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この…軟弱者め!!!

「…空が青い…」


 何日経過しただろう。

 耐性を解除し、酒を呷ってはそのまま意識を失い、起きてはまた酒とツマミ。

 二日酔いになれば薬を酒で流し込み、面倒臭さくなれば耐性を戻して横着するという日々を続けていた。


 この場には俺以外誰も居ない。

 ハチもシロも村できっと良いようにやっているだろう。


「………こーゆー時ってさぁ…死んだ仲間とかがさぁ…『腑抜けてんじゃねぇぞ!』とか『俺たち、二人ならどこまでも飛べるだろ!』とかってさぁ…語り掛けて来て目覚める見たいな、覚醒イベントだろー…?」


 誰に言う訳でも無い、自分への言い訳だ。

 分かっている。

 自分は叱ってほしいんだ。

 だが、私が殺して記憶に残るレベルの者などほとんどいない。

 背中を預けた戦友もいない。


「…ははは…そんな脳内に死者が出るとか…どんなファンタジーだ…」


 自分がゲームマスターだ、ゲームだと思ったら現実で…充分ファンタジーだがな。

 何が神様だよ。

 扱いきれないデカい力を持ったただのガキじゃねぇか。

 俺TUEEEEEEして、オーバーテクノロジーと未知の商品で商業無双して、勝手に切れて、勝手に思い込んで……人を殺めた。


「……自分で決断するって、きっついなぁ…」


 そう言い、また酒を呷った。

 何べん飲んでも旨い、とは思わない。

 でも飲まずにはいられない。

 そうでもしないと嫌なことで思考が塗りつぶされる。

 まさしく逃避だ。


「大人になれば酒が美味いと感じるもんだと思ったが…違うんだなぁ…――」










「アダム様は何をなさっているのですか?」


 これは夢だ。

 夢でないと説明が付かない。

 上下左右も曖昧で遠くは霧に包まれ、地面すらない。

 そんな所に私以外がいるのだから…。


「私を殺めた貴方様は、こんな所で何をなさっているのですか?」


 青い髪に知的な眼鏡…でもそれでいてどこか幼い…私が殺したフルー、その人が目の前に立っている。

 森で過ごし、少々やつれた状態で無く、恐らく最も健全な、健康的な状態だ。


「フルー…だよな」


「はい、私です。貴方様が首を絞めて…いえ、首を折って殺した私です」


「はは…きっと君は俺が思う『君』なのだろうな、少し意地が悪いぞ」


「そうです。貴方様が私は酷い事を言うだろう、と思っているからこその私です。だから私はアダム様ご自身の自責の念とでも思っていただければ幸いです」


 分かっているさ。

 既にフルーの遺体は無く、火葬にした。

 アダム村の慰霊碑の裏に小さく墓を用意までしたのだから。


「私はアダム様の心そのものです。だから言って欲しいであろう言葉を差し上げましょう。…………この軟弱者!!」


 夢と思われる場所に地面があるかは分からんが、そこにへたり込み、目の前に立つ少女から罵倒…いや、叱責を受ける。

 自己防衛というか心を軽くする為の自律神経の働きとでもいうのか。

 被害者に攻められることで確かに俺の心は少し軽くなった気がした。


「世にはまだまだ助けを求める人がいくらでもおります。酷い場合には自分が、酷い状況にいる…という事に気づかない輩もおります。祈れば届く、神に届くという実例がここにあるのに何故動かないのですか?祈りは今も届いているでしょうに」


「…動いて…助ければ、またフルーのように暴走しかねない危険な人も生まれるかもしれない」


「それであれば、またその手に掛ければ良い。違いますか?」


「違わねぇよ!だからこれ以上手を出すべきじゃないって思った!だから助けを無視した!だから…!」


「何もしない…ですか。既に万単位で殺している御方が、一人に固執して言う事ですか?」


「きっと…また俺が手を出せば似たような事がまた起こる。それこそこの大陸に留まらず、範囲が広がれば広がるほど戦争に発展した場合に取り返しが付かないだろう!?」


「そういう事も起こるかもしれませんね」


「だろう!? だったら何もせずにただの神様として敬われるだけでいいじゃないか!」


 ハァー…………と糞程長い溜息を吐くと真っすぐにこちらを見据え…いや、見下しながら諭すように言い出した。

 それは言うなれば侮辱も侮蔑も、憐憫も情愛も…何もかも含みながら、どれとも言い難い顔であった。


「アダム様、ご自分で気づいていらっしゃいますか? 先ほどから『かもしれない』と『きっと』と、推測しかしていません。神の如き力であれば未来を知る術もあるのでしょうが…それも無いご様子。つまり、貴方様は知りもしない、でも来るかもしれない明日に怯える只の子供…いえ、ガキですね」


 ああ、未知は怖いよ。

 会社時代でも同じことを言われた気がする。

 「出来ない理由じゃなく、どうすれば出来るのかを提案しろ」と。

 無茶言うなと、出来る術はいくらでもある。

 当時はコストが掛かり過ぎて結局断念に至ったが、悲観し、ならない理由を並べる時間は確かに非生産的だ。


「未来に怯え、嫌な事をしないというのは子供でも出来ます。アダム様、大人になりましょう。嫌な事から逃げず、自ら泥を被り笑える人になりましょう」


「…それは、素晴らしい大人だな…」


「当然今すぐに、とはいかないでしょう。例にすれば私のような案件が起こる可能性ゼロではありません。そのたびに手を下し、悩むのも良いでしょう。立ち止まるのも良いでしょう。誰だって休みは必要です。でも、そこで止まらずに進むことが何より重要です…何よりもアダム様はこのようなお説教を希望なのでしょう?」


「まったくその通りだな。流石…私の自責の念だ」


「一人称が戻られましたね。多少は効果があったようで何よりです」


「…また、私が立ち止まった時に叱ってくれるか?」


「アダム様が私の事を忘れない限りは」


「なら、問題は無いな。私の最初の相手…フルーよ」


「ふふ、大変な光栄です。ではまたお会いしましょう。私の愛しいアダム様…―――」


 これが自分が求めていた説教、求めていた叱責であるならば少々気恥ずかしいが、これは私だけの夢だ。

 他の誰にも知られる事の無い私とフルーだけの記憶だ。

 もしかすれば夢から覚めたら忘れているかもしれない。

 それも、もう少しだけ進んでみようと思うこの気持ちだけは忘れないようにしたい。



ちょっと…土曜に上げるのが難しそうなのでお茶濁し感ありますがお納めください。

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