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そして、これからも

 健全な精神は健康な肉体に宿る…と言われたことがある。

 学校の体育教師だったか、本で読んだ何かだったか忘れたが、結局のところ心身ともに健康な状態を保つという事は何事もバランスよく、過不足なく過ごす事である。

 つまりは日々の積み重ねなので、割り切ると決めた時から見直した。

 生活リズムを!


 いかに眠らず、疲れずの力があっても歪みは生じる。

 単に後払いの睡眠と疲労は非常に分かりやすい例だ。

 それが管理の空白を生み、自分の目が届かぬ内に大きな事故を生んでしまった。


「…いつも青空のこの場所は少し恨めしいな」


 祈り、救いを受け取るにはこの場でなければならない。

 まずは迅速な対応を心掛ける事としたのが2つ目の見直しだ。

 だが人としての正しい生活と思えばやはり夜には夜空を見て、虫の声を聴き、眠り、日の出とともに起きる生活が好ましい。


「あのパソコンも自動での転送とかできりゃあいいのに」


 それにしても随分と独り言が増えた気がする。

 シロも、村に置いてきたし、ハチは私の代わりに特色クラスの冒険者として活躍し、追加で呼び出した面々も各方面で順調に成果を出している…と聞いている。

 一人が楽だと思っていたが、人恋しいと思う本来の私らしい部分もまだ残っていたらしい。


「さて、今日の救済はっと…?」


 総菜パンを噛みしめ、霜印のコーヒーで流し込む。

 生活リズムを正すといっても自分で作る気は…今のところは無い。


「んー……信者が増えたのはいいんだけど結構微妙な願いも届くんだなー…緊急性の高そうなのは……」


 以前は直接命に係るものが多く、緊急性の高いものもあった。

 困ったときの神頼みは誰しもある。

 もちろん程度はあるが、酷い物を上げれば「腹が痛い…」「紙が!」といった自分でも思ったことの有るようなものまで。

 身も蓋もない言い方をすれば『便利な神様』だろうか。

 祈りという対価を払えば願いを叶えて貰える…かもしれないという存在。

 ちなみに、流石に風邪や腹痛、トイレの紙が切れた、どうか試験通過を!と言ったものはスルーしている。


「ま、こっちもえり好みして救済している訳だからおま言う、って感じだけどな」


『ユーガッメール』



「……お?」







― ― ― ― ― ― ― ―








「はぁ…はぁ…!」


「兄ちゃん! もう…走れないよ…」


「頑張れ! もう少しだから!」


 深夜の森を駆ける幼い兄弟。

 身なりは服というよりはボロ布と言っても良いを纏い、肌も薄汚れ汚れか痣か判別不明な程に薄黒い。

 月が出ているとはいえ森の小道は走るには不便に過ぎる。

 それでも速度を緩めず走れるのは日頃の行いお陰…二人にとっては弊害と言っても差し支えないだろう。


「はぁ…! はぁ…!もう少し…!この先の関さえ抜けられれば――――っ!!!」


「に、兄ちゃん…」


 暗闇の森を抜けた先は煌々と光を放つ松明があった。

 数本というレベルではなく、数十本…それも兄弟を待ち構えるようにずらりと待ち構えるように。


「はい、ごくろーさん。短い逃避行は楽しかったか? 束の間の希望は楽しめたか?」


 身長は兄の倍近く、幅も倍…腕の太さに至っては弟の腰くらいはある筋肉の塊だ。

 剃り上げられた頭に揺れる松明の光が気持ち悪い程に幻想的だ。


「あ…あ…」


 体に嫌というほど刻み込まれた恐怖が顔を見せ、逃げるという意思を即座に打ち砕く。

 そこにはもはや震えるだけの子犬が2匹いるだけだった。

 それでも目の前で消えつつある希望を失いたくないのだろう。

 疑問を挺する事で恐怖を抑えようとする兄の姿があった。


「何で…今日は、いないはず…じゃあ…」


「んん? 俺が出かけるから? この日なら子分共も多少羽目を外すから? 警戒が緩むなら逃げられる?」


 ただの大人と子供以上の体格差で詰め寄る姿は、圧力という一言では片付かない凄みがあった。

 筋肉質な体からは発せられる熱すら感じ取れ、緊張と熱さから汗が噴き出してくる。


「偶にいるんだよなぁ~お前のような『大人を出し抜いてやる』とか『絶対にここから逃げ出してやる』って息巻いてるガキがよぉ…で、こっちがちょーっと隙を見せれば……頭の良い僕ちゃんなら分かる…よなァ!?」


「最初から…罠…だった…」


「ひゃははははははは! まぁ、そういうこった。 んでお前らみたいなのを見せしめにすりゃぁ他の奴は大人しくなるって寸法よ。良かったな。みんなが無駄に死なない為に死ねるんだから感謝しろよ」


「お、俺はどうなっても良いから…弟だけは…弟だけは見逃してくれ!」


「…くれ? おいおい、人にものを頼む態度ってもんを知らねぇのか?」


「…お願いします…どうか弟だけは、見逃してください。お願いします…!」


「兄ちゃん!」


 武装した何人ものならず者。

 人を殺す事を何とも思わない連中に捕まった時点で死ぬのはほぼ決まっており、ただ早いか遅いかだけだった。

 運良く生き残る道があったとしてもそれは運が良いと思える事は無いだろう。

 体よく連中の処理係になるかどこぞの変態に売られるかの2択だ。


「あぁ麗しい兄弟愛だぜ、泣けるぅ~」


 ダメで元々、もし通れば御の字だ。

 今後も弟は奴隷以下の生活環境に重労働になるが生きているだけマシだろう。

 だが、そんな兄弟に文字通り、刃が向けられた。


「ただ兄貴を殺してもつまんねぇし、ちょっとしたゲームをしようぜ。二人ともそれを拾え」


 目の前にはナイフが二つ転がる。

 刃渡りはおよそ15センチ程度で、子供でも本気で刺せば容易に人を殺せる凶器だ。


「二人で殺し合え。生き残った方は…生きたままでここから出してやる」


 ドクン、と心臓が跳ねる。

 目の前に唐突に沸いた生き残る…いや、生きたままここから脱出できる希望。

 兄弟という理性の天秤を容易く傾ける程度には重みがある約束だ。


「に、兄ちゃん…」


「本当だな? 本当に生き残った方はここから出られるんだな!?」


「本当だよ。なぁお前ら?」


「おう! 俺は弟に銀貨2枚!」

「俺は兄貴に銀貨1枚と半分」

「弟に銅貨70!」

「俺も弟だな。銀貨1枚だ」

「弟に銅貨85枚」


「何だよ、みんな弟寄りかぁ? なら俺様は兄貴に銀貨5枚だ」


 こいつらにとっては自分以外の命など商売の種でしかないのだろう。

 そこから零れたら玩具程度の扱いでしかない。


「ごめんな、お前の兄でいられるのは今日で終わりだ」


「に、兄ちゃん? 嘘、だよね?」


「僕は本気だ」


 ナイフを拾い、弟に自分の覚悟を見せる。

 涙目の弟はもはや動けるような心情では無い。

 だが、周りの畜生にも劣る者共はそんな心情などお構いなしに囃し立てる。


「おら!弟クンもさっさと構えろよ!」

「てめぇに掛けてんだぞ!さっさと殺せ」

「兄貴もさっさとヤれよ!じゃねぇと俺がヤっちまうぞ」


「早くナイフを拾って立て。そうしないと二人とも殺されておしまいだぞ」


「うう…兄ちゃん…ひっく…ひっく…」


 当然、構えなど知るはずもない弟はもう一本のナイフを拾って立ち上がる。

 泣きべそをかいてナイフを持っているだけの棒立ちの子供の姿。

 同情してくれるような輩は兄を除いていない。


「よーし、準備も整ったな。さぁ殺し合えー!はははははは」


「………強く生きろよ。戻ったら母さんによろしくな」


「…え?」

「は?」


 兄の胸から鮮血が飛び散った。

 両手で握ったナイフは左胸に深く突き刺さり、咳き込んだ口からも血が飛び出した。

 まだまだ、と言わんばかりにナイフを抜くと夥しい量の血が零れた。

 肺だけでなく心臓も傷つけたのだろう。

 こぼれ出る命の液体が広がるにつれ、兄の目は虚ろに、唇は青くなっていく。


「兄ちゃん!何で!!?」


「おま…え…は……い、いき…ろ…」


「はぁ~……マジもんの麗しい兄弟愛ってか? ふざけんなよ糞が!てめぇのせいで賭けに負けたじゃなねぇかよ!」


 既に死に体の兄貴を蹴飛ばすと2、3度地面を転がりながら木にぶつかって停止した。

 事切れたのか、意識が朦朧としているのか反応すら無い。


「あ、あ…兄ちゃん……」


 棒立ちの弟の勝利となったわけだが、当然血も涙もない輩が約束を守る道理も無い。

 


「生きたままここから出る…ってんならいずれ死ぬ状態で放り出しても同じ…だよなぁ?」


「ヒッ!」


 下卑た笑みを浮かべるスキンヘッドの大男は薄汚れた弟に語り掛ける。

 目の前で兄の最後を見、自分の運命を悟った子供は股間を湿らせる程度しかできなかった。

 兄のように自決するでも、そのナイフで飛びかかるという選択肢すら頭には存在しない。


「なぁ坊主。知ってるか? 殺すってのは誰でも出来るんだ」


「あ…あ…」


「難しいのはな、生かさず殺さずの加減なんだよなぁ」





「………(駄目か。やっぱりあいつら約束をまともに守る気なんて無かったんだ…なんだか痛いし寒いなぁ……。ねぇ神様、僕らが何をしたっていうんだ。何で僕らがこんな目に逢うんだ…。寒いよ…母さん…弟を守れないダメな兄貴でごめん……死にたく、ない…。死にたくないよぉ……)」


『少年よ。助かりたいか?』


 それは単なる空耳か、死に瀕した自分の脳が作った妄想だと思った。

 自分の耳とも脳内、どちらからも聞こえる声など聞いた事すら無かったからだ。


「……(死にたく、ない…でも…)」


『でも?』


「……(弟を、死なせるのは…もっと…嫌だ…)」


『…その意気や良し!身をもって弟を救おうとする気概!死に瀕して尚、家族を思う情愛は救うに値すると判断する!』


 そしてその瞬間、月は厚い雲に覆われた漆黒の中、人里離れた森に昼間の如き明るさが生まれた。

 爆発とも太陽ともとれる光の中心に居たのは一人の男だった。


「アダムの名の元に少年、君の願いを叶えよう」


「な、何だてめぇは!?」


「そして!貴様らのような人を人と思わぬ輩には、相応の酬いを用意しよう」


 特級ポーションを惜しげもなく少年に振りかける。

 命に直結する事柄に関しては自重という言葉を忘れた男は少年を助ける事とその弟を救う事を同時にこなした。

 これから玩具で遊ぼうと思っていた矢先に、手元から消えた事を不思議に思う前に怒りを露わにする。


「何だよてめぇはよぉ!?」


「私はアダム。救いを求める者に救済を与える者也…もちろん貴様らには相応しい罰をプレゼントだ」

もうPC治らないので会社でしこしこ書いていたり、出張で心が死んでいましたがとりあえず更新です。

雰囲気でお察しかと思いますが、もう間もなくです。


もう少しだけお付き合いください。

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