オースにおける調査結果:追加報告案
「あれ…?ノワールちゃんちょっと太った?」
「…そう、かな?」
それは昼の最中の出来事。
アダムの情報を仕入れるには特に恩寵を受けているとされる4人と行動を共にするのが最善との結果に至った。
それゆえに特色と緑、黄ランクと依頼を受けるの事が徐々に定例化していた日。
特色がゴブリンを!?と驚かれる事も少なくなった。
どうもフルーらはゴブリンを討伐する事を至上命令として活動している節があり、本日もその付き添いだ。
さもありなん。
イロエから経緯を聞いた時には女性としては同情を禁じ得ないと素直に思った。
そんな背景がありながらも冒険者として活躍できるのはアダムの恩恵があってこそなのだろうが。
「そんな、に?」
「ん~…アタシには分かんないっすけど」
「んふっふっふっふ…このイロエの目は誤魔化せないの!」
背後に周り胸を鷲掴みされた。
そしてもみもみ…と、執拗に。
敵意は感じかったので背後を許したが…こんな事をする為だったのか、と内心がっくりした。
こんな子供のようなじゃれ合いなどしたことが無かったので少々面を食らった所はあるが、あまり良いものではないなと彼女は冷静に分析していた。
あの日、街で見た光景にも似ているが、あの時の子供らは笑っていた。
何が楽しいのかは知らないが、女同士で乳をもみ合って何が楽しいのだろうか。
少なくともイロエに弄ばれる私の顔は笑っていない。
乳は子供を育てるための器官というぐらいの知識はあるし、男を悦ばせるために使う事もある…と教会では教えられた。
何故そんな教育があったのかと問われれば、若い女性の侍者や侍祭は得てしてそういう事に呼ばれる事がある…と。
早い話が下種共の体のいいはけ口だ。
幸いな事に彼女は持ち前の知識と能力で手が付く前に上に上がったので男に弄られる心境は分からない。
そして不思議な事に司祭や司教のお手付きになった者は早いうちに姿を消していた事を思い出す。
やはり権力と私腹を肥やすだけの害虫を消さない限り誠の教会は生まれ得ないだろう。
「んん~…1つ、いや2つくらい大きくなったかな?」
「…オースの、ごはん、美味しい。いつも、より、食事、進む。教会の、あまり、美味しく、ない」
「あー分かる。村の炊き出しで手伝った事あるけど、正に質素って感じだよね。もうちょっと塩が欲しいのよね。それにノワールさんの年頃を考えればまだまだ伸びしろは沢山あるでしょ」
「もとより教会は清貧を尊ぶ信者で構成されていると聞きます。王国からの援助があるにしても堂々と贅沢する訳には行かないでしょう。まぁ?教会の幹部とかにでもなればぶくぶくと肥え太ってる方も多いと聞きますがね」
「…申し、訳ない」
「こらフルー。ノワールさんが悪い訳では無いでしょ?謝りなさい」
「……ふん!私は事実を口に――「フルーちゃん。アダム様に『フルーが同僚をいじめてた』って言っても良いの?」
「ごめんなさい。言い過ぎました」
彼女にとってアダムという言葉、名前は全てにおいて優先されるのだろう。
フルー個人としてはプライドが許さない事でもアダムの名においては個人など黙殺されるという良い証明だ。
そしてフルーが語る教会の事実というのもほぼ的を射ている。
それとノワールは既に成人しており、成長もほぼ終わってしまった。
彼女らに年齢は伝えていないが恐らくは『年下だけど凄い優秀な冒険者』と思われているらしい。
訂正する気もないけど。
ここで神の声が発動!
ノワールさんは年齢25歳、身長147cmで体重は30後半のめっちゃ幼女体形なのだ。
つまりは合法ロリ!過去には悲しい出来事がありその為に体形が…うわ何するやめr…
神の声はもう聞こえない。
「教会の、幹部、確かに、清貧、程遠い。治すの…難しい」
「ゴブリンぐらい簡単だったらねぇ、頭を刈るだけで統率が乱れるから楽なんスけどねぇ」
「知恵のある人種が束ねる、歴史ある組織ですからね。しがらみやら思惑やらどれほどあるか想像も出来ません」
「めんどくさい話は置いといても、大きくなったら肌着も変えないときつくないの?」
「教会の、支給品、しか無い」
「女の子がそんな地味品で満足しちゃダメなの!街に戻ったらお買い物なの!!」
「そうだねぇ、特色サマって思ったけどその辺は私達の方が先輩だね」
「先ほどのお詫びでは無いですが、私達が可愛らしい肌着を選んで差し上げましょう。アダム様から頂いた品以上のは無いとしてもオース中を探せば殿方に見せても差し支えない程度の品は見つかるでしょう」
「そんなに…? 探す、の?」
「帰りにはパンケーキも行くの!」
特色ランクの冒険者にして、教会の大司教を司るノワールが押し負ける程の熱量。
教会として、冒険者としての経験で言えば人生の密度はかなりの物であるが、女の子としてのノワールは素人未満だ。
恐らくこの女の子の先輩達に混じって経験を積めばあの日、乳をもみ合っていた娘の気持ちが少しは分かるだろうか。
そんなちぐはぐな冒険者達によるゴブリン殺戮前の女子会は熱量を増していった。
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オースにおける調査結果2回目(推敲)
不要な表現は提出前に添削のこと。
アダムの足取りが途絶えて早1ヶ月と半。
教会も本腰を入れ、各陣営の調査員を頻繁に見かけるようになった。
そして調査員だけでなく各大司教、子飼いの司教や戦闘部隊すら見える。
部隊によっては街の外に陣を張り、野営している者達も徐々に増えつつある。
定例報告で届けられる資料に目を通すが、どこも抜け駆けを狙っているのか目新しい発見は無い。
ただ、他の大司教連中が確証も無しに数百人に及ぶ部隊を駐留させているとは思えない。
つまり現状から見るに恐らく1名ないし、2名は核心に足る情報を持っていると推測できる。
自分たちの腹の探り合いは調査結果と言えないのでここまでとする。
アダムの足取りが早々に掴めなくなった事により情報を得る手段が限られてしまった。
その為、一番情報が得られる可能性が高い、最後に接触していた人物達と行動を共にし、約1ヶ月が経過。
オース所属のマルダ、フルー、レッタ、イロエの4名である。
同じ事を考えた輩が居たが、私が…これでも大司教の私が直で付いている事から露骨な監視は無かった。
そしてゴブリン討伐4回、ボア討伐2回、オーク討伐1回となり4人の戦闘力もある程度把握出来た。
アダムと敵対する場合、この4人は敵方に回る可能性が極めて大の為、危険度順に記載する。
イロエ
危険度は黄から緑冒険者程度で純粋な魔力攻撃タイプと思われる。
その杖から繰り出される雷撃はゴブリンのみならずオークもほぼ一撃で仕留める事が可能。
ただ思考の単純さという意味では魔法戦に長けた者であれば左程問題にならないと推測する。
レッタ
同じく冒険者で言うところの黄から緑で、魔力攻撃タイプと思われる。
こちらは火属性を得意としており、ファイアボールの連発やイラプション、フレイストリームを見るに範囲攻撃としては一級品と思える。
しかし、近接戦となれば動きが鈍く、咄嗟の判断力に欠ける節が見えた。
こちらも対人戦、対魔法戦の経験は浅く、攻めるならそこだろう。
マルダ
現冒険者のランクは緑であるが、総合力を見れば赤かそれ以上と推測できる。
はっきり言えば個人の技量は緑以下であるが、それを赤、又はそれ以上たら占めるのはアダムより供与された装備の存在である。
殲滅力という観点で見れば教会保有の法具に収まらず、所有者の意思で敵を殺す槍など如何にして止められるのか。
また槍自体が纏う雷撃で抑え込むことも非常に困難であることが予想される。
奇襲にて本人を接近戦にて抑え込めれば勝機はあると推測する。
フルー
思想、能力を考慮するに一番の危険人物として対処を推奨したい。
冒頭の2名と同じく魔力攻撃タイプで、属性は水。
私は率直に言えばこの娘が一番恐ろしい、敵に回したくないと感じた。
従来の魔法における攻撃という概念を打ち払う攻撃手段に、如何にして対応すべきか考察が不足している。
考察の一因として攻撃の一例を以下に記す。
技名:仮:溺死
ゴブリン戦で幾度か使用し、説明ではゴブリンの体内に水を生み出し、呼吸を出来なくさせて殺すらしい。
実際、声も上げる事が出来ずにゴブリンは悶え死んだのを目にしている。
これは従来の障壁で防げるのか検証が必要である。
技名:仮:水球
ウォーターボールとは似て非なる技。前述の溺死の魔法の複数匹バージョンと言った所か。
大きな水の玉を生み出して中に閉じ込めたゴブリンを逃がさず、殺す魔法。
ただの閉じ込めるだけでなく、水流を生み出し回転させ平衡感覚を失わせる事も可。
雷撃とのコンビネーションも行っており、汎用性は見込める。
技名:仮:血液への攻撃
これも今までの概念を壊すものだと思われる。
生き物の体には血液が流れているのは誰しも分かる事だが、この血液自体を水魔法の媒介として扱い、殺すらしい。
具体的には水魔法で血液の中にある水を極端に増やすか、減らして病気を誘発させる…らしい。
症状としては昏倒に似た症状を発症し、身動きが出来なくなっていた。
状態異常系の魔法に近いと思われるがこれも現状の防御系魔法で防げるのか疑念が残る。
何れの手段もゴブリン相手に可能であれば人種、亜人種問わずに転用は可能であると推測できる。
故にこれらの新しい概念の攻撃を生み出すフルーこそ最大の脅威として念頭に置く必要があると思われる。
補足となるが討伐を共にした半月の間に、アダムからの接触は無し。
そも、フルーからの口止めの可能性は捨てきれないが、イロエ、レッタも同様であることからその線は薄いと思われる。
今月の間は彼女らに同道し、情報収集に努める予定である。
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「大まか、に、こんな、感じ…?」
彼女らはゴブリン討伐から帰ると言動を真実にすべく、「お風呂入ったら酒場に集合!ご飯食べて服を見に行くの!」と私が言葉を発する間もなく次の予定を決めてしまっていた。
別に無下にする必要も無かったので付き合ったが…女の子というのは凄いと思い知らされた。
見せもしない…彼女らにすれば見せる可能性があるのかもしれないが、見えない部分の肌着にあれほど熱意を込めて探し、組み合わせがー、色がー、ヒラヒラがー、リボンがーと凄まじいの一言に尽きる。
あれこれと悩んだ(主に他の3人が)末に2組の肌着を購入し、パンケーキを食べ、夕食を食べ…今に至る。
既に月は大幅に移動して日付としては翌日となり、暖炉の火も消えかかっている。
そう言えば寒いと感じつつも書き上げる事優先で進めていた事を思い出す。
「…寝よう」
明日はオースに集った司教達との連絡会だ。
大司教は穴倉に籠ったまま姿を見せておらず、実質はノワールがトップであるが指揮権等は別々に存在するという厄介さ。
そして誰しもが腹に情報を抱え、見せかけの協力するという無意味な会合。
いざとなればムタードゥは近郊にいるらしいので、大司教2名の連名を使い強制的に情報を集めればいい。
面倒だな、と思い机に置いた包みを見る。
「……明日、着けて、みよう……」
仮初とは言え友と呼べる存在と初めて買った記念品。
その付け心地を夢に思い、意識は沈んでいった。