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再会と…もう一つのけじめ

総合評価 945pt

評価者数:42人

ブックマーク登録:290件

ありがとうございますm(_ _)m

 アダム村はもう白い綿に包まれ、歩くたびにキュッキュッと小気味よい音と感触が伝わってくる。

 今はまだ降り始めだが、いずれは膝くらいでそのうちに窓まで、酷いときは屋根まで積もる事もあるとか。

 村民はビルド手製のミスリル製スコップで雪かきしている。

 とても軽く、使い勝手が良いと評判である。

 …他の街に持っていけば普通のスコップが100本以上買えるとか何とか…。

 ついでに言えば高級バージョンはスコップに熱を持たせ、効率的に雪かきできるタイプも作ったらしい。


「新雪の農村…これで温泉でもあれば言う事無しなんだがなぁ…」


『ご主人!』


 シロから念話が入った。

 あの襲撃以来、ここで放し飼い…もとい護衛として村に常駐させている。

 アダムの眷属と知って村民も徐々にではあるが、慣れてきて、子供たちとじゃれる姿も偶に見かけた程だ。

 同じくハチも人間形態でアダムの家で過ごしている。

 ゴート、キルト含め、戦闘指南役として遊ん……働いていると。


『どうした?』


『森で迷い人というのか? 人を見つけた。どうする?』


 あの戦争から既に1か月近く経過し、運良く…運悪くかもしれないが生き残った兵士もオースにたどり着いた事は確認した。

 グレイ配下のフォレストウルフらが徘徊する森で何週間も生き残るような猛者がまだ残っていたか?


『教会関係者か? 見た目の特徴を教えてくれ』


『んとなー、人種の雌で…茶色のマントに青い髪の毛…あぁもう!水魔法がうっとしい!!』


 友人知人データベース参照

 人種の雌…17名くらいヒット、その中で青い髪…1名…フルーか?

 水魔法って私が与えた杖だろう。

 そう言えばキルスティンさんのとこに状況説明しに行ったら「フルーが行方不明で…」とか言ってたしな。


『なるべく傷付けずに連れてこれるか?』


『んー、分かったぞ』


 力量差というかレベル差が圧倒的だ。

 問題無く連れてきてくれるだろう。

 果報は寝て待て。

 いや、雪かき手伝ってるけどね?


「うぉぉぉぉぉ!アダムブルドーザー!」


「アダム様すげぇ!」

「100人力だ!」

「かっけぇ…」


 偶には童心に帰りたくなるこの頃。

 子供に褒められるのは気持ちがいい。






― ― ― ― ― ― ― ― ― 







 泣いたカラスがもう笑った、という表現が正に相応しいだろう。

 意気消沈して死を観念したようにシロに咥えられた人種…間違いなくフルーだ。

 子猫を運ぶ親猫のような様相はちょっと笑えた。

 いや、フェンリルであれば狼だから犬寄り…あれ?狼の方が原種なんだっけ?

 細かい事は置いといて、出迎えた私を見つけるや否や駆け出し、スライディング平伏を決めて見せた。


「アダム様!参戦が間に合わなかった事、平に、平にご容赦下さい!」


「いや…まず膝が濡れるから立ちなさい。ずっと山で野宿してたのか?」


 衣服も外套も泥に塗れ、乾き、変色していた。

 碌に寝れていないのか目の下にはクマもあり、頬は以前よりも大分こけている。

 フルーの特徴とも言える青い髪は、薄汚れて艶が消えている。


「はい…教会がアダムの村を襲うと聞きまして、微力ながら行軍中の奴らに奇襲と妨害をしかけておりました」


「…そうか」


「その後はあの…白い大きなガルムですか? あれに捕まるまではずっと一人で…」


「…まずは食事に風呂に…疲れを癒しなさい。話はそれからでもいいでしょう」


「はい!」


 私の為に…と言えば美談だろうか。

 だが、私からすれば自らの行いでこの娘に人を殺させた…自主的に殺させた事になる。

 もちろん村を守るために戦った連中も沢山…殺しているがあくまでも仕方なく、自衛として…だ。

 この差は、果てしなく大きい。








― ― ― ― ― ― ― ― ― 







 こんな風に新しい住人が唐突に増えるのも既に慣れたもので、メイド三人娘はテキパキと仕事を分担している。


「じゃあツヴィーは食事の準備ね。なるべくお腹に優しいスープとかお粥をお願い。ドリィはまず簡単な着替えとお風呂、洗濯ね」


「はーい」

「りょーかーい」


 三人のリーダーであるアインは二人に指示を出すと、自分も即座に行動に入る。

 素人目にも良い手際と分かるような動きだ。

 と言ってもフルーの世話に関してはツヴィーとドリィに任せ、自分は三人分の定常業務らしい。


「この家の人数の料理を一人で回すのか…凄いな」


 メイド三人娘を省いたとしてもゴートにキルト、ビルド、ミルレートの最初の元奴隷が四名。

 追加の元奴隷、レミエとフォー。

 さらには配下となったハクとグレイ…我ながら節操無しに増やしたなぁ…と思う。


「慣れればどうという事はございません。それにこの家の…デンカセイヒンでしたか? これらのお陰で家事は公爵様の所より数倍楽です。加えてここでは見目麗しい小細工も必要ありませんので!」


「そういうものか」


「そういうものです」


 魔力結晶を用いて似たような製品を開発中とコーウェルさんから伺ったがそれだってまともに稼働するのは数年係りだろう。

 今の所コンロはそれなりに普及しているが、洗濯機に掃除機、エアコン等々もか。

 まして効率化、という観点で見ればもっと長い目で見なければならない。


「この家だけでもチートが過ぎるなぁ」


「血…糸…何です?」


「何でも無い。独り言だよ」


「左様でございますか」


 こうしてゆっくりと食事の支度を見るなんてこちらに来てからあっただろうか。

 しばらく、それこそ料理が完成するまでぼーっと眺めていた。




 そのまま成り行きで、私とフルーを加えたメンバーで食卓を囲む事になった。

 衰弱気味のフルーは特別メニューだが、他の面々はいつも通り…?のメニューらしい。

 肉アンド肉プラス肉×肉、野菜を少々添えてと言った感じだろうか。


「では皆さん、食事の前にお祈りを」

「「「「「尊い命と作り手に、そしてアダム様へ感謝を」」」」」


 !?


「いただきます」

「「「「「いただきます」」」」」


「…いただきます…」


 この体の時、耐性解除していない場合であれば腹も減らないし、眠くもならないし疲れない。

 だから冒険者として体裁を整える以外はあまり自発的に食事はしてこなかった。

 故に、誰かと一緒に食卓を囲む機会など片手で数えられる程度ではないだろうか。

 お茶とかお菓子とかは数に含めないものとする。


 目の前でじゅー…と熱したミスリル皿に鎮座する分厚いステーキと付け合わせの野菜。

 やはり最初はメインディッシュ…と刃を入れると抵抗無く肉が分断された。

 ナイフもミスリル製で手入れの具合もあるだろうがフォークで刺した肉の柔らかさたるや…。

 何でもミスリル製なのはもう突っ込まない。


「…ゴクリ」


 腹は減らない。

 しかし、目の前の旨そうな肉、熱々で、鼻腔に届く濃厚なバターの香り…それだけの情報で食えない訳がない。

 口に入れると最初こそバターの風味に支配されるが噛む度にそれに負けない肉の旨味が滲みだす。

 さりとて噛み応えがあっても適度にほぐれ、三回、四回と噛むごとに口内に広がり……気づけば繊維は解け、旨味のジュースと化し嚥下するのにいささかも抵抗は無い。

 後味が鼻を抜け、余韻を感じさせてくれる。

 自分でも意識していなかったが、手は既に二切れ目を、と手を動かしていた。


「…うまい……」


「…っしゃ!」


 今日の食事を用意したアインが何かつぶやいた気がするが、この旨さの前には些細なものだ。

 皆も同じメニューに舌鼓を打ち、酒を飲むにつれ歓談が加速していった。

 フルーも最初こそ遠慮気味だったが、ここにいる皆が私に助けられた関係者であることを知ると多少は心を開き、少なからず会話に参加していた。

 テーブルから食事が消え、空いた酒瓶が目立つ頃にフルーから声を掛けられた。


「アダム様…今夜、少しばかりお時間を頂戴してもよろしいでしょうか」


「ん…構わないが」


「ありがとうございます…皆が寝静まった頃に、また……」


 耳元で囁かれる言葉は、童貞には中々キツイものがあった。

月曜アップ忘れてた…今日は12時、明日は17時に予約しときます。

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