表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲームのGMと思った? 残念!異世界管理人でした!!  作者: 黒野されな
2章 戻れない『日常』と正すべき『日常』
19/155

【幕間】宮廷魔法士の裏側

宮廷魔法士、この肩書は選ばれた者のみが名乗ることを許される。

許可されていない者が名乗れば即座に逮捕、投獄…運が悪ければ処刑もされることもあるだろう。

それだけの価値、権威が付いて回る言わば花形職。


現在、エネキア王国には宮廷魔法士の肩書を持つ者は10人ほどいる。

その中でもエミエは最も若く、また外部からの推薦で宮廷に上がった人物だ。


推薦された理由が、ゴーレムについての論文が評価された事だ。

曰く、論文から引用すると――




"ゴーレムの核に使用されている魔力結晶にて生成される魔力には限界がある。

ゴーレムの力と耐久性だけなら人間を軽く上回るが総合的に見れば、まだ亜人種の方が戦闘、労働に向くと思われる。

だが、それは生まれながらに持つ魔力結晶の限界故の問題であると私は仮定した。


仮に以下のゴーレム強化方法を列挙する。

1、ゴーレムに魔力結晶の増設

2、魔力結晶自体の出力増加

3、魔力結晶に変わる核の選出

4、事前に魔力を備蓄し、使用時に開放


残念ながらゴーレムの核に使えるような大型の魔力結晶はほぼ市場には出回らない為、1は手段より除外する。

2、3、についても可能なら手を出したいところだが今のゴーレム理論がこの2つの上に成り立っている為、今回は除外とする。

となれば、残されるのは4、の魔力備蓄案である。


魔力を何某かの媒体に保存し、ゴーレムの魔力結晶に直結し必要な時に必要なだけ供給させる。

理論は完成しているが魔力を保存しておける媒体が未だに発見できない。

この論文は失敗を前提に記述しているが、私は今後もゴーレムの進化に――"




これが元になり、彼女は上に引き上げられた。




― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 




アカデミーでもマニアックな分類とされるゴーレム課…ゴーレムは簡易な労働力や戦闘における前衛など必要とされる範囲は広い。

しかし、需要がある=人気があるという訳ではない。


古来よりアカデミーでは個人での戦闘力を重視したがる傾向にあった。

それもそうだろう、ゴーレムは作るのに相当な労力を要する。

問題なのは戦闘時における破損だ。

核さえ無事であればいずれ修復は出来るが、その場で直ぐに…とはいかない。


こと戦闘中に置いてはより顕著に違いが表れるだろう。

特に前衛、とすれば敵の足止め、防御、拘束等々挙げればキリがないがつまり攻撃を受けやすい、つまりは壊れる頻度が高いということだ。

ゴーレムが壊されたらほとんど戦力にならない魔法士より、その身と武器で強力な魔法を行使出来る魔法士…。

どちらがより必要とされるかは明確だろう。


戦闘での活躍は期待できない…では市勢の為に労働用ゴーレムの為に才能を使うのか。

否、と答える輩が多いだろう。

そも、アカデミーとは魔法の才能に恵まれた貴族、才能が顕著な一般市民も多少いるが――所謂特権階級である。

特権階級の人間というのは得てして派手さを求める者なのだ。



― ― ― ― ― ― 



私自身、ゴーレムの研究さえ出来れば何処でも良かった。


戦闘用として開発を続けていたゴレちゃん、それを馬鹿にしたアカデミーの奴らを見返せればそれだけで十分だった。

だが、私は貴族ではない。家は若干裕福ではあるが市井の出だ。

卒論を終え、研究室で卒業後はどうしようか、研究の為に残るのも良いが食い扶持は稼がなければならない。

アカデミーを卒業してしまったらもう見返す機会などありはしない。

そんな私にコーウェル公…コーウェル・レニード・マンダン公爵の封書が届いた時は椅子から転げ落ちたほどだ。


曰く、私を宮廷魔法士として推薦する…と。

宮廷魔法士というのは騎士で言うなら近衛や親衛隊のようなエリート中のエリートだ。


アカデミーでの私の成績は中間より少し上程度だったし、成績はともかく魔法の腕はスバ抜けた者が何人もいた。

その人らではなく、私…ゴーレム課のエミエが選ばれた理由は当然、ゴーレムだった。


封書にはコーウェル公がエミエの論文を読み、魔力の備蓄が可能な素材を提供する代わりに我が家専属としてゴーレムの研究をして欲しいという事だった。

卒業後の進路も決まり、無理に食い扶持を稼がずに研究だけで食べていける…。

研究者としては理想の体系、寝ても覚めても研究に没頭できるという環境。


このことはアカデミー全体に広まり、ゴーレムバカのエミエが宮廷魔法士の末席に名を連ねるなど許されるものか!と憤る輩も少なくなかった。

当たり前といえばそうだろう、首席でもない、上級魔法を収めたわけでもない、ましてゴーレムにささげた学生時代。

だが、それらはすぐになりを潜めた。

なぜならコーウェル公もアカデミーの卒業者であり、権力や財力においても国に並ぶものは少ない。

直にアカデミーまで出向き、エミエとゴーレム談義を交わした上で「このゴーレムの進化の可能性、その価値に気づけない愚か者はアカデミーに居る資格は無い。派手に攻撃するだけの魔法を収めるのは愚の骨頂」とまで言い放ったからだ。

後から聞いたがコーウェル公もあまり人気のない錬金科の出身らしかった。

私はこの時点でこの方の為に残りの人生を研究に捧げようと思った。


あくまでこの時点では…という話。


コーウェル公に用意された研究施設に入ってみるとなんとアカデミー以上の設備が整えられていた。

何より、魔力備蓄用の素材…マナブラッドというらしい。

見た目はただの紫色の塗料のようだが試しに研究用ゴーレム12号ちゃんに塗布してみると…確かに魔力の充填量が上がった。

「研究用に定期的に届けさせるが、何しろ素材が貴重な為、頻繁には届けられん。大切に使え」とのこと。

私がアカデミーで数年間掛けても見つからなかった魔力充填媒体、それをあっさり手に入れるコーウェル公…やはり国の重鎮は違う。


そして私がマナブラッド自体に興味を持たない訳が無い。

この技術を流用すればゴーレムの素材自体への魔力充填、核の強化など更なる強化も可能かもしれない…と当時の私をぶん殴ってやりたい。

コーウェル公からは製法自体が極秘の為、教えられないと言われていたが隠されると知りたくなるのが人の性。


いつもマナブラッドを届けてくれる業者の後を付け、行きついた先は監獄…。

この段階で私はマナブラッドの素材が何か何となくではあるが察していた。

もし仮に…仮に材料が人間に由来するものだとしてそれが簡単に手に入るはずがない。

そして例えば死んでもいい人間、消えても問題にならない人間とは?

例を上げるならスラム街の住人…市民として扱われず孤児も多く、正確な数すら把握されていない為に奴隷や使い捨ての人材として使われることが多い。

そして次に問題にならないと思われるのが罪人…特に死刑の判決が降った者であれば…誰も文句は言わないだろう。

意を決した私はコーウェル公に聞いてしまった「マナブラッドの材料は人間なのですか」と。


その時の冷たく…そうあれは、家畜を見るような目だ…今でもはっきり覚えている。


「…好奇心というのは使いやすいが…厄介な物だな。」


私は殺される…と思った。


「人間だったとしてどうする?国に密告でもするか?」


「…材料になっているのは罪人だけ…ですか?」


「今のところはな。」


今のところ…この発言は私の胸に深く突き刺さる。

つまりは将来的に罪人以外も材料にされる可能性がある。


「誤解されたままでも面倒だな、これからの方針だ。私は今後、ゴーレムの兵器化を考えている。最終的にお前に目指して欲しいのは殺せば殺すほど…例えばマナブラッドの材料でもある『血液』を浴びる事で強化されるゴーレムだ。」


ゴクリ…と唾を飲む。

良かった…ではない。

兵器となれば当然戦争の道具だ。

国の為、と敵国となった兵士が何十人レベルではない。何百、何千とゴーレムの被害者が生まれる可能性がある。


「分かっているとは思うが…マナブラッドの秘密は隠していたが、その真実を知った今、お前の手もすでに血に染まっている、という事を忘れるな」


それっきりコーウェル公は研究施設に来ることは無くなった。

私は材料が人である、という話を聞いた夜は吐いて過ごした。

吐いて吐いて…吐くものがなくなり胃液すら吐いていつの間にか気絶して気付いたら朝になっていた。

これが2年くらい前の話。


つい2か月前までは十数体の試作機を作り、用意された新鮮な血液、または自分の血などで能力強化できるか試行錯誤してきた。

罪人の元冒険者に武器を持たせ「このゴーレムに勝ったら無罪放免」と古のグラディエーターのような事もしてみた。

中には罪人に負ける失敗作もいたが、ほとんどが勝利し血液を被る…が能力のアップは見込めなかった。

ちなみに勝った罪人はその場で殺され、実験体用の血液にされた。


私とて何度も同じ失敗をするわけはない。

つい1か月前…研究用ゴーレム01号ゴレちゃん…私の一番最初のゴーレム。

この子に私が持ちうる全ての技術を入れ込み、当時有った全てのマナブラッドをつぎ込んで作り上げた最高傑作。

この段階で通常のゴーレムの性能が全て2倍程度の性能を出していた。


いつものようにグラディエーターごっこで罪人を倒し、体を雑巾のようにしぼり血液を被った。

用意された罪人を全て『食べた』あとは能力が元の3倍近くにまで成長していた。

このことをコーウェル公に連絡すると返信と一緒に任務書が送られてきた。


宮廷魔法士というのは国お抱えだが当然国に仕える為、こういった任務から逃げることは出来ない。


任務の内容は――辺境の村を襲い更にゴーレムを強化せよ、ついでに近隣の盗賊団も潰しアリバイを作れというものだった。

任務書を燃やし出立の準備を整える。



何で私は一番最初の―思い入れのあるゴレちゃんを一番人を殺す可能性のある完成形にしたのだろう。

強くなれば壊されないから?

強くなるためなら他の人を殺しても良いの?


もうマナブラッドを使った時点で私は血に塗れていたのは分かる。

では愛すべきゴーレムに人殺しに使って何も思わなくなったのはいつだろうか。

吐き明かしたあの夜から?

ゴーレムで最初の罪人…人殺しの男を引きちぎった時?

それとも名も知らぬ麻袋に入った人を圧縮した時?



嗚呼、神様…もしいらっしゃるならこの罪深いゴーレムに囚われた私をお救い下さい。

読んでいただいてありがとうございます。

ブックマークや評価を頂ければ非常に喜びます。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ