私、冒険者になる!
マルダが会議に参加した。
Dさんは先ほどの姿とは違い、40代そこそこのベテラン冒険者といった風貌になっていた。
幻覚とか変装だろうか…何にせよ一瞬のうちだったので気づけなかった。
マルダはソファーに座って借りてきた猫のように身を屈め、小さくなり「…ったく支部長もそうならそうと言ってくれれば…」と先ほどからブツブツ愚痴っている。
キルスティンさんはまったく意に返さず「日頃の行いだ、馬鹿者め」と止めを刺していた。
「ははは、元気そうで何よりです。せっかく助けても塞ぎこんでしまっては意味がありませんからね。」
「あのっ!アダムさんは…本当にあの"アダム様"なのですか?」
「そういえば確か…あの時は違う装備でしたね…ちょっと待っててください。」
ソファーの横に立ち、剣神・建御雷神シリーズを装着していく。
装着といっても1点1点を出して着ていく訳ではなくアイテムボックスから装備欄に入れ込むだけ。
RPGでは馴染みの深いGUIだ。
具足、小手、草摺…と選んでいくとその部分が青い光に包まれパッと光が散れば既に装着済みとなる。
最後に兜を被った事により若干声が籠るが問題は無いだろう。
「これで…証明になるかな?」
「あ…あ…アダム様だ…本物のアダム様だぁ…うっ…ぐすっ…」
あーちょっと泣かないで…女性に泣かれた事なんてほとんどというか皆無だから戸惑っちゃう。
兜を付けているので戸惑った顔を見られないのが幸いだ。
「これが報告に有った変わった全身鎧…なるほど、どこの国にも見かけない仕様だ…」
「何だこのバカげた補正効果は…生身に近い能力でもあれだけだというのに…!」
ちょっとお二人さん甲冑に感心してないで助けて下さい…。
「はい、ハンカチをどうぞ。」
「…ずみ゛ま゛ぜん゛…ぢょっど感極まっちゃって……」
装備を戻し、マルダが泣き止むまで少し待ってから話が再開した。
「えーと…何の話でしたっけ?」
「アダム様が助けを求められたら――という話でしたかな。」
「あぁ、そうでしたね…まず先に言っておきますが助けを求める声全てを聞けている訳ではありませんし、聞こえた声全てを助けている訳でもありません。聞こえるのは真に助けを求める声のみ…藁をも掴む思いを持った声のみが私に届きます。」
3人とも私の話に耳を傾けている。
まったく話に出てこないハチはお菓子が無くなってからは「暇だー」とギルド内の探検に出かけてしまった。
小麦色の美人さん…付き合わせてすみません。
「私は届いた声の当人に接触し人となりを調べ、その上で助けるか否かを判断します。大体は助けるのですが一部…例えば非道な行いをしていた奴隷商や裏で悪事を働いていた貴族など助けなかった例もあります。」
「なるほど……私も情報収集や分析の確度を上げるための判断材料は多いほうがいい。」
「ええ、私も神に仕える身ではありますが判断を誤ることもあります。その判断に後悔しないようにしたい…というのが最初に話したこの街に来た目的に繋がるわけです…そこでキルスティンさんにお願いがありまして…」
「私に出来ることであれば対応はさせて貰いますが…?」
「私を冒険者として登録してくれませんか?」
私は兼ねてより考えていた冒険者として各地を回り情報収集をするための第一段階に乗り出したのだ。
キルスティンさんは私の要請を快く受け入れてくれ、異例の緑ランク、ついでにハチも登録して黄ランクのスタートとなった。
「こちらがランクの証明となるカードとピアスになります。 私の内心としてはアダム様は赤か特色スタートでも良いのではと思いましたが私の権限だけではそこまで出来ませんので…申し訳ないです。」
「構いません、むしろ特色や赤などあまり人数の居ない所にいきなり部外者が沸いたら目立つでしょう。」
「そう言っていただけると有難いです、あと後見人には僭越ながら私の名前を書かせていただきました。何か揉めるようであれば私の名を出してもらって構いませんので。」
「助かります。あとついでに1人か2人ほど信用できる冒険者を紹介してくれませんか?」
「構いませんが、パーティでも組まれるのですか?」
「それに近いものです、私は戦う力はあれども冒険者としての知識や振る舞いなどは初心者以下ですのでそれを補佐してもらえる人が欲しいと思っています。」
「はいはいはい!!アタシ!アタシが立候補します!」
「お前は…実力的には申し分ないとは思うが如何せん経験が浅い、アダム様の存在は非常に重要だ。故にもう少し大きな視点から見れる奴が――」
「……俺を見るな、俺が表立って動けないことを支部長は知っているだろうが。」
「気になってたんですが、この方どなた?この支部では見たこと無い方ですけど?」
「あー彼は…私の若いころの冒険者仲間でな、近くに来たついでにちょっと相談に乗ってもらっていたんだ。」
「へー…じゃあアダム様のパーティメンバーはアタシと従者のハチさんという事で決まりですね!」
一応、傍観していた身として解説すると立候補したのはマルダ、それを不足と答えたのがキルスティンさんで一人称が"俺"はDさんの変装した姿だ。
「はぁー……他の緑は大体パーティの要だから引き抜くわけにいかん……申し訳ないがアダム様、それでよろしいですか?」
「大丈夫でしょう、マルダさんよろしくお願いしますね。」
「ハイっ!誠心誠意頑張ります!」
「あ、1つだけ…冒険者としての私を呼ぶ場合は出来れば"様"は止めてください、関係を勘繰られてもマズいと思いますので。」
「承知しました。」
「分かりました!アダム様!」
……幸先不安なんですが…
話し合いが終わるとDさんは支部長と2~3言交わすと「王都に戻る」との事で姿を消していた。
「では僭越ながらこのマルダがアダム様に「ごほん!!」
…今はまだ応接室なので周りに誰も居ないから問題ないがクセは早いうちに治すに限る。
「えー…アダムさん…に一般的な冒険者について説明させていただきます。」
内容はごく一般的な事だ。
依頼の受け方、モンスターの討伐証明、報酬の受け取り、ランクの上げ方…これらは問題ないな。
「次はギルドの禁止事項になります。破ったら降格か罰金か除名処分もあり得ますのであまりやる人はいないです。」
キルスティンさんから聞いた3つに加え、オース支部での内容もいくつかあった。
まずはギルド内、街中での刃傷沙汰…まぁ、当然といえば当然だろう。
他にはドラゴンや他の指定モンスターの縄張りとされる地域への侵入…これはちょくちょく繰り返されるらしい。
目的としては一攫千金だそうだ…以前助けられなかった冒険者はこれが目的だったのだろうか…。
後は禁止指定薬物や違法な奴隷売買への関与などは特に新人の冒険者が騙されることが多くギルドとしても新人が食い物にされないよう手は打っているが後手に回っているらしい。
「最低限としてはこんなもんでしょうかね、時間があれば試しに何か依頼を受けてみますか?」
「そうだな、百聞は一見に如かず…一度流れを経験するのは重要だな。」
「それはアタシとアダム…さんの初依頼ですね!」
ハチは中型か大型の犬のような印象だったがこちらは小型犬の印象を受ける娘だ。
見えない尻尾がぶんぶんと振られているような気がしてならない。
依頼を受ける前にしておかなければならない事がある。
それは装備の見直しだ。
いつもの僧服も良いが、周りからすれば危険な場所に赴くのにただ服!?と取られかねない。
緑クラスというにはそれなりの姿をしなければならない。
「マルダ、君の装備は緑ランクとしては上等な方か?」
「アダムさんから頂いた槍と指輪と外套については赤以上ですかねー、他は青でも揃えれるものなのであまり参考にならないと思うっす。」
「うーん例えば…ミスリル製の武器というのは緑ランクとしてどうだ?」
武具店で見かけたミスリル製のロングソードを思い出して例に挙げてみる。
「緑だと倹約に倹約して十年くらいで買えたらいいですかね~…赤なら高報酬の仕事があるのでがんばれば買えるはずです。」
悪目立ちはし無さそうだが注目されるのは避けたい。
もう少し大人しめの装備を探してみる。
あくまでゲームの設定だった頃のミスリルは決して強い装備ではない。
鉄や鋼という初期の初期よりは強いが中盤ではもっといい武器がある…そんな位置づけだ。
装備品レベル:14 ミスリルコーティングのシリーズが丁度良いだろう。
設定としては全てミスリルで作ると費用がかさむ為、刀身や盾、鎧の材料段階の鋼にミスリル粉末を混ぜて鍛造し、若干の耐久性と魔法耐性を向上させている…という設定。
頭:鋼の鉢金
体:鋼の胸当て
腕:ミスリルコーティングのガントレット
腰:チェインベルト
足:ミスリルコーティングブーツ
右手:ミスリルコーティングクレイモア(両手)
左手:なし
装飾1:緑ランクのピアス
装飾2:障壁の指輪
実際全て鉄装備でも問題ないだろうがこういうのは『それっぽい』のが大事なんだ。
一式揃えるよりチグハグの方が味もある。
「こんな感じでどうだ?」
「大丈夫です!どんな装備でもアダムさんのカッコよさは変わりません!」
私が求める"どうだ?"の回答では無いが…異論がないのでこれで行こうか。
ハチは徒手が好きっぽいので武器無しで籠手と脛当に重点を置いた軽装でまとめてみた。
「我の鱗より柔いものを纏わなければならないのか…」
「…鱗??」
「おほん、年頃なので気にしないであげて…。」
いかんいかん、ハチがドラゴンってバレるといけないので言動は注意しておかなきゃ。
「さーて…初依頼は何がいいっすかねー」
「出来れば短い期間で終わるものを頼む。」
「うぃーっす…短期間でも緑になってまで猫探し…植物収集はなぁ…」
ギルドのロビーにて掲示板を確認する。
オースは大陸の北部に位置する田舎ではあるが張り出してある依頼の数は多い。
猫探しから薬草、殺虫に使う毒草の収集、モンスター討伐…護衛と多種多様だが依頼書には緑以上指定と印が押されたものも見受けられる。
私が短い期間でと言ったからかマルダの選択肢からは外されているようだ。
「おっ!我らのアイドル発見!俺らとパーティ組まない?」
「げっ…」
聞いた事の無い声に振り返るとテラテラと光る頭に背中に武骨な戦槌、使い込まれて傷だらけになった皮鎧の大男が立っていた。
冒険者になるなら定番の流れは書きたい所ですね




