ちょっとお話しましょうか1
「あら貴方、今日は早いのね?」
「来客だ、お茶を頼む。」
はいはい、と言ってお茶の準備に消える奥さん。
私の姿を見たエミエは非常にバツが悪そうに視線を合わせようとしない。
「村長さん、エミエさんを解放したのですね。」
「ええ、どんな事実があるにせよ…『こんな幼気な娘をいつまで軟禁しているんだ!』って村の女性陣がうるさ…ごほん、意見が多くてですね…」
「ははは、村長の肩書も女性の強さには勝てませんか、でも話が速くて助かりました。今日はエミエさんにちょっとお話が有ったもので。」
「っ…私…ですか…?」
尋問した者、された者…それに私の実力を間近で見た彼女からすればあまり良い印象は持っていないだろう。
身構えるのも納得だ。
「あまり警戒しなくてもいいですよ、今日は貴女の魔法知識を見込んで相談に来たのですから。」
疑うような目線…さもありなん。
あのゴーレムはレベルだけなら世界クラスでもちょうど中間ぐらいに位置する。
まだこの世界でのトップレベルと言うものを知らないため確実なことは言えないが、一国が軍事利用を考える程度の性能を持っているということは…日本の現役の戦車とでも思えばいいかな?
仮に戦車と仮定しても何十年と修行を積もうが人は戦車には勝てない。
こっちの人間…人種はあっちの世界とは違い魔法というものがあるとはいえ拳大の火の玉を撃つのが関の山だ。
これはゴブリンの巣で冒険者を助けた時の対応や公爵の家族を救出した際の揉め事からの経験則だが、エミエの目には私が『投石で戦車を破壊する化物』と見えているのだろう。
この仮定はあながち間違っていないとは思う。
沈黙の中に村長の奥さんがお茶を用意してくれる。
「ずずず…はぁぁぁぁお茶美味しいですねぇ」
「それほど良い葉を使っているわけではありませんが…」
ノンノン、と指を振って村長さんを窘める。
「誰かのために気持ちを込めて淹れてくれる…これが美味しくない訳ないじゃないですか」
「あらまぁ、アダム様はお上手だこと♪」
うん、お世辞は抜きにして美味しいのは本当だ。
あとでお菓子でも差し入れよう。
「エミエさん、魔法の効果を持った紙を作れますか?」
「……攻撃魔法のスクロールとか…ですか?」
「んー、そこまで直接ではないのですが…相手に軽い呪いを掛けると言えば良いでしょうか。」
「呪いのスクロールは専門外だけど…出来ない事はない…です。」
「誰かを呪うとは穏やかな話ではありませんね…」
チラッと村長の視線が険しくなる。
信仰とか契約書の話を全てすると面倒だから隠しておきたいんだが…多少かいつまんで説明するか。
かくかくしかじか
「なるほど…祈りを怠る輩が多いので軽い罰を与えれないか…と。まったく不遜な話ですな!」
「ええ、本来ならば強制すべき物でもないのですが、守るべきを守らねばいずれ広まり収拾が付かなくなります。分かって下さいますか?」
「分かりますとも!我らアダム村は名に恥じぬよう務めておりますので、そのような不遜の輩は許しておけませんな!」
何とか誤魔化せた…それにしても村長含めこの村の信仰度高くない?
「軽い罰と言っても私は呪いについて詳しくありませんのでその辺りもお話できれば…と思って。」
「……分かりました。呪いはアカデミーでの授業でやった内容であればなんとかなると思います。」
「助かります。それで聞きたいのは、『相手に強制できるか』と『どんな事が出来るか』です。」
「授業では初級と言えども魔法に属する話なのでちょっと話が長くなります…書くものありますか?」
エミエ先生の魔法:呪いの授業…初級編
まず呪いは魔法の中で呪法という分類になっており、攻撃、支援、補助…と数ある分類の中の1つ。
主に対象者にデメリットを与えるのが役割となっている。
ゴーレムと並んでマイナーな部類であり、一歩間違えば自分が呪われたり、生贄…触媒が必要だったりと高位になるほど危険度が高い。
デメリットの大きさと危険度から上級を収めた人は居ないとされてる。
私が聞きたかった内容としては、『相手に強制できるか』というのは制約魔法と一般的に呼ばれる初級呪法らしい。
よく使われるのは奴隷の『制約の首輪』等の呪具、場合によっては国家間の約束事に『約定のスクロール』というものが使われるらしい。
…良いのあるじゃん。
アイテムボックスを探してみたら……あったよ。
ただし、白紙だがこれで内容と書いてくれる人さえ決まれば製作と量産の問題は一気に解決だ。
『どんな事が出来るか』は、それこそ魔法として行使可能なものはほぼ可能とのこと。
呪法はあくまで『向ける』だけで呪いの正体は別系統の魔法とのこと。
攻撃スクロールであれば攻撃系の魔法を込め放つだけ。
それが呪法のスクロールになれば攻撃が『自分に向く』に変わる…いわゆる方向の変化が呪法の特徴らしい。
前述したが詳しく修めた者が皆無の為、研究が進まず定義としても曖昧な部分が多いらしい。
「なるほど、逆に言えば魔法として使用可能なものしか相手に与えれないということですね。」
「そうです。例えば相手を何処かに転移させたり、出来もしない高ランクの召喚獣を呼び出させたり…です。」
…その2つを使えるのはとりあえず黙っておこう。
「とすれば…困りましたね、軽い罰を考えていたのですが現実的な案が少々難しくなってきました…。」
「…『沈黙』などはどうでしょう。」
「なるほど、それは妙案だ。命にも関わらず日常生活にもそれほど支障は無い。」
二人だけ納得しているけど…『沈黙』は――封印魔法か、文字のごとく沈黙…喋れなくなる。
魔法を使うには詠唱なり技名を出す必要がある…つまり喋らなければならないがこの魔法が聞いている間はしゃべれない。
魔法士にとっては致命的だが、生活に多少不便がでるくらいか。
マホ○ーンやサイ○スだな。
「うん、現実的な案です…これで行きましょう。」
実際の作り方は『約定のスクロール』のヘルプに書いてあったし、中の文面さえ完成すれば当面の問題はクリアだ。
「やはり相談して良かった、これで完成までの目処が立ちました。お礼と言っては何ですが…エミエさん何か欲しい物やして貰いたい事などありますか?」
「……」
あら、俯いて拳を握りしめて…?
「ゴーレムを…作らせて欲しい…。」
流石に反旗を翻すつもりでは無いだろう。
単に趣味かライフワークか、いずれにしろ彼女とゴーレムは切っても切れないものなのだろう。
幸か不幸か私にはそういった類のものが無かったからあっさりとこっちの世界に居つく決心が出来たわけだが。
「な、何なら作ったスクロールの実験台になっても構いません!」
「私は構いと思いますが…村長さんはどうですか?」
「……私は村民の守る義務があります。ですので両手を上げて良しとする訳にはいきません。」
こちらも当然の言い分だ。
「ですので、例えば…先程の話のスクロールで『村人を守る』という制約でもかければ可能かもしれませんなぁ」
さも独り言のように解決案を…白々しいが嫌いじゃないよ村長さん。
「そうですか…では試作のスクロールが完成したらまたお話しましょうか、エミエさん?」
「はい!よろしくお願いします!」
ずずず…あーお茶が旨い。
「話は変わるんですが村長さん、この村に最大で6人ほど移住させようかと思うのですが…可能ですか?」
「アダム様の紹介ですから喜んで受け入れさせて貰いますよ。」
「それは有難い話です。住居はこちらで用意しますので早く村に馴染めるように手伝ってあげて下さい。」
「それはもちろん!人手が多くなればもっと狩りに農業と幅広く動けますからな!」
「いやぁ、良かった…これで懸念していた案件の1つがようやく片付きそうです。」
今更ながらにお茶菓子をテーブルに広げつつ、雑談を楽しむのだった。
お菓子につられて奥さんも会話に混じりお菓子に舌鼓を打っていた。
「エミエさん、ゴーレムって簡単に作れるものですか?」
「え、ゴーレムですか?…おほん、解説いたしましょう。ゴーレムというのは人型を模した人形タイプを指すように認知されていますが実は人形型を含め、動力として運用するための駆動型、防御に特化した自立型と大きく3種類に別れ――」
私は地雷…いやスイッチ入れてしまったらしい。
洪水のようにゴーレムに関する知識を垂れ流している。
村長も奥さんもぽかーんとしているじゃないか…。
「―――そして私が得意とするのは主に人形型で、自立型とは違い魔力結晶に簡易な命令刻印を刻む事によって――」
「ごほん! エミエさんのご高説は後でゆっくり聞くとして…例えば今の貴女では作れないのですか?」
「すっすいません!!ゴーレムに関する事だとどーしても気分が上がってしまって……えっと、簡単に言いますとどんなゴーレムでも核となる部分が必ずありまして――」
ここからの解説は分かりやすかった。
ゴーレムは種類問わず『核』となる魔力結晶なる物が存在する。
これは自然界のみで発生するもので主に高い魔力を持つモンスターの体内で長い時間を掛けて魔力が結晶化したもの…まるで真珠だな。
その魔力結晶がエンジンでありCPUも兼ねるという話のようだ。
で、現在一番肝心の魔力結晶が無いので何ともならない。
「なるほど…魔力結晶が無ければ核が作れず何も出来ないと…。」
「はい…核となるようなそれなりの大きさを持つモンスターは何れも高難度で仮に取れたとしても目の飛び出るような価格なので…」
「魔力結晶…私も冒険者だったころに幾度か手に入れましたが、親指程度の物でも銀貨50枚は下らなかったと覚えています。結晶が出た日は飲めや歌えの大騒ぎでしたね。」
「結晶は物理的な破損がない限り永久的に動き続けますから、幾ら掛けても欲しい人はいるでしょう。」
ここで私はふと、思い当たる。
高レベルのモンスター、体内から出る宝石のような結晶…あの奴隷商の豚オーナーが召喚?したグレーターデーモンから出た紫色の宝石って…。
はい、ビンゴ。
魔力結晶(大)…高レベルのデーモン系モンスターからドロップする。魔法の触媒や手を加えることでいろいろな用途に使える為、需要は高い。宝石としての価値もそれなりにある。
さっきは小指程度で銀貨50枚…こっちはこぶし大だから金額の予想が付かない。
こういう宝石の類は大きさと値段が比例しないから恐ろしい。
「エミエさん…この宝石は核に使えますか?」
ごとん、と懐から(本当はアイテムボックス)魔力結晶を出し無造作にテーブルに置く。
ギャグ漫画で驚いたときに目が飛び出るという表現を良くするが…最近はしない? あ、そう…
目が飛び出るというのを地で行くくらいエミエと村長が驚愕しているようだった。
奥さんは一般の方なのか、「あら~大きな宝石ね」と驚いている様子は無かった。
「金貨500…いや値段なんて付けれませんよ…これは…」
「こっ…これ!!魔力結晶の最上クラスじゃないですか!!使えるなんてもんじゃありません!これならば今まで非じゃないレベルの出力に魔力充填…制御だって自立型に出来てしまいます…うへへへ…」
今暴走されるとちょっと不味いので制作するのは制約のスクロールが完成してからだな。
思わぬ拾い物が役立つことも分かったし、今日の所はこのぐらいで良いだろう。
「分かりました」と結晶を仕舞うとあからさまにエミエがあぁ…としょぼくれていた。
そんな待てをされてる犬みたいな目をしないの。
消えたと思っていたデータが残ってた…良かった。
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