ちょっとお話しましょうか2
「アダム様、我が家で昼食でもいかがでしょうか。妻の料理は絶品ですよ。」
「どうぞ食べていってくださいね。」
しまった…リリアナの家からも誘われてるんだった。
この体は耐性を付けている間は食事を必要とはしない…腹が減らない所に押し込んでは美味いものもそうは感じれないだろう。
この誘いを切り抜けつつ、リリアナ家への誘導も迅速に行わねば…
「いや、お気持ちだけ頂いておきます。今日はこの後で別の用事が控えているもので…次の機会にごちそうになりますよ。」
「そうですか…お気になさらず、では次の機会をお待ちしております。」
「ああ、それと昼食時にはゲント君を私の代理としてリリアナの家へ向かわせては貰えませんか?」
「それは構いませんが…?」
意図を掴みかねているのだろう。
まぁ、リリアナとの距離を多少でも短くしてやろうかなという細やかな企みだ。
挨拶をし、村長宅…アダム村を後にする。
― ― ― ― ― ―
お昼を誘われるだけあって確かに間もなく昼食の時間だろう。
我が家の腹ペコドラゴン様も喚いている頃だ。
管理者の間に転移した私はちょっと驚いた。
広いとは言えない管理者の間をデカく赤いドラゴンがのっしのっしとランニングしていたのだ。
これは、朝の爆弾が効いているな。
「ハチー! 飯にするぞー!」
「!! ハァ…ハァ…今…いくぞ…!」
人化してこちらに向かってくる姿はもう汗だくで上着がぐっしょりだ。
もしかして朝からずっと走ってた?
「飯の前にまずシャワー浴びてこい、そのままじゃ風邪…は引かないかもしれないが暑苦しい。」
「うむ…ハァ…昼は肉が…ハァ…良いぞ…」
「はいはい」とシャワーに向かうハチを尻目にテーブルに食事を用意する。
今日のメニューは肉が良いということでかつ丼、牛丼、から揚げ丼の3種の丼を用意してみた。
こっちの世界では米はそれほど馴染みは無いようだがハチは気にせず弁当を食べていたし、日本人にとって米は魂だ。
「飯だ!肉だ!」
暴れん坊のご来店です。
その前に…
「体を拭け!服を着ろ!」
「むぅ…我は気にしないというのに人とは本当に面倒な…」ブツブツ
いくら男しかいないとはいえ、ソーセージをぶら下げてる脇で飯が食えるか!
結局、丼物はすべてハチに食われ私はコンビニ弁当で済ませましたとさ。
― ― ― ― ― ―
午後は優雅にティータイム…としている暇はない。
いや、差し迫った納期があるわけでもないが救済メールが来ない間に出来る限りのことはしなければならない。
「…私はまた出るが…お前は出る気は無さそうだな…」
「我は今、非常に満たされている…お仕事で無いのなら留守番するぞ…。」
「はぁ…いってきます。」
ソファーからひらひらと手を振るドラゴン様…そのうち酷使してやるからな。
3度、4度となれば門番も慣れたもので顔パスで通してくれる。
元奴隷の家の前ではアイン、ツヴィー、ドリィが出迎えてくれた。
「「「おかえりなさいませ」」」
いや、分かってはいるんだが突っ込ませてくれ。
その家は私の実家ではない。
…いやメイド喫茶などは来店の度に「おかえりなさいませ」だから合ってるのか?
「出迎えご苦労様、公爵からの時間の返事は来ましたか?」
「はい…"いつでも予定を開けますのでお好きな時間を"と承っております…。」
「…であればこれからお会いできるか確認を取って下さい。」
「畏まりました。執事長をお呼びします。」
ツヴィーが魔法の呼び鈴をチリンチリン…と鳴らす、振り返るといつの間にか背後に執事さんがいた。
「速いですね…まったく気づきませんでした。」
「驚かせてしまって申し訳ございません。次回はもう少し分かりやすく参ります…旦那様は書斎でお仕事中ですので応接室で少々お待ちください。ドリィ、案内を。」
「畏まりましたッ、どうぞこちらへ!」
本当にこの家の執事、メイドの練度には驚かされる…どうやって報連相を完璧にしているのか後で教えてもらおう。
「しばしお待ちください。ただいまお茶をお持ちします!」
会釈をし、ドリィが退室する。
相変わらず調度品の質は良い、こういうセンスは見習いたいと思うがセンスが皆無な私では良いものがあっても飾れない…まさに豚に真珠かな。
トントントン…と落ち着いたノックの音。
「失礼します、イヴ様お待たせして申し訳ない。」
「いえいえ、こちらこそ急に押し掛けたのですからお気になさらず…」
あの誘拐からまだ2週間程度、若干のやつれた感じは消え精力的な働くベテランと言った空気を醸し出している。
ビジネスの基本は何気ない話から…本題は後に取っておくものだ。
「その後、奴隷絡みの件はどうででしょう。 少しは違法な奴隷は減りましたか?」
「明確な進展があるとは言えません…今は下準備として奴隷を登録制にして、まずはどれだけの奴隷が居るのかを把握しようとしている段階です。」
「そうでしょうね、先の豚…ブタールのように隠している輩も多いでしょう。」
「それもあります…そして現在も外からもどんどんと奴隷が入ってきていますので中々…。」
ここで私にピコーンと電球が光った。
ブタールの件をもっと大々的にして抑止力に出来ないだろうか。
実際、ブタールの後にも数件ではあるが違法に奴隷にされた人種、亜人種に酷い…いや惨い扱いをされていた耳長種を助けている。
「コーウェルさん…あまり大きな声では言えませんが、私はこの王都で違法な奴隷の解放をすでに数件行っています…これを噂として広めることは出来ませんか?」
ナイスミドルの思案タイム。
丁度お茶とお菓子が運ばれてくる。
メイドが一礼し、扉を閉めると公爵が口を開いた。
「なるほど…違法な奴隷を囲っていると『どこかの勢力』によって奴隷の解放が行われると、行っているのは王国とは関係の無い勢力であり私たちは腹を探られても痛くは無い。
実際に奴隷解放を行っている集団はそれなりにありますし、それを問題視した王国は政策によって国内の正常化を目指している…うむ、行けそうです。」
私はそこまで深読みしていなかったが、ここは乗るべきだろう。
「ええ、私が救うのも条件が重ならないと無理ですが同業者が――となれば自分たちも…と思ってくれるだけでも価値はあるかと。」
「情報に聡い貴族や商人にはすでに事件を知っているものは多数います。これは私の方で手をまわします。」
「よろしくお願いします。」
コンコンコン…
「お話し中失礼致します、イヴ様、ご機嫌麗しゅう。」
まさにお姫様と言ったイメージ。
今日はずいぶんとおめかししたのか白地に紫の刺繍が入ったドレスに髪に似た赤い宝石が付いたイヤリングと赤の髪に映える白銀の髪留め、舞踏会に出るのではという出で立ちだ。
頬が若干赤いのは化粧のせいだろうか。
「ごきげんよう。お元気そうで何よりです。」
「メリー、すまないが今はちょっと込み入った話をしていて「構いませんよ」
無礼ではあるが会話を切らせてもらった。
メリーベルにも用事があったからだ。
「ちょうど用事の1つが終わらせられそうなので構いません。」
懐から全く同じ指輪を3つ取り出し、テーブルに並べる。
「コーウェルさん、メリーベルさん、奥様で1つずつ身に着けてください。」
「まぁ…綺麗な青い宝石…だけどサファイアでは無いようですね?」
「こちらは魔石を使った指輪です。ご自身の身が危ういときにきっと役立つでしょう。」
もちろん、魔石を使った――っていうのは設定だ。
どんな魔石やら魔法を使って作られているのは知らない…重要なのは効果だ。
「こちらを身に着けてある言葉を呟けば…最後に睡眠を取った場所へ転移することができます。」
「っ!?転移の指輪!!?」
「ええと、転移というと今はもう使える者がほぼ居ない失われた魔法というものですか?」
「私自身は使えるので気にしたことはありませんでしたが、皆さんの反応を見る限りそうらしいですね。」
ハチにも以前確認したが転移を使える者は多くない…というよりもほぼ居ないと見たほうがいいそうだ。
最高クラスの召喚獣ですら数人(体?)いるだけらしい。
「転移の指輪…失われた転移魔法を封じ込めた特級品…本当にこのような物よろしいのですか?」
「公爵家の敷地とメイドの借用料、あの元奴隷達の食費…という事で受け取って下さい。使い捨てですし、まだいくつか持っているのでお気になさらず。」
「ははは…イヴ様には驚かされることが多くて少々堪えますな…」
「驚かしついでにもう1つ…イヴというのは偽名ですので、これからはアダムと呼んでください…それと勘違いされて居たら申し訳ないのですが、私は歴とした男ですのでお間違いの無いようにお願いします。」
「まぁ!」
「は…え?」
あれ?なぜメリーベルさんは喜んでいるの?
お話回が続くなぁ…(いい意味で)手を抜くような表現を覚えないといかん。
評価、ブックマークいして頂けるとウレションします。




