面倒ごとになる予感
人型になったハチを連れ、さも旅人です…南のほうから安住の地を求めて旅をしています。
という設定でオースの街の門を目指す。
「いいか、ハチ…設定を忘れるなよ?」
「誰に物を言っておる、大船…いやドラゴンに乗った心地でおれば良い」
ドラゴンに乗った心地って、すごい!最強!って伝えたいのだろうか。
門は見えているが徒歩で行くとなるとなかなかに遠いと感じる。
日差しは心地よいし、風は穏やか…なんという散歩日和だろうか。
前方から散歩には似つかわしくない兵士たちが中からぞろぞろと隊列を組んで出てきた。
その数ざっと20人、隊列を組んで街道をまっすぐこちらへ向かってくる。
私は無関係な旅人ですよーと会釈をして脇へ避け、ついでに横目で兵士を観察する。
名前:レイモンド・モリス
種族:人種
性別:男
レベル:16
状態:健康
職業:衛士 >>
ん?
何やら項目欄が増えた?露骨に『>>』なんて次ページがあからさまにあるみたいじゃないか。
…あったよ。
主に装備を見る欄みたいだ。
頭:鉄の兜
体:鉄の胸当て
腕:鉄の小手
腰:鉄の前掛け
足:鉄の脛当
右手:鉄の槍
左手:鉄の長剣
装飾1:衛士のタリスマン
装飾2:なし
ほーん、鉄で出来た装備一式というところだが重要な部分しか守られて居ない軽装さが目立つ。
これが街の衛士…警察みたいなものだと思うが――の標準装備だとしたらちょっと拍子抜けだ。
以前助けた冒険者も鉄の武器を手に入れるのはそれなりに苦労したという話からもしかすると整っているほうなのかもしれない。
何にせよもっと情報を集める必要性があるな。
― ― ― ― ― ― ― ―
門まであとすぐというところで何やら門番らしき兵や入場待ちの商隊やらが騒がしい。
そこは軽いパニックというか暴動のようになっていた。
「早く街へ入れてくれ!」
「ダメだ!しかるべき検査を行わなければ入れることは無理だ!!」
「そんな事をしてる間に殺されちまうよ!」
「今、街の衛士が調査中だ!おとなしく順番待ちしていろ!」
何に殺されるのだろうか?
パニックになっている輩もいれば、おとなしく煙草…この場合はパイプを吸っている商人らしき男もいた。
見た感じすぐに入場は出来そうにない、ここは情報収集だ。
「すみません、ちょっとよろしいですか?」
「あん、何だいあんちゃん?」
「あの…門のところで何かあったのか伺いたいのですが…」
「…世の中で一番高い物は何か分かるかい、あんちゃん?」
はいはい、言わんとすることは分かりますよ。
ポケットから銀貨を1枚出し、商人風の男に渡す。
「ほっほ!銀貨1枚たぁ豪気なあんちゃんだ。何でも聞いてくれよ」
反応からするとちょっとチップを払い過ぎたと思うがこれも勉強代だ。
「何であの門のところはパニックになっているのですか?」
「あーん?兄ちゃん南のほうから歩いて来ていたが…空にドラゴンを見なかったか?」
ドキッとするが、幸いこの顔は表情に出にくくて助かる。
「いいえ…ドラゴンなぞ飛んでいればすぐに分るでしょうし…」
「まぁ、理由はドラゴンだよ。北から飛んできて南に飛び去り消えた…それで少しでも安全な街の中に早く入れろと騒いでいるのさ。」
ぷかーっと煙を吐き出し、こちらを見据える。
「なるほど…では彼方はどうしてそこまで落ち着いているのですか?」
「…ドラゴンに襲われたら、外に居ようが中に居ようが関係ねえな。今大事なのはこの騒ぎで荷物を盗られないように用心するだけさ…」
「なるほど、情報ありがとうございます。」
「にいちゃんもそんなドラゴンの話を聞いても動じない所を見ると…いや、他人の詮索は心を曇らせるから無しだな、俺はエビン。見ての通り商人だ。
しばらくはこのオースの商人街に居るから必要な物があったら相談しな、サービスさせてもらうぜ?」
「私はアダム、こっちは従者のハチです。何かありましたらよろしくお願いします。」
私とハチは軽く会釈をし、その場を離れ入場の列に並ぶ。
"演技とはいえ人種に頭を下げるなぞ…"
何かブツブツ言っているが気にしない。
しかし、この入場検査はしばらく終わる気がしないな。
『ユーガッメール』
お、仕事のメールが入った。
仕事を片付けていればこの渋滞も無くなるだろうし、さっそく人気のない場所に行って転移しなければ…。
あ、ハチはどうしよう…。仕事に連れて行って良いものか…。
管理者の間に入れるのだろうか?お留守番出来るだろうか?
疑問を上げればキリがない。
ものは試しだ。
「ハチ、ちょっとこの場を離れるぞ」
「む、街に入らないのか?」
「ちょっと野暮用だ、人気のない場所に行くぞ」
そう言って列から離れ、最初に降りた岩場まで歩く。
「ハチ、転移って知ってるか?」
「高位の移動魔法だな、それがどうした?」
「お前、使えるか?」
「馬鹿にするな、と言いたいところだが我には無理だ。それどころか転移なぞ使える奴はそうそういるものではない。我が知る限りでは確か神龍の奴と、堕天の奴ぐらいだな。」
「そうか…」
神龍と堕天も召喚のURに確か名前があったやつだな。
機会があれば呼び出してみよう。
「自分以外を転移させるときの条件とか分かるか?」
「使える奴らの話では他の魔法と同じく、相手を選択するか、自分が転移する際に相手に触れていれば一緒に飛ぶとか何とか言っておったぞ。」
何だ、分かってみれば当たり前というか簡単だったんだな。
相手をそのまま飛ばせるというのは嬉しい誤算だ、手も足も出ない奴が居たり周りに被害を出したくない場合に使えそうだ。
果たして管理者の間は、権限のあるものしか入れないというが…どうだろうか。
「よし、じゃあ転移するからな。」
ハチの方に手を置く。
「ん?何?今転移すr――」
そこでハチの言葉は聞こえなくなった。
― ― ― ― ― ― ― ―
いつもの管理者の間、私にとっては見慣れた既に見慣れた場所だが、ハチにとっては当然初見だ。
「…なんじゃここは…」
ハチは顎が地に付くほど…当然比喩だが、あんぐりと口を開け周りを見ている。
管理者の間には権限を持ったものしか入れない…という事だったがハチは問題なく入れたようだ。
転移で入るけどが条件?それともハチが召喚獣だから通れた?
まだまだ検証すべきことは残っている。
「説明してしよう。私はこの世界の管理者アダム…当然このことは他言無用だぞ?」
「何とも驚きの連続というか…人種とは思えぬ異常な能力に転移まで使えると思ったら『管理者』とは……」
あれ、ハチは管理者を知っている?
また疑問が増えたよ…まぁ知っているという事は説明の手間が省けるからいいけどね。
そして驚きというよりは楽しいという感じで「くふふふ…」と笑っている…ちょっと怖い。
「説明は省くけど、私はこれか仕事に出る。ハチはお留守番しt「我も同行するぞ!」」
食い気味に同行を求めてくる。
見えないはずの尻尾をぶんぶんと振っているように感じてしまう。
だが、同行を許すメリットもあるだろう。
ハチの知識、思考力は侮れないし、いざ戦闘となってもこの世界レベルでは太刀打ちできる奴はそうはいないだろう。
何より私自身も相談出来る相手がいるというのは非常に心強い。
「…分かった。同行を認めるが条件を付けさせてもらう。
1つ、私が良いというまで攻撃しないこと、
2つ、私の許可がない限り殺さないこと、
3つ、勝手に喋らないこと、
この3つを必ず守れるというのなら、連れて行きます。」
「つまりは好き勝手にするな、言う事を聞けという事だな!何でも良いから早く連れていけ!」
本当に大丈夫なのだろうか…
とりあえず端末に向かいメールを確認してみよう。
件名:救出
内容:人質の開放
また、新しいタイプの案件だ。
しかも人質の救出とは緊急性も高いはず。
しかし…
依頼者の名前は、コーウェル・レニード・マンダン。
エネキア王国の公爵であり、王国の右腕とも、影の支配者とも言われる傑物。
私が知る限りでは宮廷魔法士エミエ・ラヴレに研究材料の提供を持ち掛け共犯にし、リリアナらの村を襲わせた黒幕。
実際これだけでは無いだろう。
私は初めて依頼を受けることに躊躇した。
やっと救っても、救わなくてもいい…という話の下地が出来ました。
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