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宗教戦争 4日目:後編

「この鐘は…村の物ではないな…どこの物だ!」


「そ、村長!新しい抜け道です!敵が流れ込んで来ています!ざっと200は下らないかと」


「1本目は囮か、なんてこった! 戦える者を集めて向かわせろ!私も出る!」


「あなた…」


「…心配するな、だがもしもという事もある。お前も教会へ行って無事を祈ってくれ」


「ご武運を…」


「任せておけ!」


 村長宅は村では一番大きく、標的として狙われやすい。

 村民を守る為に自分の家を犠牲にするくらいできずに何が代表か。

 それにここに居ては本当のもしも、の時に巻き添えになる可能性もある。

 そう判断したゲイツは妻を避難させることを優先した。


「何人集まった」


「遊撃していたギルと元配下の10名程、先ほど緊急の鐘も鳴らしましたので…」


「押し込んでいたのが仇になったか、穴を塞ぎに―――」


 村に轟く爆発の音と辺りを染め上げる炎の色。

 奴らは本気になったらしい。


「…皆は教会だな?」


「はい!」


「先に集まっていたことが功を奏したな。建物などくれてやれ!敵を押し戻す事を最優先にしろ!後は…死ぬなよ!!」


「「「がってん!」」」


 寄せ集めと言わざるを得ないこの面々はアダムからの装備を持っていない。

 ビルド謹製のミスリル装備を纏っている分だけそのへんの冒険者よりはマシだが、戦闘部隊とぶつかるには純粋な戦闘能力は不足していると言わざるを得ない。

 そして、敵が家屋に火を付けている事からおおよその目的は察せる。


「……(こちらの分断は明白。そしてわき腹を突くような奇襲と放火…混乱を誘い、一気に決めるつもりだな)」


 戸口に立ち、松明を持つ兵士が見えた。

 家屋から物資を漁っているのかこちらに気づく様子は無い。

 小さい村故に隣近所どころか村中の家の構造は把握済み…となれば一時的にしろ地の利はこっちのものだ。


「ギル、付いて来てくれ。家の中の奴らをヤる。他の物は4~5人の集団で外の敵を叩いて回れ」


「「がってん」」(小声)


 どの家もほぼ平屋建てで土間、リビング、寝室と多くても3部屋で構成されている。

 この村は手前味噌で今更ではあるが平和だ。

 故に裏口に鍵は掛けない事が多い。

 加えてこの喧噪…背後からヤるには条件はそろい過ぎるほど揃っている。


「けっ、やっぱ田舎の村だな。金も宝石も見当たりゃしねぇ」


「せいぜいがの金属が鍬とか……ん、この鍬の輝き…ミスリルじゃね?」


「馬鹿かよおめぇ…ミスリルの鍬なんてどこの貴族の道楽だよwww」


 勝手知ったる他人の家で裏口から中を覗くと、火事場泥棒をしている2名、外の1名は見張りだろう――を見つけた。

 ギルと目配せし、私は右の奴、君は左と目標を定め、3、2、1とドア開放と同時に駆け、剣を心臓目掛けて突き立てる。


「へ? がっ…い、痛てぇ…――」


「うぉりゃぁぁぁ!」


「どうし、た? え!?―ー」


 もう一人はギルの斧が袈裟懸けに胴体に半分以上切り込まれ、まるで体に斧が融合したような現代オブジェと化している。

 人の家を血で染めるのは気が引けるがこのまま放置しても根こそぎ奪われ、焼かれるだけだ。

 どっちマシとは言えないが敵を減らせただけ好都合としよう。

 今のギルの掛け声で外の見張りも気づくだろう。


「次の家に向かうぞ」


「おうよ!」


「…声はもう少し抑えような…」


「…うっす」


 一応、自分たちが殺した相手に数秒でも手を合わせ死を悼む。

 敵でも味方でも死ねば、行先はきっと同じだ。







― ― ― ― ― ― ― ― 






 月が煌々と輝く夜の中にある赤い光と煙。

 ゆったりとした椅子に腰かけ、その光景を肴にワインを嗜む姿は嫌味を通り越して清々しくもあった。

 大軍の遠征であっても嗜好品に手を出せるのは特権階級である証拠だ。


「んふふふふふふ…いいですねぇいいですねぇ。時間とお金、尊い人命をつぎ込んだ甲斐がありました。良き光景に乾杯、ですね」


「ご報告します。第2部隊、予定通り奇襲に成功とのことです」


「この光景で分かりますが…ご苦労様、下がって良いですよ」


「…失礼します」


 副官であるこの男は上官を酷く嫌っていた。

 言う事がいちいち癇に障る…というのは個人的な部分として置いておくが、人を駒のように扱う、人を人として見ていないという言葉はコイツの為にあるのでは?と思うほどだった。

 今回の3方向からの奇襲に費やした人命は現時点で軽く1000人を超えた。

 先発隊が無駄に500人を殺し…費やしたのと、効果的に1000人を犠牲にしたのとどちらが良いのかと。

 礎になったと言えば聞こえは良いが、命が失われた事に変わりはない。

 既に総数で言えば2000人に近い損失…普通であれば戦犯とされる規模だ。

 …教会の上層部はこんな男を評価し、あまつさえ位が上がる事になれば…と戦慄する。


「んふふ、微かにですが聞こえる喧噪。火の匂い。溜まりませんねぇ」


 どうやらいたくご満悦のようだ。

 こんな奴でも上官は上官、副官とていつ「先陣を切れ」と言われるかは分からない。

 とりあえずご機嫌を維持するのが―――


ドオォォォォォォォォン…


 明らかにこちらの意図した爆発ではない音が響き、ギャアギャアと森の鳥が騒いでいる。

 必要なのは情報だ。

 可能な限り精密で、迅速な!


「第2部隊へ連絡を出せ、第1へもだ。何が起こったか可能な限り状況を調べろ」


「ハッ、直ちに」


 副官というのは上官の事が嫌いであっても、上官の補佐として動かなければならない。

 あの人なら何を欲しがるか。

 あの人ならどう動くか。

 それが出来て初めて一人前となる。


「副官くん、ちょっといいかな」


「…ハッ、何でしょうか」


「さっきの轟音は何でしょうねぇ? 第2部隊が何かやりましたか?」


「先ほど情報収集に部下を走らせました。もう少々お待ちいただければ詳細な情報が入るかと」


「それは重畳。有能な副官を持てて私は幸せ―――」


「…?」


「な、何ですかあれは?」


 副官も視線を向けると黒煙の中に見えるのは大きな、途轍もなく大きな人の上半身…のような物。

 この陣営からも見えるというだけでどれだけの大きいのか想像すらできない。


「この期に及んでまだ戦力を隠していたと? 不味いです。不味いですねぇ。大きいだけの木偶の坊なら良いですが、情報にあるゴーレムに準拠するならば今のままでは……。鐘を!一時撤退の鐘を鳴らしなさい!早く!」


「は、ハッ!!」


 走り去る副官をしり目に歯を噛むソーモン司教。

 この男は情報を集め、対策を講じ、明確な勝ちが揺るぎないとなった所で行動を起こすタイプである。

 つまりは極度の負けず嫌い。


「私はねぇ、こういう予定外の問題や番狂わせが一番嫌いなんですよ…!」


 村にそびえたつ巨人を糸目で睨みなら手にしていたワインを叩きつけた。

 その赤は、倒れた兵士の血のように赤く、地面に染み込む前に踏み散らされた。






― ― ― ― ― ― ― ― 




 時間は少しだけ遡り…。


「やっぱ俺らにゃ正面切っての戦いなんて無理ですってー!」


「くっちゃべってねぇで逃げろ!」


「逃げるなぁ邪教徒め!」


 元ギル・レド率いる盗賊団の面々は村で貴重な労働者だった。

 多少、荒事に慣れている事もあり狩りや警備などに従事しているが所詮はその程度。

 人質を取る、武器で威圧する、大勢で囲むなど…言葉は悪いが卑怯な闘いしかしてこなかった。

 その為にタイマンでは正統に訓練している兵士に勝てる訳など無い。


「ひぃ…!ひぃ…!」


「助けてぇー!」


 まして向こうの人数はこちらの10倍近い…戦力と言う意味で言えば更に倍ともいえるだろう。

 つまり勝ち目はゼロに等しい。

 早々に穴埋めという任務に見切りをつけ、生きるべく逃げる。

 一人逃げれば負担が増え、もう一人逃げればと早々に瓦解し、脱兎のごとく逃げ出した。


「敵は崩れたぞ!3日分の借りを返せぇ!」


「「「うおぉぉぉぉぉ!!」」」


 雪崩のように押し寄せる殺意の波に抗える者は居ない。

 誰も彼もが目をギラつかせ自分を殺そうと迫ってくるのだ。


「ひぇぇぇぇぇぇ!」


「姉さーん助けてぇぇぇぇぇ!」


 彼らは敵集団の大多数を誘引し、正面で耐えるエミエらに合流しようとしていた。

 対応する人数は倍増したが対処するべき相手が倍々増では計算するまでもない。

 どちらかと言うとエミエらの負担が激増しただけだ。


「こんのバカ共!手間ばかり増やしやがって!こっちだってカツカツだっつーの!」


「それでも俺たちだけじゃ無駄死にだよ!」


「神様、アダム様、エミエ様!」


「ちっ、もうほんとに手が足りない…こんな奴らの為に切り札を切らなきゃならないなんてねぇ!!」


「手があるならさっさとせんか!ワシらまで死んじまうぞ!」


「もう手が動きませ~ん」


 前門の虎ならぬ神官、僧兵、兵士に側面から同様の集団。

 だが、殺意の波に晒されながらもエミエは笑っていた。

 口では悪態を付きながらも、奥の手を出さなければならないという状況も…これからきっと沢山殺して殺して殺しまくる事になるだろうと予想していても…自分のゴーレムの活躍が見られる事を前にすれば口角が上がりっぱなしになってしまう事を止められない。


「見てなさい。初代…いや2代目にして原初、原点にして最高傑作の私の愛しいゴーレムちゃん!でろやぁぁぁぁぁぁ!!!」


 その宣言は何やら矛盾しているように感じるが、極限の緊張状態やアドレナリンがどっぱどっぱであればさもありなん。

 懐から出した短杖を天高くかざすと眩い光が走った。

 そして、唐突に村長の家が爆発した。




 爆音、轟音、振動…誰もが発信地に目をやった。

 教会側としては痛い目を見たゴーレムによる爆撃でも、大魔法でもない未知の現象に誰もが目を向けるしかなかった。


 形容するならば黒煙と土煙の中には山があった。

 山というには歪な形をしているし、今なお…現在進行形で大きくなっている。

 サイクロプスというモンスターがおり、巨人と揶揄されるが身長は4メートルほど。

 その上位種でもっと大型の物がいるがそれでも6メートルに届くか否か。

 

 誰もが見上げるそのゴーレムは優に15メートルに達し、村人と敵対する兵士を見下ろす。

 実際に瞳がある訳では無いが誰もが威圧感を感じ、手も足も止めていた。

 それはまるで猛獣を前に刺激させず、興奮させずに背後に徐々に去る行動に近い。


「我が、いや…我らが怨敵を叩き潰せ!アダム・エーレン!」


『グォォン…!』


 巨体はそれだけで純粋な力を持つ。

 それに稀代のゴーレムマスター、エミエの知識。

 最後にその知識を起爆させるアダムの恩恵。

 3つの力が重なった力は、圧倒的に、一方的に虐殺を開始した。

とりあえず書き進める事を優先します。

気が向いたら直そう

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