移動と召喚 その2
『召喚』を発動させると、大地に丸く魔法陣が広がっていく。
最初は私の数メートル前に出た円が回転しながら徐々に広がっていき、今は直径10メートル程…まだ大きく広がってゆく。
薄い紫色の発光を伴い、この世界の文字だろうか?
見たことの無い文字と文様が合わさって一つの図形が完成している。
最終的に直径20メートルの魔法陣が完成して、薄い紫の光が明滅し、数秒後には魔法陣内にパリパリと稲光が舞い、徐々に強さを増している。
陣の真ん中から光が盛り上がり、塊となり広がり、形を成していく。
飴細工が伸びるように太い部分、細い部分、薄い部分と広がり、細かい部分が造形されていく。
形が明瞭になると流石にどこがどの部位か、ということも分かりやすくなる。
頭、胴体、腕、翼、足…。
ものの1、2分ほどで光が収まっていき、本来の姿が見えてきた。
もう、ザ・ドラゴン!って感じのドラゴンだ。
作品によっては造形が極端に違うものもあるのでここは少し詳細に説明すべきだろう。
まず、アジア圏で主に龍とされる蛇のような長い体躯に髭、たてがみといったスタイルではない、と断言しておく。
ワニをもっと厚く強靭にした顎、短いながらも手があり、大きな足によって2本足でしっかり大地を踏みしめ、空を飛ぶための大きな翼を持つ。
全身が赤く、厚い鱗に覆われ見るからに硬そうだ。
腹の部分のみ鱗が薄く、若干白く見えている。
"我を呼び出すほどの者が居ろうとは思わなんだ…貴様が召喚者か…"
こいつ、頭のなかに直接…!ってことを実際にやられるとは思っていなかった。
というか、『透明化』を使っている状態なのに見えるのか?
10メートル上からの視線が完全にこちらを見据えていることからそう考えるのが妥当だろう。
「…そうだ!俺がお前の召喚者だ!」
"…そうか、では貴様が我の主だな。誰かに仕えるというのは初めての経験だが…まぁ、よろしくするが良い。"
「お、おう!お前の名前を聞こうか。」
自分より尊大なキャラと対したことがないので変なコミュ障キャラになってしまう。
いかに強大な存在でも召喚者には逆らえない…という設定なので対等以上に話しても大丈夫…だと思う。
"我に名は無い。今まで我を呼び出せる程の者がおらず、世界の裏で待ちぼうけていたのだからな。"
「名前が無いってのは呼びづらいなぁ…俺が名前付けてもいいか?」
"構わぬ、貴様は主なのだ。好きにせよ。"
ちょっとだけ思考タイム。
この竜に名前は無く、俺が初めての主。
呼び出されるのも初めてで、ずーっと待ちぼうけの竜。
よし、決めた。
「じゃぁ、お前は今から『ハチ』な。」
"…随分あっさりな名前だが…由来によっては納得せぬぞ"
「俺の故郷の有名な話でな…主人を待ち続けた忠誠心の塊のような犬の話でな?」
"我に犬如きの名を用いたと!?"
怒気が周りの大気を揺らし、周りから動物の鳴き声が消えた。
私は努めて冷静に…
「犬の名前とは言え、俺はその生涯に非常に感銘を受けた…これからのお前の忠誠心を期待しての名前だと言うことを心に留めて置いて欲しい。」
"撤回する気は…無いのだな"
ドラゴン…いや、ハチは微妙に頭を落としながら大きくため息を出し、一言。
"ふん、貴様は我が初の主だ…それと貴様の力量に免じて名前の件は不承不承だが飲んでやろう。それで我を呼び出すとは世界の終末でも来たか?それとも魔王か?はたまた勇者か?もしや外なる神々でも来訪したか?"
このドラゴン、随分と戦闘好きなのか単に今まで暇していた反動だろうか、戦いたいというウキウキワクワク感が巨体から滲み出している。
足につかいただけ…なんて言ったら怒るだろうか…。
「今のところ戦闘の予定はないぞ、とりあえず一番近くの街まで乗せてってくれないか?」
"貴様…この世界で最強最悪の竜族の頂点に立つ我を…何だと思っておる…"
あーやっぱり怒るよねー。
一度は収まったと思った怒気がまたじわじわと…
"ふん、貴様が力のない主であれば即座に殺しているところだぞ…"
ん?先ほどからの発言を顧みるにこのドラゴン…ハチは私の能力を察している?
それに逆らえない設定は?
「なんで俺の力が分かるんだ?」
"…我らほどの存在に行き着けば大抵の能力は持っている故に貴様の強さはある程度把握できる。そして不本意ながら我が敵わぬという事もな。"
「ヘー、あ、もう1つ…召喚者に逆らえるの?」
"並みの奴らでは無理であろう。しかし、我と同格は…いないとしても同ランクであれば不可能ではないな。"
マジか…初めに聞いておいてよかった。
「それじゃ、お願い聞いてくれる?」
無言でハチが首を下げ、乗れと促してくる。
『透明化』や『非接触』等を解除しよっ…とハチの背中に飛び乗るが鞍や手綱など有るわけもないので、鱗の突起に手を掛ける。
「それじゃ、この道に添って南に飛んでくれ。あぁ後なるべく地上からは見えにくいように高度は高めで頼む。」
"…はぁ…"と頭のなかに直接ため息のセリフまで送ってこなくてもいいのだが、そのくらいは黙っておく。
バサバサと複数回翼を動かすとハチの周りに風が渦を巻き始め、ゆっくりではあるが10メートル超の巨体が浮いてゆく。
数メートル浮いたところで大きくバサッと羽ばたくと一気に高度が数百メートルに上がり、次には推定700メートルぐらいだろうか、昔登った東京の某お空の木…あれの展望台よりも高い気がする。
見渡す限りの森、森、森…あ、村が見える。
周りは山と森で埋め尽くされていることが確認できた。
やはり、なぜこんな辺境に村長らは村を興したのだろうか…あとで聞いてみよう。
"高さはこのぐらいで良いか?"
「お、おう!十分だ!」
バサッバサッと大きく羽ばたきが続き、水平に巨体が加速を始める。
どうも飛ぶというと鳥のイメージが付いて回るが、この羽ばたきの回数でこの巨体を支えているとは考えにくい。
そして速度は…車での100kmという比ではない。
飛行機の速度なんて体感したことは無いが、こんなに高度があるのに地上が流れるようにスライドしてゆく。
これなら徒歩5日なんてものの数分くらいだろう。
「高度もあるし速度も出てるのに全然風も寒さも感じないな。」
"当然だ、我が風を制御しているのだからな"
「じゃあ飛んでるのも魔法か何か使ってるのか?」
"風魔法と重力魔法と強化魔法と…いろいろだな。"
正直何がどう作用しているのかわからないので「へぇ~」と相づちを返すのが精一杯。
空を飛ぶって複雑なんだな、もう少し魔法と言うものに慣れてから挑戦しよう…。
既に森の切れ目が見えてきた、きっと街まではもう目と鼻の先だ。
― ― ― ― ― ― ― ―
黙示録の赤き竜…命名:ハチの背に乗り、徒歩5日と言われた工程をものの10分足らずで踏破…走破?した。
森の切れ目からは草原とまばらに生えた樹木が広がり、所々には畑や放牧している動物も見える。
視界が開けてからは速度を緩やかにし、眼下を観察する。
流石にリリアナらの村の方から来る者、向かう者は皆無で、別の方面への道には商隊のような馬車や複数人で歩く武装した冒険者らしき姿が確認できた。
森が切れてから10分もせずに小高い丘の上に街らしき姿が見えた。
あれがオースの街だろうか。
「ハチ、今の速さのままで一度、街の上空を通り過ぎてくれ。その後適当な場所で降りよう。」
"承知した。"
通過する際に街の全体像を把握する。
街は大まかに円形の形をしており、城壁…と呼べるほどではないが壁により外と仕切られていて出入り口は4箇所、どれも門を通過しなければ入れない構造だった。
街の中央には一際大きな屋敷があり、領主か街の権力者の邸宅だろう。
その他は住宅街、市場、倉庫だろうか、それぞれに別れており区画整理が行き届いているようだ。
街の上空を通り過ぎてから気づいた。
今は街の北から南へ向けて通り過ぎたのだが、南に行くにつれ草原がずーっと広がっており隠れて降りられるような所がない。
「隠れられる場所が無いな…一旦、北の森に戻るか…」
"なぜそのような面倒を…『完全隠蔽』"
「何その魔法?」
"姿、音を消し、探知系の魔法からも身を隠せる隠蔽系スキルの最終型だ、制限時間が短いのが難点だが…何故お前ほどの者が知らぬのだ…?"
はい、私の勉強不足です。
「ちょっと事情があってな、使えるスキルは山のようにあるがまだ全てを把握してる訳じゃないんだ。」
"ふん…?まぁ、良い。その辺の岩場に降りるぞ。"
実際、羽ばたく音も着地の音、振動も一切周りには響きも聞こえもしていないし、見えても居ないようだった。
現に近場の木に止まっている小鳥は逃げずにそのままだった。
「ありがとう、ハチ。それじゃ俺はこのまま街へ向かうよ。」
よっこらしょっとハチの背中から飛び降りる。
簡単に言うが高さは10メートル以上、普通の人間なら飛び降り自殺だ。
よしんば無事だとしても足をはじめどこからしらの骨が折れるだろうが、なぜか今なら何ら問題は無いと感じて普段通りに動いてしまった。
どうも頭の中がアバターの能力基準に慣れてしまっているのかちょっと怖い。
じゃあな~とハチに手を振るが、
"ちょっと待て、貴様、我を呼び出して本当にそれだけか!?"
「いや、悪いとは思うけど本当に足が欲しかっただけなんだよ。」
"ん゛ー!!我慢ならん!今までずっと!ず~~~っと世界の裏側で何千年と退屈していたのだぞ!!これしきの顕現で帰れるか!!"
なんという駄々っ子。しかも何千年とかどれだけだよ。
「そんな事を言われてもだな…」
"決めた…決めたぞ!我は帰らん。このまま貴様に付いていってこの世界を直に見て回る!"
「えー…流石に隠せてもこんな巨体のドラゴンを連れたままじゃ仕事も出来ないから…駄目。」
"ほう?巨体でなければ良いのか?"
あ、やばい。これは何か地雷というか墓穴を掘ったような感じ。
"くふふふふ…我に限らず高位の存在に達した者らはある程度の魔法、スキルを取得している。故に!!"
ハチの体が発光し、呼び出したときのような光の塊に変わっていき、徐々に光の塊が縮小、最終的に160cmくらいの人型に変わった。
発光が収まるとすっぽんぽんの赤い髪が印象的な中学生ボーイになっていた。
「ふむ、使うのは初めてだったが…人種の体とはこのような感じなのだな。さぁこれで問題なかろう!我を一緒に連れて行け!」
ドラゴンに限らず日本でも狸や狐を筆頭に年経た動物は人間に化けるというのが非常に多い。
ファンタジーでは王道の人化というやつだ…こんな基礎レベルの可能性を見落としてしまうとは…
仕方ないのでアイテムボックスから下着、服、外套を出し投げ渡す。
「分かったからまずは服を着てくれ、街に入る前に怪しまれちゃ意味がない。」
「我はこのままでも構わんのだが…何とも人種とは不便ものだな。」
小柄ではあるが、多少ではあるが筋肉が付き引き締まった肢体に整った顔立ち、まだ声変わりする前と思われる幼さが感じられる声。
これは…ジャニーズに黄色い声援を送る女性の気持ちが少し分かるかもしれない。
いや、私はノーマルです。女性の方が好きです。
と、私もアイテムボックスから旅人っぽい服装をチョイスし、変装する。
偽装用に魔法の荷袋も出し、その中に食料や簡素な武器や寝袋等を詰めておく念の入れようだ。
「先に言っておく、私たちは安住の地を探している放浪者…という設定にしておく。ハチはその道中で拾った孤児という事で通すからな。」
「まあ良いぞ。そういえば…貴様の名を聞いていなかった。何と呼べば良い?」
「そっか、私の名前はアダムで通している。今からは孤児という設定だから…」
「では、父さんで決まりだな!」
「!?」
「我に親という存在はおらん、貴様がこちらの世界に産み落としたと言っても過言ではない。それに孤児を拾って育てたというなら父親でも構わぬではないか。」
「ぐぅ…」
一応筋は通っている。
なまじ外見は中学生だが、何千歳だか不明なくらいの高齢だ。
知識と思考についてはたかだか20数年生きた俺では論破出来ないかもしれん…というかできる気がしない。
「分かったよ、とりあえずはそれで行こう。」
「くふふふ、では街に行こうか、『父さん』。」
嗚呼、嫁ができる前に大きな…超高齢の息子が出来ました。
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