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ゲームのGMと思った? 残念!異世界管理人でした!!  作者: 黒野されな
2章 戻れない『日常』と正すべき『日常』
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【幕間】キルスティンによるアダムの調査

オースの街にある冒険者ギルドを取り仕切る壮年の男…キルスティン・ギモンは各地より送られてきた報告書の山を崩しながら、吸い殻の剣山にまた1本の針を増やす。

送られてきた報告書は"アダム"、"風変わりな全身鎧"、"異常な身体能力、魔法、資金資材の保有者"の3点を各地に放った調査者に調べさせた物。

大半は、

・同名の人物がいるが一般人

・調査の結果、報告事項は無し

・変わった全身鎧有…貴族が趣味で作らせたフルプレートを発見

・etc…

という大して意味の無い報告書だ。


しかし、玉石混交であることもまた事実。

数百枚…千枚に届くかという報告の中から気になったのはほんの少し…だがこれはかなり真に迫る内容だった。


・アダムと名乗る人物が船から落ち、遭難していた船員を助けた。外見の証言有。

・名前は名乗らなかったが変わった鎧の方が縄張り争いをしていたレッサーフェンリルとキリングエイプを討伐してくれた。

・アダム様は病気の私と家族を救ってくれた、との村民の証言。外見に関しても詳細な報告あり。

・名前は違うが、およそ人種とは思えない能力の人物がコーウェル公爵の縁者という証言と外見の証言有。

・オースの街の入場待ちにてアダムと名乗る旅人に会ったとの証言。銀髪に中性的な顔立ちでハチという従者を連れていた。

・傭兵崩れの山賊集団を見たことのない鎧をまとった人が1人で殲滅していた。アダムと名乗っていた。


見る限りどれも匂う。

どれも本当だとは思うが、同一人物がやっているとは到底思えない…。

アダムという名前は珍しいが国中を探せば数人はいるだろうし、当然偽名の可能性もある。


しかし、その場で名乗るか見せた姿は数パターンしかない…という事は『アダム』と名乗ることにも何らかの意味があると睨んでいる。

特に重要なのは、

・遭難していた船員を助けたとき

・病気の村民を助けたとき

・オースの入場待ちの旅人

この3つが名前外見ともに一致するという事。


もう1つの変わった全身鎧を着ているパターンも、聞いた限りの姿は似通っていた。

英雄と呼ばれる特色ランクですらパーティを組んでやっとのレッサーフェンリルや、それより多少弱いとはいえ集団戦では敵なしのキリングエイプ…。

これらを1人であっさり倒せるなど人物など今まで聞いたことがない。

山賊の件もかなりの確率で同じ人物だろう。


そして繋がりは山賊の時と最初にアダムの案件を知ったゴブリンの巣の件。

この2件は変わった全身鎧の姿でアダムと名乗っている。

この事から…これは私の付けた通称だが、「救いのアダム」と「殲滅のアダム」は同一人物であると考えている。

そう仮定した場合にどうしても解決できない問題が1つだけある。


移動方法だ。


船員を助け、送り届けた港町サリッシュはオースからの定期便の馬車で…順調な工程で約1ヶ月は掛かる。

そして病気の村民…これはオースの北部にある村でこちらは定期便など無いので徒歩か馬…最短で3日といった所か。

そしてゴブリンの巣で冒険者を助け、このオースに現れた…。


この時系列は一番古いものでおおよそ4ヶ月ほど前で最新のものでは数日ほど前だ。

日付が不明なものもあり、正確な日付が分かる物を並べてもこの人物はどんな強行しても25…いや20日は掛かる工程を1日、ないしは半日未満で移動していることになる。


これでは本当に…


「…本当に転移魔法…それでなくても未知の移動手段でも使えるって言うのか…」


もちろんこれだけの数の報告書を吟味したのだから抜けも有るかもしれない。

報告自体に虚偽が無いとも言い切れない…まぁ、自分が選んだ調査者だからそれは無いと信じたい。



私は現役の冒険者だった頃は腕っ節よりもこういう情報を集め、分析し、対策を練ってから依頼に挑むという形を好んできた。

そんな私を昔は「チキン」だの「情報屋」だの言う者もいたがそれもいい思い出だ。

そのお陰か20年ほど現役を続けて依頼の失敗と仲間の死というものを経験せずに引退まで過ごせた。

引退後の稼ぎを考えていた所に冒険者ギルドが私の情報収集と分析能力を買ってくれてギルドに務めだした。

しがない管理職かと思ったが思いの外、自分に合っていた事とギルドの内部が権利絡みで腐っていた事もあり僅か5年ほどで今の冒険者ギルド オース支部 支部長を務めるまでになった。


そんな成り上がり方をしたせいか、他の支部との折り合いはあまり良くない。

今回の件で王都、他の支部に情報提供を依頼したがいい返事は貰えなかった…これは折り合いの悪さとは別だろう、調べるための情報があまりにも荒唐無稽だ。

依頼を出した自分でさえ「これは無いな…」という気分になってくる。

なので、自費で情報収集の能力に長けた特色クラスの冒険者を雇う事にした。


この雇用で今まで溜め込んだ私財の5分の1を無くしたが…今回の事で出る被害を予想すれば安いものだ…今のところ自分の命より高いものはない。


ドンドンと少々荒目のノックが響く。


「支部長、いつまで部屋に篭っているんですかとっくに夕食の時間を過ぎていますよ。」


「…すまん、もうそんな時間か」


「皆さん手を付けずに待っていらっしゃいます。さっさと降りてきてください。」


「へいへい、今行きますよ…サリーさん…」


この一見は丁寧そうだが私には一切遠慮がない女性は私の秘書だ。

少々遠慮が無い部分は置いといて…能力は非常に優秀だ。


呼ばれた夕食会も現役の冒険者と夕食を共に取りつつ、現場の声を聴く新しい取り組みの1つだ。


今のうちに打っておける手は全て打つ、これが昔も今も変わらず私の行動指針だ。




― ― ― ― ― ― ― 



ここは冒険者ギルドに併設された食堂。

ギルドによって運営されており、冒険者なら格安で利用が可能だが市場に出回らない食材や良質だが売り物にならない、数が少ない食品なども出されるため一般の利用者も多くいる。

今は定例のギルドによる情報交換を兼ねた会食として貸し切られており、食堂の中には10人足らずしか居ない。


「みんな、待たせてしまってすまない。お預けのままというのは辛いだろうから早速始めよう…頂きます。」


「頂きます」

「いただきまーす」

「…頂きます。」

「いただきゃーす」


各所から食事を始める音が聞こえてくる。

今日のメニューは葉野菜のサラダにトライデントバッファローのステーキ、干し肉を使ったシチューだな。


「三槍牛とは豪勢だな。」


「最近売り出し中のマルダさんの活躍ですよ。お陰でバッファローの納品も増えてまだ少数ですが冒険者に回せるだけにはなりました。」


マルダ…彼女はアダムに救われた過去を持つ冒険者だ。

青から黄を経て緑…並の冒険者なら10年から20年は掛かる工程を僅か1年足らずで登っている。

それもこれも、アダムに救われてから劇的に変化している。

魔法効果のついた投擲槍…彼女の今の二つ名となった『投槍』の由来にもなっている――ミサイル・ランス。

レベルⅢの魔法障壁を発動させる指輪に、簡易な隠蔽効果を持った外套…。

どれも簡単に手に入る品ではない。

特にレベルⅢの魔法障壁を張れる指輪は国宝クラスだ…。


おー…やはり三槍牛は美味い…これは考え事をしながらでは失礼にあたる味だ。

噛むほどに肉汁が染み出し、良質な脂は決してしつこくない。

そして肉を二切れ、三切れと食べると流石にしつこくないとは言っても少々年齢を重ねた舌には重く感じる。

そのしつこさをエールで流し、サラダでリセットする。

さ、次の肉を…


「支部長…肉に夢中になってないでお話をするのを忘れないでください。」


…肉にかまけて本気で忘れるところだった。


「おほん、みんな食事の手を止めずそのまま聞いて欲しい。」


数人がこちらを向くが大半は食事を止めることはしない…そう言ったのだから気にはしないが…。


「耳が早い者は知っているだろうが私は今あることを調査している。」


ここで食事を取っているのはこのオースでもトップクラスと私が認めた3つのパーティ…"猫の爪"、"ハートオブソード"、"竜鱗"のリーダーとサブリーダーだ。

上り詰めるには腕っ節だけでは足りない。

そういう意味では情報収集、腕っ節、対応力、装備…いずれもバランス良く揃った奴らだ。


「アダムという人物にについてだ。詳しくは後で資料を届けさせるが…ここにいるものはパーティの責任者たる者たちだと思う。」


一旦言葉を区切り、注視させ印象づける。


「これはオースの冒険者ギルドの支部長としての命令と思ってもらって構わない。」


"支部長としての命令"この言葉を聞いて手を止めない者は居ない。

もし居たら即座にランクを落としてやろうかと思ったが……優秀な者ばかりで少々残念だ。


「アダムと呼ばれる人物に敵対することを禁止する。可能であれば友好的な関係を構築して欲しい。」


「はいはーい、もしやむを得ず敵対してしまったらー?」


妙に態度が軽いがこいつはいつもこんな感じだ…これでも赤ランク冒険者の1人だ。


「…その場合はこの街の冒険者ギルドとは無関係の者として別の支部に移動してもらうつもりだ。」


「……わざわざ支部のトップクラスを移籍させなければならないぐらいの相手なの?」


「そうだ、私の見立てでは特色クラスを2人…いや、3人相手にするようなものと考えてくれ。」


「ははは、どんだけのバケモンだよ…」


食事の音は聞こえず、誰もが会話に耳を傾けている。


「その人物は今どこに?」


「不明だ。オースの近郊に姿を見せたのは確認しているが街には入っていない。もし、入ったなら私に連絡を寄越す手はずは整えている。」


「つまり、ギルマスはこうも言いたいわけですね…その人物について調査も行い、可能ならこちらに引き込め…と。」


「いい所を取られた気もするが…まぁいい。そういうことだ。 それにこの話はここに参加しているパーティ内にのみ話すことを許可する。これは今後のオースの未来を左右するかもしれない内容だ、その為の判断だと思ってくれ。」


いつもの情報交換の会食だと思わせての爆弾投下は少々ダメージが有っただろうか。

仕方ない、災害はいつ襲ってくるか警告などしてくれないのだから。


「手を止めさせてすまない、話はこれで終わりだ…食事を続けてくれ。」


ゆっくりとだが食事の音が戻り始めるが先程のような歓談とはいかないようだ。

パーティ同士で今後の対応を話す者、他のパーティと情報交換する者、思案に耽る者。

ただの食事だが若干の緊張感が生まれている。


「お疲れ様でした、こちらをどうぞ。」


サリーさんが琥珀色の液体が入ったグラスを寄越してくる。

酒…だろうか、見たことのない代物だ。


「これは…?」


「こちらは最近出回ってきた蒸留酒という新しいお酒です。かなり強めなので支部長の好みに合うかと。」


この秘書はこちらの心でも読んでいるのではないかと思うほどの有能っぷりを見せてくれる。

確かに少々疲れた後は強めの酒を呷りたくもなる。


「しかし、グラスに3分の1とは…少なくないか?」


「あら…情報通の支部長でも知らないことがあるんですね。」


ぐぅ、最近はアダム関連の調査に掛かりっきりで市政や貴族に関する調査は2の次になっていたのが悔やまれる。


「こちらはワインなどを更に濃くしたものと思ってください…量は少なくとも強烈ですよ?」


こくり…と一口含むと、なるほどワインなどとは比べ物にならない強烈な酒精だ。

口当たりは苦さが先にたつが、口の中で転がすほど凝縮された葡萄の香りが広がってくる。

飲み込むと喉を焼くような熱さを感じ、口の中は残り香で満たされる。


「これは、たしかに強烈だ。しかし…旨い。」


「お気に召したようで…資料用に1本しか入手できなかったので大事に飲んでくださいね。」


旨い肉に旨い酒…これで進まないはずがない。

コレがいけなかった。



翌朝、私はギルドにある客室で目を覚ます。

あまり飲みすぎて二日酔いになったという経験は無かったが飲み慣れない強い酒というのが不味かったのだろう、酷い頭痛がする。


「あつつ……飲みすぎたか…」


昨夜の会食の後からの記憶が曖昧だ…なんで私は自分の家でなくギルドの客室で寝ているんだ?

それに何故か半裸だ。

そして一番の疑問が『なぜ隣に半裸のサリーさんが寝ている』?

待て待て待て…


冷静になれ私、こういうときほど冷静な情報分析が必要だ。

・記憶を無くすほど飲んだ

・自分の家ではない場所

・半裸の自分

・半裸の女性


これは、もしかしなくても…一夜の過ちというのだろうか。

私が起きて布団に冷気が入ったからだろうか、彼女がもぞもぞと目覚め始める。


「ん…うん……あっ…おはようございます…」


「…おはよう…」


何時になく可愛く感じてしまうのは一夜の過ち故か、いつもの毒舌が無いからだろうか。

いや、待てキルスティン…自分は50過ぎの独身で彼女はまだ20そこそこの若い身だ。

自分なんかで彼女の人生に汚点を残してはいけない。

ここは一夜の過ちは忘れて仕事の上司と部下の関係に―――


「キルスティンさん…責任…取ってください…ね?」


「―――はい。」



私はこの時ほど日常の情報収集を欠かしたことを後悔したことはないが、この年にして初婚が出来たことはとても喜ばしい…と思う。

いつも読んでいただいてありがとうございます。

面白いと感じて頂ければ幸いです。


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