尋問、勧誘
村長らには「彼女の尋問は1人でやらせてほしい」とお願いした。
不審がられたが、もし他の人がいる状態で魔法でも使われたら守り切れない、と一番それっぽい理屈を並べたら簡単に了承してくれた。
村長宅の納屋、扉を開けると埃が舞い上がり隙間から入った月明かりに照らされて少し幻想的な雰囲気を醸し出す。
農機具や備蓄された食料、椅子、机等々の備品がしまい込まれた一角に柱に繋がれた女性。
両腕を柱を背中で抱きかかえるように拘束され更には目隠しと猿轡。
現代日本の人権団体に見つかりでもしたら相当な騒ぎになるだろう。
この世界にそんな面倒な輩が居るかどうかは別として…。
納屋に入り扉を閉める。
今の彼女は耳で聞く、首を振る、足をもぞもぞさせる程度の自由しかない。
彼女からすれば恐怖だろう。
どこの誰とも知らぬ奴が入ってきている。
もしかしたら自分の犯行だと知った村人たちが私刑にやってきたのかもしれない。
コツ…コツ…となるべくゆっくり歩く、その上で「ごほん」と前置きをしておく。
「起きているな、これからお前の尋問を始める。とりあえず猿轡はそのままだ。YESなら首を縦に、NOなら横に振れ。先に行っておくが…嘘は付くなよ?」
ん゛ぅと首を縦に振った。
「まず名前は…エミエ・ラヴレ…これに間違いは無いか?」
又も縦振り。
「職業は魔法士か?」
今度も縦振り。
「お前は…どこかの国に仕える魔法士か?」
ピクッと体が反応した。
そして長い時間を掛け、ゆっくりと首を『横』に振った。
「そうか…嘘を付いたな。」
ビクッと体を震わせてから首を横に振る。
「さて、もう一度問おうか。『宮廷魔法士のエミエ・ラヴレ』はどこかの国に仕えているよな?」
彼女は私が相手を観察できることは知っていたはずだが…肩書まで知られているとは思わなかったのか?
ゆっくり首を縦に振る。
さて、私の持っている情報はこれで終わりだ、ここからはカードを引き出しながら問わなければいけない。
先に『嘘を付いても分かる』というカードがどこまで聞いてくるかが問題だろう。
「…今回の襲撃の件はお前が主導したのか?」
ゆっくりと横振り。
「お前に村を襲う指示をしたやつが居て、お前は任務を遂行する為にあの盗賊団を利用した…と。」
コクコクと縦振り。
ここで少し整理しよう。
この宮廷魔法士エミエはどこかの国に使える魔法士である。
何らかの任務を受けた。
任務の途中で使い捨て出来そうな盗賊団を見つけ、人質を取り村襲撃の手伝いをさせた。
きっと目的を完遂したら盗賊団に全ての罪を擦り付けて『討伐』という名目でも掲げるつもりだったのだろう。
この任務を指示した真の黒幕はさぞ腹黒いことだろう。
「さて、これからはYES、NOで答えられない質問だ。猿轡と目隠しを外すが…敵対行為とみなした場合、即座に…うーん…」
どうしよう…あまり人道から外れた事はしたくないし、かといって嫌がらせにもならなければ言葉に強制力が無い。
足をくすぐる…弱い、髪を切る…ちょっと酷いからダメ、痛みを与える系統…論外…
ピーン!と頭の中に電球が出てきた。
実力差は明確なのだから脅しだけでも十分じゃない?
「とりあえず敵対行為と思われる行動を取った、と思ったらその時に決めよう。」
シュルッ…と目隠しを外し猿轡の拘束を解く。
隙間からの月明かりがあるとはいえ、顔も見えにくい状態では話すほうも辛いだろうとランタンを取り出し近くの箱の上に置く。
淡いオレンジで納屋の中が少しだけ温かみを取り戻す。
フードを取り、何もつけていない顔は初めて見る。
年齢は20代といった所だろう、ブラウン色のセミロングの髪に端正な顔立ち…まだ綺麗というよりは可愛いというほうが強めかもしれない。
それに最低限の服装…下着じゃないよ?
村長の奥さんによる身体検査を行ったうえで、奥さんのお下がりを着せて貰っている。
地味目のブラウスだが…隠しきれない豊満な双丘が自己主張している。
「……」
おっといかん、あまり見るのは失礼だな。
「おほん…まず一つ目、あの頭目…ギル・レドの妹は無事か?」
「…無事です。あいつらの元の根城の一室に閉じ込めています。」
朗報だ。これでギル・レドに新たに貸しが1つできた。
後でモブ団員にでも助けに行かせよう。
「お前の任務内容は村を襲うだけか?」
「…語弊がある…。正確にはゴーレムの強化の為に領地運営に影響のない村を餌にすること…」
へー、それを国が命じるということは兵器にでも転用するのだろうか。
仮にあのゴーレムが敵を倒せば倒すほど強くなるのであれば…戦争なんかに投入されれば稼ぎ放題で強さは天井知らずとなれば無理やりにでも実用化したがるだろうな。
「では次。お前に指示を出したのは誰だ。」
「…コーウェル公…」
やっぱ居たよ、黒幕的な存在。
「その者は何者だ?」
「…あんたこの国の人間じゃないのか?」
「そちらからの質問は許可した覚えは無い。」
「……このエネキア王国を治める貴族の1人、コーウェル・レニード・マンダン公爵…です。」
やはり国絡みだし、公爵とかすげぇ上の方じゃないか。
「お前がこの任務に失敗したことは向こうに伝わるのか?」
「通信や手紙などを送らない限りは伝わらない…と思う。」
だがあまり時間を掛け過ぎると調査に兵を送り込んでくることも考えられる。
災いの芽を潰すのなら早めに…又は口封じとしても、という事だ。
「質問は残り2つだ、元の国に戻る気はあるか?」
「戻りたいという気持ちはある…けど任務の要だったゴーレムを失ったから帰っても居場所は無い…任務の責任を取らされて投獄か、口封じの為に消されると思う。」
やはり後ろ暗い事をさせられていたという自覚はあるようだ。
元凶はその公爵とやらだ。
「では、最後だ…私に仕える気はあるか?」
はぁ?と語尾を上げてくる。
「あなた正気?自分を殺そうとした奴を引き入れるなんて…」
「殺そうとした?…さて、私はゴーレムと少々遊びはしたが殺されるような事は無かったが?」
事実、あのゴーレムでは私に勝てない。
仮に魂の吸収とやらで多少強くなっても圧倒できることは間違いないだろう。
「ちなみに、あの時の私の防御は…そうだな、全力の時の1/10以下ぐらいじゃないかな。」
嘘ではない。
今の祭祀っぽい服――『原初の僧服』は魔法防御や各種耐性は十二分に付いていたが物理防御は布の服に毛が生えた程度。
つまりはゴブリン達を屠った時のような近接のガチガチ装備に比べれば1/10でも済まないだろう。
「ハハハ…私の渾身のゴーレムがお遊び扱い…初級魔法が殲滅級なのも…全く嫌になる…」
私の語る実力が嘘ではない事が対峙した彼女は分かるのだろう。
「それに私だけに利点があるわけではない、おまえにも利点はある。」
営業は駆け引きが基本、だがwin-winの関係こそ最も成功率が高いパターンだ。
「例えば…これは私の推測だが、おまえはゴーレムの研究などしていたのではないか?」
擬音にするとキッとなるような眼で睨んでくる。
「…あなた、どこまでの事が『見える』の?」
「私の推論と言っただろう。ゴーレムに愛着がなければ名前など付けないだろうし、まして壊してしまった後の乱れ様から考えただけだ。」
破壊されたゴーレムを思い出したのか、今度は悲痛な表情で俯いている。
「そこで提案だ、この村に住みゴーレムを研究すればよい。そのうえで村の護衛や労働力として提供してくれるのなら…だがな。」
「…」
思案しているのだろう、元の王国に戻り失敗を告げ処分されるか、救われた命と思って村で第2の人生をスタートするか。
「そろそろ返答を貰おうか。」
「私は―――」
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