蛇狩り (1/2)
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(2019/8/13 17:00時点)
ありがとうございます。
教会の現在の指揮官、名前はソーモン。
それだけ分かれば見つけるのは非常に容易い。
マップに検索を掛けるだけで…ほら出た。
「何だ、まだ陣地から逃げていないのか」
目視で見える位置のテント。
他のテントと差異は無く、検索を掛けなければ虱潰しになっていた事だろう。
逃げられないようにシロを森に配置しているが…逆に逃がして恐怖を与えつつ…というのも有りかもと残忍な俺が顔を見せる。
既に組織としては瓦解しているのに向かってくる連中を処理しながら我が物顔で敵地を闊歩する。
「いだい…たすけで…」
「ぐえっ、いだ…いだい…」
手足を切り飛ばし、死なないように傷を塞いで首輪をつけて引っ張っているのはノワールを慰み者にしていたうちの2名。
自分の末路を知った彼女が嘆くかもしれないが、復讐とは自分の手で行いたいものだと俺は思う。
という訳で持ち帰る為に連れて歩いている。
「うるさい。少し黙れ」
圧倒的に突っ込んでくる有象無象の方が煩いが、嫌いな者の言葉ほど癪に障るというのだろうか。
少しは助からない未来に絶望して受けれたらどうなのか。
軽く蹴っ飛ばすとボキ、ゴキとどこかの骨を折ってしまったらしい。
吐血し虫の息になってしまった。
「あぁ…もう」
自分の行いに自分でイラつく。
私もいよいよ余裕が無いらしい。
ポーションをぶっ掛け、元凶の元へ足を進めた。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
「ソーモン様、今すぐに撤退し後発部隊との合流を!」
「…そうですね。推測と憶測を混ぜるのは危険な発想ですが、アダムなる者が想像以上の化け物という事は理解できました。近衛部隊を集結させ、アダムにぶつけなさい。私達の撤退の時間を稼ぐのです!」
「「ハッ!」」
これで良いとソーモンは思う。
ノワールとて最高戦力の一人…これを『不幸』な事故で失ったのは痛恨の極みだが、同格となる者はまだまだいる。
現にこの指揮官代理を護衛する者らは次期『純白』候補にも上る、又は次席、三席の強者だ。
いかな化け物でもこいつ等をぶつければ多少なりとも時は稼げるだろうと考えていた。
想定以上の存在に通りに運ぶ、と考えている段階ですでに焦りが見て取れる。
「ほ、報告です!後発のノワゼット大司教様の部隊との連絡が途絶えました…未知の大型モンスターに襲撃されたというのが最後の情報です…」
「な…なんですと…?」
「ご報告申し上げます!村に赤いドラゴンが出現しました!被害甚大です…!」
「今度はドラゴン!?どうなっているんだこれはぁ!!」
押し寄せる悲報、急報、凶報に処理は追い付かないが、そこは腐っても優秀な蛇である。
自らの前方には想像を超える化け物アダムと赤いドラゴン、後方にも突如現れた未知の大型モンスター。
既に孤立しているという事は即座に理解していた。
「……もはや打つ手なしですね。この情報を持って帰る事を至上命令としますか…貴方達、近衛に伝達を。『この場を死守、アダムを足止めし、可能な限り時間を稼げ』と」
「「ハッ!」」
そう指示を出すと、携帯している魔法の収納袋に資料を詰め込む。
テントの中にある役立ちそうな物は片っ端から。
しかし、悲しいかな容量が足りず内容量の8割は羊皮紙と記録板で食料まで入る余地は無かった。
「…数人は連れて行きましょうか。そいつらに持たせればいいでしょう」
目の前に暴風が迫るのに自分は助かるだろうと信じて疑わない。
そして、既にその最悪の化け物と呼ぶ存在にマークされ、逃げる術など無い事をこの男はまだ理解していない。
あくまでもこの男ーソーモンの中での常識という意味で優秀なだけなのだ。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
「ふはははは!我らを前に無傷で歩を進められると、努々思うなかれ!」
「随分と御大層な魔法だったが…我らとてそこらの雑兵と比べられても困る」
「強者には強者、当たり前だけどちょっと判断が遅いよねー」
「…………いざ…」
俺の前に立ちふさがるのは言葉通り、有象無象とは一段も二段も違う顔ぶれだ。
装備も魔法効果付きの僧服か軽装鎧に重装鎧、武器も様々と個性が爆発している。
今の俺からすれば彼らから甘く見ても十段くらい離れてるので、その辺の…と大差ない。
構うだけ無駄…と歩みを進めるがその中の一人が真ん前に立ち武器を構える。
「せっかくの我らの出番、無視などと悲しい事をなさるな…ささ、どうか一つお手合わせを――」
うっとおしい。
口を開いたまま細切れに崩れる名も知らぬ自称強者の一人。
もしかしたら本人は死んだことに気づいていないかもしれない。
「「「…!」」」
一騎当千という言葉がこちらの世界にあるかは不明だが、俺はそれを地で体現している。
下手をすれば万でも億でも足りないかもしれない。
その千を相手に一人で向かう愚行を考えないのだろうか?
「どうやら…生中な気分では難しいようだな」
「今の見えた? やべぇってコイツ…」
「……」
こいつらもか。
絶望的な戦力差を理解してどうして向かってこれる。
そうか、何のことは無いんだな。
「貴様らを今の男と同じく細切れにするのは容易だ。俺の質問に答えるか、細切れになれるか好きな方を選べ。あと、ハイかイイエ以外の答えは認めないからな」
「ははは、容易とはいささか――」
有言実行、僧服の奴の左腕を飛ばす。
武器の錫杖?が2分割にされ、シャランと音を立てて地面に落ちた。
「ぐっ…!」
「2度は言わん」
反応できなかったことで奴らも自らがいまだに強者であるという認識から外したようだ。
互いに目配せをし、目の前に迫る死から逃れる手段でも探しているのだろうか。
「質問に答える」
はい、で無いがそれは些細な事だ。
「よろしい、では問おう。これだけの力の差を見せつけられても何故貴様らは向かってくる? 何故逃げない?」
怒りに任せて虐殺していても、面倒だという感情は消えない。
いっそ逃げてくれた方が面倒が減るとさえ思っていた。
「……宜しいか」
「許す」
「あくまでも私の私見も混ざった言葉として頂きたい。教会の保有する兵士の半数は孤児か口減らしか、元奴隷も多い。それゆえに教会に拾われ、教会の為に働き、教会の為に死ねと育てられるのがまず一つ。残りは恩義か脅迫か、借金の肩代わりの質草として、金欲しさの傭兵も…という事だ。理由はそれぞれだが、逆らえない状況というのが主体だ…」
少年兵みたいな感じか。
狂信的な…というのも外れでは無かったらしい。
あとは脅迫とか借金のカタかよ。
「そうか。ならば元凶を絶たねばならんという事だな。情報感謝する」
「…某たちを殺さないのか?」
「あ? 殺して欲しいなら即座に消すぞ」
「いっ…いや、何でもない…」
棒立ちする三人を後にし、俺は徐々に移動し始めたソーモンのマーカーを追跡し始めた。
「そうだ、今ならその腕くっつくぞ」
ポーションを一つだけ投げてやる。
向かってこないのならどうでもいい。
あはははは…こう見ると昔やったゲームの追跡者みたいだなぁ。
有象無象を薙ぎ払うのは無かったけど、壁を壊し、窓を破って追って来たのは怖かったよなぁ。
「腕はどうだ?」
「腕をくっつけてくれ……」
「本当にポーションでくっついたよ。アイツは…あれだけ細切れじゃ治しようがないな…」
「……純白が児戯の如し」
「…教会への恩義はある。でもアレに目を付けられた教会側に居ても…」
「ソーモンは…知ってて俺たちに時間稼ぎしろって言ったわけだ。なら俺たちは既に死んだ身だ」
「……自由を謳歌?」
「村にはドラゴン、後方にはあのアダム…ならどちらでも無い方へとりあえず逃げるか」
「…賛成」