後始末(2/2)
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ありがとうございます。(2019/8/20 9:00時点)
「この発言は村代表でなく、あくまでも個人の意見として聞いてもらいたい。もちろん批判してもらっても結構だ」
部屋にいる誰もが村長…いや、ゲイツさんの発言に傾注した。
もちろん判決を待つに等しいソーモンも大人しく耳を傾けている。
「私は…これ以上は必要無いのでは…と思う。確かに一方的に仕掛けられた戦争だ。建物や怪我人を思えば憤りはある…だが幸いなことに死者はほとんどでなかった。緊張の連続で体調は崩しがちだったがな、ははは」
自嘲を含めて深刻にならないよう努めている。
ソーモンは自分に有利な発言が出るとは思っていなかったのか少々笑みがこぼれている。
…ちょっと威圧感を開放して「てめぇ…」と睨みを利かせておく。
「ノワールさんからすれば自分を謀殺した奴の命を…何て言われたら気分を害するかもしれないが、彼を見れば今後の人生を左右するような傷も負わせられている。だから私はこれで手打ちでも…と、これが私の意見だ」
「こっち、別に…気に、しないで。そっちと、こっちの、問題」
「…ありがとう」
途中参戦の私には分からない部分があるが、意見の一つとしては理解した。
第一印象としては「優しいな」と思った。
「ずるいじゃないか、ゲイツ。そんな言い分聞かされたら後から反論し辛いじゃないか」
「はん、キニークに別の意見が出せるだけの頭があったのかい?」
「うるせぇな!オーバだって意見だせるのかよ」
「一発ぶん殴るくらいはしてやろうと思ったぐらいさね。ま、あの手足を見れば留飲も下がるってもんさ」
「ワシとしては気分を晴らすためのリンチよりは…可否は置いといて教会との交渉材料に出来ればええと考えていたのぅ」
「我らはアダム様のご意思に従うまで」
「…右に同じ」
「ワシも遺恨は無いぞ。労いとして酒でも貰えればありがたいがな」
大体意見が出尽くしたが、ゲイツの意見に流されたのを含めてもリンチは無し…と。
私の意志に従うというのもノーカン。
「村の総意は概ね分かった。ノワールはどうだ?」
「…わた、し?」
腕を組み、考え込むノワール。
うーん、と悩んでいる仕草は年に似合わず幼げだ。
特に小首をかしげる仕草ったらもう…!
写メ…今はもう通じないかな?
カメラで撮って待ち受けにしたいな!
「……ふん!」
「う゛お゛ぇ!!!」
鳩尾にきれいに下段突き…いや真下突き?
まったく無防備な所に、全力の拳は男女の対格差を考慮しても威力が増すだろう。
それが冒険者のトップに位置する者の拳なら筆舌に尽くしがたい痛みだ。
肘と膝から先が無い状態でソーモンは胃液を吐きながらのたうち回る。
「…!…!!!…!」
吐き気と呼吸困難だろう。
唇を紫に染めながら吸えない空気を求めてどったんばったん。
「蘇生、した。これで、おあいこ」
「お、おう…」
「ぜひ…はぁ……ノ、ノワール大司教!貴女は邪教の側に付くのですか!?」
「おかしな、事を、言う。大司教、死んだ。お前が、殺した。ここに、いるの、ただの、ノワール」
「詭弁を…言葉遊びをしている訳ではないんですよ!」
「ちょっとお前黙れ。ノワール、教会には戻らないのか?」
アイアンクローって言うのだろうか。
ソーモンの顎を手でつかみ、少しだけ圧を掛ける。
「ん……どう、しよう?」
考えてないのかよ!
さっきの口上からするに大司教の座を捨てて一般市民として――とか思ってたのに。
「それは…私が決めるべきものではない。自分の身の振り方は自分で決めるべきだろう」
「そう、だね。ちょっと、考える、時間、欲しい」
「村長、一時、ノワールの世話を頼めるか?」
「それはかまいません。一応武装は解除させて貰いますが…」
「当たり、前」
話に聞いていた純白の鎧と十字架型の鈍器が私の前に差し出された。
既に身に纏っていなかったのは分かっていたが、部屋の片隅に置かれるとか無造作すぎんか?
ゴートと互角以上に打ち合ったんならそれなりの業物では?
「これで、私の、戦力、は、激減」
「…預かろう」
「もご…もごもごもご!!」
何やらソーモンが物申したそうにしているがもう少しだけ力を籠める。
ミシミシと骨が軋む感触が伝わってくる。
「…!!…!!!」
しかし、こうなると私自身もいよいよ方向性を固めなくてはならない。
ソーモンに対しては現状で十分とは言え、大打撃を受けた教会は本気でこちらを潰しに掛かる事が予想される。
であれば、大勢を崩した今のうちに勝敗を決するべきではないか?
だが…これだけの規模を誇る教会を仕切る者達であれば見つけるにも情報が足りない。
一国の公爵すら二の足を踏むような奴らを相手にするのは…。
「………」
「ん?」
静かだなと思ったらソーモンは白目を向いて気絶していた。
少し考え事をしていたら思いのほか力が入ってたらしい。
「ま、なる様になるかな」
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
それから、それから?
特筆すべき内容は特にないが、私は村の復興のために幾ばくかの時間を割くことにした。
ノワールからの回答も貰いたいし直接か間接かは置いといて私が関わった事で村を戦火に巻き込んでしまった落ち目もある。
何より避難させた村民を管理者の間に置きっぱなしには出来ないし、この冬に宿無しで過ごせとは人でなしに過ぎる。
とは言っても…
「必要なものは運び出せたか?」
「は、はい」
「では…ポチっとな」
半壊or全壊した住宅を更地にして信仰ポイントで家を買うだけ。
資材と人手を必要とする建築を数秒足らずで終わらせるから手間が掛からない。
それに如何に北方の住宅とはいえ木組み、板組みで隙間風に凍えるような建屋だ。
高気密、高断熱の住宅の好評さも私の指を存分に軽くしていた。
結局、村中の"損傷"した住宅の建て替えは1日と掛からず終わり、辛うじて戦火を逃れた家主からは「ウチも是非お願いします!」と請われる事となった。
まぁ…ここまでくれば5軒も10軒も変わらないけどね。
「"土神:天沼矛"」
魔法によって生まれた矛…これを大地に突き刺すと大地が脈打ち、うねり、波に、次第に大渦となり、広範囲をかき混ぜ、飲み込む。
正に大地を創生するような動き。
これだけ神なのに矛という矛盾が気になるが些細な事だろう。
製作者のセンスを疑うが…。
かき混ぜられた大地は様々なものを飲み込んで懐に抱いていく。
木も岩も火も鉄も、死体も…戦の痕跡をことごとく飲み込み、新たな、表向きは真っ新な大地が創成された。
東京ドームに行った事が無いので何個分、という表現は出来ないが、端的に示すのならば…。
山森森森森森森森森森山
↓
山森_______森山
と、村の面積が十倍以上に広がった。
私がこの数日で最も時間を裂いたのが、殺した兵士らの弔いだ。
この土葬は最終工程でもある。
形の有る、原形を保っているものを可能な限り集め、包み、並べる。
簡易的に祭壇を設けて、教会式の葬儀を行った。
自分で殺した者達だから可能な限り誠意をもって送ってあげないといけない。
結局はただの自己満足だが。
「慰霊碑くらいは…立てるか」
人工が読みにくいので人手に変更:2019/8/20 17:35