初依頼達成
私の脳内マップに赤い点が1つ、2つ、3つと増加していくのが確認できた。
「…お客さんのお出ましかな?」
「え?何も聞こえませんけど…」
「んー…数は5…10…14…20…随分多いな。」
「分かるんですか?」
「あぁ、数が分かるぐらいだがな…24…まだ増えるな…」
「……おかしいっすね、ただの畑荒らしにしちゃ数が多すぎます。普通のはぐれなら数頭、多くても5頭くらいです。」
やつらは北東から来ている…その移動経路の元にあるのは、肋骨山脈の麓に広がる樹海か。
現在地からの距離にして15キロぐらい、何かあるとすればここだな。
「何にせよこの数で畑を襲われたら種芋すら残らん、片付けるぞ。」
「うぃっす!やるっすよー!!」
夜とはいえ月が煌々としているので視野は広く、明るい。
ドドドドドドドドド…
地響きが聞こえてくる。
小型の猪とはいえ体重は20~30キロ以上あるから迫力もそれなりだ。
「では、不肖マルダ…一番槍いっきまーす!」
ミサイル・ランスを右手で構え、溜めを作る。
助走を付け投球のように槍を――
「よっ……ほっ…でりゃ!!」
投げた。
まだダッシュボアまでは目測でも数百メートルは下らないだろう。
普通に目視するなら豆粒だ。
そんな豆粒に槍が真っ直ぐ飛んで行き―――頭に突き刺さる。
脳を破壊されたからか、よろよろと足が乱れ…横たわった。
武器の補正があるとはいえ大したものだ。
「うっし! 戻ってこーい!」
その一声に合わせて槍がまるで逆再生のようにマルダの手に収まった。
「アダム様もどうぞ!そうでないとアタシが狩りつくしちゃいますよ?」
しかし、マルダのペースで1投1殺では集団がこちらに到達する方が早い。
まずは足止めが必要だ。
「"バインドスワンプ"」
私が指定したのは猪たちの前方約50メートル…そこの50メートル四方が草原から沼へと変化した。
猪たちがどちゃどちゃと沼を気にせずに進行していくが足場の悪さで進行速度が大幅に鈍った。
魔法で沼を生み出したわけだがもちろんただの沼を作ったわけではない。
ゆっくりではあるが沼を進む猪の体に"沼そのもの"が纏わりついていく。
言うなれば泥の檻だ。
これで半数くらいは動けなくなったから後でゆっくり処理すればいい。
「うわぁ……えげつない…」
「マルダ、手が止まってるぞ。」
「あ、はいっす!」
沼にはまらなかった先頭は既に目と鼻の先に迫っている。
私は背中のミスリルコーティングされたクレイモアを抜き放ち、跳ぶ。
先頭の奴を上段からの唐竹割で左右に、脇を抜けようとした1匹を蹴り飛ばし――足が胴体を貫通してしまった…ちょっと失敗。
私を敵と認識したのか1頭が唸りを上げて突っ込んできた。
ほんの1歩ほど横にずれると目標を見失ったかのように私の前を素通りしていった。
なるほど…マルダが「余裕っすよ!」と言っていたのも頷ける。
次の突進を利用し、上下に両断してやった。
そんな感じで突っ込んでくるダッシュボアをバッタバッタと討伐してゆく。
マルダも負けじと1投のペースを上げて既に10匹目を倒していた。
そんなこんなでもう残っているのは沼に落ちた10数体のみとなっている。
「あー、アダム様…ちょっと威力強すぎですねー…」
「駄目か?」
私が倒したボアの惨状を見てマルダがあちゃー…と顔をしかめている。
「魔石持ちの相手なら問題ないんですけど、こいつらは毛皮とか肉が買い取り対象になるのであまり損傷が酷いと売れないんすよー。」
「なるほど、確かに私が倒した奴の状態は散々だな。」
真っ二つのものが4体、胴体に穴が1体、頭が潰れたものが2体…どれも状態は最悪だろう。
この辺はやはりゲームとは違うな。
倒したら"毛皮"、"肉"、"牙"などとドロップしてくれる訳ではない。
「勉強になるよ。残りはなるべく損傷なく仕留めるとするか。」
それと1つ発見…というか当たり前のことなのだが剣は使えば切れ味が落ちるという事だ。
いくらこの体が武器の扱いに長けていてもナマクラで切り続ける事は不可能だ。
使っている武器が低級というのも有るだろうが、小型とは言え猪を10体も20体も切れば流石に切れなくなってきた。
そうだ、RPGには武器破壊という要素はあっても武器の手入れという概念は少ないからな。
追記すると、沼に囚われている所に止めを刺したので商品価値は問題ないが…全身泥まみれで洗うのがとても大変だった。
ダッシュボアの大群を撃退した頃には既に太陽が山から若干顔を覗かせており、草原に幾本かの光の道を作っていた。
依頼主に報告し大量のダッシュボアを運搬する為の荷車を借り受けた。
綺麗な状態で回収できたダッシュボアの数は18頭、そのうち2頭を依頼主に心づけ…というより私が散らかした惨状の処理代として前払いしておいた。
「いやはや…これだけのモンスターが来ていたとは予想外でした、何はともあれ畑には被害も無く冒険者さん達も無事に済んで良かったです。」
「えぇ…しかし、アダム様が言うにはこれは前兆では無いかとの事です。もしまた森の方からモンスターが来るようでしたらギルドに依頼してくださいね。」
「はい、その際は是非またお願いしますね。」
「いやーダッシュボアは雑魚の部類とはいえ綺麗な状態でこれだけの数がいれば結構なお金になりますよ!」
「昨夜は毛皮と肉が買い取りに出せる様な事を言っていたが解体はどうするんだ?」
「出来る人は自分でやりますけど、相当上手くないと商品価値が下がりますんでギルドか、業者に依頼するのが定番ですね。」
平均25キロの肉を16頭…約400キロが乗った荷車は中々に重い。
踏み固められただけの凸凹した道ではなおさら負荷が増えるので女性には任せられない。
ついでにマルダも荷台に座り、合計の荷重は……おっと、これは口外したらいけないな。
「モンスターの肉って旨いのか?」
「そーですねー、こういう獣系は大体イケます。他にもゲテモノでも旨い奴もいますし、すっげー美味そうでも毒持ちとか訳アリで食えない奴もいますね。」
「ほう…ではこのダッシュボアはどうだ?」
「可も無く不可も無く…ってとこです。ちょっとクセがありますけど市民には馴染みの深い食材ですね。」
モンスターは倒して駆除するものではなく、肉や素材を活用できる存在か。
以前出会った金剛龍のような意思を持ったモンスターはさすがに気が引けるが本能に忠実な獣であれば狩るのに支障はない。
モンスターを使ったグルメ…これは新しい目標に成りえるかな?
そんなこちらの当たり前を雑談で収集しつつ、オースに戻ると皆が荷車に積まれたダッシュボアの山に驚いていた。
普段の討伐では1頭か2頭を持ち帰る程度が普通であり、こんな大量なのはそうそう有ることではないと言われた。
…それもそうか、大量討伐するからと空の荷車を引いてモンスター退治に行く冒険者は居ないだろう。
「アダム様、買い取りカウンターに行きましょう!」
もはや様付けに戻っているのは気にしないことにした。
「いらっしゃいマルダさん、今日は何の買い取りですか?」
「どーもエイミーさん、ダッシュボアをたくさん持ってきました。毛皮も肉もすべて売りでお願いしまーす。」
「何頭くらい?」
「14…15?」
「16頭だ。」
「そちらは……あぁ、先日登録されたアダムさんですね。私は買取担当のエイミーです。よろしくお願いしますね。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
金に近いブロンドのポニーテールに綺麗めな顔立ち、地味な制服だが出るとこはきっちり出ている。
やはり受付になる人は容姿も重要視されるのだろうか…。
「えーと…16頭ともなると…倉庫に直に運搬しましょう、そこで獲物の状態を見てみますね。」
「すまない、倉庫の場所へ案内を頼む。」
「はーい♪」
礼節を欠かない具合、だがあまり馴れ馴れしくも無い適度な距離感を感じるのは彼女のコミュニケーション能力の高さゆえだな。
冒険者ギルドには大きな倉庫が4つあり、その中の1つ素材備蓄庫に案内された。
バスケットコートより2回りくらい大きいの建物の中に箱が山積みにされ、棚には素材と思われる牙や骨、毛皮…良くわからん瓶詰された内臓?みたいなものもある。
「親父さーん!いるー!?」
うわんうわんとエイミーさんの声が反響する。
「寝起きにでっけぇ声だすな!びっくりするだろうが…」
山になった箱の裏から出てきたのは小柄な体躯の人…いや、体躯の質が違うから土精種か?
「こちら、このギルド専属で解体を担当しているドースさんです。皆さんは親父さんとかオヤジとか呼んでますね。親父さんこちらは―「知ってるよ、ホリッドの奴に小便ちびらせた新人だろ?」
口は黒い髭に覆われて見えないが何となくニヤッと笑ったという事は掴めた。
「漏らした件はあまり広めないであげて欲しい、私がやり過ぎたというのもその一因だからな…名乗るのが遅れましたアダムと言います。」
「おう、ドース・ダンガンだ。エイミーの嬢ちゃんの話した通りここで解体をやってるぞ、解体したいモンスターがあったら持って来い…で?」
「「で?」」
「紹介の為に連れてきたわけじゃーねだろ、獲物はどこだよ。」
「ダッシュボアだよ」と告げると「なんでぇ小物かよ」と悪態をついていたが荷台いっぱいのダッシュボアを見ると機嫌が変わったようだ。
「小物でもこんだけ一気に納品されるのは久々だな、腕がなるぜ! ちなみに解体費用はギルドに卸した全額の1割だ、やるか?」
「もちろんお願いします。ただ1頭分の肉だけはこちらに下さい。」
「…ダッシュボアの肉なんぞその辺の肉屋で安売りしてるぞ?」
「記念すべき自分でこなした最初の依頼ですから、記念品ですよ。」
「そういう事なら分かった、一番肉質の良いやつを出してやるよ!」
そう言うと「また明日にでも顔出せ」とナイフやら各種包丁を用意し解体に入るようだった。
1体分あれば味見とハチの飯用に充分足りるだろう。
「アダム様!ちょっと遅いですが朝ごはんに行きませんか?先日の賭けで大勝ちさせて貰ったのでもちろんアタシの奢りで!」
「そういう事ならご相伴に預かろうか…おすすめの美味しい店を頼むぞ?」
「了解でーす!」
何はともあれ、冒険者としての初依頼は成功に終わった。
これからは時間を見つけて冒険者としてこっちの世界を直に歩き、大手を振って調査出来るな。
他の街への馬車での定期便はかなり時間がかかるのでそこはハチにお願いしようと思っている。
今までは救済メールが来るまでは助けることは難しかったが、自分の足で調べて行けば少なくとも手が届く範囲の人は助けられる。
マルダの過去話のように自らが不幸だと思っていない者も多いだろう。
自らが不幸と思っていない者を自分の価値観で一方的に助けるのは単なる自己満足……エゴだ。
だが私はそれで良いと思っている。
飢えが満たされれば幸せ。
ケガが治れば走り回れる楽しさ。
理不尽な暴力に晒されない安心感。
幸せの形は人それぞれだが、それらを享受できる…して欲しいのだ。
皆が何等かの形で『幸せ』を感じ笑い合える世界の為に私は――
「あ!!」
「…どうした?」
「…買取だけで依頼の完了手続きしてなかった…。」
何とも締まらない締めだな。
次から4章になる予定です。
幕間もいくつかあるのですが、表現的にR18になりそうなので今は上げないで置きます。




