を捌こうとしたら思わぬ客人だ」


「獲物が向こうから来るなんてツイてるねぇ」


「思わぬボーナス…いえ親子共々に送るってあげるのも慈悲でしょう」


ウ゛ウ゛ゥゥゥゥゥ…!!


キャンキャン!


 子供を目の前にしたグレイが冒険者達へ襲いかかる。

 グレイが放った魔法だろう、空中にいくつかの氷の矢が生まれて冒険者目掛けて襲いかかる。

 迎え撃つ冒険者もそれなりの手練らしくしっかりとした役割分担で対応している。


「予定通りにいくぞ、支援頼む」


「"レジストアイス"!"ディフェンスアップ"!」


「牽制も予定通りっと…!」


 犬型亜人が大盾で魔法を防御し、後ろから矢と魔法の火球がグレイ目掛けて飛んでくる。

 こちらも負けておらず軽やかな足取りで矢を躱し、魔法には魔法をぶつけて対抗している。


「魔法で相殺するなどモンスター如きが賢しい…」


「侮るなよ、しくじればこっちの連携が瓦解する」


「理解しています。"スピードアップ"!」


 補助魔法が掛けられると形勢が徐々に傾いてくる。

 ただでさえ手数ではグレイが1手…いや2手足りない為、この自力の変化は大きい。

 矢によって逃げ場を制限されて魔法の相殺が追いつかなくなり体に1つ、2つと火球による焦げ跡がついて行く。

 決定打にはならないのかそれでもグレイの足並みはしっかりしている。

 …だが形勢は変わらず、グレイのジリ貧であることは目に見えて明らかだ。

 それ故に冒険者たちは決して無理せず、同じ戦術を繰り返している。


 幾度、火球を受けただろうか白に近い灰の毛並みは黒く煤に塗れ、数本刺さった矢が痛々しい。

 徐々に足が鈍り、タンク役の接近を許してしまう。


「貰ったッ!」


 ギャン!と悲鳴を上げ、胴にメイスを受け数メートル程転がる。

 土に塗れ、足を震わせて立ち上がるグレイの目にはまだ戦意がある。

 だが今のままでは未来はない。


「流石にしぶとい……だが決定打は与えた」


「最後まで気を抜くなよ、最後の一噛みで死んだら笑えねぇ」


ウゥゥ…ゥゥゥ…


 満身創痍になってもまだ助けることを捨てていない。





「やっと見つけた……ってほんの数分でなんでそんなに傷だらけなんだよ」


 私が見つけたグレイは見つけた時と同様に傷ついた姿だった。

 冒険者も新たな存在に警戒感を示している…いきなり攻撃されないだけマシだな。


「何だてめぇ…同業か? モンスターか?」


「どちらでもない…が、強いていうなら弱者の味方だ」


「はぁ?この場に弱者なんていねーぞ?」


「いるではないか…3人で寄ってたかって虐めている相手が」


「……どこの馬鹿か知らんがモンスターの味方をするという事の意味を分かっての発言だな?」


「分かっている。だがその上での提案だ…もし君たちさえ良ければこの獲物と…後ろにいる子供を私に譲ってほしい。もちろん対価は払う」


「人の獲物を金で横取りとは無粋な…!」


「ガント押さえて下さい。その人の素性はともかく悪い提案では無いでしょう。ですが私たちもここまで来るのにそれなりの時間と経費を掛けています…とりあえず金貨100枚でどうですか?」


「シェスタお前wwww吹っ掛けすぎwwww」


 タンク役の犬型亜人がガント、奥に控えた魔法士がシェスタ…弓使いは不明のままっと。

 素性も冒険者でほぼ間違いないだろう、耳に付けた緑の宝石が付いたピアスが2人にシェスタは赤色のピアス…おそらくは赤ランクだ。

 しかもそれなりに経験を積んでいるからだろうか、会話で軽口は飛ばしているが誰一人構えを解いていない。

 金で解決できるならその方が楽だし無駄な殺生をせずに済む。


「…分かった。払おう。」


「はぁ?」

「マジかwww」

「…」


 アイテムボックスから小さめの革袋に金貨を入れ、投げる。

 革袋はタンク役の後ろ、丁度シェスタの前にドチャッと重そうな音を立てて落下した。


「中身を確認します。皆さんはそのままで」


 革袋の中を覗きこみ、数枚を手に取る。

 重さを比べ、歯で齧り、彫り込まれた模様を確認し…と念には念を入れている。

 それも道理だ…私だってジャングルの中に金塊や札束を持ち歩いている奴からそれを受け取れば本物かどうか確認するだろう。


「……本物…ですね」

「ふぁーwww」

「……」


「では合意という事でよろしいかな?」


「まさか、本当に金貨100枚出るとは思いませんでしたが…あの獲物は貴方に譲りましょう」


 構えが解かれ前衛を貼っていたガントが顎でくいっと「行け」と促してくる。

 テントの脇には子犬…グレイの子供だから狼なのだろうが幼い姿ではまるでハスキーの子犬だ。

 首に巻かれた鎖を引きちぎるとグレイの元に走り出しキュンキュンと甘えている。

 この周辺で捉えられていた子供は先ほどの1匹のみ…見上げるとテントから周囲の木に張られた紐に大小2つの……少し血に塗れた毛皮が吊るしてあった。

 最悪の結果ではないが最善でもないしこれはベターな結果とも言い難いだろう。

 「最悪の結果だけは免れた」と思わないと通訳としてフェンリルを召喚したり、状況を確認していたが為に初動が遅れてしまった自分を擁護できそうにない。

 世の中には常に最高の結果を残せることは少ない。

 むしろ、妥協すべき事柄で溢れているがこれもその1つとする事は…今の自分ではできそうにない。


「私が追いつくまでよく耐えたな、今癒してやるから」


 グレイの体にポーションを掛けてやる。 

 粘度の高い液体が染み込むと体の震えが止まり、刺さっていた矢が抜け落ちる。

 子供の方にもグレイに掛けた残りの1/4ほどを掛けてやると匂いを嗅いだり、元気になったのか尻尾を負いぐるぐると回る姿がとても微笑ましい。


「体の方は問題なさそうだな」


 短く1度だけウォン!と吠えると親子でお座りしている。


「それでは私たちはこれで失礼させて貰います」


「まぁまぁ…少しお待ちください。」


 そう言ってシェスタが満面の笑みで私を呼び止めた。

消える前の半分ぐらい書き戻したのでとりあえずUP

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