しょうげきのじじつ(タイトル回収
思わぬ初日の多重イベントになってしまい気付けば結構な時間ログインしているのではないか、との疑惑に駆られ社長へメッセージを飛ばす。
"お忙しい所失礼します。現在の時刻を教えて頂きたいのですが、よろしいでしょうか。"
送信っと。
あとはリターンを待てばいい。
結局、エミエは村に残ることを選んだ。
「可能ならゴーレム…ゴレちゃんを治してあげたい。その上で許されるのなら…ここに居たい。」
やはり彼女は研究…というよりゴーレムに非常に強い思い入れがあるようだ。
現状として、
アダム>>|越えられない壁|>>ゴーレム&エミエ>ギル・レド>モブ盗賊>村人
という力関係があるのがゴーレムはすぐに治せないらしい。
なんでも私が核ごと上半身を吹き飛ばしたから核となるものがなければ戦闘用のゴーレムは作れないそうだ。
ゴーレム抜きでもエミエはそれなりの魔法士であるエミエの野放しは危険ではあるが奴の持つ魔法、この国の要人の知識は役に立つ是非とも手元に置いておきたい手札だ。
私としては「村長に取りなして置こう」と答えるのみに留まったが、無論ごり押しでもこちらの要望を飲んでもらうところだ。
次に私が訪問する頃にはギル・レド共々解放されているかもしれない。
そして村長…正確にはゲントとの契約だったが村民に祈らせる事も了承され、教会に神像(3メートル級)を1体設置してきた。
ついでに管理費と修理費、エミエとギル・レド+盗賊団の受け入れも兼ねてという事で村長に金貨50枚を置いてきた。
最初は100枚出したのだが多すぎるという事で半分にした。
管理者の財布は無制限だが、あまりに多く出し過ぎて相場破壊を起こすことは避けたい。
そんな経緯からか村長は「もう夜も大分更けています。あばら家ですが是非、ウチに泊まっていってください」と誇示したが、私には私の家もあるので…と辞退した。
ではまた…と玄関先で別れを告げる。
現金ゆえの現金対応か敬意か村長家族、顔役、しまいにはリリアナ一家まで見送りに出てきた。
「それでは、今日はこれにて失礼します。」
「本当にこんな夜遅く宜しいのですか?近場のオースの町までは5日ほど掛かりますし、せめて馬車でも…」
ああ、とやけに引き留めると思ったら私の足を心配していたのか。
「ご心配なく、家までは一瞬ですので。」
「「「?」」」
多数の疑問符が浮かぶ。
理解しているのはリリアナだけのようだ。
冒険者をしていたゲイツも転移は知らないのだろうか…これも調査しなければならない。
「ではまた、『転移』」
シュッと私の体を青い淡い光が包み、姿が消える。
その晩、村長宅の前には固まった十人弱がしばらく立ち尽くしていたとか…。
なお、一度経験しているリリアナはなぜ皆が固まっているのかわからず首を傾げている。
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目を開けるとそこは管理者の間。
いやー、たった数時間程度なのにすごく久々に帰ってきた気がする。
リアルにして1週間ぐらい村にいた気がする。
あら、社長からの返信が無い…というより送信がエラーになっている。
念のため再送、と思ったら今度は即エラー。
ネットワークの不具合だろうか?
ただ私のこっちでの活動に不具合は無かった…という事はネットワーク自体ではなく、メッセンジャーのエラーかな?
とりあえずログアウトするべく玉座に座り、メニューよりログアウトを選択する。
「………ん?」
あれ、おかしい。
いつもなら玉座に座り、ログアウトを選択すれば眠気が出てきてログアウト処理が実行されるはずだが…
もう一度メニューからログアウト。
「………」
変わらない、本格的なバグか?
その後も2回、3回とログアウト処理を実行するが変化はない。
『ユーガッメール』
救済メール用の端末にメールが入ったようだ。
仮にバグであれば状態を監視している社長が直している最中かもしれないし、私は業務を続行しよう。
幸いこの体は疲れというものを感じないようだ。
CMのように24時間働けますか?というのも今なら有限実行できるかもしれない。
そもそも24時間連続勤務とか相当ブラックだし、CMのキャッチフレーズを覚えている人がどれだけいるかは置いて置こう。
端末に座りメールを起動するが、今までにないタイトルだった。
"誕生日おめでとう"
始めに言っておくなら私の誕生日はまだまだ先だから違う。
流石にゲーム内でのメールであれば悪質なフィッシングやウイルスメールということは無いだろう。
確認しない事には進まないのでメールを開く。
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件名:誕生日おめでとう
このメールを読んでいるという事はそろそろログアウト出来ない、という事に気付くかどうかというタイミングなはずだ。
もし、まだ気付いて無かったらネタバレごめんね(><;)
まず最初にボクは謝るべきだと思っているので謝罪させてほしい。
本当に申し訳ない。
君は忘れているが、君はこのゲーム…いやその『世界』に疑問を持っていたはずだ。
『今なら思い出せるはず』だよ。
鮮明な肉体の感覚、18禁でも出来ないエロ、グロ描写、AIとは思えないほど人間らしい人たち…。
その世界は現実だよ。
優れた仮想現実は現実と同じ…と言われる事があるがそういう意味ではなくそのファンタジーな世界は『現実に存在している』という事さ。
有体に言うなら君は『エッグ』を経由して『別世界に行っていた』のさ。
世の中にそんな題材を使った漫画やアニメ、小説等々いろいろあるだろう?
それがたまたま現実だっただけの事さ。
そして、もう一つ君に謝らなきゃいけないことがある。
君はこっちの世界には戻れない。
君は…そっちの世界の管理人として暮らしてほしい。
ゲームマスターだったころの装備、ステータス、権限等々は全てそのままだ。
勝手に送っておいてこんな言い草も無いが、好きに生きて欲しい。
世界を破壊する邪神として君臨するのもいいだろう。
冒険者として1人の人間として生きるのもいいだろう(他の種族にもなれるし、寿命も自分で決められるよ!)
又は今のように弱きを助けバランスを取る管理者を続けるのも良いだろう。
ただ自信をもって送り出したボクとしては、君はきっと『正しい』生き方を選んでくれると信じてる。
そして、今日が君のそちらでの誕生日だ。
おめでとう。
P.S.
今更だけどボクの正体はこっちの世界の管理者なんだ。
管理者にも会社で言う上下関係というか上司みたいのが居てね、そっちの世界の管理者を決めろってせっつかれてたのさ。
度重ねて謝らせてほしい。
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……。
……は?
ちょっともう一度読み返そう。
この世界は『現実』で、助けた人たちもAIとかNPCではなく、リアルに生きてる…。
ははは…悪いジョークだ、と笑えない自分がいる。
そうだ、なぜ自分は忘れていたのか。
ハードすぎる世界観、心が壊れるAI、リアルすぎる情景の描写、モンスターを切る、殴った時の感触、肌に触れる風、太陽の温かさ…
今、思い出そうとすればこれが現実だと感じさせる現象がいくつもあった。
『ユーガッメール』
またメールだ…。
"追伸2"
タイトルから察し、即座に開く。
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件名:追伸2
いやー、自分の気持ちだけ書いて重要な事を書き忘れて居たよ。
今なら思い出せるはずだよ。って書いたけどこれはね…
『エッグ』を通る際に思考にプロテクトを掛けていたからね、こればっかりは気付かなくても仕方ないね。
このさっきのメールと同時に解除したからもう大丈夫!!
あ、勝手に頭をいじってごめんね(>人<;)
それともう一つ、『信仰』について
今日までの業務の中で神像に祈りを捧げるように、と仕向けてきたけどこれはね、今日からの君の生活の為なんだ。
管理者というのは世界の力を使う者を指すんだ。
当然、神様じゃないからその力は無尽蔵では無い。
もう文面から察してるんじゃないかな?
そう『信仰の力』はそのまま管理者の『命であり力』だ……と言っても簡単に死ぬわけでも無いし保管しておくことも出来る。
簡単に言えばHP兼MPのバッテリーみたいなものさ、『信仰』があるだけ力が使いたい放題と思ってくれていいよ。
信仰があるうちはHPとMPが自動回復するしね♪
じゃ、快適な管理者ライフを…
P.S.
このメールは一方通行なのであしからず
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気持ちだけは謝っているような文面でも…これ確実に笑って書いてるだろう。
幸いにして自分はそれなりに冷静だ。
気持ちが追い付いていないだけかもしれないが…。
順を追って確認していこう。
1、この『ゲーム』は『現実』だった。
2、自分はこっちの世界の管理者になった。
3、あっちの世界には帰れない。
4、社長はあっちの世界の管理者だった。
5、『信仰』が無くなると最終的に死に繋がる。
この世界で死ぬと…どうなるんだろう。
そのまま『死ぬ』という事なのだろうか、それともリスポーンとか復活とかあるのだろうか…。
何にせよ現実となった以上、気軽に死ぬわけにはいかない。
マジか…自分が異世界転生…転生じゃない?転移か?
でも生まれた?から転生?
あーもう、頭が追い付かなくなってきた。
寝よう!
頭をリセットしなきゃいけない。
幸いアイテムボックスには布団やベッドやら寝袋…コテージ…一軒家…城!?
今更だがアイテムとしてどれだけの容量と種類があるんだろうか…
無難にベッド一式を管理者の間に広げ、毛布を被る。
管理者の間は常に青空だ。
こうでもしないと無理に寝られそうになかった。
羊をが1匹、羊が2匹…目が覚めていればまた出勤の朝であることを望みつつ、延々と羊を数え続ける。
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羊が5000匹を越えたところで飽きた。
そのあとは延々とゴロゴロゴロゴロと唸りながら寝ようと努力がしてみたが一向に眠気が来ない。
こちらの世界時間で午前4時過ぎになり、今日は寝ることは一旦保留とした。
「これ…寝られないとしたら精神的に参りそう…。」
丸投げされたとはいえ、私の管理者生活は2日の朝からすでに挫折の空気が漂い始めていた。
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