とある亜人少年の悩み
ちょっと自己中な言い分が含まれます。
僕はキーヌといいます。
猫型亜人が多くを占めるダリという集落に住んでいます。
この集落に限らず亜人種というのは大体に成人の儀式というものがあり、儀式は例外なく苛烈なものです。
どれくらい苛烈かというと…対象者が10人いたら3人くらいは重症で2人くらいは…死んでしまいます。
儀式自体はあくまで試練を生きて乗り越えられれば合格というものですが、毎年1人か2人は帰って来ません。
内容は、試練の洞窟にてとあるモンスターを倒すという事は分かっているのですが誰も内容を教えてくれません…。
爺様方は「試練に公平性を持たせるため」と言っていますがそれは死者を出してまで行うべき事なのでしょうか?
僕がなぜ集落の伝統に疑問を感じているか…それは僕も死ぬだろうという確信があるからです。
猫型亜人はいくつもの細かい種族に別れていてその能力は種族毎に大きく違います。
例えば獅子…これは猫型では最強です。
獅子型として生まれただけで勝ち組です。楽しい人生が待っているでしょう。
次に虎や豹型…獅子に次ぐ能力を持っています。こちらも結構な人生を送れるでしょう。
ちなみに僕は細かく分類するとイエネコ型に属します。
まごうこと無きネコ科最弱です…。
つまり、僕は最弱の種族なのでもうすぐ行われる試練で死ぬ…という事です。
試練を受ければ死ぬ、試練を受けなければ弱者として追放…どっちにしても死ぬ事に変わりはありませんが試練を受けて死ぬのは名誉、追放は一族の恥として家族にまで迷惑が掛かります。
僕の姉はチーター型というそれなりに強い種族に生まれ、4年前に試練に合格して集落を出ました。
同じ親から生まれたのに僕は最弱のイエネコ…。
ちなみに父はジャガー、母は山猫です。
聞いたところによると母のおばあさんのおばあさんぐらいがイエネコだったと聞いたのでその血が色濃く出たのだろうという事でした。
生まれから不幸なんです…。
この集落でイエネコ型は僕1人きり。
いつも虐められていました。
集落の同年代の子を集めた教えの場での字や計算は一番でした!
これだけが僕の誇りです。
でも競争や狩り、模擬戦闘などはぶっちぎりで一番下です。
そのせいか模擬戦ではいつも標的にされ、ご飯を盗られた事も何度も…。
しまいには「亜人くずれ」「猫もどき」と言われた事もいっぱいあります。
それを父に話すと「情けない!」と殴られるし、母も「お姉ちゃんは立派だったのに…」とあきれ顔です。
仕方ないじゃないか!
姉さんは種族としても長所があった!
父も母も何かしら長所があるじゃないか!
僕には無い!
2人に僕の気持ちが分かってたまるか!
試練を受けて死ぬのも怖い…
誰でもいいから助けてよ……お姉ちゃん…会いたいよ…
― ― ― ― ― ―
僕の夢の中に出てきたのは人種…だと思う人だった。
人種は種族の中で最も欲深く、自己中心的で亜人を奴隷として捕らえるので接触してはいけないと教わった。
その人はとてもきれいな髪をしていて真っ直ぐにこちらを見つめる瞳…教えの場で聞いた人種とはまるで違うと感じました。
「亜人の少年キーヌよ…助けを求めるか?」
「助けてください!」
僕は誰とも知らない人にまで助けを求めるほど追い詰められていたのでしょうか。
「助けるのは構わない。だが何からどう助けるのかを判断するためには君の話を聞かせて欲しい。」
なんと澄んだ声だろう…森の小鳥の囀りのように穏やかだがお姉ちゃんのように静かに、身に染みるように感じてしまう。
僕は…初めて会った人なのに僕の置かれた状況と理解してくれない周りの話を何故かしてしまったんだ。
夢だから関係ないと思っていたのかな?
「なるほど…試験を受けても死ぬだろうし追放されても野垂れ死ぬと…で?私にどう助けて欲しいのだ?魔法の武器でも欲しいか?身を守る術か?はたまたこの集落でない所へ行きたいか?」
「え…そんな事もできるんですか?」
「何でも出来るだろう。だが――」
「だが?」
「君は頭が良いようだ、だからこれだけは覚えておいて欲しい。」
「?」
「私の手を借るという事で試練に合格することは出来るだろう、しかしそれは今まで試練で死んでいった者たちを侮辱する行為だという事だ。いや、死んでいった者だけでは無いな…合格した者もだし、君の姉も裏切る行為だ。」
「!!」
考えもしなかった。
父も母もお姉ちゃんもみんな試練を受けているんだ。
集落にいる大人はみんなそうなんだ。
「私は君たちの掟をどうこう言うつもりは無い。もちろん君がその試練に関して疑問を持つことも否定はしない。人の目線からすれば野蛮だ、という意見もあるだろう。しかし、それは部外者の話だ。」
そう、これは亜人が住む集落に限った話です。
外の人が何を言おうと変えられません。
「それに君は、変えようとしたのか?」
「僕は最弱の種族なんだ、どうやったって変えようがないよ…。」
「掟じゃない、君自身の事だ。」
「え?」
「君は競争や狩りで負けてそのままだったのか?」
そうだ、僕は負けて自分がイエネコだから…と諦めていました。
「次は勝てるように、勝てないでも食い下がれるように…と考えなかったのか?」
確かにイエネコは最弱だ…だけど母のおばあちゃんのおばあちゃんはイエネコだったけど集落に居たという事は試練を乗り越えたという事…。
つまり、やり方によってはちゃんと生き残れるという事だ!
「目の色が変わったな。」
「僕は…イエネコであることで自分を変えるという事を考えないようにしていた…のだと思います。」
その人は僕の話を静かに聞いてくれている。
「負けて、不貞腐れて…強くなろうとしていなかった。僕の先祖にはイエネコが居たそうです。その人は試練の末に生き残った…だから僕が生まれたんです。」
「そうだ、どんな種族であれ可能性はある。努力する者が努力しない者に負ける道理はない、少なくともその『心』では負けていない。」
「僕…試練までに間に合うか分からないけど今からでも強くなる努力をします!」
「その意気であればもう私が言う事は無いが…せめて応援はさせて貰おう。」
その人は何かいろんな色で飾られた入れ物を僕に渡してきた。
「これは?」
「それは自分の体を強くする魔法の粉が入っている、魔法の…と言ったが誰もがその粉を口にしても強くはなれない。 それは自分の体を強くするために努力を重ねた者にのみ効果を与える粉だ。」
「でもこれを使ってしまえば…」
「もし気になるのなら使わずに捨てても構わない。」
「…分かりました。でも僕はこれに頼らずまずは自分の力だけで頑張ってみようと思います!」
「それもまた1つの答えだ…それともう1つだけ。君には取り柄が無い訳ではない…その聡明な頭があるじゃないか。」
そうだ、年長者に比べればまだまだだけど同年代では誰にも負けないものがある。
「夜明けも近いな、また会おう……少年よ。」
ハッと目が覚めた…。
まだ太陽も登らぬ薄暗い朝…鶏ももう少しだけ寝ているような時間です。
夢…にしては鮮明に覚えていると思いました。
そして僕の枕元に目をやると夢でみた入れ物が置かれていました。
「夢じゃない!」
僕は跳び起きてその入れもをを手に取りよく見ると文字のようなものが書いてあるけど読めません。
人種の言葉とも違うようです。
入れ物は上が蓋になっていてパカっと取れて中には粉がぎっしりと詰まっていました。
これを使えば…。
前の僕であればすぐさま使っていたでしょう。
でも僕は…変わると決心したのです。
ちょっとだけでも自分の力だけで頑張ってみよう。
まず最初に…体力をつけるために走ってみるか!
― ― ― ― ―
「あれで良いのか?」
「あの子にはあれで良いんだよ。」
「そうなのか。」




