獄中生活のような何か
連行される道中に街中を見て回ると門前宿から商店、露天とオースはそれなりに賑わっているようだ。
まぁ…兵士に連行されているので好奇の視線に晒されたが…。
私とハチが連行されたのは兵士の詰め所と思われる石造りの建物だった。
ロビーを抜け、階段を下りた先は予想通りの牢獄。
「入れっ!」
ガシャーン
鉄製の檻が音を立てて閉められる。
入り際に蹴った兵士君…君の事は忘れないよ?
「大人しくしてても悪いようにはされたなぁ…」
「父さん…僕たち何で捕まったの?」
「きっと何かの間違いだよ、すぐに出してもらえるさ。」
中々演技が上手いハチに釣られて私も思わず成り切ってしまった。
看守と思われる兵士は「ふん、いい気なもんだ…」と鼻で笑っている。
この牢は私とハチのみだが、他の牢には何人か捕まっているようだ。
牢獄自体は地下を掘って作ったのか、窓は無く明りになるものは階段の上から射す光と淡く光るランタンだけ。
ベッドは当然あるわけがなく布が2、3枚重ねて置いてある事からこれが寝具なのだろう。
牢の広さは6畳ほどで部屋の隅に穴が空いており、衝立が置いてあることからこれがトイレだろう…幸いなことに水が流れており異臭が漂う事は少なそうだ。
ただ音を隠せないのは気になるところだ。
まぁ、神様はウンコしないから大丈夫!
不用心なのか、はたまた温情か装備や収納袋は取られなかったので寝具は何とかなる…底冷えのする硬い石に薄布1枚で寝なくて済みそうだ。
とりあえずあの強面の隊長さんっぽい人を信じて大人しく待っててみようか。
といっても暇だ…。
ハチとしりとりをしていれば看守から「うるさい!」といわれ、トランプをしていれば「何をしている!」と没収され…
あ、意外な事にトランプなどは一度ルールを説明しただけでハチはあっさりと理解していた。
『暇は人を殺す』という言葉を残した著者が居たが文字通り出来ることが無ければ寝るしかない。
寝ることにも限界はあるし、寝ているだけの人は果たして生きていると言えるのか…本来の意図かどうかは知らないが暇というのはそれだけ悪影響があるのは間違いない。
やれることが無いので念話にてハチと会話なり、この世界の知識なりを語り合って時間を潰した。
これが私たちの獄中生活1日目だ。
2日目は鶏が鳴いてから1時間ほど後に食事…のようなものが出された。
そういえば昨日は昼前に拘束されてから食事が出た記憶が無い…1日1回なのだろうか。
念のために『耐性解除』はせずに夜中もずっと起きていたが看守の交代以外のイベントは無かった。
ちなみに食事のようなもの…と言ったのはおおよそ『食事』と呼べるものには見えなかったからだ。
おそらく麦のオートミールのようなドロドロとした何か、パンのような鈍器、濁った水。
申し訳ないが看守が見ていない隙にトイレに消えてもらって自分たちで用意した食事をこっそり食べたよ。
そして昼が過ぎ、階段の上から入る光がどんどんとか細くなることから日が沈んでいる事は予想できた。
やはり食事は日に1度のとても雑なもの…これは罪人扱いとはいえ少々酷い…。
ファンタジーな世界と現代日本を比べるのが筋違いなのだが、これでは囚人を弱らせて殺すために閉じ込めているのと変わらない。
意図せず次の課題が見えたのは僥倖といえば良いのか複雑な気分だ。
「…看守さん私たちはいつになったら出られるんですか?」
「知らんな、罪人であれば裁判待ちだろうがあんた等は捕まえて置けという指示だからな。」
「…そうですか。」
他愛のない世間話のつもりが思わぬ収穫だ。
『捕まえて置けという指示』この単語だけで事実関係が見えてくる。
つまり誰かが私たちの存在を把握し、手を打ってきたという事だ。
私がこちらの世界で活動してから約数か月程度、どこかの勢力に敵対した…という可能性も無くは無い。
現に意図せずエネキア王国の企みを潰した事もある。
問題は素のアダムの姿で捕まった…つまり相手は私の情報をそこまで掴んでいるという事実だ。
いろいろな所でアダムの名前で活動しているので噂になる事もあるだろうが通信技術の乏しい世界だと思い込んでいたのもある。
まぁ、この程度の拘束で私を止めて置けていると相手が思っているならそれは不幸中の幸いだろう。
"ハチ…どうやら私達にちょっかいを出す奴が出てきたみたいだな"
"クフッ…退屈凌ぎに丁度良いではないか!"
"いや、ちゃんと事実関係を確認したうえで動くからな?皆殺しとかはしないからな?"
暇を持て余したドラゴン様が暴れないようにしっかりと念には念を入れておかないいとね。
この日も、暇を持て余したまま1日が終わった。
3日目
今日も人の食うものとは思えないものはトイレに消えてもらった…こんな物でも作ってくれた人に申し訳ないなとは思う。
しかし、周りの檻の状況を見るにどの囚人も食料が提供されたものしかない為、無理に食べている様子だ。
人によっては戻したり、1日に何度もトイレを使っている様子から腹を下していたりと…やはりあの食事は質としては下の下なのだろう。
さすがにこのまま檻の中で無為に時間を潰すのは勿体ないので少し街中を見て回ろう。
当然、脱獄などするつもりは今のところは無い。
解決策としてハチとの念話の中で『遠隔視』という魔法があることを知った。
これは魔法によって生み出された第3の目を外に飛ばすというものだ。
現代風に言うならドローンみたいなものだろうか。
魔法で作られた目は実際に見えるわけではなく、ある空間にある風景を術者に送るというものなので魔法を阻害する要因が無い限りはどこでも覗けるという訳だ。
……察しの良い諸兄ならお気づきだろうが、これは当然あーんな場所やこーんな場所を覗く事も出来る素敵な可能性を秘めた魔法だ。
…念を押しておくがしないよ?
とにかく、GMにはすべての魔法とスキルが備わっているので『遠隔視』を発動してみる。
若干視線が前にズレた気がした。
振り返ると私――長い銀髪の超絶イケメン(自称)は座禅を組み、瞑想中といった所だろう。
まるで瞼の裏にスクリーンがあるようなイメージと受け取ってもらえれば良いだろうか。
私はさっそく檻を抜け、兵士の詰め所を少し観察していく。
"詰めている兵士は3…4…6人か、どれも装備は量産品…質はあまり良くない…と"
詰め所の外は中々に区画整理が行き届いているように感じた。
上空からは一度見たことはあったがやはり中から見るのはまた違う味がある。
詰め所が街のどこに位置しているかまだ把握できてないがぶらっと歩いて回るのも一興だろう。
「冒険者の方々寄ってってよー!アーノルド工房の新作武器展示しているよー!!」
「オース名物の挟み肉はいかがー!奥さん、お昼にどうだい?」
「冒険者ギルドからの払下げ素材だよ!今ならスケイルベアの鱗がお買い得だ!」
"中々の活気だ、あの挟み肉…パンで味付けされた肉を挟んだ、まさにハンバーガーの原型みたいなものじゃないか。それと武器工房はどうだ?"
視線はアーノルド工房と書かれた店の中に入っていく。
店の中には片手剣、短剣…槍、斧系など種類毎に分けられて並べられており大半は鉄製で価格は銀貨数枚から十数枚…マルダはこれでも駆け出しの冒険者には高価だと言っていたな。
鉄製は専用のラックに立てかけられたり、展示台に並べられている。
それらとは扱いが違うシリーズがある、高い位置に展示され容易に手が届かないところにある。
鉄製とは違い、鉄に混ぜ物をした合金…いわゆる鋼だろう。
価格が銀貨20枚からとなっていることから高級品という事が推察出来た。
ひと際目立つのが店内中央に置かれた専用の置台に建てられた飾り気の少ない1本のロングソード…ショーケース代わりの檻で囲まれ、鎖で繋がれこれでもか!というほど厳重に囲っている事からこの店の最上級品なのだろう。
どれほどのものかと見てみると刀身が仄かに光っている。
値札は『ミスリル製ロングソード』となっていて価格は何と金貨10枚。
"日本円にすると……100万円!?"
銅貨1枚が10円として、銅貨100枚と銀貨1枚が同じだから銀貨1枚は1000円…銀貨100枚は金貨1枚…つまり10万。
まだこっちの平均月収や食費等を知らないので何とも言えないがとても価値のあるものなのだろう。
余談だがアイテムボックス内の装備品としてのミスリルロングソードは装備品レベル13だ。
以前にマルダにプレゼントしたミサイル・スピアはレベル20という事は概算だが100万円以上をポンっとあげた事と同義という…今にして思えばかなりの事をしていたのか…ちょっとだけ反省。
冒険者の武器についてはある程度把握できた。
予想よりもこの街の装備レベルはお察しだ、オース以外も調査しないと全体的な事は言えないがな。
次は食堂や露店の価格の調査を…と視線を外に移動させた。
"ハンバーガーのようなものの他には…焼き鳥っぽいけど肉は違うもの…フルーツに…焼きそば?"
同じとは言えないがそれっぽいものが数多く存在していた。
特にハンバーガーもどきは人気なのか、人だかりが中々途切れない。
これは生殺しだ、視覚だけで香りを感じれないのが非常に悔やまれる。
"主よ、散策中だろうがこちらに動きがありそうだ。早々に戻るのが良いと思うぞ"
"分かった"の言葉と共に魔法を解除すると世界が闇に包まれる。
目を開けると牢屋にいるという事実は変わらず…先ほどの賑わいが恋しい。
…耳を澄ませると階段の上から怒号が聞こえる。
これがハチの言っていた動きかな?
「何にしろこれは重大な責任問題だ。どこで連絡の齟齬が起きたか明日までに詳細をまとめて私に報告するように!」
怒気を押さえられないような足取りで階段を下りてきたのは年齢は50そこそこぐらいのおじさんだった。
髪は短く揃えられていて顔には大小様々な古傷が見えることから以前は冒険者や兵士とかだったのだろうか。
今は仕立てのいい服を着ていることから何らかの管理職にでもついているのかな?
目的は…もしかしなくても私達だろう、私たちの牢の前で止まったのだから。
さてどんな沙汰が待っているのやら…。
「……貴方がアダム殿でよろしいか?」
「はい、確かに私はアダムと名乗っていますが…」
「誠にッ!申し訳ございませんッッッ!!!」
それはもう見事な土下座スタイルであった。
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