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鮮烈なる帰還:前

 光陰矢の如しとは年月が早く過ぎ去る事の意。

 何でも光=日、陰=月という意味を持っており、月日は矢のように早いと…旨い事言ったものだ。


 王都での特色ランクへの任命からあれこれと毎日何かしらの発見や出会いがあり、暇をしなかった事だけは鮮明に覚えている。

 先日は未発見の遺跡調査、その前は若手冒険者への指南やベテランとの飲み会に近衛衛士とハチの模擬試合。

 ちなみに若手への指南が一番難しかった。

 何しろ自分の経験が短いのに下手をすれば私よりも経験が豊富な人たちへの教育など拷問だ。

 当たり障りのない事、読んだままのサバイバル技術を営業アピール風にまとめた。

 おべっかなのか称賛なのか好評ではあったらしい。

 他は街中をぶらついて手当たり次第に食い物を平らげ、改善できるメニューの模索に市場調査と地理把握など。

 スラム近くにあっては教会への施しに手を貸した事もあったな。

 赤い狐の連中の商談の護衛とか、コャンキーヌ子爵にお呼ばれしたり、コーウェルさんと飲んだり…偶に人助けしたり。


 なんだかんだと帰る機会を逸して、早2ヶ月半が過ぎてしまった。

 季節は春から夏を越え、いつの間にか朝晩には肌寒さを感じる秋口に徐々に近づくころ合いだ。

 秋中盤ともなれば雪に閉ざされるオースとそれよりも山間に位置するアダム村の事を思えばそろそろ帰らざるを得ない。


「…明日にはここを立とうかと思います」


「少々伸ばし過ぎた感じかの」


「優秀な奴が減るってこたぁ…これから先は暇無しってことじゃねぇの…」


「僕としてもアダム君が居なくなるのはちょっとねぇ…。 あ、僕もオースに着いてい――」


「行かせるか!」

「行かせぬぞ!」

「……」


「ちぇー」


 王都は大陸一の人口を誇り、その分だけ人の望みがあり、依頼がある。

 特色を雇うとなればかなりの金銭を要求されるがそこは需要と供給という事か。

 王族に貴族、大商人も居ればこの場合は需要が勝つらしい。


「…と言って緊急性の高いもんとかギルドの強制依頼はほとんど潰せたからな」


「後はどれも碌な依頼じゃないから無視してもいいよねぇ」


「…おぬしらの好きにせぇ」


 いつものようにエルネティアさんの執務室に集まる私とアルミレオさん、カインドにノワール。

 ノワールさんは発言こそ少ないけど部屋には居るからね?


「で、じゃ。どの馬車で帰るのじゃ?」


「特に時間は決めていませんけども…」


「時間が決まったら必ずワシに伝えるんじゃぞ!」


「見送りとかは結構ですからね?」


「見送りもあるがそれだけではない。特色が同行するとなればその便の安全は保障されたも同然…つまり…」


「情報を売って小銭稼ぎかよ」


「…せこい」


「商人からすれば自分の命と商品の安全が確保される。それなら確かにいくらでも出すだろうね、流石はバb…年の功だ」


「ははは…」


 商魂逞しいというか小狡いというか…。

 道中の人命を守るという意味では、私一人よりは慣れたパーティの方が向いていると思う。

 いくら私が全知全能であっても気付けない事には対処のしようがない。

 先日のスライムが良い例だ。

 何故反応しなかったかを調べないといけないよな。


「申し訳ないですが、馬車で帰っては時間がもったいないのでちょっと特急便で帰ろうかと思っています」


「チッ、小遣い稼ぎは無理か」


 この人本気で惜しいと思ってるのか。

 曲がりなりにもギルドのトップなら給料とか手当とかかなり貰える立場に居るんじゃないの?


「それにしても特急便とな? あの赤い狐んとこの早馬でも借りるんかの?」


「それは明日のお楽しみってことで、今日は挨拶回りをしようかと思っています」


「お楽しみねぇ…衛士連中の話も小耳に挟んだが…大騒ぎになる予感しかしねぇな」


「僕もそう思うね」


「…同意」


「そうじゃの」


「えぇ…私ってそんなに信用無いですか?」


「信用というより常識かの」


「「「うん」」」


 はい。

 ソウデスネ…私は常識知らずですもんね…。



 その後、お世話になったギルドから泊っていた宿、商店等々に挨拶をして回った。

 ほぼほぼ全てを回り終わった後に聞かされたのだが、貴族に関しては当人で無く、小間使いとか使用人を介して事前にアポを取る必要があるとか…正直全く気にしていなかった。

 アポなんて自分で取ればええやん…。

 と言ってもコーウェルさんのとこに行くのはほぼ日常的に近いので問題にもしなかったけど。

 後は次に地位の高い教会の幹部クラスや豪商、大商人だ。

 こちらもそれほどトップとの付き合いがある訳でも無く、赤い狐の方々に関してはコンディーヌさんと話した程度。

 何でも権力の高い人と言うのは変なこだわりというかルールあるそうで何番目に来たとか、お土産はとか体裁で拍を付ける為にそのへんに凄い気にしているらしい。

 そんな事を言ったらギルドが1番、受付が2番で本部の通りにある屋台でいつもコロッケ的な物を売ってるおばちゃんが3番目だったぞ。

 と、そんなこんなで瞬く間に日は落ちて王都最後の夜は静かに…更けさせてもらえるはずもなく…。




「アダムにゃぁ危ないとこを助けてもらったしな。俺のおごりだ!飲め飲め!」


「ここはギルドの持ち出しでしょ…」


「スライムの棘をほぼ生身でのぅ…ちょっとお姉さんにもその肉体を見せてみるのじゃ。減るもんではないじゃろ?ええじゃろ?」


「エルネティアさん、酔ってます!?」


「あぁん? ょ…ごにょにょ…ん~百歳のワシがこの程度で酔うものかぁ!」


「「「酔ってるな」」」


「ん~アダムちゃ~ん、みんながいじめりゅ~」


「ちょ、寄りかからないで下さい…どさくさに紛れてまさぐらない!」


「んふふふ~…ええ匂いじゃ~若い雄の香りじゃ~」


「はい、ギルドマスター。それぐらいにしてお寝んねしましょうねぇ~」


 酩酊して若者に絡む老b…ギルドのトップというものにも体裁というのはあるらしく、職員が2人掛かりで引っ張っていった。

 あの人は酔うと駄々っ子みたいな、奔放というか…普段いろいろと抑圧されているんだろうなと見送った。

 そしてトップが居なくなった飲み会と言うものは得てして無礼講だ。

 心なしか声量が増したように感じる。

 そして絡んだ事のある面々、無い面々と次々に私の杯に酒を注いてゆく。


「おにーさん、あたしのこと覚えてる?」


「受付してた時に私に声を掛けて来た娘…だね」


 中にはあの昇格用受付で声を掛けて来た少女もいた。

 売りをしていた為に罰則を食らっていたと記憶していたが…。


「覚えてもらえたなら好都合。ならさぁ…王都最後の夜にあたしとさ、一晩どお?」


 まだ懲りていなかったらしい。

 そういう誘いを受けるのは大変うれしいとは思うが私は、もう少し…もっと大人の良い感じに成長したほうが好みである!!

 あとはそういうウリ、ゼッタイ、ダメ。


「特色だってんだからタダでもいいよ。すっごい夢、見させて…あ・げ・る」


 チラッと胸元(あまり無い…)をはだけさせながら耳元で囁くように伝える仕草はとても10代とは思えない妖艶さだ。

 ちょっとだけ、ほんのちょっとだけドキッとしちゃう。

 っと彼女の背後から現れるギルドの職員、彼女もまた記憶が確かならあの日に教育的指導をしていた方では…。


「…ヴィーティーさん、ちょっとよろしいですか?」


「あによぉ…? ゲッ!!」


「もうギルドとのお約束を忘れてしまったのですか?」


 これ、顔は笑っているけども内心ヤバイくらいめちゃおこパターンのやつ。

 飛びのくように離れる彼女を素早く掴む職員。


「な、何よ!今日はパーティでしょ!? 公式の場じゃないからいいじゃない!」


「おほん。 忘れている様なのでもう一度繰り返しますね。今後、"ギルド内での売り、またはそれに伴う行為が発見された場合は…"という約定でしたよね? つまりは日常の勤務時間だけでなく、この場で行われた事が既に違反に当たります」


「ぐっ…それでも!特色の女にでもなってしまえばもう冒険者なんて続ける理由もないんだからね!!」


「言わせておけばこの小娘ェ!私の目が黒い内は好き勝手させねぇからなぁ!」


「え、何この修羅場…怖…あとお姉さんの口調変わってる…」


「モテる男は辛いねぇ」


「女の子を侍らせるのがそんなにいいかなぁ」


 アルミレオさんもカインドも助け船など出してはくれない。

 せっかくの宴会の場なのに酒が不味くなる…。

 誰か助けて…


 先ほどのキャットファイトはとりあえず私に免じてという事で矛…キャットだから爪かな?――を収めてもらった。

 女の子に手は出して無い事を明記しておく。

 その後もやれ飲め、そら食え、ほら歌えとどんちゃん騒ぎは皆が飲み潰れるまで続いた。







 早朝というには遅く、昼と言うには早すぎる頃になるとギルド内に寝転がっていたゾンビ共が起き上がっていた。

 二日酔いの頭痛と吐き気で青い顔をして唸っている。

 私は例の如く寝る事は無いので皆が潰れたのを見計らって宿に引っ込んだ。

 こちらに来て早2ヶ月半くらいか…耐性解除すれば今まで以上に寝てしまいそうなのが怖い。


「もうそろそろでます。まだみんな寝ているようですのでこのままそっと出ようと思います」


「そうか、もう出るのか。長いようで短い期間じゃったの」


「忙しくなったらギルドで指名掛けるからな、絶対にまた来いよ」


 見送りはエルネティアさんとアルミレオさんの2名だけ。

 他はまだうーうー言いながら頭痛薬を探したり、いびきをかいている。

 それにしてもアルミレオさんも結構飲んでいたのにケロッとしているのは余程の酒豪なのか。

 あれこれあったのでカインドは「無理やりにでも着いて行く」とか言い出しそうで警戒していたが杞憂に終わったようだ。


「…余り人が集まらない内に…」


「達者でな」


「怪我…はし無さそうだが元気でな」


「はい、それでは――」


 軽く会釈をして、ギルド前を去ろうとしたら向こうからパタパタと走ってくる姿が見えた。

 やや着ぶくれしているがあの修道服は間違いなくノワールさんだ。

 息を切らして駆け寄る姿は同じ特色クラスとは思えない。

 この娘、本当に戦える…んだよな?


「おお? らしく無く慌てておるのぅ」


「……待って…まだ、借り、返して、貰ってない」


「あー…講師をお願いした分ですか。今すぐ返せるものならいいんですが、何分これから立つもので――」


「連れってって」


「へ?」

「は?」

「おぉ?」


「私を、一緒に、連れて、行って欲しい」


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