後始末 (1/2)
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地味伸びしております。
ありがとうございます。
死者を弔う際には生前の健康状態を思わせる化粧を施す。
事故などで部分的に欠損したのならば整形など。
正直な所、「綺麗にしてやってくれ」とお願いはした。
人として死んだ後に尊厳まで汚されるような扱いに憤慨した所もあるが、目的は弔いでは無い。
だが綺麗なベッドに寝かされ、化粧を施され正に眠るような状態は…。
「彼女は…彼女の立場があろうとも非道ではありませんでした…!」
うん。
それは聞いた。
「教会の扱いがコレかい!あたしも何人も手を掛けちまったが後悔なんてしてやらないよ!」
うん、極一部が酷いだけで全体を悪く言うのは良くないけど…今回は賛成かな。
むしろ婚姻前の女性に男のアレに塗れた体を洗って貰ったのもよく考えればちょっと…。
「次は負けぬと…このような終わりなど…ッ!」
ゴートは立ち会った本人だから悔しさも一入なのは分かる。
誰一人が葬式であると信じて疑わない。
私もこんな空気で言い出しづらいのはあるが、ついさっきは謝る時はどーのこーのと言った節もある。
一時の恥がなんぼのものか。
「あー…みんな、しんみりしているとこ悪いが…ノワールを死んだままにしておくつもりは無いぞ」
「「へ?」」
綺麗にしたのは男のアレが残ったまま起きたら嫌でしょ?という小さな親切心だ。
ポーションで傷は治るにしても汚れは消えないしね。
久々のマーブル模様の毒々しい特級ポーションをぶっ掛ける。
「え…何アレ…」
「ポーション…の色じゃないよな」
ぼやーっとノワールの体が光ると見えなかった小さな傷まで復元しているのが分かる。
いくら時期的に寒いとはいえ、死後時間が経過しているから内部の損傷もあるかもしれない。
脳とか…アソコとかも…。
「とりあえず傷に関してはこれでOKっと、後は…えーと、"リザレクション"」
初めて使うがまぁなんとかなるでしょ。
― ― ― ― ― ― ― ― ―
ノワールは暗い海のような、ふわふわとした空間を揺蕩っている。
自分は…そうか、死んだのかと思い返して。
死ぬ、という事はどういう事だろうと漠然と考えた事はある。
生命活動の停止は言うに及ばず、組織の上に居れば社会的な意味で死ぬ者も幾度かは見ている。
今回は自分の身に降りかかった『死』ではあるが、そうなってしまえばアッサリした物だった。
何度も何度も死線を潜った事はある。
でも死ぬという事は縁遠かった。
「何だろう…とても眠い…」
肉体から解き放たれた、これが魂とか霊魂という状態なのか。
いつもより舌が滑らかで詰まる事が無い。
「魂…便利…」
微睡ながらふわふわ…ゆらゆら…としているが徐々に、確実に『下』に落ちている気がした。
その証拠に景色は無いが、色味が濃く、暗くなっている。
意識が眠りに落ちれば次に気づいた時には漆黒かもしれない。
もしかすれば目覚めないことだってあり得る。
「これが…死…なのかな…」
いつか戦いで訪れるか、幸運にも引退して静かに迎えるかもしれなかったもの。
思い返せば楽しいと思えた人生では無く、最後は裏切りという納得いかないもの…それだけが心残りだった。
否、戦いと教会で過ごした経験しかない彼女にとってはまだまだ未知の楽しみに世は満ちていたのかもしれない。
思い出されるのはアダムが差し入れてくれたお菓子であった。
「もっと…お菓子食べたかった…かな?」
上手く動かない思考でもあの味は思い出せた。
今にして思えば王都の中にもあのように美味しいお菓子を出すお店はいくつもあったろう。
新しい心残りを生みながらも思考はどんどんと鈍くなる。
「……ーい…」
「…もう…凄く…眠い…」
「おーい…」
「……」
「おい、ノワール先生、起きろ!」
「…はっ!?」
暗かった景色に一筋の光…その光を背に手を伸ばす男の姿。
逆光で顔は見えないがこの中性的な声には聞き覚えがあった。
「…アダム?」
「そう、私だ」
「…アダムも死んだ?」
「馬鹿な事言うなよ、お前を迎えに来たんだ」
「……………蘇生の奇跡?」
「んー多分それだ」
「…そっか。やっぱり私が相手に出来る人じゃなかった」
「? 良く分からんがさっさと来い。お前に見せたいものもあるからな」
「分かった」
そう言い、彼の手を掴む。
自分の倍はあろうかという手にぎゅっと握りしめられ、引っ張られる。
光がどんどんと近づき、景色が明るくなる。
今回の事で沢山死んだはずだ。
この闇に沈んでいった者が多くいたはずだ。
自分だけ生き返るなんて都合が良いのは百も承知だ。
だから今だけは死んだ者へ祈りを―――
― ― ― ― ― ― ― ― ―
「……まぶ…しい…」
「とりあえず成功だな」
わぁ!っとなるかと思ったら案外そうでもないようだ。
葬式とかお通夜から歓声に変えるというのは心境としても無理だろう。
「…死んでた…よな?」
「うん…」
「流石はアダム様だ」
「やっぱ神様なのかねぇ…」
「あー!? 起きるな!まだそのまま寝ていろ!!」
起き上がろうとするノワールを静止させる。
今のままでは大変なことになる!
「?」
ノワールは視線をきょろきょろと動かし、10秒ほどかけて自分が置かれた状況が見えたようだ。
魂?状態でのやり取りで死んだ、という事は理解していたが、今は?
綺麗な状態とはいえ、ベッドに寝かされている。
掛けられたシーツの下はすっぽんぽん。
「あ…!男どもはさっさと出ていきな!淑女の着替えだよ!」
こういう時におっかさんは強い。
オーバさんは未婚らしいけど…。
「着替え終わったよ」
アダムの家、メイドの…スタイル的にアインの物だろうか。
地味という言葉以外出てこないのはノワールの肌や髪がその服と合わないからだろうか。
今、大事なのは裸では無いということ。
「いろいろと交わしたい言葉はあるが…とりあえず復活おめでとう」
「…複雑」
「だよなぁ…教会の人たちいっぱい…その…やっちゃったしさ」
「それ、仕方、ない。あの、糸目…」
そっちかよ!と突っ込みたいがぐっと我慢し、話が先かな。
「ノワール、ちょっとキツイ話をするぞ。聞きたく無くなったらいつでも止めるからな」
「?」
小首をかしげる白い肌の美少女、黒髪がサラリと垂れる様子はほんと絵になるわ。
このまま写真を撮りたいぐらい。
あ、いつもの被り物をしてないのでサラサラな黒髪ロングヘア―が最高です。
「君は一度死んだ、これは生き返ったからまぁ…良いだろう。その間に何があったかを話しておきたい」
貴女はレイ〇されました。
レ〇プというより死体になった君を…俗に言う死に女が3つのあれだけど、喉まで出かかっても流石に口にするのは気が引ける。
本当に言わなきゃならないのか?
綺麗に生き返ったんだからいいじゃないか。
私の中の天使と悪魔が止めに掛かる。
って2体して止めに掛かるなよ…。
「その死んだ君を、だな……」
「…玩具に、された?」
「!! 知ってたのか…」
「ううん、何と、なく。反応で…」
「…うまく伝えられなくて、すまん」
「大丈夫、じゃない、けど、謝ら、なくて、いい。戦場、よくある、事」
確かに日本でも衆道というのがあった。
それは男と男のアレだが、やはり日常でない所でそういうのを発散するとなれば行きつくのは非日常的な行為だ。
一人で済ますならまだ良いが、部下を無理やりに…とか動物とか…その辺で略奪とか…殺した相手とか…。
世の中には穴があれば何でも良いという下種だっている。
「…詫びとは言えないかもしれんがお前を玩具にしていた奴を捕まえてある。好きにしてくれ」
「…そう」
ノワールに察して貰えたことで話がスムーズに進んだ。
これで胸のつっかえが取れた。
「あと、これは皆も含めての話だが、今回の元凶は行くまでも無く教会だ。将来的にはどうにかする予定だが、今はまず…色々と便宜を図ってくれた彼に皆で礼をしたいと思うんだ」
外に放置していたソーモンと他2名を引っ張ってくる。
自分では少し冷静になったと思っていたがダルマになった者を引き連れるなど配慮が不足していたらしい。
「ヒッ…」
誰が息を飲んだかは知らないが、その辺の負傷者よりも生々しい人工的な負傷者は心にクるのかもしれない。
私としては当然といった感情しか持たないが…
いかん、また感情が高ぶってくる。
「こっちの目が死んでるのがノワールにオイタした奴、そしてこっちが…ソーモン君だ。みんなも知ってるよね」
「ははは…皆さん、ごきげんよう。できればリンチよりはひと思いに殺してもらえることを希望しますよ」
「それで…彼に対する処遇をみんなで検討したい」
「「「……」」」
この状況だ。
自分の一言が目の前の一人の命運を決めるかもしれないとなれば誰もが声を出しかねる。
「いい…だろうか」
声を挙げたのは村長さんだ。
私は何も言わず次の言葉を待つのみ。
「この発言は村代表でなく、あくまでも個人の意見として聞いてもらいたい。もちろん批判してもらっても結構だ。」
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