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新生ゴレちゃん/脱カジテツエルフ

 普段、怒りをあらわにしない人が怒ると怖いのはどこでも一緒だ。

 部屋の片づけを終えたエミエはテーブルに突っ伏し軟体動物のように「うあ゛ー」と溶けている。

 あの荒れようを見るに普段から片づけはやらな…控えめな方なのだろう。


「何はともあれお疲れ様、エミエ」


「うう~~そう思ったなら助けてくれてもいいじゃないですか…」


「自分で散らかしたなら自分で片づける…常識です」


「うう~!!」


「…家主としても綺麗になったのは喜ばしい事です」


 正論と恩ほど返しにくい物は無いが蛇足はこのぐらいにしておいて…


「今日来たのはゴーレムの様子を見に――「私のゴレちゃんマークⅡアダム様エディションの話ですか!」


 テーブルに突っ伏していた幽鬼から一転、獲物を見つけた肉食獣のような反応。

 デジャヴを感じるのは私だけだろうか。


「語りたいことは山ほどあるのですが、何からにしましょうか!やはりアダム様から頂いた魔力結晶の精製結果でしょうかね。それともアダム様を模した造形ですか?スペックに関しても押さえて置きたいところですが――」


「分かった分かった…順番に聞くから…」


「おほん…ではお教えしましょう、私の最高傑作であり愛しの愛機…ゴレちゃんマークⅡアダム様エディション…長いので略称はゴレちゃんのままで行きます。」


 あぁ…マークⅡじゃないのか、同じ略称ならファーストかマークⅡかZかZZかνかVか分からないじゃないか。


「最初はコアとなっている魔力結晶からですね。ファーストゴレちゃんは拳くらいの魔力結晶を元にしていましたが、アダム様から頂いた結晶の大きさはその二回り増し…大きさに比例し変換される魔力の効率はけた違いで大ざっぱでも4倍はあります。」


「それは純粋に前の4倍強い…という事か?」


「残念ながら違います…そう簡単ではないのがゴーレム製作の楽しさでもあるのですがその調整をどれだけ―――あぁ、脱線しましたが出力に余裕が出来たのでいろいろと出来ることが増えました。

腕力が約1.5倍、速度が約2倍、強度が約1.3倍…このスペックは序の口で一番大きな能力は"思考力"です。」


 村を襲ったデモンゴーレムの段階でレベル48だった。

 こちらの世界で今の所、戦った中でこのレベルを超える者は居なかった。

 レベルの差がそのまま強さという訳ではないがレベルの高さはそのまま強さの下地になる。

 それに障壁の指輪の加護を貫通する攻撃もゴレちゃんだけだった。

 あの強さが純粋に向上するのだからそう簡単に倒されることも無いだろう…が少々過剰に感じる事が無い訳でも無い。


「思考力…となればゴーレムが自分で考えるのか?」


「はい。ゴーレムのコアに思考用の刻印を刻むことによってゴーレム自身が自分の判断で動くことが可能になるんです!」


 つまりはAIのようなものか。


「少し疑問を挟ませてほしい。その思考によってゴーレムが周りに危害を加える可能性は無いのか?」


「流石アダム様、慧眼ですね。もちろんこの技術が出来たころには数件の事故がありました…ですが!所有者への絶対服従を始めとして、この村での運用を前提に村民に傷を付けない等の制約も組み込んでいます!」


 ロボット三原則みたいな誓約も可能なのか、思ったより現代日本のロボットよりも簡単に開発出来ているのはエミエの能力ゆえか。

 

「なるほど、どうぞ続けて」


「はい、この思考能力は成長も兼ねています。成長すればするほど複雑な命令も理解し、最終的には命令しなくても動けるまでになるでしょう!」


「それは凄い…この村を襲った――っと失敬…あのゴーレムが村の守りになればこれほど強い味方もいないでしょうな」


「自分で考えられる最終段階に至るまでは何年かかるか現状では不明ですが…現段階でも命令があればこのあたりのモンスター相手なら余裕で倒すことが出来ます!」


 アダム村の周りはレベル10から高くて20ぐらいの獣系モンスターが多く生息しているのは確認している。

 ファーストゴレちゃんでも余裕っぽいがもっと強くなるなら夜間の防衛にも回せるし、実際に効果が出れば作ったエミエに対する村人の意識も変わるだろう。


「……稼働予定はいつからだ?」


「今からでも! と言いたいところですが……」


「…言いたいところですが?」


「まだ外観に満足がいかなくて…」


 性能じゃなく外観かよ!

 いや、確かに見た目のカッコよさは重要なのは分かる。

 村を守るなら私の姿をモチーフにした騎士のような恰好が望ましいだろう。

 これが真っ黒な禍々しい格好のゴーレムが守る村なら邪教の巣窟とかあらぬ疑いが掛かる可能性もありえる…かな?


「あぁ……まぁ、外観はほどほどにしておいてなるべく早めの稼働を頼むよ」


「はい!お任せください!他にもですね―――」


 デジャヴを感じたのはやはり間違いでは無かった。

 結局、奥さんが手料理を並べ、食事に舌鼓を打つまでエミエの舌は止まらなかった。




 エミエの講演会と村長宅での夕飯により大分時間を取ってしまった。

 アインに頼んでおいた不平不満の受け取りを忘れちゃいけない。


「お邪魔するよ」


 時間は既に20時、こちらの世間的には食事も終わり明りの為の燃料が勿体ないという家では既に寝静まっている家も見受けられる。

 その中で仮称『アダムの家』は煌々と光が漏れ、村の中で別格の様相を呈していた。


「アダム様おかえりなさいませ…」

「アダム様おかえりなさいませ!」


 アインとドリィが迎えてくれた。

 コテージ内では皆が思い思いに過ごしていたが私が来たと知ったゴートとキルトは武器や装備の手入れを一時中断して片膝立ちのポーズにシフトした。

 ビルドはまだ鍛冶小屋にいるのか、姿は見えずミルレートは入り口での何事かを察知したのか部屋から飛び出してきた。


「いや…みんな、畏まらないでいいから好きなように過ごしていいからね…」


「ハッ、お心遣い感謝致します。我が君…」


「…感謝いたします。」


 こんな堅苦しいのは正直望んでいないんだ。

 もう少しフランクに…そうマルダのように――あれは…うん、えーと節度を持った上司と部下ぐらいの関係が望ましいんだよ。


「アダム様、こちらがこの家と村民の訴えをまとめたものになります。」


 1枚の羊皮紙につらつらと4項ほど書かれているが…この家からの訴えが1つも無い。


「ゴート…君。この家からの不平不満が1つも上がっていないが…本当に満足なのか?」


「ハッ、奴隷商から解放してくださった事に加え住む場所まで提供していただきこの上さらに要求を出せるほど厚顔ではありません」


 そうじゃないんだ。

 恩は恩でいいのだが不満な事、問題のある部分を放置するのは別の問題だ。

 助けてもらったから仮にだが1日1食でも良いのか?

 救われたからその人の言いなりになるのか?


「…逆に少し問おう。ゴート君、君は今日狩りに出ていたそうだね?」


「はい、獲物はウサギ1匹と野鳥1羽というあまり褒められた結果ではありませんでしたが…」


「どうすればより多くの獲物が取れた?」


「ハッ……まずは地理と生息している動物、モンスターの種類の把握と…それなりに質の良い武器でしょうか。」


「そこだ、今使っている武器は傭兵をしていた君から見てどうだ?」


「…お世辞にもまともな武器とは…」


「ではそのまともでは無い武器で今後も狩りをするのか? 場合によっては強いモンスターも出るかも知れないのに?」


「…与えられた物が最低限でも最大の結果を出すまでです」


 根性論を否定するつもりは無いが根付いた考えを根底から覆すのは容易ではない。

 改善するための要望と自らの要求が混在している状態では誘導も中々上手くはいかない。


「…言い方を変えよう。君たちが狩りでケガをしたりモンスターに殺されたりした場合、村の者はどう思う?」


「……あいつは弱かった…とかでしょうか…?」


 ちょっとゴートは脳筋が過ぎる。

 キルトはどうかな。


「キルト、君はどう思う?」


「は、はい……えーと…相手が悪かった…とか…?」


 自分か相手が悪いか、強いか弱いか2択しか出ないのかーい!


「…答えは"私に悪評が付く"という事だ。いいか? 君らは私がこの村に連れてきた。君らがこの村で悪事を働けば私の名前に傷がつく。」


「そんな事は致しません!」


「それは分かっている…同じように君たちが……言葉は悪いが奴隷のような扱いのままで最低限の装備でモンスターに負けたとなれば"アダムはそういう奴なんだ"と噂が立つだろう。

逆に言えば、君たちが活躍することで私の評判も上がるのだ」


 理屈よりも実利を示してやれば動かしやすくなるもんだ。

 「これを使えば楽になります!」よりも「これを使えば今までの2倍の効率で経費は半分に抑えられます!」のほうが相手が受ける影響も大きい。


「…我らが功績を上げるほど我が君の評判もあがると…」


「そうだ、だから私の評判を上げる為に何が必要かを明確に示してほしいのだ!」


「……私たち如きの行いが、そんな深い意味を持っていたとは……」


「という訳で、もっと活躍できるためには何が必要か…活発な発言を頼むよ」



 発言としてアダムの家から出たのは、

 1、武器や装備の充実

 2、ミルレートへの仕事 の2点。

 村から出たのは、

 3、他の町、村との交易が出来ないか

 4、村の防衛力の強化

 5、食糧事情の改善

 6、冬対策


 村から出た内容はあくまでメイド達が普段村人と触れ合った中で必要だと感じた内容でまとめてあるらしい。

 1と4に関してはビルドの鍛冶屋が機能すれば自ずと改善するだろうが、私が居ない間に強大なモンスターが現れないとも限らない。

 ゴートとキルトには手頃な装備をプレゼントしておこう。

 ミルレートに関しても狩りなどは出来ないだろうか?

 エルフは森の狩人というファンタジーなイメージがあるので弓矢の扱いが上手いというのは先入観かな。


「ミルレート、弓矢は使えるか?」


「え、あー…あんまり使えません…」


 …やはり、エルフと言ったら森の民…つまり大地や森の精霊と心を通わして魔法を使ったり精霊術とかを行使したり…!


「できません…」


「えーと…そもそも戦う事できるか?」


「残念ながら…戦う術を習う前に攫われてしまったので…」


「…すまん、何か得意な事や出来ることがあったら自己申告してくれ」


「読み書きや…本を読むのは好きです」


「なら、一定期間ごとに村の子供たちを集めて学校――読み書きを教える場を作ろう。そしてミルレートはそこの先生になってもらおうかな」


「その役職はよくわかりませんが子供たちに読み書きを教えるのであれば出来ると思います!」


 こうしてアダム村 村立 小中一貫校の設立が決定したのだった。






「ハチ、姿が見えなかったがどこ行ってた?」

「森の中で狩りをしてた。楽しかったぞ!」

「そんなに大量に狩って誰が解体するんだよ……村に置いていきなさい」

「えー…肉は?」

「…惣菜を出してやるからそっちで我慢しろ」

「仕方ない、納得してやろう」

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