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何は無くとも世は回る。

ブックマーク減ってた…悲しい。

つまり解除者は熱心なフルーファンだな、と好意的にとらえてみる。

「何だと? 怪しげな宗教を潰して欲しい?」


 キルスティン・ギモンは回ってきた依頼書に眉を顰める。

 如何に自由を謳う冒険者ギルドとてルールも規則もあり、依頼する側としても最低限の取り決めはある。

 依頼料は当然ながら、失敗した時の保証や免責事項、稀有な例だが特定の冒険者を呼び出し闇討ち…という例もありえる。

 そのために特例が無い限りは依頼者の身元確認も求められる。


「教会の一件からこの手の案件が増えたな。それにこの依頼者…確か…」


 冒険者ギルドには良くも悪くも善悪という考えは無い。

 困っている依頼者を助けるのが主体だ。

 依頼を達成してみれば、被害を被った方から訴えられるという話も少なくない。

 その場合は調停者を立て、偽りの依頼主に全責任を吹っ掛ける訳だが…。

 確か…と自分の記憶を頼りに過去の依頼履歴を探ると案の定の結果がでた。


「つい先日も宗教潰しを依頼してきた奴じゃないか、それも自分の村じゃなく今度は隣村か…」


 正式な依頼であるならば冒険者へ回すのは吝かではない。

 しかし冒険者は傭兵では無い。


「コイツ自体が別の宗教の親玉で、俺らを便利使いして潰させてるって見るのが妥当だな」


 要調査ではあるが、今コイツの依頼を受けるのは悪手だろう。

 『要確認』と『差戻』の判子を押して別口へ回す。


「んっ……!」


 ぐいっと背を伸ばすと体の各所からバキバキと骨の鳴る音が聞こえる。

 椅子から立ち上がり、窓を見ると修練場で青ランクが白ランクへ稽古を付けている様子が見えた。


「……動きは粗削りだが…あぁ、そっちは…ほら、誘い打たれた。ってアイツは理屈も教えないで叩くばかりかよ」


 ベテランともなれば指導する側に見える粗も直さねばならない。

 凝り固まった体を慣らすために偶に運動も良いだろう。

 若手とのコミュニケーションも必要だしな、とギモンは修練場に向かうのだった。






「あいたたたた……」


「年甲斐もなくはしゃぐからです。」


「すまん…」


「はしゃぐのは夜だけにしてくださいな」


「……おう…」






― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 







「はーっはっはっはっは!まだまだ行くっすよ!」


 マルダの意思に従い敵を刺し、薙ぎ払い、飛び回る矛。

 それに加えて右手には太めの槍を持ち、左手はバックラーと遠中近とオールマイティに対応している。


「ちょ、マルダさん先行しすぎだよ。抑えて!」


「もー!めんどくさいの!!」


 アダム由来の武器を貰ったことでマルダは単独の赤ランクに上がり、同パーティだったレッタとイロエも緑に上がっていた。

 それでも依頼の6割はゴブリン狩りである。

 普段はゴブリン、指名依頼だと高難度の大型を狩るという落差っぷりには周りも舌を巻いた。

 彼女らほど率先してゴブリンを狩る集団はほぼ無い。

 低賃金に臭い、汚い、キモイ、事故れば死ぬより酷い…と絶望的な人気を誇るが故だ。


「中々大きい巣だったっすねぇ…あ、ダジャレじゃないっすからね」


「………そうだね。ざっと40匹くらいかな」


「ん~…子供がいないの…?」


 これほどの頭数が居れば数を増やすために人を浚ってもおかしくは無い。

 雌ゴブリンの姿も見えない事から雄だけで40も集まっていたのだろうか?


「隠れている可能性もありますし、焼きましょう」


「そうっすね」


「こういう時にフルーちゃんが居れば楽なのに~」


「アタシらに無断で、一言も無く消えたってことはアダム様絡みでしょ。そのうちひょっこり現れるんじゃない?」


「そうっすね。次にアダム様に逢ったら聞いてみるっすよ」


 彼女はらは談笑しながら広間に火を放つ。

 魔法で構成された炎はレッタの意のままにうねり、酸素を奪い、蒸し焼きにする。

 そのまま死んでくれれば御の字、往生際の悪い奴は――


ギャァッァァッァア!!!


「びりびりー!」


 熱さに耐え兼ね、酸素を求めて出た所に雷撃が襲う。

 一瞬で死ねた事がまだ幸福だろう。

 人種にゴブリンの幸せの何たるかは当然、理解できないが。


「ってことは飛び出したあの辺に隠し通路っすかね」


「…狭いね。奇襲もあるから焼いてから入る?」


「びっくりするのはやーなの」


「安全が一番だね、それじゃ……炎よ、燃やせ!」


 小さな抜け道のような穴を赤い炎が隙間なく駆け抜ける。

 奥はさほど深く無く…逃げ場も無いちょっとした空間だった。

 炎を操るレッタにはそれが、炎が感じた情報が伝わり、そこに数匹の小さなゴブリンが隠れていた事を知る。

 知った、という事はすでに炎に包まれている事を意味していた。


「…子供が3匹いたよ。もう終わったけど」


「そっすか。じゃ引き上げるっすかね」


「早く戻って~明日は~萌葱亭の新作パンケーキなの~♪」


「お、いいっすねー」


「あんた…いっつもあれだけ食べてよく太んないわね…」


「イロエは太らない体質だも~ん」



 少女らは今日も男勝りに…いや、その辺の男ら以上に動き、稼ぎ、人生を謳歌している。

 多少血なまぐさくとも仕事があり、金が貰え、引いてはあの人の為になると信じて、モンスターを狩るのだ。








― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 







 私は影が薄い。

 存在感がーという話では無く、自らの意思で存在感を消しているのだ。

 諜報というのは相手に気づかれ、警戒されれば全て終わりだ。

 本来の姿を隠し、可能な限り雑踏に紛れたただの民として振舞うのだ。

 それに街の栄え具合も重要だ。

 廃れ過ぎれば人込みに紛れず、栄え過ぎれば情報が散逸する。


「おばちゃん、それ2個包んでー」


「あらデリラちゃん、今出すからね!」


 今はデリラを名乗っているが、これも数ある顔と名前の一部に過ぎない。

 もはや自分でも本来の自分とは…?と疑念を持つぐらいに分からなくなっている。

 ある意味そのお陰か、私の素性を知られることも無く、弱点を晒さなくても済んでいると思えばマシか。


「ありがとー、また来るねー」


「またよろしくね!」


 肉と野菜、香辛料を混ぜ込み白い生地に包んで焼き上げたものを頬張りながら市を歩く。

 "このぐらいの普通の娘が行う無防備さ"が丁度いいのだ。

 …それにしても…中々美味い。

 値段も安価だし、具のバリエーションで食感も風味も楽しめる。


「……(もむもむ)」


 こうして買い食いをしながら市を回る事4日、もう見回るところが無いがそれでも見回らなければならない。

 それが功を奏したのかこの3日間は見当たらなかった出店を見つけた。

 中々に顔が良い若い男が果物のジュースを売っていた。

 きっと当たりだろう。

 それに塩辛いのを食った後だし、口をさっぱりさせたい感じもあった。


「おにーさん、お勧めのミックス下さいな」


「おうよ、嫌いな野菜はあるかい?」


「んー…セロリが嫌いかな」


「オッケーイ、ちょーっと待っててネ」


 リンゴにバナナに蜜柑…人参にトマト…と『何か』が混ぜられた。

 調味料で無い所はまず、ビンゴ…後はその何かを見極めなければならないという事だ。


「はい、お待ちどう。銅貨7枚ね」


「ありがとう」


 果汁とすり潰された果肉、中々重みがあるが味は悪くない。

 そして風味に隠れたこの仄かな苦みは………。

 若干の意識の混濁と酩酊感…慣れていなければ立っていられないような濃度だぞ。


「うっ……」


 路地の外れでしゃがみ込み、倒れ込む。

 そこで私の意識は途切れた―――事にする。


「…どうだ? 意識無くしているか?」

「よし、大丈夫そうだ。運ぶぞ」


 はい、大当たり。


「っと…見た目より重いな。着やせするタイプか?それにしちゃ…胸もねぇな」


 失礼な!

 コイツは後で殺すの確定だ。





「今回はそれか?」

「あぁ、顔立ちも肉付きも平凡だがその方が目立たないだろう?」

「だな…見た所、貴族でもねぇし…ってそもそもこの街にゃ領主以外はいねぇか」

「下手な所は噂が立つし…6人目ともなればそろそろ潮時かな」


 こっちが寝てると思ってべらべらと説明ありがとう。

 目立たない市勢の地味な女性を狙っていたと…そして私以外に5人いると…。


「起きる前に繋いで箱へ入れとけ。明日の夜には出るから今のうちに準備しとけよ」

「へーい」

「おうよ」




 移動先…港ね。

 変哲もない商会の倉庫…の奥の奥ね。

 へー、雑な奴らかと思えば防音の魔法も施してある。

 鎖も簡単に切れないように強化済みだし…案外細かい仕事が出来る奴もいるみたい。


「よしよし、騒ぐなよお前ら。まぁ騒いだって外には聞こえなーーーー」


「もう、隠す必要もないな。案内ご苦労…私の胸を侮辱したお前は死ね」


 "何もない"所から腕と短剣が現れ、刺された男は一声も上げれず倒れた。

 無防備なら喉と背後から心臓を一突きぐらいは造作もない。

 やれやれ…と偽装内に腕と短剣を戻すと「ヒッ…」と声が漏れた。

 目の前で人死にを見たのもあるだろうが、あり得ない光景を見たというのもあるだろう。


「まず黙れ、騒ぐな。俺はお前らの調査と救助を依頼された冒険者だ。騒いでも構わんが救助される人数を減らしたくなければ大人しくしろ。いいな?」


 どの娘も大人しく、大変よろしい。


「俺はこれからここの連中を捕まえに出る。代わりに街の衛士達を寄こすから大人しく待っていろ」


「あの……」


「あ?」


「ヒッ…すいません…」


「…意見があるならさっさと言え」


「あの…助けてくれて、ありがとう…ございます」


「…それは後から来る衛士にでも言ってやれ。じゃあな」


 偽装と仮面があって助かった。

 裏で動くことが多いので誰かと共に、という事が異常に少ないし救助よりは暗殺の方が多かった。

 だからお礼を言われる事に慣れないんだよ。

 熱い顔を抑え、でも心は冷たく誘拐犯を仕留めに、情報を吐かせに出向く。





「お疲れじゃったな。Dよ」


「あぁ、慣れない仕事は本当に疲れたよ」


「でも殺すより助ける方が気持ちがいいじゃろ?」


「…面倒臭さという点では逆だがな」


「素直じゃないのぅ」


 王国にあるギルド本部にて仮面の…性別不明な者とギルドマスターのエルネティア氏が会談していた。

 見た目は怪しげであるが、彼…と仮称しよう、彼は特色ランク『無色』のDだ。

 主にギルド関連の裏仕事を主体とし、彼の存在を知る者はかなり限られている。


「しかし、異端というか新しい宗教絡みの仕事が増えたな。暗殺が懐かしくすら感じるよ」


「最大派閥にして唯一と言ってもいい宗教が立ち消え…いや、再出発か。制約が無くなったと思えば鬱憤の噴出も止む無しじゃと思うわ」


「今月だけで宗教絡みの誘拐3件…生贄2件…調査は鋭意進行中と…冒険者って何だっけな?」


「…冒険者とはいつの世も民の為に動く者を指すのよ。そしてこれらの案件をアダム君にまかせっきりにする訳にもいかないしの」


「御使い、世界の管理者…ねぇ…随分と俗っぽいムラっ気の多い神サマもいたもんだ」


「実際に相対した教会がその証左じゃろう。一人の気分で何千、何万が死ぬなどある意味で恐怖政治と変わらんな」


「……俺は何も聞かなかったからな」


「この年になって気を使わなきゃいけない相手が増えるなど思っておらんかったわ」


「耳長にしちゃまだまだなんだろ? 人種からすれば大変なお年寄りであらせられるがな。ま、精々仕事として報酬が出るくらいには働くさ」


 そういうと靄が掛かる様に仮面の男が背景に溶けていった。

 姿を消しただけでなく気配もない。


「はぁ……ご機嫌取りの世直しのお手伝いを続けるしかないのぅ…まったくとんでもないのを引き入れたもんじゃ…」



 信ずる神はいる。

 でも神は必ず助けてくれるものではない。

 それは教会の一件で誰しもが理解していた。

 実力行使の出来る神が動かずとも、世は如何様にでも回るのだ。

私事ですが、明日より立て込む事案がござますので次回は9/7ぐらいになりそうです。

最後までお付き合いよろしくお願いします。

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