初めての仕事 その4
教会から家までの間に他の村人に見られると面倒な為、透明化を発動させる。
"見えなくするだけなら透明化でいいけど『見えなくなるだけ』だから要注意ね"
と横から注意が入る。
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家に入りると透明化を解除する。
「…嘆かわしい。これが人の性か。」
なるべく尊大なイメージを心がけて喋る。
教会から家に戻るまでの間に一悶着あったのだ。
村八分。
病気を理由に「村から出ていけ!」、逆に「家から出るてくるな!」等の罵詈雑言。
AIでの再現とはいえ、実際に差別や贔屓…村八分のような黒い部分まで出ていることに少々戦慄した。
これではまるで本当の『人間』では無いか。
学校でのいじめと同じだろう。
流れに逆らったり、ちょっと周りと違ったり、逆に間違いを正そうとして目を付けられる。
どこでも同じだ。
子供の頃は腕力、大人になれば権力か財力。
良くも悪くも力を持つ者が行う事が『正しい』とされる。
語弊があるか、『正しいこと』にされてしまう。
…少なくとも私が正式に世界の管理を任されたら正しくない行為はなるべく許さないようにしよう。
と言ってもこちらは助けを求められない限り手は出せないみたいだが…
自由にしても良い時間があるみたいだから水戸黄門のように諸国をして悪い悪代官…この場合は王様とか領主とかを懲らしめるのも有りかもしれない。
少々思案しているとリリアナが申し訳なさそうに話し出した。
「仕方ない…と思います。こんな村では病気になっても医者様も癒し手様もいませんから。」
この村に魔法や癒しの奇跡の使い手は居ないという話だった。
そうなればケガや病気は効能のある薬草を飲むか塗るか、自力で治す――のどれかになってしまうと言う。
軽いケガや病気でも子供や年寄りでは死に繋がるし、体力、気力が充実している若者でも運が悪ければ…ということも考えられる。
思ったより現実味のあるハードな設定らしい。
少し意地悪な提案を出してみるか。
「…お前が望むなら家族ごと別の町で暮らす事も可能だ。逆にお前たち家族を蔑ろにした村を消すこともな。」
驚いた表情ですぐさま否定してきた。
「そ、そんな事は恐れ多くて言えません!それに村の人も病気が治ればきっと以前のように戻る…と思いますし…。」
隣人を憎み切れない、優しい娘なのだろう。
「下らない話で時間を浪費してしまったな、時間は有限だ。家族の容体を確認するとしよう。」
狭い家だ。
一目で見渡せるほどの8畳にベッドが4つ、テーブルと椅子と最低限の生活が見て取れる。
奥に寝ている二人が問題の二人だろう。
「あ、あのっ、弟のほうが危ないと思うんです!そちらから見て頂けませんか?」
確か、教会でも弟がもうダメとか何とか言ってたような…
「よかろう」
ベッドの横に立ち、弟を確認する。
リリアナを幼くし、髪を短くすればこのような感じなのだろうか。
詳しく見るまでも無く呼吸が浅く、発汗、発熱、発疹等々の症状が見て取れるが私は医者でも無ければこの世界の病気に詳しい訳でも無い。
重要なのは状態を確認し、最善の手を打つこと。
名前:リール
種族:人種
性別:男
年齢:7
状態:赤死病Ⅳ
なるほど、この赤死病というのが問題な訳か。
恐らくだがⅣというのはそのまま強さとか段階だろうな。
"うわぁⅣかぁ…状態から察するにあと数時間でも遅れていたら助からなかったかもね"
社長がさらっと恐ろしいこと言っている。
"ゲームなら蘇生とか復活とかがあるのでは?実際スキルにもありますし…"
"その辺はちょっとね…隠しパラメータとでも言えばいいのかな、条件があってねー…"
なんとも歯切れが悪い。
"まぁ、解病を使ってちゃっちゃと治してよ"
スキルの中から解病の魔法を確認し、スキルから選択、ターゲッティングし発動させる。
気分の問題だが一応ポーズとして手をかざしてみる。
中々様になっていると思う。
「解病」
"ぶふっ…いいよいいよ!ポーズは重要だねぇ"
…馬鹿にされた感が否めない。
厨二病と笑わば笑え、キャラを演じないで何がロールプレイだ。
弟――リールの体がぼぉっと淡い光に包まれたかと思うとすぐに光が収まる。
念のため確認するが"状態:衰弱Ⅱ"となったので当面の危機は去っただろう。
呼吸も解病前は浅い呼吸が続いていたが今は深い呼吸に変わっている。
「弟はこれで良いだろう。次は母親だな。」
リリアナが目を見開いて固まっている。
心中を察するに「え?もう治ったの!?」といった所か。
母親の状態も確認してみるがリリアナに良く似ている。
病気による食欲不振だろうか、頬骨が少し見えている。
名前:リリアン
種族:人種
性別:女
年齢:37
状態:赤死病Ⅲ
リールよりはマシな状態なのだろうがそれでも長くは無いだろう。
「…解病。」
リリアンの体もリールと同様にぼぉっと発光したかと思うとすぐに消えてゆく。
病気が消えたか確認っと。
"状態:衰弱Ⅲ"となっているので今となってはこちらのほうが若干危うい。
アイテムボックスから回復ポーションを選ぶが――
やばい、まだどのポーションがどの程度効くか分からない。
基礎知識はインストールはされても全てが入っている訳ではないらしい。
一口に回復ポーションと言っても、下級、中級、上級、特級の4つに分かれている。
分からないなら調べるべし、聞くは一時の恥、何度も同じ事を聞くのは社会人の恥。
ヘルプを検索しているとまた横から声が入る。
"衰弱なら下級の回復ポーションで十分だよ。ただし強い薬は弱った体には少々キツイから…現実と同じような処方をしてみて"
"了解しました。"
アイテムボックスから10本程出し、テーブルに乗せていく。
「二人の病気は消したが体の衰弱までは急に治せない。そこで回復ポーションを置いていく。二人に食事と一緒に飲ませるといい。
ただし…病み上がりの体では強すぎる薬は毒にもなり得る。2人で1日1本を目安にするが良い。」
「あぁ!ありがとうございます!ありがとうございます!ありがとう…ございますっ…」
家族が峠を越えたことで溜まっていたものが噴き出したのだろう。
ベッドの脇に蹲り、謝辞を繰り返す。
回数を重ねるにつれ、かすれて聞こえなくなり、嗚咽が混じる。
「リリアナ、お前の祈りは聞き届けた…が家族が癒えるまでは真の意味で叶えたとは言えない。丁度ポーションが無くなる10日後に対価を貰いに来る。」
「ぐすっ…分かりました。お待ちしております。」
おっと忘れていた。
「解病」
リリアナも赤死病の初期段階だったのだ。
名前:リリアナ
種族:人種
性別:女
年齢:11
状態:健康
「え?」
「対価を貰う間に死なれても困る…ではな。」
私は転移を発動し、家の中から消えた。
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