移民第1号?
「はい、皆さんもう目を開けてもいいですよ。」
転移先は私にとってはいつもの廃教会だが元奴隷の黒猫、チーターの亜人、土精、耳長には当然初めての場所だ。
「ここは…オースの街の更に北にある村です。」
「オースの更に北じゃと!?」
「本当なの…?」
「まさか北の果てに来ることになろうとは…」
「あまり…寒くないですね。」
十人十色…十人も居ないけど、住人はいるけどね!
寒いのはギャグだけにしておいて…。
教会の外に出て村を見せるとそれぞれに納得したようだ。
「確かにあそこに見えるのはオースの北部に広がる肋骨山脈、見え方は多少違うが鋸歯のような山はそう有るものではない。」
「周りの森の木々も南部ではほとんど見ない針葉樹ばかり…それに家の構造も違うわね。」
「……」「……」
亜人の2人は先程から疑うこともなく受け入れているみたいだ。
後ろにメイド3人娘もいるが教育の賜物か特に驚いている様子はない。
太陽は山陰に消えるのも時間の問題という時間帯なのでそろそろ村長も家に帰る頃だろう。
「それではこの村の村長に挨拶に行ったら家を建てましょうか。」
計4人+メイド3人をぞろぞろと連れて村長宅へ向かう。
どこの家も夕食の準備か家の煙突からは煙が立ち上り、もともと人口がさして多くないので出歩いているのは極少数だ。
今のぞろぞろと家来を連れて歩くような姿は見られたくない。
幸いほとんど見られることは無かった。
ほとんどと言うことは多少は有った訳だが割愛してもいいでしょう…。
村長宅に行くと不在、とのことで奥さんに促され建築予定場所に案内された。
村の入り口からほど近く、しかし集落からは若干の距離を感じる。
新しく入る人との距離感を考慮しての選定だろうな。
「夫からはこのあたりに建ててくれれば問題ないと伺ってますのでどうぞご自由にしてください。」
「分かりました、では…」
もう慣れたもので今まで公爵邸に置いていた物と同じコテージ(大)を指定された場所に設置した。
奥さんは当然初見…というかこの村ではやったこと無かったことを思い出した。
メイドの3人は既にそそくさとコテージに入って行ったのは夕食の準備の為だろう。
「まぁ…アダム様は何でもできるのねぇ…これなら家も新築にして欲しいわ。」
「そうですね、ま…それは折を見て…」
「うおっ、なんだこれは!!」
「いつの間に建築したのかねぇ…」
「村長宅より立派じゃないか!」
顔役3人のお出ましだ。
最初に喋った声のデカさと筋肉が特徴的なキニーク、村の狩猟や建築関係を仕切っている。
2番目はジェイ、結構な老齢だが村の知恵袋として活躍しているらしい。
最後はオーバ…40代そこそこの恰幅のいいおばs…お姉さん。村では数少ない魔法が使える戦闘経験者だそうだ。
「おや、顔役のお三方ではありませんか。」
「おう!久しぶりだなあんちゃん! で、この家はなんだ!?」
「新しい住人用の家ですよ、今しがた建てました。」
「キニーク!少し静かにしな! 煩くしてすまないね、あたしはオーバ。この村の顔役の1人さ、あっちの爺さんはジェイ、分からないことがあれば何でも聞いとくれ。」
オーバが会話の流れを作り自己紹介を行う。
空気を察したのか新しい住人達も1人ずつ挨拶をしていった。
「キニーク殿、ジェイ殿、オーバ殿だな。私はゴート・ダリ…見ての通り黒豹型の亜人で元傭兵だ。よろしく頼む。」
「私は…キルト・ダリです…同じくチーター型で元傭兵です…よろしくお願いします…。」
「なんじゃ、自己紹介の時間か? ワシはビルド・ドドール。見ての通り土精種じゃ、鍛冶の事なら任せてくれ!」
「そういう事なら私も……ミルレート・ロ・サランドラよ、種族は違うけどよろしくね。」
私自身、確認していなかった事もありみんなの名前をちゃんと聞いたのは初めてかもしれない。
何よりも…黒豹を黒猫と間違えたとか恥ずかしぃー!
しかも何回か黒猫って言ってしまってる気もするし!!
まぁ、やっちまったもんはしょうがない。
顔役の3人と早い段階で顔通しと名前通しが出来たのは幸いだろう。
こうなってしまえば村の中に名前が広がるのは早いものだ。
「皆さん、いい機会ですから今夜はこの家で宴会でもどうでしょう。新しい住人が早く村に馴染めるように顔役のお三方には手伝って頂きたいですし――あぁ、もちろん村長さんやその家族も交えて。」
宴会という単語にキニークとビルドがピクッと反応した。
「料理や酒は私が振舞いましょう…いかがですか?」
「まぁ、それは助かるわぁ」
「「マジか!」」
キニークとビルドがハモる。
この2人、意外に精神構造がそっくりなのではないか?
「さすがに村の皆さん全てとなれば少々手狭なので…主要な方々だけであれば大丈夫でしょう。」
「あらまぁ…さっそく夫を呼びに行ってきますね。」
「よっ!あんちゃんふとっぱらだねぇ!」
「ほっほ…どのような酒宴になるやら。」
「ワシは強い酒があればそれで良いな。」
「美味しいワインが欲しいわね。」
みんな好きに言ってくれる。
だが、それでいい。
仲間が増えるという事は楽しさは倍、悲しい事は半分こだ。
少なくとも私が面倒を見る間は悲しい思いなどさせはしないさ。
そうだ。
私が管理するのは『幸せな世界』だ!
― ― ― ― ― ― ― ―
酒池肉林とはこのことを指すのだろう。
私は台所でひっきりなしに食事を出し、メイドがそれを盛り付け、配膳し、片付け、お酒を補充して回る。
この世界…いやこの村の人たちの胃袋はどうなっているんだ?
参加人数は村長家の3人、新住人4人、顔役3人…ちなみにメイド達はほぼ食べていないのに既に30人前の食事が消えている。
酒に関しては瓶の山が出来始めたころから数えるのは止めた。
2時間経たずにこの結果だ。
「キニーク!ほれ盃が空じゃぞ!」
「がははははは!すまんな! んっ…んっ……ぱぁー!! あんちゃんの酒は格別だな!!」
「お前らばかりずるいぞ!村長である私を蔑ろにするな!」
あんたらが一気しているのウイスキーの原液なんですが…
「この肉もうめぇ!こっちヤツも見た事無いけどとにかくうめぇ!!母ちゃんの料理なんて目じゃねぇ!」
「悔しいけど確かにおいしいわねぇ、あとでアダム様に教えてもらわなきゃ」
「鳥に…牛だけど手の掛け方が違うねぇ」
「ふがふがふが…」ガツガツガツ…
「ふぐふぐふぐ…」モグモグモグ…
子供に揚げ物は外れ無し…それと奥さんすいませんが作り方は教えれるほど上手くありませんのでレシピ本を翻訳して渡しますね。
あとそこの猫型亜人2人、食べ物は逃げないからもっとゆっくり食べなさい。
「…ぷはぁ~…この香り…長生きはするもんじゃ人生で初の味わいじゃわい…」
「私も人種よりは長生きだけどこんな深みのあるワインは初めて…里でもこんなワイン作れないわ…」
こちらは年寄り…失礼、静かに酒を堪能するグループだ。
つまみもナッツから干物、チーズと通好みのものが多い。
宴会が幕を引いたのはそれからさらに2時間後、料理が更に倍…酒の瓶は一度片づけたが同じ山がもう一度出来たところでようやく打ち止めだ。
男どもはそろって机に突っ伏してイビキをかき女性陣は1時間ほどまえに既に席を立っていた。
メイドたちは隠すことなく疲れた姿をソファーや椅子に晒しぐったりとしている。
あれだけの激戦だったのだ多少の無礼講は目を瞑るべきだろう。
「3人ともご苦労だったな、今日はもう休んで良いぞ。」
「「「は~い」」」
「私はこれで帰るので皆によろしく伝えてくれ。」
「「「かしこまりました~」」」
管理者の間に転移するとドスドスと音と威圧感を纏いながらハチがこちらに向かってくる。
「主!!! 飯!!!」
私の第2ラウンドの鐘は今鳴らされたばかりだった…。




