人の皮を被った獣 その1
今日は久々の救済メールでの出動となった。
場所は今まで来たことが無い森の中…マップを拡大すると王都から見て数百キロは南にある大樹海の中だった。
こんなジャングルのような熱帯のど真ん中に誰が居るのだと思ったら『人』では無かった。
獣人系ですらなく、私を呼んだと思われるのは目の前の今にも息絶えそうな1匹の狼。
体には矢が数本刺さったままになっていて体のあちこちには血の塊がこびり付いている。
本来は白に近い色の毛並みだったのだろうが血、泥、埃により錆び鉄のような色合いになっていて何とも忍びない。
狼は私の存在に気づくと微かな唸り声を上げ、敵意を見せてくる。
しかし、風前の灯火の命では体を起こすことも出来ずに視線と牙を若干覗かせるだけに留まった。
「私の言葉が分かるか?」
ウウゥゥ…とYESともNOとも分からない呻き。
そもそも言葉が分からなければYESのNOも判断が付かない訳だが…
「ハチ、通訳できるか?」
「下級とはいえ同種なら出来るが種族が違えば難しいぞ」
「なら通訳できそうな心当たりは?」
「我と同レベルでいうなら…シロの奴が適任かもしれん」
「…正しい名称で頼む」
「んむぅ…長いこと正しい名前で読んだ記憶が無いのでな…確か…白と狼が入っていたと思うが…」
検索条件はハチと同じ最高ランクの召喚獣で『白』と『狼』が入る名前の奴は…該当するのは1匹だけ。
"白銀皇狼フェンリル" 北欧神話に登場する神々に敵対する大きな狼だ。
近年は神話での話よりゲームなどに登場することも多く名前だけなら誰でも知っているメジャーなモンスターの代表格だ。
「白銀皇狼…ってやつで合っているか?」
「そうだそうだ!そんな名前だったな!」
依頼人と思われる狼は瀕死の状態だ。
確認するにしろ癒すにしろ手早く進めないと手遅れになってしまう。
「『召喚』…来い!白銀皇狼フェンリル!」
ハチを召喚した時のような魔法陣が展開し薄暗い樹海の中に稲光を放つ。
魔法陣からにじみ出た光は横長に伸びていき、全長6メートルほどの四足獣の形を形成していった。
光が収まるとそこに現れたのは名前に負けない…いや、名前に勝るほどのプラチナを想像させるような耀きの毛並みだ。
足に見える鋭い爪はきっと想像を絶するような切れ味だろうし、口から覗く犬歯は狂暴な野生を感じさせる。
ライオンの前に立ったことは無いが確実に言えることはこのフェンリルを前にすれば百獣の王も子猫に成り下がるだろう。
何より…尻尾がもっふもふなのが高ポイントだ!
『貴様か…このフェンリル様を呼び出したのは…』
「おー、シロちゃん久しいな!」
『何だ貴様は馴れ馴れし…ん…? この気配は………それにその呼び方はもしやアカか!?』
「そうだ! まさかこちらの世界でまみえることになるとは思わなかったぞ」
『それはこちらも同じだ。呼ばれて行ったと思ったら音沙汰無しで…たまには帰ってみんなに土産話でもしてやれ』
「…久々の再開に会話が弾んでいるところ悪いがこちらも急ぎの案件だ。雑談なら後で頼む」
「そうだった、シロちゃんまた後でな」
『お、おう……して、召喚者よ…俺に何を望む?』
「通訳を頼む」
『…?』
「そこに傷ついた狼がいるだろう、要件を聞くために通訳してくれ」
『最強クラスの神獣である俺を呼び出して通訳?本気か貴様…』
「急いでるって言ってるだろ…出来ない帰れ、やるならさっさとやれ…!!」
『わ、分かったやるよ…』
相手は死にかけているのにうだうだやっている暇はない。
いけない、焦りにかまけて冷静さを失っては判断を間違える事にも繋がりかねない…焦らずに急がねば…。
ものすごくデカい狼――フェンリルが傷つき、倒れた狼に鼻を近づけウォゥウ、ウゥと会話をしているようだ。
弱っていた狼もフェンリルの出現に耳を畳んでいたが敵ではないと理解したのかか細い声だがウゥゥ…と返してるようだ。
『んー…"お前たちは何だ"だと』
「私はアダム、助けを呼ぶ声に応じて参上した管理者だ」
『"私はもう長くない、助けて貰えるのなら子供たちを助けてくれ"』
「お前が依頼者であることは分かった。であればまずはそちらから救おう」
私はアイテムボックスから上級回復ポーションを取り出し、狼に一声掛けてから体に垂らしていく。
「これは傷を癒す薬だ、傷も痛みもじきに消えるだろう」
毛で覆われているので実際のケガの部位は見えないが血が固まっている部分がそうだろう。
ポーションの粘度が高い液体がどろりと体毛に触れるとその粘液質が嘘のように体に溶け込んでいく。
体に刺さった矢が押し出されるように抜け、痛みも消えているのか狼の顔が心なしか穏やかになっている。
これで当面の命の危機は去ったと思うが本題はこれからだ。
"子供たちを助けてくれ"の詳細な話を聞かなければいけない。
『なぁ…アカ、お前もこんな扱いをされているのか?』
「似たような事はあったが我は我で中々楽しい日々を過ごしているぞ」
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狼の正体はフォレストウルフ…通称は森林狼というモンスターであり、本来は緑と黒の迷彩のような色合いをしているのだが亜種のアルビノ種であるホワイトフォレストウルフという希少な種族とのこと。
通常はは10匹程度の群れで行動する種なのだがアルビノは群れから追い出される事が多く、数少ない同じアルビノ種と番いになり細々と生き延びていたらしい。
運よく番になることが出来たこの依頼主…色合いからグレイと仮称する――グレイは同じアルビノと番になり、子供を4匹ほど産んだらしい……雌でした。
フォレストウルフは集団戦に特化したモンスターだが亜種になると生態そのものが変化するらしい。
魔法に関しての適性を持ち単体でも結構な戦闘力を持っている為、大抵の亜種、アルビノ種、変異種などは通常の個体より1ランクか2ランク上の扱いにされる。
そして亜種は生息数が少ない為、その素材は例外なく高値で取引される。
ここまで言えばもう予想できる。
そう、グレイの子供たちは捕まったか……殺されたかのどちらか、ということだ。
『"相手は人種2人に犬型亜人1人、戦っている間に子供たち攫われた"』
「その相手の場所は分かるか?」
『"奴らの臭いも子供の匂いもまだ分かる"』
「なら今すぐにでも助けに行こう」
通訳を介してだが獣系のモンスターであれ、結構な知能を有している事が分かった。
以前の金剛龍のような高位でなくても意思疎通は出来るのなら…明確に敵対しない限りの殺生は控えたほうがいいかもしれない…。
既にダッシュボアやゴブリン…ゴブリンは非道ゆえの殺傷だからいいかな。
ポーションによって傷が癒えたグレイは今度こそ子供たちを…!と、ある方角を見据え大きな遠吠えを一つ上げた。
相手は3人…状況から察するに冒険者である可能性が高い。
仮の姿とはいえ"冒険者アダム"の姿がバレるのは不味いので…はい、いつもの建御雷神シリーズ。
なるべく話し合いによる解決が望ましいが場合によっては……。
「出来れば殺すのは避けたいんだよなぁ…」
走り出したグレイを追うためにフェンリルの背中に乗り、「頼むぞ」と一声かけるとギュンと猛烈な加速で森の中を駆けだす。
ハチも置いて行かれまいと全速力で付いてきている。
木々を避け、谷を飛び、岩を乗り越える天然のアスレチックコースをジェットコースターの機動で走るような爽快感。
これ、耐性なかったら5分と経たず酔う自身あるなぁ…。
4/16追記
おまたせしております。
日曜日に書いた原稿が消えたので明日くらいに次を上げたいと思います…




