初めての仕事 その1
さぁ、やってきました面接会場!
ダメ元で面接の連絡をしてみたら若い男の声で、「今日にでもこれからすぐにでも来てください、履歴書等も不要です」との事だった。
あまりにも来るもの拒まずな感じに若干の不安は覚えつつ、アポを取り付けた。
元の…というかまだ辞めてないので現職場から2駅、駅から徒歩3分の好立地。
会社を出て30分掛からず相手の事務所の前だ。
雑居ビルの3階、㈱天地創造…ここだな。
コンコンコン…一呼吸置いて、
「失礼します。」
ドア一枚挟むと、事務所とは名ばかりのサーバールーム…だろうか。
唸るファンの音が部屋中に響き、冷却の為か少し肌寒い。
受付すらなく、入口のすぐ脇にテーブル、あとは奥にデスクが数個あるぐらい。
目を引いたのはサーバーに埋もれるように置かれた…コクピットだろうか。
酸素カプセルというか大型のゲーム筐体というかエントリー〇ラグのような物。
誰かいないかと周囲を見回すと奥で一人電話をしているのが見えた。
「はい、はい…えぇ!それは大丈夫です!今日中にでも対応しますので…」
会話の内容から察するに納期直前か、何かのトラブル対応を求められているように感じた。
電話越しにペコペコしながら会話している。
オフィスではよくある光景だ。
今のとこはこの人しか居なさそうなので電話が終わるまで少々待たせて貰う事にした。
―――――――――――
数分後、電話が終わったのか受話器を置き、男が大きなため息と共に喋り出した。
「待たせてすまないね、さっき電話をくれた沢渡クンかな?」
「沢渡神一郎と言います。すみませんお忙しい所にお邪魔したようで…」
「いやなに、クライアントが少々無茶ぶりをしてきただけだ、いつものことだよ」
こういうソフト開発やシステムエンジニア関係では仕様が急に変更されたり、納期の為に徹夜や泊まり込みといった
ブラックな話がどこからでも聞こえてくる。
「で…だ、ウチの広告を見て連絡してきたという事だけど、テスターかな?GMのほうかな?」
「はい、図々しいかと思いますがまだ現在の会社に籍を置いたままですので定時過ぎ…18時頃からの
テスターのアルバイトを希望できればと思っています。」
「ふむふむ、ボクは遠回しな会話は嫌いでね、率直に聞こう。」
なんだろう、この人…見た目は大学生…に見えるのに会社の上役…下手をすれば社長とかそれ以上の人に見られているように感じてしまう。
それに身長は高く、ハーフのような整った顔立ちだ。モデル体型というやつかな。
「な、何でしょうか…」
ゴクリと唾を飲む。
「今勤めている会社を辞める気はあるかい。」
直球、ド真ん中。
「すみません…経験も無い内に辞めるというのは難しいです。辞表を出すにしろ辞める1か月前に提示しなければなりませんので…。」
嘘はない。やりがいは無いが収入が無ければ暮らしが危うい。
「辞める意志はある。昔にMMPRPGのプレイ経験はあるが、テスターとなれば話は別なので決めかねている…と。」
あれ?昔のMMORPGのプレイ経験なんて話を出したっけ?
テスターに募集する=プレイ経験があるという推測だろうか。
「そんな所です。1週間ほど試用期間としてやらせて頂ければそこで判断したいと思います。」
「いい所かな、それじゃ早速今日からテスター…ではないけどGM業務の経験だけしてもらおうかな。」
「え?契約書とかは…」
「後で構わないさ、何悪いようにはしないよ。不安なら時給分を即現金払いでもOKだ。」
「もう1点なんですが、昔に遊んだ経験はあっても管理者側の知識はほとんどありません。それでも問題無しですか?」
「構わないね。この仕事に必要なのは『自分の正しさ』だ。」
正義感が必要とでもいうのだろうか。
小難しい試験や免許が不要というのは非常に助かる。
と話もそこそこに男は立ち上がり、自己紹介を始めた。
「言い忘れていたね。私はヨシュア・ベールメント。この会社…㈱天地創造の社長にしてダイブ型MMORPG、アナザーアースの生みの親さ。」
SEか面接担当ぐらいにしか思ってなかったがこの人が社長か…印象良くしておかねば。
「申し遅れました。改めまして…沢渡神一郎と言います。宜しくお願い致します。」
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「じゃあ、ログイン端末…ぼくらは『エッグ』と呼んでいるがそれに入ろうか。ダイブ型の経験はある?」
「いえ…学生の頃にプレイしていたのはPCの前で操作するタイプでしたので、ただ知識としてダイブ型がどういう物か、というのは知っています。」
「百聞は一見に~とも言うし、何より体験してもらおうか、最初はちょっとだけ我慢が必要だけどね。」
何だろう、3D酔いみたいなものでもあるのだろうか。
ヨシュアさん――いや、この場合は社長か、まだアルバイトだけど。
社長に進められ『エッグ』中に入る。
『エッグ』が開かれると成人男性が一人入るのがやっとのスペースが出来、頭のポジションにはヘルメットが1つ置かれている。
「君は上着を脱いで中に入ってヘルメットをかぶり、リラックスしてくれ。操作と指示は私が外から出すから」
返事もそこそこに上着を脱ぎ、ヘルメットを被り、『エッグ』の中に横たわる。
「中は最低限の明るさは有るけど、非常に狭いからね。狭いところが苦手だったら中に解除レバーがあるからそれで開けてよ。」
そう言い残し社長は『エッグ』を閉めた。
なるほど…中は確かに狭くて暗い。これはカプセルホテルだな。
むしろリラックスしすぎて寝てしまいそうな感じだ。
「うんうん…リラックスはしているね、良好良好。」
耳元のスピーカーから社長の声が聞こえてくる。
「ではこれから君の頭に必要な知識や経験をインストールするから、ちょ~っと頭痛がすると思うけど我慢してね。」
「え?何す――」
私はそこから喋れなかった。
スピーカーからノイズが流れる。
頭がガクガク揺れ、目の焦点が合わない。
口から「あ゛っ…あ゛っ…」という言葉にならない声、鼻からは鼻水が、目からは涙が。
痛い、苦しいという思考すら出来ない。
白昼夢のように脳裏に、視界に文字や景色、人…現れたと思えば消えてゆく。
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何十分経ったのだろう。
頭が回らない。
先ほどと変わらない様子で男――社長が『エッグ』を開けた。
「いやー高々1分ほどだけど中々キツかったでしょ?」
タオルを渡しながらあっけらかんと言ってくる。
!?
あの体験が1分!?
本当に拷問に使えるような酷さだ…
「何ですか…あれは…拷問ですか?」
「人の脳にね、知識や経験を強制的に植え付ける技術だよ。PCと同じインストールだよ。」
脳に直接とか、どんな恐ろしい知識だよ。
あー、顔だけじゃなくシャツまで汁まみれだ…
「これ、廃人になった人とか居ないんですか…?」
「ボクが知る限りは完成形になってからは居ないね。」
つまり、未完成の頃は居たってことか…
「それはさて置き…今なら君は『エッグ』の操作方法も分かるはずだよ。」
軽く流されたが、確かに『エッグ』に入ってからの操作方法、ゲームの管理者ログイン、ゲーム内設定等々が思い出せる。
「ふふん!すごいだろう!ちなみにこの技術は特許だし社外秘だ。辞める時には関係する部分の知識のデリートもさせてもらうからね。」
辞める…1週間やったけどやっぱ合いません、となったらまたこの拷問を受けなきゃいけないのはちょっと嫌だが…それはしょうがない。
「社外秘の件は分かりましたが、なぜGMとしての知識の中に剣術や体術、柔道等々の武術があるんですか?」
「必要になるからに決まってるでしょ?」
そうですか、武術が必要なGMねぇ…想像が付かない。
「さぁ、準備は整った。初仕事と行こうか!」
「…はい、それではログインします。」
言いたい事、気になる事は多々あれどやり方は知識としては理解した。
さぁ、新しい世界に生まれようか。
初めてながらいろいろ書き起こすとあーでもないこーでもないと微修正がはいり、中々本文が決まりにくい…。
見てくれる方がいると幸いです。
もうちょい導入パートが続きます。