表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
138/155

寝起きに怒り

 朝に限らず、寝起きというのは辛い物だ。

 特に二日酔いのように頭痛があると起きる気力すら削がれる。

 そんな私の意識を覚醒させるかのようにバシバシと痛みを与える存在、あとちょっと香ばしい匂い。


『ご主人、起きろ!早く起きろ!』


「ん…あと3日…」


『いい加減に、起きろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』


 夢心地ながら家の一部が吹き飛んだのは覚えている。

 残念ながらギャグのように髪はパーマになっていないが体中埃塗れだ。

 いったん起きてしまうと意識というのは嫌でも覚醒してしまう。


「……ん?」


『起きたか?』


 私を起したのは間違いなくシロ。

 床…というより外で寝ているの要因も十中八九シロ。


「起きた…」


『ならあれを何とかしてくれ!煩くて叶わないぞ』


「あれ?」


 シロの向いた方向に視線を持っていくと、そこにあるのは青空に置かれたPCが1台。

 今にしてみれば常に『ユーガッメール』『ユーガッメール』『ユーガッメール』『ユーガッメール』と連呼している。

 つまりは管理者としてのお仕事の依頼だ。

 …果たして今までにこれほどの頻度で来たことがあっただろうか?

 背筋にゾワッと冷たい物が走る。

 即座に確認すると溜まっていたメールは数百件に及び、大別すると2つに分けられた。


 件名:救援

 内容:村民の保護


 件名:討伐

 内容:敵対者の駆除


 そして出所は全てアダム村となっていた。


「シロ!俺はどのくらい眠っていた!?」


『数字はよく分かんない。けどいっぱい』


「…あのメールはいつからだ」


『3日…4日?そのくらい』


 慌てて日付を確認すると古くて4日前から分刻みで今に至るまで…そしてここ数分で『ユーガッメール』が途絶えている。

 寝起きの頭でも、俺の悪い頭ですらヤバイと、猶予が無いと判断できる。


「今すぐ出る!」


『仕事か!』


「…とりあえず様子見してくるから、まだお留守番な」


『むー』






― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 






「…なんだよ…これは…。何なんだよ…!」


 当初はボロボロだったが村人の意思で掃除され、補修され見事に再建された教会が見るも無残な姿になっている。

 窓は割れ、椅子はバリケードとしてドアと窓を塞ぐのに使われ、所々の壁には穴が開いている。

 中でもこの様子では外はもっと酷い有様だろう。

 途絶えていたメールでの危機感、そして目の前の祈る余裕すらない村民の怒号と動揺で納得した。


「もっと抑えるものを!」

「子供たちは奥へ! いや、地下室に隠れなさい!」

「あぁぁ…どうしてこんなことに…」


 ドアを蹴破ろうとする音が断続的に聞こえる。

 壁に何か当たる音も。

 …下卑た喧噪も。


「あ~、なるほどね。分かった。とりあえず説明はこの窮地を凌いでからね」


 混乱の極みにある皆は私の存在にすら気付かない。

 いや、一人だけ気づいた者がいた。


「…? アダム様!?」

「え?」

「本当に…?」

「…嗚呼!アダム様だ!」


 私が最初に助けた少女、リリアナだ。

 あの頃は病気にストレスで酷い有様だったが、今や健康的な田舎の少女と言った感じだ。

 その悲壮感に満ちた顔が無ければ120点だったんだがな。


「みな、まずは落ち着け。詳しい話を聞きたい所だが…この状況から抜け出すべきだろう。」


 外にいるであろう襲撃者を屠るのは簡単だが、この教会の現状では別の口を作られれば人質という最悪なパターンまで考えられる。 助ける手段はあるがまだ100%出来る確証は無いがダメならそこは数をこなして何とかしよう。


「皆、私の周りに集まれ、そして手を繋ぎひと塊となるのだ。目を瞑り祈りを…」


 蜘蛛の糸、地獄に落とされた悪人がたった一つの善行により救われ…救われたかもしれない物語。

 私は個人を試して図るようなお釈迦様ではない。

 どれもこれも個人のエゴ、自己満足だ。


「集まったな。扉も長く持ちそうはない。早速行くぞ――『転移』」




 目を開くとそこは私にとっては見慣れた管理者の間。

 当然村人たちは初めての光景に驚き、固まっている。

 しかし、その硬直が治るのを悠長に待つわけにもいかないのだ。


「説明は省く。教会に居た者はみな、周りにいるか?」


「ウチは全員いる…お隣のジョンさん家も…」

「子供たちは…いるわね」


「アダム様!俺らよりも早く父さんを助けてよ!」

「まだキニークさんとかオーバさんが戦ってるんだ!」

「ゴートさんにキルトさんもだよ!」


 そうか、この窮地にあって救った面々が活躍してくれているか。

 恩義に付け込んでいる感が否めないが、自分の仕事がここへ繋がっていると思うと感慨深い。


「アダム様、教会へ逃げ込んだ人数が確認来ました。漏れなく居ります」


「それは結構だ。私はこれから不埒者を成敗しに向かう。―――シロ!」


『…今度こそ仕事だな?』


「今日は条件次第では存分に暴れまわって良いぞ。本気で、だ」


『それは滾る注文だ。まかせろ!』


「良しっていうまでは抑えろよ?」


 ふっと現れたシロにヒッ…と息を飲む声が聞こえたが、見た事が無ければこれが普通なんだろう。

 今はそんな事にまで気を回している余裕はない。


「あ…あの…」


「ん?」


 リリアナがおずおずと顔を伏せながら声を掛けて来た。

 何事か?としゃがんで視線を合わせる。


「えっと…その…アダム様! ごぶうんを!」


「ははは…ありがとう。その言葉だけで100人力…いや、1000人力だ」


 微笑んでリリアナの頭を撫でる。

 優しいアダム様の顔はここまでだ。

 きっと振り返った私の顔は酷く、醜く、歪んでいる事だろう。








― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 








 誰も居ない、まるでゾンビ映画で立てこもった跡地のような教会に一人と一匹が現れる。

 外の喧噪は相変わらずで、押さえる者が減ったバリケードは今にも弾けんとしていた。


「相手は誰なのかねぇ…ただの野盗ならこんな状況にはならんだろうし、今んとこ思いつく敵も居ないし…」


『向かってくるのは殺していいのか?』


「んー、とりあえずは様子見だから死なない程度に痛めつけるぐらいでな」


『おうよ』


 ドーン…ドーン…と鳴るたびに扉がミシミシと悲鳴を上げ、あと数度で壊れるだろう。

 その隙にいつものお仕事着…武御雷の甲冑を着込む。

 ドアが弾け、バリケードとしていた長椅子も木端となって散らされた。

 流れ込んできたのは黒装束に覆面の見るからに怪しい奴らが5人程、外にはまだ何人もいるようだ


「………ここに居た奴らはどこへいった。それと貴様は誰だ」


「あーあー、せっかく綺麗に直したのにこんなに散らかしてくれちゃって…。みんなで使う者は大切に扱いなさいってご両親から聞きませんでしたか?」


「………」


 軽口への返答はなく、代わりに短刀が数本飛んできた。

 初見なら多少なりとも虚を突かれただろうが、アルミレオさんの技を見た後では猿真似レベルだ。

 短刀を摘まむとそのまま投げて来た担当へお返しする。

 最初の投擲速度の数倍の速度でね。


「ぐっ…!」

「…ッ…」


 本来であれば腕や足に刺さってのままだが、そこは私の腕力で対物ライフルと化している。

 一人は肩を抜かれ、腿に大穴を開け、そのままではいずれ出血死になるだろう。


「君たちは何者だ、どういう理由でこの村を脅かす」


「…」


 この手の奴らは大体は暗殺集団か諜報員だろう。

 聞かれて情報を吐くほど容易くは無いだろう。


「答えず、か。シロこいつらと遊んでやってくれ。私は…村の入り口の方が騒がしいのでそっちに向かう」


『分かった』


 行かせまいと立ちふさがる黒装束を殴って退かせる。

 頭がトマトのように弾け、壁のシミとなる。

 もはや短刀など避ける必要すらない。


 教会の外も見た事の無い顔ばかりで、少なくとも味方では無いだろう。

 明らかな兵士に、山伏を思い出させるような僧兵に…教会の神官だ。

 女子供しかいないはずの教会から出て来た謎の鎧武者にたじろぐが、そこは兵士達だ。

 明らかな敵対勢力とみなし、即時に手を出して来た。


「…組み合わせはちぐはぐ…やっぱ詳しい話を聞かないと分かんないなぁ…」


 もはや蚊を追い払うがごとく、片手で兵を薙ぎ払う。

 兵士が倒されたのを見て周りの有象無象が臨戦態勢を取るが、脅威になる者は見受けられない。

 あのカインドと同レベル程度すら居ないようだ。


「キェェェェェェッ!」

「聖なる光を……ホーリー!」

「畳みかけろ!」


 …煩わしい。

 こっちは一応状況が把握できないから殺さないように努力をしているんだぞ。

 さっきはつい壁のシミにしちゃったが。

 いかんいかん、ムカつくから殺すか?と思うなんて私も余裕がなくなってきているな。

 とりあえず風魔法かなんかで吹き飛ばすか。








― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 







 流石に有象無象とはいえ、千切っては投げ、千切っては投げながら進めば注目も浴びる訳で。

 そして見えて来た状況。

 今、正にリンチされているゴートにキルト、村長に顔役の面々…囲んでいるのは先ほどから処理している兵士や僧兵に神官。

 皆は受け身で反撃すらしていない。

 私が預けた武器も使って居ない所を見れば朧気ながら状況が見えた。


 嗚呼、もう本当に胸糞が悪い。

 俺の堪忍袋ってこんなにも小さかったんだな。


 普段は抑えているスキルを開放する。

 淡々と、メニューからポチポチと。

 威圧感、殺気、闘気、神気…あらゆる制限を取り払った。

 周りの雑魚が泡を吹いているが知った事か。

 アイテムボックスから武御雷乃神刀を抜き、込められた魔法を放つ。


「駆けろ、"鳴神"」


 刀身が青白く輝き、ビームともいえる稲妻が走った。

 ゴートらをリンチしていた一角ごと、技の直線状に居たおよそ何百人が蒸発した。

 稲妻の通り道は赤熱化し、数キロ先まで見通せるようになった。

 その余波を浴びた者達も感電か熱傷か呻く様子が見えた。


 人が沢山死んだ。

 私の意思で殺した。

 誰もが予想さえしない、想像さえ出来ない現象に畏怖と驚愕を込めて私に視線を送る。


「貴様ら、誰の許しを得てこの村に手を出している! この村は俺の、アダムの守護する村ぞ!」


「アダム…様?」

「少々、遅刻気味ですが…間に合いましたな」

「やっと主役の登場かい」


「遅れてすまんな。さて、俺の村に手を出した諸君。地獄の底で詫びる覚悟は出来ているよな?」


納得率6割…。

とりあえず流します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ