【幕間】将来を約束された冒険者と調べる者
アタシはマルダ。
つい前日、黄ランクから緑に上がった将来有望な冒険者さ、おっと仲間への勧誘は遠慮しておくよ。
話を聞きたいなら1杯奢って貰うけどね。
んっ…んっ…んっ…プハァ!
相変わらずここのエールは上物だねぇ。
黄色から数か月足らずで緑になったのは過去最速って話?
あんたもそのコツが聞きたくて来たクチかい?
これはね、良くも悪くもあの…ゴブリンの凌辱から全てが回り出したアタシの運命だ。
助けてくれたヨロイムシャ…カッチュウ?という装備を着たアダムさんからもらったミサイル・ランス、これが私の快進撃の元だ。
この威力を感じさせる尖り具合をご覧よ!
そんじょそこらじゃ見れないレベルの武器だよ。
突き刺すも良し、投げるもよし。
今まで…青や黄色ランクじゃ複数人で囲っても手も足も出なかったモンスター、例えばストライク・ボア、スケイルべア…そして今日はついにプリズムマンティスを倒したんだぜ!
しかも1人でだ!
ん?プリズムマンティスがどれだけ強いかわからない?
ははーん、見るからにお役所のおっちゃんっぽいもんねぇ。
簡単に説明すると、密林の中に宝石が落ちている…ありえないけどね。
で、その宝石に興味をもって近づくと…ズバッとやられて並みの冒険者なら一撃さ。
分かっていて近づいても奴の殻は宝石並みの硬さでね、魔法効果の無い武器では歯が立たない。
倒すのなら魔法士による攻撃で奇襲を仕掛けて、前衛で足止めしながら――って感じでパーティ戦でやるのが基本さ。
それをアタシは1人でやったのさ!
もう達人と言われる赤ランクも遠くない気がするね。
何?ゴブリンの巣での助けて貰った時の話をしろって?
そいつぁ…アタシもあんまりいい思い出じゃないからなぁ…
ん?もう一杯奢ってくれるって?
それに何だか腹の膨らむ物がなんだか欲しいなぁ…え、追加してくれる?
いやー、催促したようで悪いねぇ。
おねーさん!今日のおすすめのステーキとエールを追加でお願い!
助けて貰った時の話ね。
あれは…もう4か月になるかな。
まだ青ランクだった私はゴブリン退治の任務に出たんだよ。
目的の巣に近づいて、様子を確認してた時だ、背後からの強襲でね…後頭部を一撃さ。
そこからはお察しだね。
ゴブリンに囚われた女の末路なんて言わなくても分かるだろ?
まぁ、あんたが聞きたいのはそこじゃないだろう?
私も自分のレイプ話なんてしたくないけど…ね。
おっと、熱々のステーキが来ましたよ、ちょいと失礼っと。
ん~!噛み応えがありつつ、後腐れの無いあっさりとした脂…
やっぱステーキはストライク・ボアのものに限る!
トライデントバッファローも部位によっては最高級の肉が取れるって?
…よし、今のアタシなら狩れるはずだ…とと、涎が…
んとね、まず奢ってもらって悪いが正直な所記憶があいまいな部分も有るし、捕まっていた詳細な時期も分からない…それでもいいかい?
…はいはい、分かりましたよ、話しますよ。
そうだね…その人はね突然やってきたんだ。
洞窟にやってきた…じゃないよ、文字通りそこに『現れた』のさ。
魔法で隠れてたのか、はたまた失われた転移魔法なのか…あれだけの力と装備を持ったお人だ、何でも有りに思えてしまうね。
ほら、あの洞窟の中から伸びた穴と木の無い一帯があるだろう?
って言っても冒険者や調査に来た学者さんでないと分かんないか。
あ、わかる?そう…。
あれはね…あのお人がゴブリンリーダーもろとも吹っ飛ばした時に出来た技の跡さ。
いや、そこは確かだよ。
使ったのは多分だけど雷系の魔法だね。
何て喋ってたかは分からないけど、あの人の武器が稲妻を纏ったと思ったら轟音が響いた。
その後に出来たのはあの穴さ。
で、私と一緒に捕まってた娘がいたんだが、同じ光景を見てるはずだから興味があったら探してみなよ。
話してくれるかは別として…ね。
それに傷ついたアタシらに上級ポーションを貰ったんだよ。
信じられる?上級だよ上級!
同じことの繰り返しになるけど武器やら装備も貰ったからあの人にとっちゃ大したもんでも無いように感じたね…格が違うとかっていうレベルじゃないね。
そして武器と装備を手に入れたアタシの快進撃が始まり、今に至る…と。
ごちそうさん、これで欲しかった情報は得られたかい?
そうかい。
それじゃアタシは次の獲物…トライデントバッファローを狩りにいくさね。
待ってろよ極上のステーキ!
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ギルド用報告書 オース支部用
オースの北部、距離にして徒歩2日の山村にて発生したゴブリンによる拉致事件。
当初は青ランク冒険者を送り込むも失敗。
しかし、この拉致事件は謎の人物『アダム』によって解決されました。
以下に分かっている事をまとめます。
1、当該の人物は隠ぺい魔法を使用できる。(転移の可能性も念のため記載)
2、当該の人物は殲滅級魔法、又はそれに準ずる攻撃手段を行使可能である。
3、上記2つより魔法の達人又は、S級魔法武器の所持が予想できる。
4、当該人物は変わった全身鎧を装備しており、素顔、種族、性別不明、声色も中世的であり判別不能との証言。
5、ゴブリン討伐の際には変わった刀剣を使用、身体能力においても剣士、戦士級の上級職より上との証言有り。
6、救助の際に上級ポーションを渡している事から相当の資材又は資金を保持していると予想
7、同じく、現緑ランク冒険者のマルダ、村娘の3人に魔法効果付きの武器、装備品を渡している事から 〃
まずこの当該人物は冒険者ギルドの所属者では無いことは確認済みです。
当該人物の能力は英雄クラスに匹敵、または凌駕するものであり野放しにすることは非常に危険であると判断し、この報告書に記します。
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この報告書を机に投げ出し、大きく息を吐く。
そういえば煙草に火をつけたまま放置していたが…あぁ勿体ない、報告書を読んで、目を疑って読み直している間に灰に変わってしまった。
しょうがない、もう1本火をつけるか。
冒険者ギルド オース支部 支部長キルスティン・ギモンは煙草に火をつけ紫煙を吸い込む。
年にして50代の中盤だろうか、短く揃えられた短髪に顔に刻まれた歴戦の傷跡と眉間の皺…後者は事務仕事によるものだろうか。
先日…いや、4か月ほど前か、とある村の近くで発見されたゴブリンの洞窟――ここで異常事態が発生した。
ゴブリンによる住民の拉致自体は珍しい事では無いし、要人が捕まったというではないし上位種や変異種が出たという訳でもない。
討伐方法が異常なのだ。
あんな魔法の痕跡は見たことが無い。
若いころはそれなりに経験を積み、最終的には緑ランクの冒険者だったがあんな痕跡を残すほどの魔法は知らない。
数えるほどだが特色クラスと一緒に仕事をこなしたこともある。
だが、誰もこんな痕跡を残せるほどの魔法を使っていなかった…。
自分が知っている事が全てとは当然思っていないし、切り札で隠しているということも考えられる。
他のつてで調べさせているが見つかる可能性は低いだろう。
救助された冒険者がオース部所属だったのは不幸中の幸いだろう。
情報はすぐに得られた。
しかし…あぁ煙草が旨い。
煙草のお陰か、少し頭が冴えてくる。
常識的に考えるのならこの報告書を作ったやつの頭の妄想癖を疑うのが妥当であるが…
助けられた冒険者と村娘3人の装備や現場の確認を幾度も行った結果、それが嘘ではないとの結論に至った。
推測ではあるが、魔法も剣の腕も英雄クラスで、魔法武器や装備、ポーション、資材が五万とある?
冒険者であれば剣や武器、魔法の何れかで群を抜けば自ずと名が売れるだろう。
過去の異物や画期的な魔法武器の開発などであれば国や貴族…もちろん冒険者ギルドもほおって置かない。
まして上級ポーションなんて国で管理しているレベルの品だ、個人には年に数個も出回ればよい方だ。
「今までの英雄が霞むほどの大英雄か…それともとんでもない化け物か…」
ぷかーと紫煙を吐き出し、背もたれに体重を預け空中に広がりゆく様をぼおっと見ている。
絶対敵に回してはいけないと思ってはいるが、敵対するにも味方にするにも情報は必要だ。
「なぜ今になってこれだけの人物が姿を見せた?隠居した英雄…は無いな、能力から見てあれだけの魔法は使えない…いや、出てきた理由は今はまず置いておこう。
まずは対処だ…可能ならこれだけの逸材、味方に引き込めれば…だが、これほどの奴が欲しがるものは何だ…?」
若いころは冒険者、引退後はギルドへの就職…そして地位に至るが、自分の欲しいものは数あれど…才能もある、武器もある、金も持っているだろう…。
世の中の大半は金があればなんとかなる。
という事は金では買えないものだろうか?
例えば、才能…これは無い、伝説級の魔具…ありえそうだが所有されているものはほぼ国の管理下だ。おいそれと個人に渡すことは出来ない。
金を稼いで上り詰めるという意思でここまで生きてきたこの元冒険者には「…女か?」と零すぐらいしか無いのだった。
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